私プロゲーマーに成ります!~FPS女子の軌跡~

紫隈嘉威(Σ・Χ)

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四章

大会と元プロ

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 美優希は日本選手権を観客として見に行くことは叶わなかった。
 叶音がまだ生まれて二週程なのでどうしようもない。
 どちらにせよ、大会ミラー配信者に指定されている、輝と野々華のフォローがあるので、それどころではないのだ。しかも、二人とも報酬有で頼まれた、大会プロモーションの意味も含んでいる。
 つまり、引退したからといって、大会からの縁がすっぱり切れるわけでもないのだ。
 輝はIPEXのみなので楽なのだが、それ以外は会場にいる必要がある。野々華の方は全試合を海外向けに、同時翻訳者兼解説なので、かなりの高額報酬、気が抜けない。
 一応、二人には女性マネージャーが一人ずつ、中途採用の経験者としてついている。元芸能人のマネージャーで、リンガスキルビジネスB1持ち、ゲーム業界やネット配信に理解はあるが、そのマネジメント経験がない。
 勝手が違うので半分新人のようなもので、フォローが必要なのだ。輝には梨々華が、野々華には美優希がフォローに着く。
 久しぶりに出社した美優希は、叶音を抱いており、傍には啓もいるので何とか仕事はこなせる状態だ。

「叶音ちゃん可愛い」
「泣き声綺麗とか反則」

 母乳を与える美優希の傍に来たのは輝と野々華、クリステルもいる。
 与えている場所は、第二社屋のゲストルームで、配信を第二社屋のスタジオから行うのでこうなっている。

「二人目欲しいけどなー」

 クリステルは叶音を見てほしくなっているが、やはり真理香の子育てを考えると、これ以上の負担に無理があり、洋二郎も二人目を許してくれてない。

「「「クリス・・・」」」
「分かってる。言うだけはただだし、洋二郎がいたら言わない。それに、二人目作って不幸になりそうなのも分かってる」

 美優希は輝と野々華と頷き合った。

「私達にはいっていいからね」
「うん、ありがとう」

 クリステルは満面の笑みを見せ、釣られて三人も笑顔になった。
 クリステルがいる理由は、会社に用があるついでに、顔を出しに来ただけである。リモートでは閲覧不可になっている書類がいくつかあり、その書類の閲覧と確認が必要になった。また、秘書課のメンバーに対する生存報告の意味もある。

「それで、輝は二人目、野々華は三人目の予定はあるの?」
「それが全然」
「やる事やってるんだけどね」

 二人は溜息を付いたのだった。
 大会運営から連絡が入り、輝は会場へ、野々華は配信の準備に映る。
 ヘアアーティスト、スタイリストによって、服から化粧、髪型までばっちり決まった姿で三階のスタジオに入る。
 以前、会社紹介も兼ねた配信を行ったのは二階、二階は多目的スタジオなのに対し、三階は音楽やアニメの収録、ラジオ生放送も出来るほどの設備がそろった、本格的な収録スタジオである。
 また、多目的スタジオにはすべての設備がスタジオの中で、三階のスタジオは制御室を有し、広さはスタジオと制御室を合わせて多目的スタジオと同じ言う違いもある。
 三階のスタジオを管理するのも映像制作部で、音響担当が管理責任者となっている。
 配信が始まったのは八時半、昼休憩を除けば、十七時まではぶっ通しだ。開会式の様子からの配信で、その映像を取っているのは映像制作部だ。
 今回の大会配信に限って日本人は切り捨てられた。字幕は翻訳部によって英語となる。
 配信自体に遅延はないが、送られてくる試合映像に五分の遅延が入るので、不正はできない。そもそも、試合で使用するパソコンはモニター一枚のみであり、ジャッジが後ろから監視しているので、配信見るような不正はできない。
 また、試合の様子を映す巨大モニターは選手から見えないようになっているので、古典的なハードウェアチートも通用しない。
 ここで、美優希がフォローに呼ばれた理由だが、ネットの生配信の知識を、会社で最も有しているのが美優希だからだ。
 別に、映像制作部だけでも生配信は可能である。
 しかし、トラブルが発生した際に、プラットフォーム側の問題や、配信で使用するソフトフェアの問題だと、映像制作部では対応できないのだ。
 梨々華は輝のフォローで現場におり、大会中の情報収集や分析で忙しく、それどころではない。マネージャーたちは知識を持っているだけで、経験がない上に選手の方が上、結局手が空いている美優希に白羽の矢が立つのである。
 仕事の邪魔になるからと言って、啓が美優希から叶音を受け取り連れて行こうとすると、美優希以外の全員から啓が睨みつけられた。

