14 / 76
一章
神様と雷
しおりを挟む学校が終わっていつものように会社に集まった四人、誕生日までは練習しない、と一義なしの配信である。
前からやってはいたが、MODを入れてやりたいと思っていた美優希の為に、JAVA版ディグクラフトを買ってもらい、その配信をしている。ディグクラフトは世界で最も売れたゲームであるほど名を馳せる、サンドボックスゲームであらゆるものが四角で表現される。
ディグクラフトには俗に統合版とJAVA版と言うエディションが存在し、どちらもマルチプレイが可能だが、クロスプラットフォームに対応する統合版と、MODが動作可能なJAVA版と言う特徴がある。
MODとは有志が作成する拡張機能の事を指し、手順を踏むことでゲーム性がほぼ無限に拡張されていく。
「投げ銭ありがとー」
裏でアレクシアが同時通訳をしている所為で、同時視聴数は百万人に膨らんでおり、ゲームどころではない。
その額に青ざめる梨々華と、頭を抱える一義、開始一時間で投げ銭機能を中止させ、たった一日で一千万越えの投げ銭を稼ぎ出してしまった。
配信を終えて、個室から出てきた三人もドン引きしているが、アレクシアはさらに気合を入れている。
SNSでは投げ銭機能の中止に非難轟々で、こんなうれしい炎上は他にないと、感謝の声明をすぐに出した。
さて、後は帰るだけ、声明のおかげで上手い事美優希だけを引き止める事ができ、一義は美優希を車に乗せて走らせた。
クリステルが来てからは、梨々華以外は車で送り迎えしてもらっており、しばらく自転車に乗っていない。
「ねぇ、何処に向かってるの?」
「ん?内緒」
帰る方向が違うことに気付いた美優希は、一義に問うが分からず仕舞いだ。
車が止まったのはきれいな平屋の一軒家、生け垣に囲まれて目隠しがされ、モダンながら落ち着いた雰囲気が漂っている。
「え、ここ・・・」
「新しい我が家だよ。驚かせたくて隠してた」
「そうだったの!」
一見すると木造に見えるが、ばっちりSRC造で頑丈かつ防音で、機密性に優れている。
「さ、中でママが待ってるから、行ってきなさい」
「え、やだ、パパと一緒に行く」
「ガレージに車を入れるだけだから」
「ダメ、一緒」
「はい、はい」
こうなると頑固なので、もう一度美優希を車に乗せて、ガレージに車を入れた。
「シャッターは自動なんだね」
「門もだけどね」
車を降りてガレージから廊下のような玄関ホールを介し、キッチンダイニングに入った時だった。
「キャッ」
クラッカーが鳴り響いて、美優希にテープリボンが降りかかった。
「「「お誕生日おめでとう!」」」
美優希が頭を上げた先にいたのは、クラッカーを持った輝と野々華、梨々華、クリステル、岡田夫妻に朝野夫妻、安田夫妻だった。春香はダイニングの椅子に座って微笑んでいる。
「え、教頭先生?なんで?」
アレクシアの夫、安田典昭は小学校の時の教頭先生である。十歳も年下のアレクシアに射止められて(実際は嵌められて)結婚、元の住まいは同じ県内だが、校区が違うのでクリステルと会ったことはない。
その事実をアレクシアから聞いた美優希は開いた口が塞がらない。
「あ、あの、ごめんなさい」
失礼だと言う事に気付いて謝る美優希だが、典昭はそれを笑い飛ばした。
「皆似たような反応をするんだからいいんだよ。何、叫ばなかっただけ上出来だから」
リボンテープを取ってあげながら、典昭は更に続ける。
「シアに嵌められたんだよ」
「嵌められた?」
「私のアピールに、年齢を理由になびかないから実力行使したの」
「えぇ・・・」
美優希本日二回目のドン引きである。
お酒が入ると途端に脇が甘くなる典昭は、アレクシアに浴びるほど飲まされて、ホテルで一晩、わざと朝まで下着のまま過ごし、責任を取らせたと言うわけだ。
そんな衝撃の事実を聞きつつ、今が幸せならいいんじゃないかと、考えるのを放棄した。
「さすが社長さんです。家事動線が完璧です!」
「え、そうなの?!」
「まずは家を見て回ろうか」
「うん」
約二十五畳のLDKはアイランドキッチンを備え、パントリーまでついている。キッチン裏は脱衣室兼洗面所、三畳の広々浴室にはスーパーワイド浴槽を備え、ランドリールームまである。
ランドリールームはウォークインクローゼットにもつながっており、水回りが集まっているので、アレクシアが家事動線完璧と言うのも無理はない。この設計は社宅の最上階を参考に作られている。
「お風呂ひろー」
「建築士に頑張ってもらったよ」
規格外なのでお風呂はかなり高くついている。普通は二坪、二畳程度だ。
寝室はウォークインクローゼット付きの八畳間で、ダブルベッドを二つくっつけ、座椅子とローデスクが二つ置いてある。
「これだったら、四人で寝れるね」
「ああ」
約六畳間の子供部屋は二つで、これまで四畳半だった自室が広くなると分かれば美優希は大喜びだ。これまでベッドと机が一体型だったから、四畳半でも広く使えていたのだが、これからは別にしても広々と使える。
「ベッドがフカフカ気持ちいい!」
二段のままでは耐荷重でベッドマットに厚い物を選べなかったが、別にしたのでこれからは違う。
「そうだ、私の荷物は誰が運んだの?」
「女性社員が手伝ってくれたんだよ。中谷課長が社員に声をかけて手伝ってくれたんだ」
「中谷さん・・・あれ?結婚したから苗字変わったんじゃないの?」
「会社では区別の為に旧姓のままなんだ。結構多いよ。覚えてもらうのがめんどくさいって人も多いし」
