SとKのEscape

Neu(ノイ)

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一章:SとK

時に想い出は残酷で 02

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 サンはと言えば、そんな僕を見て、フン、と鼻で笑うとベッドから降りてしまう。
きっと、この状況ですら、計算の上なのだろう。

「ボクはね、クロ君。怒っているんだ。前々から君は、ボクに遠慮ばかりしているけどね、全く以て気分が悪いんだよ。良いかい、ボクは自分で君の面倒を見ることを選んだんだ。君に気にされるようなことじゃない。解ったなら、今後一切遠慮はしないでくれたまえ。ボク達は、親友だろう?」

前髪を片手で掻き上げながら、サンの目が僕を見詰めてきた。
何か返そうとして、言葉が出て来ないことに気が付いた。
戸惑っている僕に、サンも感付いたのだろう。
ふっ、と息を抜くと、彼は布団の上で体を縮こませている僕の額を軽く小突いて背中を向けてしまう。
そのまま、背中は部屋から去って行った。


 一気に息が漏れ出した。
あり得ないぐらいに、緊張したのだ。
寝返りを打ち、頭まで掛け布団を被る。
サンは距離感を測るのが、とても上手い。
それだから、今まで丁度良い場所にいてくれた。
心地好くて甘えていたことは確かだ。
僕達は、お互いに踏み込みもせず、かと言って離れもしないでやってきた。
その距離が、僕にとっても、サンにとっても、ベストだと思っていた。
だが、そう思っていたのは僕だけなのだろうか。


 頭の中が悶々と回り始める。
ぐるぐるぐるぐる、した。


 僕は、サンに迷惑を掛けているだけの男だ。
サンにしても、僕なんかただの厄介者だろう。
それだから、遠慮もしていたし、気も使っていた。
サンは其れが気に食わないと言う。
僕は、厄介者ではないのだろうか。
無条件に甘えてしまっても、許されるのだろうか。
彼は僕を見捨てないのだろうか。
嫌になったりしないのだろうか。


 ぐるぐると回る思考の中で、胸がギュッと詰まった。
苦しい、痛い。
それなのに、熱く燻る何かが、心臓を押さえ付ける。
独りじゃないんだ、と。
甘えても良いんだ、と。
勝手に想いは込み上げてきて、僕を困らせるのだった。




 結局、その日は昼近くまで布団の中でゴロゴロとしていた。
やはり、外に出掛けると疲れるようだ。
継生に気を使っていたせいもあるのだろう。
11時半になって、空腹感と共に起き出した。
キッチンに向かうと、冷蔵庫の中の余り物とお米で簡単に炒飯を作る。
テーブルに着いて、一人で黙々と食べた。


 いつものことではある。
サンは仕事だ。
当然、昼食は家で一人食事を摂ることになる。
普段は平気の筈の行為が、何故だろうか、今日に限っては無性に心細かった。
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