私プロゲーマーに成ります!~FPS女子の軌跡~

紫隈嘉威(Σ・Χ)

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一章

配信に向けて・下

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 明日行う自己紹介動画のカンペやらを使って、美優希と野々華は輝の一人称を変える練習を手伝っている横で、一義はキャラクターの手直しをしている。
 それを覗き込むはそれぞれの母親だ。

「改めて見るとすごいわね」
「私も自分の技術に自信はあるけれど、この手直しの仕方はできません」
「昔からこうだけど、どうやってこの技術を身に付けたのよ」
「画風のトレースで特徴を捉える練習をして、時短の試行錯誤の結果だな」

 一義はこれまでともかく努力し続けた。その最上級の結果が出るようになったのは、複数のブログであった。副業が副業にならなくなり、優里の仕事を理由に会社を辞め、税金の支払いがきつくなり起業して今に至るのだ。

「貴方らしいわ」

 手直しが終わる頃、ようやく梨々華が到着した。

「すいません、遅くなりました」
「全く、学校優先でいいって言っただろう?とりあえず休憩しようか」

 膝に手を置いてまで息をつく梨々華の為に、全員で休憩を取る。

「すいません、ジュースまで奢ってもらって」
「構わないよ。それより、髪色戻したんだね」
「はい、その方がいいと思いまして」

 金髪に染めていたのだが、ここでアルバイトをするにあたって戻したのだ。それくらいに、梨々華は根が真面目で、野々華の為にマネージャーになるくらいには優しい。

「似合ってたし、戻さなくて良かったのに」
「会社の品位に関わるから戻せと父に言われて、それは確かにと思いまして」
「えっと・・・逆なんだが」
「へ?」

 一義は営業部であってもとやかく言うことはしない。それは、社訓でもある『個は武器』に由来する。

「これはね、うちの会社の仕事において、個人の能力と経験以上の武器は存在しないからだ。その武器を最大限発揮してほしいからこそ、うちは個人を尊重する」
「でも、社会の目はありますよね」
「それは間違いない。ある時、お母さんがおしゃれにならなかったかい?」
「なった。なりました。すごくきれいになって、似合ってて、でもちゃんとお母さんでした」

 そう告白されて真純は目を逸らした。
 会社にはヘアアーティスト、ネイリスト、スタイリスト、ジムトレーナーが一人ずつライティング部門にいる。社員の恰好はこの四人によって、実質的に管理されている。

「個人では所詮浅知恵だ。もっとこうすれば、が存在して、それを知っているのがプロだ。この間見学した時、思わなかったのかい?片目に派手でも、ちゃんと相対すると、落ち着いて見えるような」
「確かにおられました。金髪でもあんなに落ち着いて見えるんだって。白髪の人も素敵なおじ様って感じで、お父さんになってくれないか憧れました」
「あの時合わせた金髪の人はライティング一課の課長、白髪の叔父様は経理部の部長だよ」
「課長と、部長・・・」

 開いた口が塞がらない梨々華、これは真純や涼子、春香と初めての時と同じ反応をした。

「だから、金髪にしたいならしていいよ。アルバイトだろうとうちの社員だから、ライティング部門の人に相談してみな。希望と社会の目を両立した提案をしてくれるよ。しかもただでね」
「もし相談したいなら、私に言いなさい。部下だから、すぐに会わせられる」
「できるなら今すぐがいい!」

 と言って梨々華は真純を困らせている。
 今日はやることがあるからと、梨々華を落ち着かせ、美優希たちに伝えたことを教えて着替えさせた。

「これで、今日からはジャストライフゲーミングとして動き出す。美優希、輝ちゃん、野々華ちゃん、配信しながらの練習、これが君たちの仕事だ」
「「「はい」」」
「じゃ、新井部長、三人の環境セッティングを」
「かしこまりました。三人共、こっちに」

 誠が三人を読んで、防音個室の使い方をレクチャーする。

「次は梨々華ちゃん、君の仕事についてだ。マネージャーとしての当面の仕事は、三人の精神的フォロー、メンタルケアと配信のフォローが仕事だ。メンタルケアに関しては、後日産業医と合わせるから、ノウハウを学んでくれ」
「分かりました」
「あと、会社にいる時でいいから、FPSゲームについて調べて知識を付けてくれ。知識がないと逆効果になる場合もある。その延長で、人気が出そうなゲーム、三人に合いそうなゲームを捜してほしい。いずれ企画を考えてプロデュースできるようにね」
「そこまでやるんですか?」
「何、時間はあるからゆっくり就業時間にやればいい。君にはそれだけの実力があると、君の配信を見て思ったからね」

