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四章
悩ませる者
しおりを挟むアジア大会同様、世界大会には公式ゲストとして輝と野々華が呼ばれたが、もう流石に、美優希に招待状は届かなかった。
書斎から世界大会を見守る美優希、幸い、出場タイトルの試合時間がかぶってないので、一つ一つしっかり見る事ができる。ただ、ドイツで開催されているので、午後からのタイトルは、終わるのが夜中になってしまうのが難点だ。
その為、眠る雄太を抱っこしながら見る日もあった。
結果はPSBG三冠、パズル課二冠、スカットブラザーズ優勝、MOBA課優勝、ボールモン全勝優勝、モバイル課二位、テトリカエフェクトコネクター三位、R5S:CRベスト十六入賞だ。
大会MVPは美春で最優秀チーム賞は逃した。
大会の余韻に浸る間もなく、帰国直後から取材の嵐、その時、ココノエ選手が爆弾発言をして騒然となり、美春と恵美は途中でブチギレして会社了承の下で取材を全部延期した。
「あのさぁ」
美優希の家に呼ばれてこっぴどく叱られるココノエ選手、と言うのも、ある取材への返答が問題だった。
「『優勝できなかったら引退する』って、マネージャーも知らないのがどれだけやばい事か分かってるの?」
「申し訳ない」
マネージャーが報告してくれたから、相手よりも先に記事が出せて発表もでき、助かったのである。当然、残業を余儀なくされた人間もいる。
揉める原因になりかねないから、常々、思っている事は口にして話し合うように、どの部門でも口を酸っぱくして教え込んでいた。
ココノエ選手の選手歴は長く、ジャストライフゲーミングの中でも、一番長く所属している選手である。
「あなたがそれでどうするの」
美優希は怒ると言うより呆れである。
「顛末書を書くほどでもないけど、しっかりして。夏樹さんと結婚するんでしょ?」
「はい」
「年下の私に怒られてたらダメ、翔君に舐められちゃうからね。今回の件は目を閉じるから、ちゃんと選手たちを引っ張って。無理なら無理で、言ってくれれば他の方法考えるし、現場で引っ張ってほしいってお願いに、一度は頷いたんだから。相談も乗るし、ね?」
「すまなかった」
これで心を入れ替えて、引っ張ってくれるか、相談に来てくれるか、してくれるはずだ。
さて、これでココノエ選手のことは片付いたが、すっかり怒髪天状態の恵美と美春を宥める必要がある。
ただ、なぜ取材を断るに至ったかの理由は聞いていない。
一応、取材陣の失礼な態度に我慢できそうにないから、と言うのは聞いているが、それだけであり、それだと辻褄が合わない事がある。
その時は、二人の般若の形相に許可を出したのだが、同一の取材陣に他の選手が嫌悪感を抱いていないのだ。
「結局、何に怒ってるの?」
美春と恵美はその翌日、土曜日の配信を休みにして、美優希の家に報告しに来た。その美優希は手作りのパフェをご馳走している。
昨日はあれだけ怒っていた二人は、寝て忘れたとでも言いたげに普通だった。
「ある取材の人がさ、お姉ちゃんも一緒にお願いしたい、って再三うるさかったの」
「実際、取材を受ける時も、お姉ちゃんがー、お姉ちゃんはー、ってしつこくて」
「それだけ?」
「育休中だから勘弁してほしい、って言ったんだけどさ、報道する権利がどうのこうの言い出して、それと個人に何の関係があるのか聞いたら、所詮は女か、だって」
「私には心象の悪い記事を出すぞ、って脅してきた」
「は?」
取材の様子は録音されており、専用のレコーダーを出して再生した。内容を聞いている間に、名刺で会社名を確認する。
事実を確認した美優希は、真純へ連絡を入れた。真純は常務取締役であり、対応の進捗状況を聞く為で、回答は協議中との事だ。
「育児に集中してていいわ。やる事は同じよ。あ、文書の確認をお願いするから、その時はこっちから連絡入れるわね」
「うん。お願いします」
協議中と言っても、公開抗議文の内容、音声公開時期、場所の選定、恐喝の被害届提出、訴訟準備と、結局いつもの事なのでだいぶ進んでいた。
「光徳社の系列でもないし、だいぶ新興のベンチャー企業かな?」
「おー、すごい。この会社一昨年立ち上がった会社だよ」
「ウェブサイトを中心にしてるみたいだけど、うちからすると有象無象って感じ」
「この規模じゃね・・・」
