私プロゲーマーに成ります!~FPS女子の軌跡~

紫隈嘉威(Σ・Χ)

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一章

結果を出すと言う事

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「申し訳ございません、片岡社長」
「いえ、大丈夫ですよ。まさかトップテンどころか主席にまでなるとは思ってもなかったので」
「改めて本気度を感じました」

 朝野龍也たつやは頭を抱えつつも嬉しそうにそう言った。
 年末、会社の社長室で、朝野夫妻と隼人の件で面談をしている。

「動画制作もあそこまできちんとできるとは」

 そう言うのは母親の涼子りょうこだ。父親の達也同様、頭を抱えつつも嬉しそうにしている。
 隼人は土日にバイトとして会社に出てくる。
 ジャストライフはリモート可能なフレックスタイムの週休二日だが、週に二日の休みは固定さえすれば自由なので対応はできている。
 案外主婦層がありがたがっており、土日のどちらかで出勤し、子供を旦那に預けて育児に強制参加させると言う荒業までやっている。それに、こうすると銀行や役所関係が楽らしく、実は平日の水曜は出勤者が少なく、会社は閑散としている。
 そんなものなので、大学も近くにある所為でアルバイトは意外といる。

「見比べて驚いた。最近のはプロとどっちだと言いたくなります」

 龍也の言うとおり、一義から見ても、動画制作部、映像制作部の社員として、いつでも雇っていいくらいだ。

「それは良いんですが、睡眠時間には気を使ってあげてください。ちょくちょく隈を作って、寝坊の遅刻もしていたので、体の方が心配です。厳しい世界ですから、体を壊せばおしまいです」
「「え、遅刻してたんですか?」」
「遅刻は良いんですよ。して当たり前ぐらいの辛さなのに結果を残しているので、体は良くないですが怒れませんよ。どうでしょう、輝ちゃんとの関係変化や、ふさぎ込んだり、感情の起伏が激しくなったり、あるいは荒れてしまったりしてませんか?」
「「いいえ」」

 兆候は出ていないらしい。

「頑張りすぎているように見えるんですよね。生活面を少し見直しましょう。遅刻はしない方がいいのですが、頑張りすぎるが故の遅刻は、本人がどうにかできる問題ではないので、こちらがどうにかしてあげる必要があります」
「どうしてです?」
「本人に頑張りすぎている意識がないからです。目標達成の為に頑張るのは当たり前ですが、結果が出てしまったので、面白くなってやりすぎるのです。事実、中間テスト以降から遅刻しだして隈も作り始めて、期末テスト主席、これを維持なのでかなりやばいです」

 少し考えてから龍也は口を開いた。

「確かに、遅くまで電気がついている事があった、ありました。金曜が多いですが、他の日もですね」

 スマホゲームに関しては、ゲーミングパソコンを買ってあげる代わりにしない約束で、本人も『課金して強くなるゲーム程、面白くないゲームはない』と言い張るほど興味がない。輝が誘ってもやらないし、自信満々でスマホを触っていいとまでいう。
 他のパソコンゲームかと言うと、クリック音や打鍵音が全くしないのでそれもない。
 隼人の部屋には漫画本がない。これは、条件付けられた翌日に、ダンボールを準備して納戸に押し込んだのだとか。

「では、土日仕事に集中する為、三日分の宿題を終わらせて、練習もこなしていますね。他の日は追加の勉強をしているはずです。逆効果になるのでメニュー以上の練習はさせてないですし、メニューは二時間程度です」
「平日帰ってくるのは十八時ごろで、夕食が十九時、お風呂は・・・」
「あの子がお風呂に入るのは二十時半頃、それ以外で部屋からは出てこないですね。初めの頃様子を見に行った時はいつも勉強してましたね」
「十八時ごろに帰宅してからお風呂を済ませるまでは勉強、そこから二時間の練習をして、大体二十三時、更に遅くまで勉強ですか・・・」