「おいおい、啓君、そんな浅い付き合いだとでも思っているのかい?」

 誠が凄い形相で一方的に啓と肩組む。

「美優希ちゃんも、叶音ちゃんの事は織り込み済みで、俺たちがフォローに呼んだんだ。気にしなくていいんだよ。それに、きれいな声で泣くんだってな。聞いてみたいじゃないか」
「誠さん・・・」
「美優希ちゃん、いい加減気付け。会社のアイドルは輝ちゃんでも野々華ちゃんでもない、美優希ちゃんなんだよ。妊娠してても、直向きに会社の持てる技術と事業内容を学ぶ姿は、誰だって好感を持っている。独身の若手は啓君がいなければ、って常々言ってるんだぞ」
「そーそー。副社長、誰もあなたが社長になるのを反対してないんです。寧ろ、MBAの為の留学が本当に必要なのか疑問視されてるくらいです」
「それに、子供は癒しなんです。副社長、癒しを奪わないで下さい」

 けじめは必要だと言おうとしたら、周囲のこの援護射撃である。分かりましたと言うしかなかった。
 仕事をしているのか叶音をあやしているのか分からない制御室となった。
 配信を眺める美優希の隣で、逃がさないとばかりに、誠と映像制作部の課長が啓を挟んでいる。

「なー、美優希ちゃん」
「何?」
「美優希ちゃんの給与ってどうなってるんだ?上層部報酬報告書読んでないんだよ」

 ジャストライフでは、部長より上、副社長、社長、会長(今は空席)、各取締役、会計参与の報酬が、社員のみに公開されている。不当な高額報酬とならないよう、社員に監視してもらう為である。
 一度見てしまえば誰も見なくなるのだが。

「月額で、役員報酬百万と副社長報酬百万で二百万だね」
「いまだ、役員報酬は一律百万なのか。じゃ、社長報酬はいくらなんだ?」
「二百万だから、今もパパの報酬は月三百万のままだよ」
「え?変わってないじゃん・・・」

 叶音をあやすふやけた顔から一転、凄まじい渋い顔をした。そう、当時、一義の給与を知って一番怒ったのが誠であり、一義を突き上げたリーダーは彼なのである。その時に比べると、報酬は三倍に膨らんでいる。
 ふとあることに気付いた誠は表情を一変させ、やわらかくなった。

「あ、でも、そうか、今は子会社の報酬もあるから、社長の年収いくらなの?」
「あ、いくらだろう・・・計算してみる」

 美優希はスマホを取り出すと電卓アプリを立ち上げた。
 一義の月当たりの給与は、株式会社ジャストライフから役員報酬と合わせて三百万、FB企画も役員報酬と社長報酬合わせて同じ金額の三百万ある。その上に、投資や資金提供で持っている別会社の株主報酬が年間二千万に膨らんでいる。

「一部、去年聞いた話からだけど、年収は九千二百万だね」
「ぶふっ」

 噴き出したのは課長の方だ。
 少ない方とは言え、経営者の報酬は高額になり易く、誠から突き上げられているのを知っていても、ここまでとは思っていなかったらしい。

「株主配当金が二千万くらいあるね。ママは年収一千二百万、再婚して半年ぐらいにママがパパの秘書になったじゃん?その時から、生活費はママの給与で、パパの給与は貯蓄と投資に回してたんだって。私たちが高校受験するぐらいには、株主配当が年間八百万はあったかな?」
「株も当ててたってわけか」
「違うよ、当てたんじゃなくて、配当金が存在する株を買いあさってるだけなの。投資や資金提供の条件も見返りは配当金がある株なの。転がすから負けが存在するので合って、毎年お金を貰える紙に変えるんだってさ。そしていざとなったら売る」
「正に金のなる木を買ってるわけか」
「株取引の膨大な知識を持ってないとダメだけどね」
「そりゃそうだろうな」

 それならいいかと、誠は叶音をあやしに戻った。それと変わるように、課長が話しかけてくる。

「このままトラブルなく、進んでくれるといいですね」
「ぶっちゃけ、私要らないと思うけど」
「対応できる人がいる、と言う安心感は馬鹿になりませんよ」
「それはそうよね」

