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三章
二度目
しおりを挟むアジア大会が終わり、美優希がリジェクターの評価を正確に行った事が知れ渡り、オンライン教室の問い合わせが十数件あった。もう既に今年の募集は終わっているのでパンフレットを送ったに過ぎない。
それよりも、大会後配信ではその見る目に対する投げ銭が、リジェクターの投げ銭を皮切りにひっきりなしに送られたことを問題視した。
リジェクターは『配信で言っていただけたおかげで自信が付きました。ありがとうございます』と、それだけだったのだが、限度額いっぱいの投げ銭を送った所為で、長いこと履歴が残り、来る人来る人送って行ったのである。
配信では感謝しきりだったが、美優希は配信後にリジェクターと連絡を取って、今後はしないように頼んだ。でないと、他のチームや選手の名前を出せなくなるからである。当然のごとく、リジェクターには投げ銭を返すことを公表した。
「ちゃんとその辺は教育してくださいよ」
「申し訳ありません。失念していました」
「野良連盟のオーナーと同じじゃないですか」
コンサルティングをしていた一義も、株式会社Non Rejectに行って説教するのだった。
そんな一幕はありつつの十月、世界大会はロシア、モスクワで行われる。
ヨーロッパ大会優勝を収めたGbEsと、二位のSCARSとおしゃべりしながら、美優希たちは予選を眺めていると、北米大会優勝したTSM、二位のNRGも加わってきた。
「十七歳?!」
「はい」
NRGに高校生プロが生まれており、しかも初出場らしい。
TSMのn1tr0ALがiHalの秘蔵っ子だったように、NRGにも秘蔵っ子がいたらしく、現役選手のSweetDreeが育てた、r0ckelと言う選手だ。
「若い」
「美優希がそれ言うの?」
「・・・確かに」
美優希のデビューは早生まれの為十六歳、現在の年齢は二十二歳、普通に若い。
とは言っても、こうして若い選手が現れるのは良い事だ。そうして話は若い選手をどうやって育てるのか、見つけてくる為のシステムで盛り上がった。
二日後、強豪犇く中、美優希たちは一日目の五戦、一度もチャンピオンを取れなかった。
しかし、一日目はポイント一位フィニッシュ、安定して二位や三位に入ったことで、順位ポイントを安定して取れたことにある。
二日目も同様と思いきや、美優希に不幸が降りかかる。
二戦目、なんと試合中にマウスが壊れてしまい、全く動かなくなってしまった。近くにいたジャッジにすぐさま報告すると、スルーされてしまった。
「おい、待てよ!なんでジャッジがスルーするんだよ!」
驚くほどの大きな声で、隣にいたSCARSのNendeが叫んだ。
この時、NendeはNRGのちょっかいで落ちてしまい、蘇生が間に合わず、他二人のバックアップをしていた。その為、美優希が必死にマウスが動かないと言っていることに気付いたのである。
「試合をストップできないので・・・」
「馬鹿野郎!ストップ案件だろうが!」
この騒ぎはNRGのジャッジによって運営に伝わり、試合がストップした。
万が一、試合中にHID(ヒューマンインタフェースデバイス)等にトラブルがあった場合、試合を止めてジャッジが確かめてから、即座に交換しなければならないことになっている。
更には不可解な点が浮かび上がった。
「ん?このマウス・・・」
何かに気付いたNendeは、普段Ryzer製デバイスを使う選手を多数呼んだ。
選手たちはNendeが言うように何か違うと声をそろえた。特にその蛇のロゴの光り方におかしさを感じるようだ。
TSMのジャッジがRyzerの社員を呼び行って、社員が分解までして確かめた。
「間違いなくイミテーションです。大会提供品には専用のシリアルナンバーが振られています。まず、それがありませんし、中に無線装置が仕込まれています」
その瞬間、ジャストライフゲーミングのジャッジは美優希を突き飛ばして逃げた。
