3 / 30
一章:出逢いの春
に
しおりを挟む誰かの、あっ、と叫ぶ声と、がっ、と何かがぶつかる音がしたのは、ほぼ同時のことだった。
大木の周りに杭を打ち付けていた神流が音の発生源を窺えば、其処には絶望的な光景が広がっている。
茫然と立ち尽くすも、神流はハッと我に返り花壇に駆け寄った。
一人の女子生徒と一人の男子生徒が、ボールに押し潰されたチューリップを眺めていた。
女子生徒は1年生だろう、ジャージの色が赤色だ。
男子生徒は騒いでいた3年生の先輩だった。
「なんでこんな……」
3年生の腕にはサッカーボールが抱えられている。
恐らく、それを投げ付けたのだろう。
花壇にしゃがみ込み無惨にも潰されたチューリップに手を伸ばす。
「あー、こりゃ……。宮原、スコップ持ってきて。羽李、何してんだ、お前。去年、コイツが育てた花だぞ」
「仕方ねえだろ、フミ。事情があったんだ」
背後から様子を伺いに来た委員長に肩を叩かれて立ち上がる。
羽李(ウリ)と呼ばれた先輩と委員長は顔見知りのようだった。
彼は、バツが悪そうに頭を掻いてはいるものの、謝る気はなさそうだ。
神流の中で、夏木 羽李(ナツキ ウリ)たる人物が敵とインプットされた瞬間である。
怒りで震える体をどうにか抑えて校舎の裏にある用具室ーー謂わば倉庫ーーから、スコップを持ち出して植え込みまで戻る。
委員長の宅福 史壱(ヤカネ フミイチ)に頭をど突かれて唇を尖らせている羽李と目が合った。
ふっ、と視線を逸らす。
彼を視界に入れるのが不愉快で堪らなかった。
「委員長、持って来ました」
「ああ、宮原。残念だけど、コイツはもう駄目だな。完璧潰れてる。他は大丈夫そうなんだけど、さ」
スコップを受け取りながら、委員長は言いにくそうに花壇へと視線を落とした。
一つだけぐしゃりと潰れてどうにも出来そうにないチューリップがあった。
はい、と頷くも、その後は言葉が続かなかった。
本来、神流は植物に興味はなかったのだが、去年何となく引き受けた委員会で、一年間植物を育てたり世話をすることで、彼の心に何か優しい想いが芽生えたのだ。
親に決められたレールの上をただ歩いて来ただけの神流は、初めて自分の意志で事を為した。
他人からすれば些細なことではある。
それでも、神流にとっては意味のある、とても大事なことだった。
ぐしゃり、と胸の奥で何かが壊れる音がする。
たかがチューリップ一輪、されど一輪。
謝りもしない先輩を、神流は拒絶することを選んだ。
0
あなたにおすすめの小説
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる