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一章:出逢いの春
いち
しおりを挟む【出逢いの春】
初めて彼を目にしたのは、高校2年の春のことだった。
暑過ぎもせず、かといって寒くもなく、一年の中では一番快適で、それでいてあっという間に過ぎてしまう季節だ。
薄紅の花弁が可憐に儚く散っていくのを、毎年のように眺めるのが好きな日本人のご多分に漏れず、宮原 神流(ミヤハラ カンナ)もまた、桜の大木の下で立ち尽くしていた。
神流の通う高校のシンボル、それがこの大木である。
グラウンドの奥にある植え込みに、聳え立つかのように存在する大木は、綺麗な桃色の吹雪を降らしていた。
その下に、神流を含め20数名の生徒が集合している。
この日は、緑化委員会の初顔合わせなのだ。
何も毎回この場所に集まる訳ではない。
桜が咲いている内に、皆が楽しめるように手入れをするのが恒例となっていた。
初の顔合わせでいきなり仕事があるのは如何なものかと想いはするが、この週が最も綺麗に見られる時期である。
仕方無いのだろう。
神流としては特に不満もなかった。
と言うのも、彼は去年も緑化委員をつとめており、案外力も注いでいたのだ。
桜の大木の近くに並ぶチューリップの植え込みも、昨年度神流が手掛けたものだった。
本日の集まりも、神流なりに楽しみにしていた。
ジャージ姿に両手には軍手をはめ、準備は万端だ。
しかしながら、当然ではあるが、神流以外の生徒は怠そうに整列している。
何が悲しくて進級そうそう雑用じみたことをしなくてはならないのか、彼等がダレてしまうのも無理はないだろう。
他の委員会は簡単な引き継ぎで解散出来る。
正直、1年生以外の緑化委員は、大抵がジャンケンで負けて貧乏くじを引いた人間なのだ。
そんな中で、神流は他人には伝わらないが、一人意気揚々と顧問と委員長の話を聞いていた。
委員長は去年も一緒に仕事をした先輩だ。
顔見知りがいると安心出来るのだから不思議なものである。
雑草を抜いて、ゴミを拾い、土を平に慣らす。
悪戯されないように、幹の周りには杭を打ち、ロープで杭と杭を繋ぐ。
そういった説明だったのだが、神流には一つ気になることがあった。
先程から3年の列で騒いでいる生徒がいる。
地毛なのか染髪しているのかは知らないが、暗い茶髪の男子生徒だ。
目つきはお世辞にも良いとは言えず、少々怖い雰囲気を醸し出してはいるが、笑っているその表情は柔らかい。
ただ少しヤンチャなのだろう。
人の話は聞かずに同級生と話し込んでいる。
五月蝿い先輩だ、とこの時はそのぐらいにしか思ってはいなかったのだが、事態は最悪な方向に動き始めていた。
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