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一章:鬼畜極道は似非王子を騙す
死にかけキノコに恋をした 02
しおりを挟む明紫亜が雪代の家に来てから数カ月は、落ち着くことがなかった。
毎日一回は「殺して」と懇願する彼を取り押さえ、如何にして栄養を摂取させるのかに苦心し、触れることさえ制限されてしまうのだ。
大人達が頭を抱えている間、蒼真もまたどうしたら良いのか解らずにいた。
表面化した問題は、二つ存在する。
一つは、痩せ細り日常生活を送るのも儘ならない明紫亜を太らせようにも、彼自身が食事を拒むために栄養失調から抜け出せないこと。
無理矢理に注射や点滴などで栄養剤を流し込むことしか出来ない日が続いていた。
もう一つは、涼子以外の人間が明紫亜に触れると嘔吐してしまうことだった。
下手に触れようとすると、パニックを起こして「殺して」「死にたい」と泣き喚き、自傷行為に走る。
体中を引っ掻き回し、其れを止めようとした人間の肌が一部でも触れようものなら嘔吐してしまう。
ただでさえ食事を拒んでいる彼の吐き出せるものなど、胃液ぐらいのもので、見ていて痛々しいものだった。
幼稚舎から帰宅する度に蒼真は、道端で採った黄色い花と赤い花を明紫亜に渡そうとするのだが、全て拒まれていた。
彼は何も見ようとせず、蒼真の存在を視界に入れることすらしない。
ベッドの上で死んだように虚空を眺めているだけなのだ。
蒼真には、母の言葉の中で忘れられないものがあった。
黄色は幸せの色。
赤色は愛の色。
彼女はそう言った後に、こう続けたのだ。
「私にそれを教えてくれたのは、姉さんなんだ。オムライスの作り方を教えてくれた時に、そう言っていた。オムライスを食べると元気になれるのは、幸せと愛が詰まっているからなんだよ、と」
懐かしむような、それでいて切ない表情の涼子の顔がいつまでも頭を離れないでいた。
この話を聞いた時、母に姉がいるのだと初めて知ったのだ。
まさか従兄がいるとは思わなかったが、素敵な人なのだと勝手に想像し、いつかは会いたいと思っていた。
一年程前の出来事である。
それだから蒼真は、温子に裏切られたように感じていた。
涼子と冷子は、殊更にその想いが強いのではないかと思えて、やるせなくなる。
母にオムライスを作ろうと提案したのは、明紫亜がやって来て、三ヶ月が経った頃だ。
好転することのない現状の中で、オムライスなら明紫亜も食べるに違いないと、根拠のない自信が蒼真にはあった。
神沼家に伝わるオムライスの味は、温子から涼子に、涼子から冷子にと受け継がれている。
言うならば、明紫亜にとっても母の味なのだ。
幸せと愛に溢れた食べ物がオムライスなのだ。
きっと明紫亜にも伝わる。
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