しかし、すぐに警備員に袋叩きにされて御用に、会場外に連れ出された。
突き飛ばされた美優希は、啓がすぐに受け止めて事なきを得た。啓は騒ぎを聞きつけてすぐにやって来ていたのだ。
「美優希、大丈夫か?」
「う・・・」
美優希は啓の腕の中で震えており、運営は即座にこの日の全試合、ほかのゲームタイトルまで中止を宣言した。
控室に戻り、待機していた絵里奈によってカウンセリングを開始、また、運営は控室に催眠療法士を派遣し、共同で美優希の精神回復に努めた。
翌日、不機嫌な一義とIPEX開発陣に土下座をする大会運営陣の姿があった。
「ジャッジの入れ替わりも、ここまで見事だと」
ジャストライフゲーミングのジャッジは入れ替わっていたのだ。双子が。
「人権問題にもなるから、だからと言って双子を採用しない訳にもいかない」
起こってしまったことへの謝罪はもらっているので、これからどうするのかの会議である。
相手が日本人だと分かっているからなのか、四の五の言い訳せずにただ謝ってきた。一義もぐちぐちと愚痴を並べても仕方ないと思い、チームオーナーやゲームメーカーを集めて建設的に考えようと提案したのだ。
入れ替わった双子は生き別れており、性格や考え方は真逆になっていた。一日目のジャッジは双子だった事は知っているが、生きて何をしているのか知らず、二日目のジャッジは分かっていて犯行に及んだ。
一日目の夜、ジャッジは誘拐されており、二日目の朝の時点で入れ替わっていた。
遠隔操作可能なマウスに人の目を盗んで入れ替え、大事な場面で操作不能にしようとしたら、遠隔操作装置がマウスまで壊してしまったのだ。
「身分証までだもんなぁ」
これが、運営が見抜けなかった理由だ。
ジャッジは朝と試合前に本人確認が行われる。身分証と大会運営が発行する写真入りジャッジ証を確認する厳格さだ。
「生体認証は個人情報に関わるので」
例え双子であっても指紋は違うし、静脈も同じにはならない。
懸案事項が個人情報である。生体情報が流出してしまうと、知らぬ間に犯罪に巻き込まれて、実刑が確定しまいかねない。
「起こった事は、それが必要であるという事実です」
現状最も安全と言われている、静脈認証方式による本人確認を行う事が、この会議で決定し、急遽、その場で静脈認証によるセキュリティ構築可能な企業が募集された。
また、企業の審査が終わるまで、すべてのゲームタイトルにおいて大会をストップ、翌日には予選からのやり直しが決定した。なお、すべてのチームに対して、大会が終わり、帰国するまでの旅費を大会運営が負担する事となった。
今回の件に関して、なんとCoogleが企業をまとめ上げて名乗りを上げた。
自社のデータセンターに導入している静脈認証セキュリティ、開発企業とセキュリティ運用企業を引き連れてきたのである。
構築には一日あればよいと言う速さだ。
「美優希選手、ジャストライフゲーミング、株式会社ジャストライフに興味がないとは言いませんが、四年前も含め、優秀な人材を『女性だから、日本人だから』と言う理由で貶められるのは我慢ならない」
CoogleのCEO自らが直接顔を出して述べた言葉だ。
また、CEOは美優希に直接会って、その精神的な安定にも寄与してくれた。
「今回の件に関して、私達は正式にあなた方をバックアップする方針を固めました。大会セキュリティには万全を提供します。そしてスポンサーとして、その胸にCoogleの名を刻んでいただけませんか?」
顔を向けられた一義は美優希に頷いて見せ、美優希は泣きながらこう言った。
「ありがとうございます」
IT企業世界ナンバーワンのCoogleが、大会に賞金の寄付とジャストライフゲーミングとのスポンサー契約を結んだ。
誘拐されたジャッジが救い出されたニュースと一緒に、このニュースは世界を駆け巡った。
「私は負けない。私は引退すると個人的に決めている二十八になるまで戦い続ける」