 結局、そこは家族で話し合ってもらうことにし、三人共会社を後にした。
 努力しても結果に結びつかない事は多いが、努力しなければ結果は出ない。今回の場合は結果が出たは良いが、努力がまずいのである。
 十分な睡眠と言うのは人それぞれでしかないが、きちんと起きられる人間が、寝坊する程に睡眠時間が取れていないのは、確実に足りていない。
 将来を気にすると、プロに成れなかった場合に悲惨なことなるので、成績の条件を緩くすることはできない。
 二足の草鞋を履くことが確定している世界なので、今できていないのならば、将来できるとは思えない。
 現状履いている草鞋は三足にも及んでいるが、きちんと効率を考えて行えばできるはずだ。
 一義はそれができるようになってほしいと、切に願うばかりであった。

「隼人お兄さんは結局どうなるの?」

 家に帰り着いた一義は、いつものゲーム団欒の後、美優希に質問をされていた。

「会社としてはバックアップする方向で動く。結果を出してきたから、約束を反故にするようなことはしない」
「そっかー。最近輝ちゃんが寂しそうにしてるし、心配してるんだよね」
「今日、親御さんとも話はしたから、自分たちでどうにかするだろう。いずれは兄離れしなきゃいけないんだから、寂しそうなのは我慢してもらうしかないな。輝ちゃんそっちのけで話するかもだから、美優希からフォローしてあげて、俺の所に連れてきてもいいから」
「うん、わかった」

 それで後日、結局輝には一義からことが伝えられて、寂しいのならしっかり支えてあげるようにアドバイスしたのだった。
 翌年度、隼人にはチームからお誘いがかかった。
 Rレインボー5ファイブSシージと言う、FPSゲームが去年リリースされて、大会の告知が行われた。その新部門立ち上げに新人を加えたい、と白羽の矢が立ったのである。
 R5Sリリース直後から隼人にやらせて、年明けからは会社に環境を整えた。動画投稿サイトにチャンネルを作って、モンタージュやプレイ動画を上げまくり、週末は生配信をやった結果だ。

「貴方がCorsairさんだったんですね。声ですぐに本物だと気づきましたよ」

 チームオーナーはわざわざ株式会社ジャストライフに出向いて、一義とは社長室で対面している。

「私の教え子だから安心しているんですか?」
「そりゃもう。私もサンドバッグを経験した一人ですよ」

 直接的な面識はないが、九年前からの知り合いだったのだ。

「その節はご迷惑をおかけしました」
「いえいえ、アレは本当に勉強になりましたし、プロも生まれています。実績として十分でしょう」

 一義が隼人の動画や生配信で、わざとCorsairと言うゲームネームで声も入れたのは、これが狙いでもあった。
 今回声をかけて来たプロゲーマー集団、ムーンシスターズはそれなりに実績のあるチームで、チームオーナーである、池崎いけざきまさる自身も補欠プロとして、端々で活躍をしている。
 チームから声がかかればいいな、程度の狙いだったのだが、チームオーナーの将がサンドバッグ経験者と言う、最高の条件を引き当てられた。

「彼は光るものを持っています。他に取られる前に、声を掛けに来ました」

 まだ直接本人に話はしていない。チャンネルの管理権限は会社が持っているので、お誘いのメールは見せていないのである。

「彼は高校三年生です。将来を考えて卒業はさせたいのですが」
「もちろんです。リモートでいいので指定した練習時間に、とりあえず参加できればそれで構いません。メンバーの顔合わせや親睦会への参加費用は私たちが持ちます」
「分かりました。会社としては送り出すことに異論はありません。後は、本人と親御さんと話をされてください。それから、隼人君個人にはスポンサー企業の一つとして、ジャストライフが付きたいのですが、可能ですか?」
「もちろんです。その件の詳細は、隼人君が正式にチームへと入ってくれる意思を固めた後にしましょう」

 数日後、将と一義は朝野一家と話し合いを行い、隼人のデビューは来年に決まったのだった。
 大学については受かったら通うことになり、チームとしても通学は支援してくれることに、チーム方針もあって大学と学部は指定となった。映像制作に関わる学部だが、指定された大学は到底Fランクなどとは言い難い。
 家族の管理下で、伸び伸びと過ごせた隼人は、一義の推薦状を携えて、十一月には推薦で大学に合格し、学費免除まで獲得してきた。

