私プロゲーマーに成ります!~FPS女子の軌跡~

紫隈嘉威(Σ・Χ)

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一章

配信開始

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 機材がそろったので配信開始、とは企業の場合はならない。プロモーションによるブーストを掛ける為である。
 また、今回の場合、岡田家が、野々華と梨々華がごたごたしているので、すぐにとはならない。
 落ち着くまではリテラシーの勉強をしようと計画を立てていた。

「え、そんなあっさり?!」
「「うん」」

 美優希が驚くのも無理ない。
 野々華と梨々華が涼子に送ってもらって家に着くと、離婚の話し合いが粛々と行われており、親権は真純で財産は半分ずつと決着がつき、まさに判子が押されようとしていた。

「扉開けた瞬間マジでビビって、私も野々華も実力行使に出ちゃった」

 梨々華は押そうとする判子を奪って待ったをかけ、野々華は離婚届を引き裂いた。

「『なんで私たち抜きなの?』って私が言ったら、野々華は『私は中学生だけど、お姉ちゃんは高校生、法的責任能力を問われる年だよ』って、『私たちは家族じゃないの?勝手に決めないで』って言ったら、お父さん大泣きしだして、お母さんまで泣き出して」
「なかなか泣き止まなくてそれが大変だったかなぁ。それで朝まで家族会議、何とか離婚阻止はできたよ」
「ふーん、それで、お父さんとお母さんどうするの?離婚調停がスムーズだったんなら、仮面夫婦になるよ?」
「それが、完全じゃないけどゼロからやり直すんだって。もう一度関係を築き直すってさ。そんなものだから目の前でイチャイチャされるの超絶うざい」

 うなだれる梨々華は『うー』とうなっている。

「でも、私たちも含めての関係だから。美優希ちゃん見習って、お父さんに抱き着いたり膝枕してもらったりしてる。膝枕すごくいいね。距離近いけど仲良くなった感じがする!」
「でしょー?」
「お姉ちゃんもしてもらえばいいんだよ」
「やーよ。離婚までは望まないけど、干渉しないから干渉してくんなってかんじ。お父さんが美優希ちゃんのパパみたいになったら、思う存分甘えるけど」

 三人と誠は苦笑いをした。

「梨々華さんはそんなに片岡社長に魅力感じるんだ」
「あんなパパいないですよ?そりゃお金もあるけど・・・。あんなに子供の事を肯定して、叱るときは諭すように叱ってくれて、しっかり抱きしめてくれて、子供でも分かるんですよ?美優希ちゃんの為にやってるんだって」
「そうなのか」
「野々華の運動会の時、美優希ちゃんは絶対片岡社長の膝の上で、片岡社長は全然嫌がってなかった。小三かな?お父さんにダメって言われてから、乗って・・・ないですね。ともかくダメの一点張りで理由を言わないし、頭ごなしだし、下手するとビンタだし」

 手を上げるのはそもそもの話だが、これではイエスマンが出来上がるかヤンキーが出来上がるかのほぼ二択だ。

「野々華なんて小学校上がる前にダメって言われてたからね?覚えてないでしょ?」
「うーん、確かに膝に乗せてもらった覚えないかも」
「口を開けば仕事か勉強、分からないところを聞いても疲れてるからって教えてくれないし。美優希ちゃんは宿題とかの分からないところどうしてた?」
「私はパパに教えてもらってたよ。今もそうだけど、夕食終わって片付けしたら、ダイニングでパパは仕事で、その横でやらされてた。いつでも聞いていいからって。今はママに見てもらってるけど」
「ほらね」

 梨々華は背もたれに預けるように体を逸らした。

「美優希ちゃんが成績トップなのは、基礎から分からないところをそのままにできない環境だからだよ。私は野々華がいるから教えないといけなくて何とかなったけど、いなかったらもっとヤバかったよー」

