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二章:恋するクマさん♫
クマさんと嫉妬 02
しおりを挟む志那の頭部は大きな掌にすっぽりと収まってしまう。
「ほら、さっさと支度しないと遅刻するぞ」
ベッドヘッドに置かれた置き時計に視線をやれば、遅刻するギリギリの時間だった。
「やっば!」
急いでベッドから飛び降り、クローゼットから新しいシャツを取り出して袖を通す。
釦を留めながらブレザーを羽織り、クローゼット横のチェストから下着を取り出した。
パンツを脱ごうとして掛けた手が止まり、ベッドの上で横になったまま志那を見ている二良を睨み付ける。
横向きで片肘をつき頬に手を当て支えている彼の顔には笑みが浮かんでいる。
普段ならば男同士で何も気にすることなどないのだが、昨日の件が志那の中で尾を引いていた。
「め、目を、瞑ってて、下さいヨ」
暫時フリーズした志那の口から妥協案が放たれる。
時間の余裕もなく「出て行け」と言うよりも早いと判断した結果だった。
「残念。またゆっくり裸の付き合いしような」
揶揄する二良に頬を真っ赤にさせ拳を上下に振るが肝心の言葉が出て来ず、口唇を意味もなく開閉させる。
「し、しないっ!」
大きな体躯の向きを壁側にゴロンと変えた二良の背に怒鳴り付け、下着を新しいものにと着替える。
昨日のシャツとパンツを洗濯物カゴに放った。
制服のズボンに足を通しベルトを締める。
しゅるり、と首にネクタイを巻き付け支度を終わらせ、学習机の下に置いてあるスクール鞄を手に扉まで駆け寄った。
「……いっ、て、きま、す」
握ったスクール鞄の持ち手を強く持ち、振り向かずに二良にと声を掛ける。
普段、志那から挨拶をすることは殆どなかった。
それでもこの日は、大好きな筋肉に包まれて寝たことが思いの外に嬉しく彼に声を掛けたくなってしまったのだ。
「おう、気ぃ付けてな。志那、好きだよ」
不意打ちだった。
優しい声音が志那の胸に侵食してくる。
二良の姿が視界に入らなくともどんな表情なのか、容易に想像出来てしまい、どくどくどく、と内側から溢れる得体の知れない幸福感に戸惑う。
心臓が速打ちするのが苦しく、返事はせずに部屋から出て乱暴に扉を閉めた。
一階に降りて行くと洗面所で二良の母と出会(でくわ)す。
志那を視界に入れるなり心配そうに何かを言おうとして、彼女は何も言葉にはしなかった。
「お弁当、玄関に置いてあるからね。気を付けて行ってくるんだよ」
結局、いつもの明るい笑顔で彼女は洗面所から出て行く。
ん、と聞こえたかも定かではない小さな声で返答し、顔と歯を洗う。
洗面所を出て玄関に向かうと幼女に人気のアニメのイラストが描かれた紙袋が置いてあった。
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