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二章
制覇
しおりを挟む家族に彼氏を紹介して翌日、プライベートの恰好のまま、会場で予選二日目を眺める四人とその彼氏、その目はあるチームに向かっていた。
ムーンシスターズ、R5Sから撤退し、隼人はIPEX部門へ移籍、一義が仕込んだ技術と戦術、戦略に磨きがかかっており、予選で圧倒的強さを放っていた。
「動きがかみ合わない時があるみたいだけど」
「今年は気を引き締めないとダメみたいね」
冷静に分析する美優希とクリステル、複雑な思いをしているのは信也だろう。兄妹そろってプロなのだから仕方がない。
「お兄ちゃんと私、どっちが強そう?」
「これだけじゃ何とも言えないけど、勝つのは君たちだと思うよ。完成しているのはお兄さんだけに見える」
この一言は翌日の決勝で証明された。
一日通して行われた十戦、その中で隼人たちがチャンピオンを取れたのは一度だけ、残りはすべて美優希たちがチャンピオンを掻っ攫った。
隼人たちがとったチャンピオンは、ポジション取りが完璧で、多数に絡まれて輝が落とされていた美優希たちに人数有利で何とか取れたものだ。それこそ、最終局面に美優希一人に翻弄されて、人数有利を覆されかねなかった程だった。
ポイントではジャストライフゲーミングの一人勝ち、これで全日本プロゲーミング選手権四連覇を成し遂げた。
今年の日本選手権は、最終日にエキシビションマッチが各ゲームで開催された。
一義と戦いたいと言ったiHalとRASTが来日しており、IPEXに実装された一パーティー同士のやり合いを利用して、ジャストライフゲーミングコーチ陣対、美優希、iHal、RASTのツーバイスリーが目玉となった。
IPEXクイーンズを育て上げたコーチ陣の実力を世界のトップが確かめる、試合の様子はメディアによって拡散された。
結果から言えばコーチ陣の、一義とクリステルの負けだが、解説が言うとおりに試合は泥沼で、天才オーダー師と呼ばれたiHalの起点づくりを悉く潰し、互いにエイム勝負しかないと言う試合だった。
更に、いつ間に練習したのか、プロ張りのエイム力をクリステルが手に入れており、クリステル自身もプロに成ることを進められたほど、簡単に勝たせてもらえなかったのである。
「私には、美優希たちに一生かけるだけの恩があるから、だから強くなれるんですよ?」
そう言って、iHalとRASTの誘いを断った。
コーチ陣の強さに納得した二人、自分たちも今後どうすべきなのか、考えついているようである。
これで、大会の第一出資者の社長が強い、Corsair氏は健在だとSNSで話題になっている。
夏休みが終了して翌月、アジア大会、今年はインドでの開催となった。
相変わらずクレイジーラグーンとの激しいポイント争い、これに続くのがオーストラリアのエクシオスと隼人が所属するムーンシスターズ、最終戦開始の時点で、一位はクレイジーラグーン、三ポイント差でジャストライフゲーミング、そこから二十ポイント差でエクシオスが続き、エクシオスと一ポイント差でムーンシスターズとなっている。
早めにクレイジーラグーンとジャストライフゲーミングが落ちたとしても、エクシオスとムーンシスターズはチャンピオンを取った上で多めのキルポイントがなければ、優勝は難しい。
初動をかぶせが来ることを予測していたクレイジーラグーンとジャストライフゲーミングは、ランドマークを外して建物が密集する地帯へ降りた事で、初動で優勝争いをする羽目になった。
元々ランドマークになっていたチームはこのとばっちりを受けて、初動で落とされる羽目に、落ちたチームがクレイジーラグーンに喧嘩を売ってしまったが為に、ジャストライフゲーミングは難なくクレイジーラグーンを落とした。
安全地帯に向かう道すがら、他のチームを轢き殺し、その中にはエクシオスがいた為に、この時点で優勝と三位が決まったようなものとなっていた。
最終局面、ムーンシスターズは安全地帯の予測を外して、ポジション取りに失敗した上に、ジャストライフゲーミングによって円切りを食らい落とされてしまった。
それでもムーンシスターズは輝を落として、ジャストライフゲーミングを一枚落ちの状態にして、最終収縮でかなり苦しい状態に追い込まれた。
しかし、野々華のポータルによって、残りのチームの一人を安全地帯の外へ放り出し、残っていた三チームすべてが一枚落ちに、更にはキャラクターコントロールで戦闘を引き起こし、無敵状態を使って引いて回復、見事に漁夫の利を得てチャンピオンに輝いた。
野々華が生きて引いて来られたこと自体が奇跡だったが、戻って来られなくても、美優希一人で漁夫の利を得られるポジションだったので、チームとしてもあまり気にしていなかった。
むしろ、美優希の機転を正確にこなせた野々華は、特別報酬を出すくらいには褒められた。
「お前の彼女スゲーな」
「ええ、すごいんですよ」
大会の様子をバイト先で見守っていた啓、バイト先の店長や先輩に、羨ましがられている。
「本当に辞めるのか?」
「はい。あんな輝く彼女を支えてあげるのも、男ってもんでしょ?」
「違いない。今年いっぱいは頑張ってくれ、新しいバイトが来たらその時点でいいがな」
「分かりました」
アジア大会前、啓は美優希に以前言われた主夫の件を本気で話していた。
学業との兼ね合い上、練習に集中する時は出前を取るしかなく、家事もままならない。生活がだいぶ荒廃しようとしていた。
もうすでに、アパートは引き払って、美優希と同棲を始め、生活環境を整えるのがもっぱらの仕事となっている。
