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一章
探る二歩目
しおりを挟む「ゲームのバーチャル配信者?」
中学生になって初めての夏休み、八月に入ってすぐ、美優希は生配信をやってみたいと言い出した。
詳しく聞くと、どうやら配信者へのあこがれがあるようだ。更には、最近人気が出始めたバーチャル配信者に興味があり、ネットリテラシーの観点からうちでそれはできないのかと言ってきた。
しかも、親友三人組で、だ。
七月下旬、Ryzerとのコラボレーション企画でシンガポールに飛んでいたので、疲れからリビングで眠そうにしていたところに声を掛けられた。
三人共に正座して話そうとしてきたので、流石にそれはと思って足を崩させている。
「どんな環境が必要かパパなら分かるかな?って思って」
「あー」
正直なことを言うと、中学生では親の協力がないとそろえる事はできない。
専用ソフトに二千円、キャラクター制作に五千円から青天井、モーションキャプチャーの為のWebカメラに三千円から二万円、ゲームとその画面のキャプチャリングに耐えうるパソコンが、二十万円からの青天井となる。
高校生であれば入学直後からバイトをして貯金すると、上手く行けば二年生に上がる頃にはそろうであろう環境だ。この辺りに中学生を雇ってくれる会社がないので、絶望的だと言えよう。
「キャラクターは原画さえ用意するなら、俺が清書して動くようにあげる」
そう言うと美優希は五枚の紙を出した。元から頼むつもりで用意していたらしい。これには苦笑いを浮かべるしかなかった。
手に取ってよくよく見てみると男のキャラが一つ混ざっている。更に一つは明らかに年齢が高い。
「このキャラ達は?」
「パパとママ」
「・・・え?」
「パパはゲームの先生として、ママはお菓子作りの先生として」
コンテンツのことまで考えているから馬鹿にできないのだ。三人寄れば文殊の知恵とはよく言ったものである。せっかくだからプロに教えてもらおうと言うだけなのだろうが。
とは言え、それでどうにかできない問題もある。
現状、野々華はゲーミングパソコンを持ってない。輝は隼人のおさがりがあるかもしれないが、スペック不足で、ノートパソコンだからアップグレードも望めない。
中学生に二十万もするパソコンを買い与えられる親は少ないだろう。なので、あれから輝も野々華も、FPSゲームをやるのは美優希の家に集まった時だけだ。
「なぁ、三人共、プロゲーマーに成る気はあるか?」
「「「え」」」
「隼人は見事にプロとして巣立ってくれた。俺の指導の下でやる気はあるか?才能はあるぞ」
かねてより、野々華の母親、真純と計画していたことを実行に移す時が来た。一義はそう判断したのだ。
「「「成れるなら成りたい」」」
すぐに正座をして真剣な顔で一義にそう言った。
そう言うのは良いからと言って、すぐに足を崩させる。
「分かった。それから野々華ちゃん」
「はい」
「通訳、もう一度目指してみないか?」
「え、どうしてですか?」
分からなくて当然と言ったところ。
プロに成って世界まで見据えるのならば、英語力はある程度必要だ。試合中はライバルでも、それ以外ではゲーマーの友達となれる可能性もあり、話すことができれば外国企業のスポンサーを得られる可能性もある。
「あれば便利だ。話せれば、実績にもなるし、明確な実績として形に残りやすい」
突然、野々華はポロポロと涙をこぼし、仕舞いにはボロボロと泣き出してしまった。落ち着くのを待ってから、野々華の意思を確認する。
父親である浩司にあれだけこっぴどく否定された野々華は、真純と梨々華のフォローもあってあきらめてはいなかった。
「通訳だけを仕事にしたくても実績がないと苦しいと言わざるを得ない。プロゲーマーの選手生命が短いのなら、その間に実績を作ったら。どうなるかなんてわかるよね?」
「はい!」
「なんならうちの会社で働いてほしいぐらいだからな」
元気な返事と確実な嬉し泣き、これで野々華は自信をもって真純に報告ができるだろう。
「一つ聞きたいんだけど、この絵はだれが書いたの?」
「私です」
「やっぱり、輝ちゃんだったか」
一義の影響を受けて美優希も絵が上手いのだが、タッチが明らかに美優希の物ではなく、どちらかと言えば光の母親、涼子のタッチに近かった。
また、美優希の絵は一義の影響が悪い方向に働いて苦手意識がある。と言うのも、美優希は何かができていく様子を見るのが大好きで、イラストを描く一義の膝上でその様子を眺めるのが大好きだった。
それを自らがやろうとした時、一義のイラストのクオリティが頭に焼き付いて離れず、どうやっても出せないクオリティに悩んだ。終ぞ相談することもなく、一義が気付くのに遅れた所為で苦手意識が付いている。
「輝ちゃん、本格的に絵の勉強をしないか?」
「絵、ですか?」
「うん。輝ちゃんのお母さんの仕事は絵の仕事だ。近くに本業の先生がいる。親だから費用もかからない。イラストレーターは独立している人が多くてね、うちの会社は囲い込みたいのに、なかなか話に乗ってくれる人がいないんだよ」
「・・・」
きょとんとする輝はよくわかっていないよう。
「絵をかくのは嫌い?」
「いいえ、寧ろ好きです」
だったらと、一義は更に畳みかける。
「俺だって暇じゃない。大きな商談が入れば、そっちを優先せざるを得ないし、君たちの指導もしなきゃいけない。欲しい素材を手に入れるには時間がかかる。だけど、自分たちでイラスト素材を用意出来たらどうかな?最速で用意できない?一々俺に頭下げる必要ないし」
「確かに」
「どうせなるならこの三人組がいいでしょ?」