 梨々華の顔は真っ赤に染まりつつ、その目に涙を溜めた。配信を見られた恥ずかしさと、能力を見出されて道を示された嬉しさだ。

「約束を守ってくれれば配信は続けていい。君にはプロデューサーとしての能力がある。無ければ言わない」
「梨々華、片岡社長の目は確かよ。あなたの夢だった仕事とは違うけれどね」
「うん!」

 笑みを浮かべて梨々華は真純に頷いた。

「ん?梨々華ちゃんは何になりたかったんだい?」
「パティシエールです。カフェツツミで食べたパフェがおいしくて」

 一義は春香と顔を合わせて頷きあい、その気がないのか確かめることにした。

「なぁ、梨々華ちゃん、ここにパティシエールだった人がいるんだ。しかも、カフェツツミでパフェを作っていた」
「え」
「私よ。旧姓は津々見つつみ春香、カフェツツミは伯父、私のお父さんのお兄さんがやっているカフェなの」
「ほんとですか!」

 梨々華は驚きのあまり椅子から立ち上がった。

「美優希たちにお菓子作りを教えるつもりなの。貴方も参加する?」
「っ・・・」

 梨々華はその瞬間、父親浩司の罵声がフラッシュバックしていた。それに気づいた春香は梨々華を抱きしめた。

「辛かったわね。でも、もう大丈夫、貴方が本気になれるのなら、私が貴方をパティシエールにしてあげるわ」
「でもっ、マネー、ジャー・・・」
「兼業でもいいのよ。それに、貴方達が食べるおやつとして作れば、売り物を作って修行するより無駄がないから、こっちもイライラしないで教えられるわ。それこそ、知りたいでしょ?太りにくいお菓子のメニュー」

 せこいと言う言葉を飲み込んだ一義は、顔を上げた梨々華に話しかけた。

「俺は本人が成りたいものを無視してまでやらせようとは思わない。どの口が君の父親を怒鳴りつけたんだと言う話だからな」
「じゃ、お父さんが変わったのは」
「そうよ、片岡社長に直接いちゃもん付けてね、わたしと片岡社長でこってり絞って、家から追い出したの」

 梨々華は一義の顔をじっと見つめ、意を決した。

「私は三人のプロデュースを優先します」
「本当にいいのかい?」
「もう心は折れています」

 この言葉には全員が頭を抱えた。

「だから、お菓子作りを覚えてお父さんには一生後悔してもらいます」

 更に付け加えた言葉に一義は悪寒を覚えた。梨々華はお菓子を食べてもらうたびに、恨み辛みを言うつもりなのだ。

「それに、自分が見下す職業で娘が二人とも成功したら、アイドルもマネージャーも、あらゆるプロ選手も、アルバイトも、自分の仕事、公務員、教員こそ至上。社長みたいなお父さんだったら、美優希ちゃんのようにいつまでもパパと呼んだのに」
「梨々華、野々華も、もうあなたたちは限界なのね」

 真純は二人に問いかけたように見えたが、顔を見ればそれが決意だとわかった。

「ごめんなさい。もっと早く、決断すべきだったわね」

 梨々華と野々華を抱きしめ、真純は部屋から出て行った。

「梨々華ちゃん、野々華ちゃん、今日はうちの家に泊まりなさい。問題の当事者は君たちだけど、原因は夫婦間のすれ違いでしかない。家に帰っても辛い思いをするだけだ」

 二人が頷くのを確認して言葉を続ける。

「いいかい、俺から見て君たちは被害者だ。だけど、他人から見た時、親の言う事を聞かない愚か者になる。これは視点や立場の問題だからまだ分からないと思う。当事者でもあるからね」
「「はい」」
「君たちのお母さんがどんな選択をしようと、浩司さんが君たちのお父さんであると言う事実は変わらない。だから、受け入れるしかない。この際だ。事実に対して、美優希はどう思ってるの?優里の事、俺の事、春香の事」
「私は・・・優里さんの事は絶対にお母さんとは呼ばない。事実を認めないのではなくて、事実と関係性は別次元の話だと思ってるから。それと同じで、私はパパママ呼びを絶対に止めない。私なりの親愛の証だから。他人がどう呼ぼうと、どう思うと、私には関係ないし」