 話を聞いているだけの輝はふと何かを思いついて、誠に耳打ちをした。

「協力者になってもらうことになるかもね。大丈夫?」
「私は大丈夫」
「企画部で話をしてみるよ。下手すると特別賞与でるぐらいの企画だから」
「はい」

 輝が提案したのは、今梨々華が告白したような、『子供の叫び』を記事なりにするサイトだ。

「どうしたの?」
「え、えーっと、梨々華お姉さんが今話したことを記事にしてみたらどうかな、って。育児に悩む親なら、生の子供声って興味あるんじゃないかなぁって」
「確かに、その方が説得力出るよね」
「そう、だから特別賞与の可能性もある企画なのよ。ただ、正直に話をしてくれるかが問題かな?だから、インタビュアーとして、紹介者として、輝さんは協力してもらことになるかもねって」

 椅子に座った輝は、美優希の顔色をうかがう。当の美優希はあっけらかんとしている。
 企画系は漏れて先手を打たれる方がまずい。それで自分たちに関係ないのならどうでもよく、協力を頼まれた時に言ってくれればそれでいい。

「あ、君たちの知名度次第だと、全員に協力してもらうかもね。会社のチャンネルで公開する動画の企画の一環として」

 と、誠は言っているが、そこまで考えられたら天才と言ってもいい。

「すぐじゃないし、いいんじゃないかな?やりたいことやらせてもらうんだから、協力はしないと」
「そうだね。さて、休憩は終わりにして、続きをやるよ」

 こうして、誠によって四人はネットリテラシーを叩き込まれた。
 翌日、自己紹介動画がアップロードされて、その反応からこれ以上のプロモーションは必要ないと一義は判断、週末に初配信を行う事になった。
 土曜日の朝から四人は出社し、機材の確認が行われる。
 三人はチャンネルを分けるのではなく、プロゲーミング部として、ジャストライフゲーミングと言うチャンネルで行う。その為、配信枠は一つで、防音個室とは別のパソコンで誠が音声と映像をミックスして配信をコントロールする。
 この時、梨々華はこの別のパソコンを管理するので、誠の傍でコントロールの仕方を必死に習っている。今日からいきなり練習風景を見せるので、当然一義も参加している。
 練習風景は実際にゲームをしながらで、基礎練習の風景は見せない。
 予告の予約枠なので何人か待機している人がいる。

「待機人数いるってやばくない?」
「それだけ期待されているんだよ。大丈夫、テスト配信もばっちりだったし、君たちならやれるよ」

 そうして配信開始のカウントダウン動画を挟んで配信が開始された。
 緊張しつつの三人に、いつも通りの一義、何とか一義のおかげでゲームを始めるところまでこぎつけた。
 今回練習の場にしたのは、PSBGと言う、八キロ四方のオープンマップで、百人が生き残りをかけて戦い、最後の一人、若しくは最後の一チームになれば、誤訳のドン勝が表示されるのが話題で大流行中のゲームだ。
 元は『Winner Winner Chicken Dinner』で、本来なら『勝った、勝った、今夜は勝丼だ』と表示される。
 緊張している三人は初めから実力が出せず、生き残るのは一義ばかり。マッチングレートがあってないので、一義が無双しまくるところがどんどん流れた。
 プロとして名が通りつつある隼人が、配信にやって来てチャットを通して一義と話したことで、ゲーム内ネームのCorsairが本人と確定し、配信が拡散されて一義にとっては懐かしい面々と話をして、初配信で同時視聴者数十万人を記録した。
 時間が経てば、三人の緊張が取れていつも通り動けるようになった。これで一義の指導の下に練習をする三人と言う、本来見せたかったものが見せられた。
 三人はプロ顔負けの実力を一義の指示のもとに見せる事ができ、SNSではトレンドになるなどして、午前中の三時間の初配信は大成功を収めたのだった。