三人同時に頷いた。それに、この三人組だからプロへの道を取り組みたい様子だ。
「これはチームの為だ。他にやりたいことがあるのなら、そっちを優先していいんだが、どうだ?」
「今はありません」
「そうか、我慢しなくていいから、やりたいことが見つかったらいつでも言ってくれ。直ぐに。じゃないと取り返しのつかないことになるからな」
「分かりました」
そうは言っても隼人の背中を見ている以上、輝は他に選択肢を置いていない。
「さて、最後は美優希だ」
「うん」
「美優希にはこの三人でやるのならリーダーとしてまとめてほしい。そして、いずれ付くことにマネージャーの管理、人の上に立つ意味を学んでほしい。理由はいずれ会社を継いでもらうからだ」
「・・・」
美優希はふさぎ込んでしまった。
「ただな、お前にやりたいことがあるなら話は別だ。お前が成りたいものを無視してまで継いでもらおうとは思ってない。そもそも、今稼いでいる理由はお前の夢をかなえる為に、お金と言う障害を無くす為だから」
「・・・いい、の?私が会社を継いでもいいの?」
顔を上げた美優希は、その目に涙を溜めていた。
「当たり前だ。その代わり、やってもらう事は山ほどあるからな」
「うん、やる。がんばる」
涙をぐっと堪え、嬉しそうに頷いた。
この手の話は親族一同全員が避けていた。中学生になれば、嫌でも進路の話をしなければならないので、向き合って話ができるようにする為である。
すべての株式を一義が握っている、株式取引制限会社ジャストライフが正式名称だ。この関係で、取締役会が設置されていたとしても、そこに清水敏則の名前があったとしても、一義の意向がすべての会社だ。
下手なことを清水がしようものなら、すぐに解任される。また、一義に対する負い目もある為、その性格では下手なことはしてこない。
妻である幸子も顧問弁護士として雇われており、法律は知っている人の味方だと分かっていても、体と正義気質の強い幸子では何もできない。
春香の両親は行き遅れを拾ってくれた人、になっており、歳で完全に引退しているので何も言わない。
一義の両親は複合飲食店の自営業でスローライフを満喫しており、こちらも何かするような体力がない。
一族経営をする気はない、と公言しており、社員も独立できるだけの技術を持っている事を教えるだけでいい、いつでも解散可能な状態になっている。
なので、美優希は周囲から可愛がられているが、割と放置されている。
「美優希、もし他にやりたいことができたすぐ言うんだぞ?その為に俺は頑張っているし、輝ちゃん同様、取り返しがつかないことになってる可能性もあるからな」
「わかった」
「三人共、気に負う必要はない。三人は隼人君より時間がたっぷりある。楽しくなきゃ、続かないし、意味がないからな」
「「「はい」」」
三人共嬉しそうに返事をしたのだった。
美優希はともかくとして、一義は輝と野々華にまだ伝えるべきことがある。
「これでパソコンのことについて話をしよう。」
中学生を雇うと言うのはかなり面倒なことになるが、頑張って雇い、支給品として必要な物を会社がそろえる。
その代わり、会社が出した条件で三人は働く、と言うか配信を行う事にした。
「あの、お母さん達にはなんて言えばいいですか?」
「ああ、もう話は通してあるから、片岡社長がプロゲーマーに成る為のお世話をしてくれることになりました、って報告するだけでいいよ」
「「え」」
もし、三人が三人共プロゲーマーに成りたいと言い出したらどうするのか、野々華の父親が乗り込んできた後に話をしてどうするのか決めていたのである。
なぜその話を当の三人にしなかったのかと言うと、やる気がないのにやらせても、失敗するだけだからである。やる気があるのなら、隼人のこともあって一義に言うだろう、そうじゃなくても自分で自分の親に相談するはずだ、と判断している。
三人のやる気など、隼人に向ける三人の目で気付ける。時間があれば隼人はフォローしてやる気満々で、梨々華もマネージャーになることは二つ返事だった。
つまり、知らなかったのはこの三人だけだったのだ。
「ひどいですよー」
「ほんとですー」
「うう、気付かれてたなんて」
恥ずかしいのか顔を赤くして輝と野々華は抗議をし、美優希はうなだれている。
「やる気がないのに押し付けてもしょうがないでしょ?本当の気持ちなんて、結局自分しか分からないんだ。間違ってたら大変なことになるでは済まないから、準備だけしてみんなで待ってたんだよ」
損失を出すのはもっての外、それに自分で言いに来なければ、そのやる気は疑うべきなのだ。
それでも三人は、親から理解をされていたことが嬉しいのか、一義の言葉で笑顔になっている。
そんな三人をリビングに残して、一義はあるものを取りに行った。
それは、Ryzer本社からの帰り際にもらった新商品、お金は支払うから娘とよく遊んでくれる子にもあげたいと言うと、快くただで渡してくれた。
個人としてもらった物を会社に置いておくと、在庫に混ざってまずいことになるので、家の収納の奥に隠していた。本当はクリスマスプレゼントにするつもりだったのだが、こうなった以上はもう渡してあげたほうがいいだろう。
「さて、これ、三人にプレゼントね」
「「「Ryzerの猫耳ヘッドセットだー!」」」
「開けて付けていいよ」
ピンクと白のカラーリングに、ヘッドレスト部分には猫耳を模した突起物、三人は『かわいい』と大はしゃぎして喜んでいる。
お礼を言うのも忘れてお互いのスマホで写真撮影を行う三人の様子を眺めながら、いい友達ができてよかった、と安堵の表情を浮かべるだけだった。
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