私プロゲーマーに成ります!~FPS女子の軌跡~

紫隈嘉威(Σ・Χ)

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三章

カウントダウン

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 四月、進学で恵美と智香がいなくなり、雄太は寂しいのか、捜す素振りを見せては泣き、増して美優希と美春に甘えるようになった。
 そんな事件もありつつ、美優希は今月から取締役員に名を連ね、経営の事も学びながらの五月、開幕リーグの時期がやってきた。
 圧倒的強さを見せるのが恵美、直前、美優希とクリステルに『ソロなら新しく教えることはない』とまで言わしめ、独走ぶっちぎりの開幕リーグ優勝をして見せた。それに続くようにデュオも優勝を果たした。
 しかし、カルテットは大会を落としてしまった。驚くほどに恵美と他三人が噛み合わなくなったのである。
 智香は恵美と奈央と麻央を繋ぎとめる歯車の役割をする。だからこそ、司令塔に智香を指定していた。
 ただし、これは今後の為のクリステルの策であり、わざと落とさせたのだ。
 そんな中、美優希たちは公式試合の最高キル数、最高ダメージを同時に更新、リーグ中盤でポイント差を作り、難なく守り抜いて優勝を果たす。
 パズル課、格闘ゲーム課も優勝、モバイル課、MOBA課は二位、新人たちは新人賞を獲得する等、破竹の勢いを見せる事ができた。

「ジャストライフゲーミングはお強いですね」

 開幕リーグが終了し、そんなお世辞を東京拠点で投げかけられ、美優希は嬉しくとも何ともなかった。
 取材が始まる前、美優希は派手にブチギレして見せている。理由は許可なく子供たちの写真を撮ったからである。そんなカメラマンの勝手な行動によって、取材をするインタビュアーは戦々恐々としつつも、話を進めていった。
 東京拠点は元から二世帯、あるいは三世帯想定の6SLDKで、部屋にはキングサイズのベッドがギリギリ二つ入り、四から六人の雑魚寝がベッドでできるようにしてある。クローゼットには机を押し込んで、出張用のノートパソコンを広げて練習ができるようにしている。
 お風呂に関しては拓哉がリフォーム工事を入れて二つ、小ぢんまりとした銭湯のようになっており、今日のようにジャストライフゲーミング全員が集まる場合は、男女分けて使っている。
 当時、拓哉の同棲が許されなかった理由は、同居人の親戚家族がいたからに他ならない。同居人がゲームに否定的だったのが原因である。拓哉は洋二郎の協力で大学卒業と共に親戚を追い出し、野々華との同棲を開始している。
 取材はそれぞれのゲームタイトル毎のチームで行っている。
 取材の最後、カメラマン以外を部屋から追い出して、美優希は二人きりになった。

「カメラマンさん、私達は普段、子供が配信に映らないようにしています。過去、子供を撮った写真を破棄せず流出させた者がおり、厳しい制裁を下しました。何で子供の写真を嫌がるか分かりますか?」
「子供の成長と教育ですか?」
「そうです。私の状況を踏まえた教育を施していく予定ですが、万が一、また写真が流出した場合、あの子は、あの子が望むかもしれない、一部の未来を叶える事ができなくなるんですよ」

 カメラマンに淡々と説教を加えた美優希は、今度はインタビュアーを呼んだ。

「この度は、うちのカメラマンが大変失礼いたしました」
「事前に子供に対する取材と写真はお断りしていますよね?」
「はい。情報共有をしていたのですが、伝わっておらず、私共の不徳の致すところでございます」

 取材中は戦々恐々とした態度を見え隠れさせていた割に、現在は毅然とした態度で美優希と対峙して頭を下げている。

「去年のカメラマンさん辞めちゃったんですか?」
「いえ、勤務先が変更となってしまいましたので、今日は彼が担当いたしました」
「そっか・・・新人?」

 新人には見えない訳だけだが、何があるか分からないものなので、敢えて美優希は聞いたのである。新人と言うのなら、チャンスは与えて然るべきだと思っているのもあるだろう。