 それとね、と美優希は言葉を続ける。

「私は今どうすべきかをいつも考えてる。だから、パパにもママにも、隠し事はしないし、何でもちゃんと話を聞いてくれるから、何でもちゃんと話す。嫌なら嫌、って言うし、お礼もちゃんと言う。会社の事は、先に話されるとは思ってなかったけど」
「すまん」
「ううん、いいの、大丈夫。進路の話をする時にするから、周りに黙ってて、って言ってたし、話をするまでにしなきゃいけない事を調べるつもりだったの。事情が複雑だから、パパは認めてくれるかもしれないけど、周りが認めてくれないのなら意味がない立場だし」

 周りを認めさせるために、一義を認めさせたと言う努力が必要だと思っていたのだ。

「私ね、真純さんが一番可哀想だな、って思った。だって、二人と旦那さんを天秤にかけなきゃいけなくなってたから。真純さんが決断できなかった理由は、旦那さんへの愛が冷めてなくて、子供には両親が必要だと思ってる。もしくはそのどちらか。パパがそうだったし」

 目を向けられた一義は野々華と梨々華に頷いて見せる。

「でも、自業自得だとも思ってる。だって、浩司さんを変えられる力を真純さんは持ってるんだもん。大人なのにそれをもっと早くしなかったから。だからこうなってるし。二人はちゃんと真純さんと話をした?コミュニケーション?だっけ、とってる?」

 二人は顔を伏せってしまった。

「じゃ、これから取ろう?今が、今からどうするのか、過去は学ぶためのもの。輝もだよ。家族でさえ、こうなっちゃう。だから、チームだからこそちゃんと聞いて、ちゃんと言い合おう?じゃないと、チームとしていつか崩壊する。私はそれが嫌」
「「「わかった」」」

 美優希の訴えに、三人は頷きあいながら答えた。

「あと、辛いかもしれないけど、立ち向かうことも大事だと思うよ。逃げることも大事だけど、立ち向かうことも。家族の事なのに、浩司さんそっちのけで、今度は野々華ちゃんと梨々華お姉さんがそっちのけ、私は真純さんが間違った選択をし続けているように見える」
「「!」」
「確かに美優希の言うとおりだ。司法では二人に意思表示するだけの一定の権限がある。いいよ、行って来て。今日の勤務記録は俺が責任をもって幹部連中とやっておくからね」
「私が車を出すから行きましょう。自転車は私が後で届けます」

 涼子と一緒に二人は出て行き、部屋には輝と美優希、一義、春香、誠が残された。

「このタイミングで分かって本当に良かったよ」

 深く座り直した一義は一息ついた。

「全くですね・・・。さて、今日俺が君たちの対応したんだけど、本当は俺じゃないんだよね」

 本来ならば安田アレクシア、フランス名アレクシア・フォン・ブランがプロゲーミング部の部長に就任するはずなのだが、留学中の娘、クリステルが交通事故に遭ってしまい、看病の為にいないのである。誠はその代わりと言うわけだ。
 アレクシアは春香の修行時代の友達で、春香をアニメ沼にはめ込んだ張本人だ。
 アレクシアは翻訳部で雇っているリモートワーカーで、今年の年末にクリステルが帰国するので、一月に社宅へと引っ越しを予定している。なので、引っ越しの調整や社宅の内見で、今日は来ているはずだったわけだ。
 本人には家族を第一に、精神的にも一番つらいのはクリステルなので、会社で旅費は出すからさっさと行ってこいと言って送り出している。
 美優希はアレクシアの事を知っており、クリステルもゲーム仲間として、通話しながら遊んでいたほどだ。勿論、その関係で輝も野々華もクリステルの事もアレクシアの事も知っている。

「野々花さんと梨々華さんにはRINEでいいので伝えておいて。グループは明日作るので、まだ作らないでね。アレクシアさんが引っ越しするまでは、俺がフォローするからね」

 RINEはスマホユーザーを主なターゲットとした、チャットアプリで、ユーザー数は全世界で一位のユーザー数を誇る。

「「分かりました」」


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