「隼人君、よくやったね」
「はい。社長、ありがとうございました」
「ああ」

 隼人だけでなく、朝野一家全員からお礼を言われた一義は悪くない気分だった。

「まさか、推薦状まで書いていただけるとは」
「私は事実をそのまま書いただけですよ?」

 隼人を雇い入れたこと自体に赤字はない。
 アルバイトの使うパソコンもソフトも使いまわしなので、経費は給料だけだ。その給料もちゃんと動画を作って黒字で回収できている。その事実を推薦状に書いただけに過ぎないのである。
 半ば夢をかなえた隼人に、一義は気を引き締めて、羽目を外しすぎないように優しく諭した。

「まだ夢半ば、自滅しないようにね」
「はい」
「気に負う必要ない。苦しい時は苦しいと、悩みがあるのなら悩みがあると、気軽に連絡してきなさい。次の目標は大会の優勝と大学の卒業だ」
「はい!」

 しっかりと返事をしてくれた隼人に一義は安堵を覚えた。
 これで目の色を変えたのは輝、そして美優希も野々華も同様だ。
 しかし、三人は小学校卒業、中学入学後の初めての夏休みまで、それを表に出すことはしなかった。
 当然親は気付いており、朝野夫妻は輝がいつ言い出してもいいように心構えをしておくらしい。問題が出たのは野々華、岡田一家だ。
 野々華の母親、真純はジャストライフの部長として、隼人がどれだけ努力をしているのか、実際に見て知っており、その嬉しそうな顔を見て本気ならばと理解がある。
 しれっと生配信をしている姉の梨々華は言うまでもなく、自身よりも野々華の方がゲーム上手である事も相まって、できる事は協力してあげる意向を見せた。
 つまり、父親である浩司こうじが会社に乗り込んできて、一義に直接抗議しに来たのだ。

「野々華がプロゲーマーになるとか言い出したらどうしてくれる」

 と。
 安定志向で考え方が古い、その割には真純にがっつり尻に敷かれている。

「貴方にプロゲーマーの何が分かっててそう言っているのですか?」
「スポーツ選手であることは認めるが、活躍できるのはほんの一握りだ。活躍できなければ辛いだけでは済まないだろう?」
「貴方、子供に平凡でいてくれと言っている自覚ありますか?」
「平凡?そんなことは思っていない。普通に・・・」
「普通って何ですか?」

 この質問にも難なく答えているが、根本的に分かっていないらしい。

「普通とは多くの場合でそうである事、つまりありきたりであること、平凡と同じ意味ですよ?」
「詭弁だ」
「詭弁はあなたでしょう?この際だから言いますが、子供の夢に現実を突きつけて、なおも頑張ろうともがく子供を応援できないのなら、親なんてやめてしまえ。子供から夢を奪う者に親を名乗る資格はない!」

 この一義の怒鳴り声は廊下にまで響いた。こと聞いて駆け付けていた真純は、怒鳴り声にノックも忘れて社長室に入室してきた。

「あなた、片岡社長を怒鳴らせて何をするつもりなの?」

 般若の形相で浩司に詰め寄る真純、少しだけ浩司がしり込みしている。真純に説明を求められた一義は、あっけらかんと事情を説明した。

「ねぇ、貴方、野々華の通訳になりたいと言う夢を、以前奪ったわよね?」
「いや、それは」
「は?人と人を、外人と日本人を繋ぐ、架け橋となる素晴らしい仕事の夢を奪った?」

 真純から詳しい話を聞いた一義の顔は修羅に変化した。
 般若と修羅に終ぞ抵抗することができず、社長室でこってり絞られ、実家で反省して来いと家から追い出され、浩司は両親からもこってり絞られる結果になった。
 真純曰く、野々華は通訳の夢を否定されて大号泣しているらしい。高校、大学に目星をつけて、留学する為に高校からアルバイトする計画まで立てており、小学四年生の自由研究はその一環、それすらも否定されているので仕方がないだろう。
 これは梨々華とて同様で、生配信に手を出して金髪に染めて、高校生活は無気力、グレ気味なのだ。
 本人にその気があるのなら、野々華をプロゲーマーへと導き、梨々華をそのマネージャーする計画が持ちあがったのは梅雨も半ばの事だった。


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