「いいえ」
「じゃあ、『次回の』取材のカメラマンは彼以外でお願いします。子供をぞんざいに扱うカメラマンは嫌です」

 一言の声もかけずに強烈なフラッシュを焚き、子供たちは全員驚いて泣いてしまったのである。その大合唱を止めるまでかなり時間を要している。

「善処いたします」
「それと、彼に伝えてください。『次々回は』楽しみにしています、と」
「ありがとうございます。『同業の者として』きつく言って聞かせます」

 美優希は少しだけ笑顔になった。

「御社の取材は、あなた以外をお断りさせていただこうと思います。あなたであれば、喜んでお受けさせていただきます」
「ありがとうございます!」
「よろしくお願いいたしますね」

 上機嫌で帰っていった取材陣に美優希は小さく溜息を付いた。
 次の取材が来るまで、部屋で休憩を取るのだが、美優希とクリステル、恵美、智香、奈央、麻央がリビングに留まって話をする。
 話の内容は開幕リーグを落としてしまったカルテットの事である。

「智香ちゃん、どう?なんとなくは掴めた?」
「はい。リーグ後半の成績は良かったので、本戦は大丈夫だと思っています」

 恵美が美優希とクリステルから評価を下される少し前から、智香は指示に自信を無くしてしまっていた。チームメイトの三人にそんな姿は見せないが、美優希とクリステルに相談していたのである。
 それで、クリステルは智香と一緒に、戦術と戦略の練り直しに開幕リーグを徹底的に利用していたのである。

「カルテットのシード権は持ってるから、それが幸いかな」
「美優希の言う通りだね。リーグ後半、リーグが進むにつれてよくなってるのは私も保証する。だけど、完全じゃないし、通用すると決まったわけじゃないから、気を引き締めてね?」
「「「「はい」」」」

 四人の返事を聞き、美優希は部屋に戻り、クリステルは四人の練習風景を眺め、次の取材を待った。
 今日の取材が終わり、夕食も済んだ後、部屋には子供たちと遊ぶ声が木霊する。

「美春ちゃんがここにいないのが残念だな。ほい」
「ありがと。それよね」

 愛と一緒に夕食の片付けを終えた啓は、美優希にお茶を出して隣に座った。

「野々華さんも」
「ありがとう。結局、美春ちゃんはプロゲーマーに成りたいとは言わないの?」
「言わないね、ジュニアにも入ってこないし、入りたいとも言わない」

 そんな美春、実は現在独学であるゲームの分析を、一義に師事を扇ぎながら進めている。美優希を驚かせる為、一義と春香を巻き込んで事を進めている。

「写真も見せてもらったけどさ、やっぱよく似てるよなぁ」
「真哉野と紗哉野?」

 現在、真哉野を抱っこしているのは野々華、紗哉野を抱っこしているのは美優希だ。雄太は久美や恵美と遊ぶのに夢中。

「ああ、奈央ちゃんと麻央ちゃんは髪型と色を変えてくれてるけど、それでも、ぱっと見だと分かんねぇよ」
「ぱっと見だと、母親の私でも真哉野と紗哉野の見分けは付かないよ」
「あ、啓は初めて会うんだっけ?」
「真哉野ちゃんと紗哉野ちゃんに会うのは今日が初めてだな」

 子供が生まれてから今までリモートワークで、今日の取材によって、仕事としては久しぶりに集まっているのである。啓は美優希以外の三人と、プライベートで顔を合わせることがほとんどない。

「それで、雄太君は保育園決まった?」
「それが全然、去年から待ってる人もいるし、役所の人にさ、リモートワークできるからって後回しにされてる節がある。それで、もう諦めて会社に設置しよう、ってなってる。そしたら、出社で連れてきて、退社で連れて帰れるし、延長は二十三時までってことで」
「予約できる?」
「近くに社内希望者募ると思うから、その時になったら声かけるね」
「ありがとー」

 泣いても笑っても来年が最後、最後の大会に悔いを残さぬよう、会社が全面協力する体制になっている。
 しばらくして、愛からお風呂の準備が済んだと告げられ、いつものように、順番にお風呂を済ませた。
 子供たちを寝かしつけるとチームの時間となる。