 美優希は分からないではないから、こうして育休中に出勤してきている。
 啓と同棲し始めた頃を思い返せば、いてくれるだけでも、その安心感は半端なかった。出前を取っても、宅配便が来ても、会社から連絡が来ても、一言言っておけば配信中は啓が対応してくれるので、集中力が散漫にならずに済んだ。
 結局、三週間にも及ぶ日本選手権の配信でトラブルが発生することはなかった。
 チームとしての出場はR5S:CRのみ、優勝は、旧作からのプロ集団となったリジェクターに譲る事になるも二位を獲得する。これで、全課全員、アジア大会への切符はしっかりと握りしめた事となった。
 翌月、アジア大会には野々華と輝が公式配信上のゲストとして招待された。
 その招待状は美優希にも届いていたのだが、叶音が渡航できないので応じることはできない。そもそも、現在は会社員で且つ、役員の育休中なので、少しは配慮してくれないものかと、悪態をつきたいぐらいである。

「試合の結果よりも、大会運営の勝手さに散々で、心配する暇なかったな」
「それよ。幼児どころか乳児がいるのにさ」

 開会式が終了して、明日から大会開始となる日の夜、美優希は家族で配信していた。美優希と啓の間にはベビーベッドに寝かされる叶音、啓の膝抱っこされつつ、雄太は叶音をあやす。
 配信で動いているキャラは美優希と啓の物だけ、声はばっちり聞こえているようで、美優希の言葉に同意しているようである。

「マネージャーじゃねー、っつてんのに、俺に電話かけて来るし、否定すると旦那さんからも言ってくださいとか、あほなのかと思うわ」
「なんか言い返した?」
「四歳の子と、零歳一ヶ月の子が安全に渡航できて、渡航先で病気にならない保証がない限り、夫としても容認できない、ってな。あと、さっき連絡入ったけど、梨々華部長が運営にブチギレしたんだとさ」
「梨々華部長には後で何かしないといけないね」
「だな」

 それはそれ、育休中の美優希では報告でしか選手の様子を知らないので、ジャストライフゲーミングの調子は、多くを伝えることはできない。
 視聴者の八割方が美優希の状況を分かっており、チームの調子を聞きに来ているわけではないので特に問題はない。
 話の中心はR5S:CRに出場するチームで、予選通過できるか、何位フィニッシュとなるのか、世界大会への切符を手にできるのか、その予想大会となっている。
 そんな中、叶音が泣き出すと、その声にコメント欄がざわつく。

「ね、きれいだよね。産声聞いた先生たちがびっくりしてたし、私も、辛さが一気にぶっ飛んだんだよ」

 母乳を与えながらコメントに応える美優希、雄太が啓に向かって疑問を言う。

「ユウはな、ともかく元気だったぞ。あんまり元気だったもんだから、俺の手を離して、先生が言うより早く手を伸ばしてたな」
「うん。ユウが生まれた時は、元気な泣き声でね?辛さは吹き飛んだし、生まれて来てくれてありがとー、って感じだったよ」
「ほんと?!」
「うん。ほんとだよ。ミルク終わったら、ママが抱っこしてあげようか」
「いいの!やったー!」

 幸せな家庭像を見せつけて、その日の配信は終了した。
 それから、大会日程が進むにつれて、梨々華から結果の報告が続々と入って来た。
 一番最初に入ってきた結果は、R5S:CRの予選通過だ。その次は優勝を決めた恵美、ポイントを見る限り、アジアでは敵なしである。次点はパズル課の夏樹で三位、ココノエ選手曰く、経験を積めば優勝は見えているそう。
 そのココノエ選手は優勝、元世界一位が引退して、こちらもアジアに敵なしだ。ぷにぷには優勝したが、二位と一ポイント差と言う接戦、自摸に対する不安が残りつつも、相手も同じような物だったので、運を味方に付けられたのも実力であってこそだ。
 PSBGのデュオ、カルテット優勝の波に乗らんと、R5S:CRのチームは奮闘、一ポイント差と言う接戦で優勝を勝ち取り、一皮むけた。
 ストーリーファイターは開幕リーグから順位を二つ上げて二位、コーチ曰く、まだ粗さが目立っているので、当然だろうと言う結果に。スカットブラザーズは、開幕リーグの雪辱を晴らさんと、気合が入っており、空回りすることなく優勝、アジア王者の座を奪還した。
 MOBA課は、開幕リーグの反省から、キッチリ冷静に立ち回って優勝、引退に向けて世界大会優勝に目が向いている。
 モバイル課は、美優希たちが残したデータに加え、新たな戦術に挑戦、取るところで取る動きをきっちりこなして優勝した。
 大会のトリを飾るのは美春が出るボールモン、結果の報告も最後、そして全勝優勝、誰もなしえなかった、リージョン大会で全勝優勝を、二年連続で成し得たのだった。

「美春ちゃん、強すぎだろ・・・」

 美優希たちを間近にしてきた流石の啓も、試合映像を見直してドン引きした。



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