「ふーん」
最後はお待ちかねと言ってもいい部屋だろう。
「わ、二重扉、なんで?」
「開ければわかるよ」
約十畳のシアタールームとしての防音室、勿論、使用用途はパソコン部屋である。
「パソコン部屋だー」
「高度な防音室だから、大声出しても迷惑にならないよ」
「じゃぁ、思いっ切り叫んでもいいんだ!」
「全力で遊べるよ」
スクリーンとプロジェクターに、7.1chのスピーカーシステムまで備え付けられているので、当然シアタールームとしても使用可能だ。
終始大喜びの美優希だが、一義は真純と涼子に耳打ちされてゾッとした。
「これでこそ社長よ。少しは自覚しなさい」
「そうですよ。片岡社長程儲けている世の中の社長さんはもっとすごいんですからね」
「はいはい」
そんな真純と涼子だが、両夫はというと、不甲斐なくて消沈している。
アレクシアは目を輝かせているだけだが、典昭はと言うと、ブツブツ何かをつぶやいている。
「教頭先生?どうしたの?」
「ん?いやな。片岡社長、これはRC造ですか?」
「ええ、厳密にはSRCですが」
そう、正確に言えばSRC造で鉄筋コンクリート造である。RC造はコンクリート造、S造は鉄骨造、それぞれの良さを併せ持ったのがSRC造だ。
欠点はともかく重いので、地盤改良まで施されており、工期はだいぶ長かった。
「うむ、木造でガレージを一台分にすると、安くなりそうですな」
「まぁ、それは間違いないですよ。実際にそう言われましたが、うちは防音性が欲しかったので。キッチン横のローソファーの裏のここは、割とデッドスペースですし」
「もし建てたくなった時は相談してもよろしいですかな?」
「もちろんですよ」
そんな話をしつつ、寝室から机を移動させて座布団を出し、全員で鍋を囲む。
「美優希の誕生日を祝って、カンパーイ」
「「「カンパーイ」」」
和気あいあいと全員の箸が進んでしばらく、美優希は春香にとある疑問をぶつけた。
「ねぇ、ママ、赤ちゃんもうすぐだよね?」
「そうよ」
「名前はもう考えてあるの」
「考えてあるわよ。美春、美優希のみの文字とママのはるの文字を取って美春よ」
「美春、みはる・・・え、え」
一義の方を見た美優希は頷いて見せられて驚きを隠せない。
「うそでしょ・・・」
「美優希ちゃん、どうしたの?」
春香と一義はニコニコで、他は分かっていない様子、皆を代表するように梨々華が声をかけた。
「わた、わたし」
「?」
「美優希は俺が春香と再婚して半年したくらいに、妹が欲しいって言ったんだよ」
美優希は嬉しそうに何度も頷いた。
真純は口を押えてせき込み気遣う浩司、涼子と龍也は箸を落として、アレクシアは『まぁまぁ』と、典昭は『美優希ちゃんらしい』と夫婦でニコニコ、輝は『ほんとだったの』と言い、野々華は頭を抱え、梨々華は美優希の手とって『やったね』と言っている。
クリステルは全く知らない事できょとんとしている。
事の重大性が分かっていないのは梨々華なのだが、野々華に説明されてもこう言い放った。
「私は美優希ちゃんのその勇気を、真っ先に褒めてあげるのが筋だと思うけど。事情が事情なら尚更じゃない?」
「いや、あなたね」
「それだけの信頼と絆がある裏返しじゃないかな?こんな事情を抱えた子がそんなこと言う?普通は言わないよ?子供を嘗めたらダメだよ。お母さんが思っている以上に、ちゃんと見てるし、感じているんだからね?」
説教しようとした真純は、逆に説教されるとは思っておらず、狼狽えてしまった。
「社長夫妻だって相当悩んだんじゃないかな?たぶんだけど、再婚した時に子供を諦めていたんじゃないかな?」
一義も春香も頷いて見せた。
「ほらね!ってことは、美優希ちゃんがそう言ったときに、ちゃんと向かい合って話をしてるはず」
「そこまで分かるのか」
「いつもの社長から、なんとなくですけどね。それに、美優希ちゃん泣いてるけど、この顔に不安があるように見える?」
「や、ちょ」
両手で顔を上げさせられた美優希は恥ずかしさで耳まで真っ赤にしている。
「不安があるなら社長も春香さんも、あんなニコニコの優しい笑顔で、この場で返答しないでしょうが。大体、妊娠してるの隠してないし」
「梨々華ちゃん、もうそこまででいいよ」
「いいえ、ダメです。周りは事情をくみ取ってあげる必要はありますけど、本人たち以上に重く受け止めたら、それが障害になって本人たちが前に進めなくなるんです。私だって伊達に高校生活過ごしてません。今のクラス、ほんとにめんどくさいんですから」
これについては浩司が同意を示した。
同じ学校にいるわけではないが、噂は流れてくるのである。また、教師だから知り得る情報と言うのもある。気になって調べたのだろうが。
「それはそれだ。天に任せるしかない希望が叶ったんだ。美優希、ちゃんと妹の世話をするんだぞ?」
「うん!」
涙ながらに、今日一番の笑顔を見せたのだった。
梨々華も真純が謝ったことでその矛を収めた。これで、怒らせてはいけない人間がはっきりとしただろう。
「なんか、梨々華ちゃんが貴方の娘みたいね」
「これからの仕事に多面的な見方と立場ができるように言っただけなんだが。まぁ、父親が反面教師なんだろうよ。美優希も、できるようになれよ。なんとなくが一番危ない仕事だからな」
「うん、わかった」
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる