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序章:崩壊
崩壊は突然に訪れる 01
しおりを挟む生きていることが罪になるだなんて思いもよらなかった。
なあ、俺の存在が邪魔だと言うのなら、いっそ一思いに殺してくれよ――。
【崩壊は突然に訪れる】
口の中に広がる鉄の味には、いい加減うんざりする。
殴られて変色した肌が、ぴりぴりと痛みを伝えてきた。
夜風が直に当たる公園のベンチで為す術もなく、切れた息を整える。
今日もまた、日常は変わりもせずに繰り返され、安津 忠樹(アンヅ タダキ)は行き場のない身をベンチの上に放り投げるしかなかった。
近くの薄汚い街頭がチカチカと鳴る音に耳を傾けて嘲笑を浮かべる。
いつからこうなったのだろうかと、想いを馳せてはみても、明確な答えなど得られなく、それであっても思考は止められないのだった。
* * * * * *
昭和53年――1978年、忠樹が13歳になる年のこと――。
中学に進学を果たしたばかりの、楽しさと不安に塗れながらも、新しい状況にと徐々に慣れ始めた5月の最中(さなか)に其は起こった。
授業の途中、駆け込んで来た担任に連れられて、忠樹は近所の総合病院に赴いていた。
担任の運転する車の中で、父親が事故に遭ったのだと聞かされてはいたが、現実味を抱けぬまま手術室の前に辿り着く。
閉ざされた扉の上には赤いランプが灯っていた。
仰々しい扉の前のベンチで、母が顔を伏せて座っている。
担任に肩を叩かれ、自分が呆然と立ち尽くしていたことに気が付く。
棒になったように重たい足腰を無理に動かして母の隣に座った。
母は顔を上げもせず、ただ組んだ手に額を当てて俯いている。
揺れる肩は彼女が嗚咽していることを伝えてきた。
何処か遠くで景色が過(よ)ぎっていく。
自分のことなのに、ドラマか映画を見ているような現実感の無さに忠樹は戸惑った。
あの扉の向こうで父が生死を彷徨っている。
受け入れ難い現実を前に、忠樹の脳は処理しきれずにいるのだろう。
ぼんやりと銀色の扉を眺めていた。
* * * * * *
父を亡くした事故から2年が経っていた。
悲しみに暮れる時間も与えられないままに、日常と言う名の現実は目の前に迫ってくる。
生計を立てなければ生活は出来ない。
最愛の人を亡くした精神的苦痛に加え、母子家庭になったことにより母に掛かる負担は当然の如く大きかった。
彼女の精神はすぐに根を上げ、徐々にノイローゼの症状を見せ始めたのだ。
忠樹に暴力を振るうようになったのは、半年程が過ぎた頃だった。
初めは軽いもので済んでいたが、此処1年は周りに誤魔化せない程に酷くなっている。
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