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一章:出逢いの春
さん
しおりを挟む「あのな、宮原。実はーー」
「良いですよ、委員長。気に、していないので。ただ、植物を蔑(ないがし)ろにするような人間に、委員がつとまるかは知りませんが」
羽李の顔も見ないまま言い放ち花壇の脇にしゃがんだ。
委員長も溜め息を吐き出しながらしゃがみ込む。
何を言っても無駄だと察したのだろう。
無言でスコップをチューリップの根元に入れていく。
ざくっ、と音がして土が掘り起こされる。
そんな二人に背中を向けて羽李はむくれていた。
彼には彼の言い分があるのだが、それを神流が知るのはもう暫く後の話である。
他の生徒が大木の世話をしている間、神流と委員長はチューリップの片付けをしていた。
大木の世話も片付けも終わり、委員会は解散となった。
グラウンドの脇に置いた荷物を手に、生徒は各々(おのおの)に帰宅していく。
神流も鞄を持ち上げた時だ。
「宮原、あのな。お前のことだから言い訳は聞かないだろうけど。羽李も人のためにやったことらしくて、不可抗力だと僕は思うよ。彼奴の態度も頂けないのは重々承知の上で、あんま嫌わないでやってな? 悪い奴じゃないんだ」
委員長が泥だらけのジャージを払いながら近付いて来た。
昨年の一年で、神流の性格もある程度は理解しているようだ。
「ええ、解っていますよ。嫌うも何も、接点持つ気ないんで、安心して下さい。では、僕は帰ります。お疲れ様でした」
ふわり、と綺麗に口元が弧を画いて、神流の顔には笑みが浮かんでいる。
その綺麗な笑みが史壱には余計に怖く感じられるのだ。
会釈をし去って行く背中を眺めて、つい言葉が零れる。
「全然安心出来ないんだけど。全く、困った二人だよ」
史壱はヤレヤレと肩を竦ませ、自身も帰宅の路に着くのだった。
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