この点は野々華も同じだ。輝とクリステルはまだ同棲に至っていないが、あまりにも忙しい時は頼んでいる。
アジア大会が終わると、今度は世界大会だ。結果は優勝がジャストライフゲーミング、準優勝はクレイジーラグーン、三位は一ポイント差まで詰められていたが、ムーンシスターズがとった。
今年の世界大会はフランスで行われる。
TSMとジャストライフの共同主催となる世界大会前の公開オンラインスクリムを開催、優勝候補がひしめき合い、SNSでは優勝予測大会となっている。
前回のやり直し世界大会同様、接触制限が設けられるので、彼氏たちは画面の向こうで応援となる。
多くの人間が追放となっているので、かなり人が入れ替わっているのはアジア大会の時から感じていた。
前回とは違い、世界大会は予選二日、決勝二日の日程となり、各リージョンの一位と二位はシード選手として予選は免除となる。
ただ、会場内での選手の観戦は認められていない。その為、ホテルでのオンライン観戦だ。
美優希とクリステルが泊まる二人部屋に集まった四人は、ポイント票やキャラクターピックアップを分析、スクリムの分析データを基に、二日間作戦と言うよりは対策を練った。
決勝当日、日程は前回と同じ、午後から五戦の二日間、計十戦である。
一戦目、対策がかみ合わずに、中盤で落ちてしまいキルポイントのみ、二戦目はポジション取りに悉く成功し、多めのキルポイントとチャンピオンを取れた。
三戦目、初動かぶせを受けるが難なくはじき返し、逆にTSMが弾き返せず、最終収縮でクレイジーラグーンとの一騎打ちを制してチャンピオンを取れた。
この時点でポイントランキング一位に躍り出ると、四戦目、五戦目はチャンピオンを明け渡すことになるがどちらも二位、キルポイントをそこそこ稼いでいたので、一位を死守する形で一日目を終えた。
二日目一戦目、初動を三チームにかぶせられる珍事が発生、野々華と輝を落とされてしまうがポイントと言う養分に変える事ができた上に、二人の蘇生に成功、安全地帯の移動も楽に行えて最終局面まで強いポジションを死守、チャンピオンを取れた。
二戦目は最終局面まで戦闘が起こらずアイテムに苦労し、クレイジーラグーンのトラップ型のキャラクターに苦しめられ、移動のアルティメットスキルを持つキャラクターを有するエクシオスに強襲を受けて、四位で終わった。
三戦目、一戦目に初動をかぶせて来た三チームがTSMに初動をかぶせたのを見て、更に自分たちもかぶせてTSMを追い落とす。中盤にエクシオスが漁夫を狙った強襲を掛けているところをさらに漁夫、大量キルポイントを持ってチャンピオンを取った。
四戦目は二戦目同様最終局面まで戦闘が起こらないが、スナイパーライフルで横槍を入れてキルを奪い、投げもので戦闘を嗾けさせ、つぶし合いをさせてラスキルとアイテムだけをかっさらうのだが、クレイジーラグーンのトラップ型のキャラクターに苦しめられ二位だった。
五戦目、初動かぶせはなかったが、安全地帯に嫌われて、やむなく轢き殺しを敢行、野々華を落とされて蘇生もできず、一枚落ちで最終局面を迎える。
ロシアのGbEs、オーストラリアのエクシオスが共に一枚落ちで、エクシオスがTSMにちょっかいを掛けられるGbEsを強襲するも、着地の際に美優希が一枚落としたので返り討ちに遭い、TSMがGbEsに襲い掛かった。
すぐに美優希と輝も詰めて大混戦となり、チャンピオンはTSMが取った。二位はジャストライフゲーミング、三位はGbEsだ。
「さぁ、TSM大会二連覇となるか、IPEXクイーンズが返り咲くのか、はたまた、魔王率いるクレイジーラグーンが初優勝となるのか、それとも堅実な動きと上位を取り続けたGbEsの初優勝か、強襲でキルポイントを稼ぐエクシオスなのか」
MCの煽りが終わって発表されるポイント集計表、前回同様、四位までは下位から順に発表される。
「五位はエクシオス、クレイジーラグーン四位だ。さぁ、優勝はどこだ?!」
会場が暗転しめぐるサーチライト、サーチライトが止まったのは。
「返り咲いたぞ!IPEXクイーンズが帰ってきたー!ジャストライフゲーミングの優勝だー!」
二位はTSM、三位はGbEsとなった。
涙を流しながら抱き合って喜び合う美優希たち、日本を制し、アジアを制し、世界を制すこのニュースは、世界中を駆け巡った。
試合後インタビューを受けて、その後はパーティーだ。
「四人共、ドレスが似合うようになった、その内、俺もエスコートしなくて良くなるのか」
パーティーを楽しむ四人を傍目に眺め、一義はそんなことを漏らした。
「チームオーナーとして参加しないといけないんだから、旦那が参加できない時はあなたがやるのよ」
「それもそうか」
春香の突っ込みに納得せざるを得ない。
「美春は美優希といるといい子ね」
春香の言うように、美優希と一緒にいる美春は、美優希と手を繋いで我儘を言う事もせずに笑顔を見せている。
他のチームから話しかけられて、ちゃんと挨拶をして、元気を振り撒いているような様子だ。人見知りをするような質でもなく、人相の怖い人にもしり込みすることはない。
「アクティブな方じゃないし、美優希に怒られたくないんだろう。一緒にいる時間も限られてるから、離れたくないんだろうね」
「美春はシスコンと言うより環境の所為かしらね」
「美優希はばっちりシスコンみたいだがな」
「違いないわね」
美優希はうまい事、美春には触らせていない。少しでもニヤつくと威嚇する程だ。
仲のいい姉妹の様子を最後に今年の世界大会は幕を閉じた。
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