「収益化の条件達成しちゃいましたね」
「隼人くんはプロモーションの一部なんだが、サンドバッグの面々は想定外だった」

 三人が配信の感想を言い合っている後ろで、一義と誠はうれしい悲鳴を上げている。

「税金・・・」

 そうつぶやいたのが分かった美優希は嬉しくてしょうがなかった。美優希が配信を言い出した理由は、あこがれだけが理由ではない。それで稼げたならば、そのお金を一義に上げたかったからである。
 感謝しているからこそ早くお返しがしたかった美優希、これで返す事ができる、その一歩が踏み出せた事が嬉しい。三人の中で一番の笑顔をしている。

「じゃ、お昼ごはん食べに行こうか」

 誠のミニバンの運転で焼肉店に向かい、食べ放題で食事をとった六人は、会社に戻るとお菓子作りの動画の撮影だ。
 先行してASMR風にとられた動画に、春香が先生役として、三人は生徒役として声を付けるのである。
 高齢初妊娠で周りから行動制限を食らっている春香は、出産まで雇っている家政婦に送り迎えしてもらい、到着は十三時を過ぎていた。事の重大性は耳に胼胝たこができるほど医者に聞かされて
 動画を見ながらしゃべるだけだが、これも配信のように、それぞれ防音個室に入って、配信用のミキシングパソコンで動画撮影を行う。
 初回だが、編集に必要な動画は動画作成部が指定しているので、それを撮るだけ、思ったよりもスムーズに撮影は済んだ。
 撮影が終了し、誠がデータを社内サーバーにアップロード、終わったのは三時過ぎで、休憩がてらおやつの時間だ。
 おやつは先行して撮影した動画で作ったお菓子、今日はクッキーだ。

「んー、おいしいー」
「やっぱ美優希ちゃんずるい、ってか、輝ちゃんも野々華もずるい」

 春香の結婚を機に梨々華は春香の作るお菓子を食べる機会がなくなり、輝と野々華はその逆と言う事になっている。しかも梨々華は起こ図界から自分でお金を払っており、輝も野々華もお金は一切払っていない。
 なので、梨々華がこれを言い出すのは当然であろう。そもそも、パティシエールの夢は春香が見せたものであり、梨々華はご機嫌斜めと言ったところだ。

「これからは食べられるんだからいいじゃない?それと、次の撮影からは手伝ってもらおうと思ってるんだけど、どう?」
「いいんですか!」
「その方が嬉しいわ、ここだけの話、作ってる女の子がわりとポンコツなのよね」

 単純に女の子の要領が悪いと言うだけなのだが、プロである春香の目から見てそれはポンコツに映る。

「まぁ、大学生になって一人暮らしするようになってから、しっかり料理するようになった子だから、俺から見ると春香に振り回されてるだけに映るんだがな」
「プロのプライドってやつ?」
「いや、弟子を持ったことがないプロってやつ」

 できない子を知らないと言うわけだが、一義以外の全員が首を傾げたに過ぎなかった。
 これは次の動画撮影ですぐに梨々華が気付いた。

「社長が言ったのはこれかぁ」
「どうしたの」
「春香さんが教えるの下手です」

 春香の笑顔はぴしゃりと固まり、傍で見ている一義はこらえきれずに笑い出した。

「何で笑うのよ!」

 どんなに抗議した所で分は一義にある。

「やはり変わらんな。昔から教えるのが下手ところは」
「ちょっと・・・もしかして美優希も思ってる?」
「ごめんなさい・・・」

 今は宿題なり勉強なりを春香に見てもらっている美優希も例外とは言い難い。

「それはともかく、梨々華ちゃんはストレート過ぎだね。オブラートに包むことは覚えないと、いらない衝突を起こす」
「はーい」
「春香も、料理できない事を前提に教える事、何でもかんでもできる事が前提で教えるからポンコツに見えるんだ」
「はい」
「何がどう分からなくてできないのか、何がどこまでできているのか、教える側と教わる側の両者が把握する必要がある。やらないとこうなると言うわけだ」

 この件を境に教育マニュアルを作成することとなった。


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