記者会見で、堂々とそう宣言する美優希、事件当日の夜に、一義と春香に抱かれて泣きじゃなくったからこそ、その言葉は重かった。
事件から二週間、十月の終わり、世界大会の火蓋が再度切って落とされた。
まず、予選の結果に大きな変動はなかった。どのタイトルでも、上がるべくして上がってくるチームばかりだ。無論、事件の動揺によって一部は成績を残せなかった。
美優希の負けず嫌いは輝にも野々華にもうつってしまっており、ギラギラに光る眼を前にして、どのチームも声を掛けられなかった。
勝ちに貪欲になっているがいつも以上に冷静で、決勝が始まってから、いつも以上に堅実な動きをすると思えば、通り魔のようにあらゆるチームを轢き殺し、真正面からぶつかり合えば苛烈に殲滅する。
どのチームも、その変化についていけるようになったのは、二日目の三戦目であり、順位ポイント獲得を阻止できたが、時既に遅く、ポイント差を覆すことはできなかった。
試合後インタビューにて、四連覇目を祝福されたのだが、涙でインタビューにならず、急遽クリステルが代役に立った。
日本に戻ると、国内における年間賞金獲得ランキング、生涯賞金獲得ランキングが一位になった事を表彰された。これは一昨年の時点で決まっていたことだが、報道に留まっていただけだったのを、今回の事件を受けてわざと公式に表彰したのである。
また、ここぞとばかりに内閣府が動く。
まず、個人にe-sportsを牽引する国内屈指の選手として、国民栄誉賞、紫綬褒章、銀杯一個、勲六等単光旭日章を授与、ジャストライフゲーミングに国民栄誉賞、紫綬褒章を授与した。
更に、一義個人にはe-sports大会の創設者として国民栄誉賞、紫綬褒章、銀杯一個、勲六等単光旭日章を授与した。
表向きはそう言うに留まっているが、実際の所は事件を受けた女性の地位向上につながる姿勢を評価しており、勲章や褒章で社会的地位を確かなものにして、巻き込まれ難くする為のもである。
その為、総理大臣は確かに『事件に対する姿勢に感銘を受けた』と一言加えている。
記者会見も行われ、粛々と進みはしたのだが、一点だけ、総理大臣にも聞かれた事を再度質問された。
「なぜ、引退を二十八に決めているのでしょうか?」
記者が聞きたいのは数字の根拠である。
「父の会社を継ぐ為です」
美優希はその一点張りに終始して回答はしなかった。理由は単純で、目の前の記者たちは、株式会社ジャストライフにとって全員ライバルだからだ。美優希に倣うように、輝も野々華もクリステルも、やりたいことが別にもあると言ったに過ぎない。
憶測記事が出回ったかと言うと、正確には出す事ができなかった。ジャストライフ関連のサイト及びSNSにて、記者会見終了時刻ちょうどに、二十八の数字の謎を自ら語る動画が公表されたからである。
詳細は、美優希が二十八歳になる年、一義は五十六歳、美優希は一義が六十歳になるまでの四年間を使って海外のMBAを取得し、会社を継ぐ為の準備期間を設ける為だ。
蛇足だがプロの間にMBAの取得を考えたのは美春の存在である。
あまり寂しい思いはしなかったが、それでも寂しいと感じることはあった。特にそれが強かったのは中学生以降の話で、美春は現在九歳であり、引退する年は十五歳、早く継ごうとして少し焦っていたのである。
現実的に難しい以外にも、美春は『もっとお姉ちゃんと一緒にいたい』と言われて断念したのだが。
今年から、美春は帰りたい家に帰っている。美優希と話がしたければ美優希の家に、親と話したければ一義の家に帰るのである。美春がみんなと一緒がいいと言えば、美優希は啓と一緒に実家に帰ってくる。
美優希と一緒にいたいと言っても、大抵は平時の夜しかないのだが。
「お姉ちゃん大丈夫?」
「忙しかったからね。ちょっと疲れてる」
「じゃあ、早く一緒に寝よ」
「お風呂から上がったら一緒に寝ようね」
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