「前から気になってたんだけど、私がプロをやめたら二人はどうするの?」

 輝と野々華は顔を見合わせた後、輝から答えた。

「社長と話してるんだけど、私は配信者を続けたいな、って思ってるの。それで、私は素材制作部じゃなくて、広報営業部に行くかもしれない」
「広報営業部?」
「社長は私にジャストライフ専属モデル、気軽な一般窓口としての配信者、ジャストライフの動画の演者として仕事するのがいいだろう、って」
「確かに業務内容とマッチしてるね」

 広報営業部の在籍は八人、営業を掛けて仕事を取って来るだけが仕事ではない。
 基本的にサイト管理部の人間とペア、若しくはチームを組んで仕事を行う。時に人事部や映像制作部と組んで、会社の顔としてパンフレットや会社案内の動画に出演する事もある。

「あー、なるほど、会社の顔としての専門職に置くわけなのね」
「そう、実は野々華もなんだよね?」
「うん」
「は?」

 野々華は翻訳の仕事が夢だったはずだ。その為に、専門の学科を有する大学に、何度も短期の語学留学をしている。

「でも、私はちょっと事情が違うよ」
「と言うと?」
「翻訳部に配属されるんだけど、私は外国人向けのモデルと演者、面接官もこなすんだ。必要がない限りは翻訳部でお仕事して、必要があれば撮影する感じ。配信も続けるよ。だって楽しいし」
「まぁ、確かに外国人の採用はその都度、ビザに依存するんだもんね。そっか・・・」

 驚いてしまった美優希は、内容を聞いて一安心した。

「それで、美優希は配信も辞めちゃうの?」
「うーん、雄太次第かなぁ。MBA留学もあるから、続けられないかもしれないなぁって。あと一人子供欲しいし」
「美優希はファンが多いんだよ?つづけたほうがいいよ。それに、ジャストライフゲーミングのオーナーにもなるんでしょ?オーナーからの情報発信もあった方がいいよ」
「社長としての情報発信もあっていいかな?後、社員向けのクローズド配信とか」
「配信楽しくないの?」
「ぶっちゃけ、動画の撮影は楽しくない。生配信は楽しいけど」

 輝と野々華、クリステルまで加わって、美優希は説得された。

「わかった、考えて見る」

 クリステルは役割が少し違うので、配信もろとも止めることは前から予告していた。それに、クリステルには配信に対する執着は一切ない。
 美優希はプロを引退するとは言ったが、配信の引退には一切触れて来なかった。と言うのも、美優希はそれどころではないのである。
 ゲーミング部の裏の仕事を学び終わった今は、取締役員に名を連ねて、経営を学んでいる。ある程度経験ができたら、今度は各部で業務を体験しながら学ぶ。
 現状、ながら、ながらである。ゲーミング部をまとめて、チームではリーダーで司令塔、そして子育て、あまり自分の事を省みる余裕はない。それこそ、啓があれこれ世話をするから現状をしっかりこなせているのである。

「雄太、もしかして寂しい?」

 雄太の頭を撫でて、美優希はつぶやいた。

「私、お母さんと同じことしてる・・・」
「美優希はそんなことないよ?」

 反対側にいるクリステルがそう言った。

「クリスの言う通り、美優希は大丈夫、だけど、自分だけの時間が心配」
「確かに、美優希は常に誰かの為、誰かと一緒だもんね」
「それは大丈夫、時間が合わないから、私が雄太をお風呂に入れるのは休日だけで、お風呂は一人の時間になる事が多い。けど、なんか寂しいから一人は嫌なんだよね。美春が家に来ると雄太は美春と寝たがるから、夜は啓と二人だけの日も結構ある」
「美春ちゃんはずるいなぁ。信也と二人きりの時間ってあんまりないかも・・・」

 消沈してしまったのは輝である。

「美春に久美を預けてもいいんだよ?あー、そうだよ、輝は土地見つかったの?」
「あ、言ってなかったね。見つけたよ、約八十坪。美優希の実家よりは狭いかな」
「あれは、元々田畑だった土地だから。で、どこなの?」
「新しくあった土地開発、光の丘だね」

 郊外に当たる土地だが、それは会社の所在地も同じことである。会社よりは都心にほど近い。

「あそこ高台だよね?」
「うん。眺めがいい位置取った」

 輝はピースして見せた。

「クリスの時みたいに、できたらみんな呼ぶね」
「「「絶対、行く」」」


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