資本金五百万、小さなビルの賃貸事務所、登記情報との祖語もない。
しかし、他のプロゲーミングチームと連絡を取ってみると、対応に動いていたので黙っていただけで、あれもこれもと良くない情報が集まった。
「若手がこぞってやられてるわね」
「そうなんだ」
「連合で訴えるか。叶音、見ててくれる?泣いたら連れてきてもいいから」
「「うん」」
美優希は書斎に籠ると、ディスコルドのゲーミングチームのオーナーが集まるサーバーに顔を出した。
リジェクター、ムーンシスターズ、デトネーションズ、4637、Vゲーミング、クレイジーラグーン日本支部、TSM日本支部、SCARS日本、シノビ、神ノ園、ラスカル、サイクロプス、レッドリーブス、FABゲーミング、クレスト。
今回、ジャストライフゲーミングと同じ被害を受けたチームである。被害がなかったチームも話を聞いて協力する旨を示した。
ここに、真純と洋二郎、専務取締役の信二を召喚、他のチームも取締役を召喚し、合同会議に発展した。
「株式会社ジャストライフには頭が上がりませんね」
「全くです。先陣切って強硬姿勢を見せて頂いていたので、こちらも非常にやり易い」
「国民栄誉賞を貰ったチームが旗印になっていただけるのは非常にありがたい」
こうして、連合を組んで共同声明を発表、ジャストライフ運営のウェブサイト、アプリケーションにミラーされ、テレビでは全国ネットの報道に発展させた。
この時点で該当するベンチャー企業は大炎上する羽目になる。
被害届を提出して一週間、恐喝でベンチャー企業の社長と実際に取材の行った社員三名が逮捕、そのタイミングでチームが存在する都道府県別で損害賠償請求の訴訟を起こした。
延期した取材陣には、謝罪の意味を込めて先行して情報を渡すと、大歓喜してくれ、延期の理由に納得、同業の所業が許せないのか、続報と言う形で、こちらの動きに合わせて、情報を小出しにもしてくれた。
こんな怒涛の十一月、十二月には改めて、恵美と美春の取材が行われた。
十二月の半ばには、美優希は自身の配信で経緯の説明しつつも、ベンチャー企業を笑うようなことはしなかった。
「言動が悪いだけで、キッチリ自分の足で稼いだことは評価できるよね」
「当たり前なんだけどな。もったいねーな。あの社長はすごくいい人なのにさ」
「まぁ、だから、社長は起訴されなかったみたい。実行も指示もしてないから当然だよね。逮捕された社員は恐喝未遂で全員起訴だってさ」
恐喝罪は、相手を畏怖させて金銭又は財物を脅し取ることにあり、情報自体は財物と見なされず、受け渡しがないので未遂となる。
はずなのだが、四ヶ月後、裁判所は驚くべき判断を下した。
「被告の行為は恐喝未遂罪にあたると判断し、被害者が多数に上り、極めて悪質と言える。懲役刑十年に処する」
刑罰は法律で定めるところの恐喝罪の最大値であり、未遂で起訴されたはずが、実質的に未遂になっていなかったのだ。検察側の主張よりも高かったので、判決を聞いた検察官は呆然としていたらしい。
理由は、脅しで得ようとした情報が、スポーツ選手の私生活に関する事であり、国民の関心が非常に高いと言って遜色なく、その情報が生む利益と言うのは計り知れず、この場合は情報が財物と言って差し支えないと言う判断だったからだ。
また、得ようとした情報に国民栄誉賞を貰った選手、チームが含まれていたのも理由であり、その認知度の高さは言うまでもなく、刑罰が重くなった原因である。
個人ではそう高くなかったが、未成年が数人含まれていたので、損害賠償請求は合計すると二千万にも上った。サーバーが維持できなくなってサイトが消失、雑誌を発刊する話も消えて、ベンチャー企業は跡形もなく消え去った。
そんな情報が知らされても、美優希はそれどころではない。
「雄太がいるから安心とは言え」
「ふふふ、いるだけましなのよ」
「じょーむー」
保育所に叶音を預けて出社、預ける時に泣きに泣かれて、役員室で仕事が手に付かない美優希は、真純にしなだれ着いた。
「やっぱり親子ね。あなたが生まれた頃の社長を見ているようだわ」
「パパもそうだったの?」
「あなた、早生まれだったから、育休がだいぶ長引いてね。優里さんはモデル、女優として引っ張りだこだったし、あなたの親権取るくらいに情が移ってたのは、その頃からだったわよ。仕事は手に付いてないし、二言目にはあなたの名前が出てくるくらいだったから」
「あはは・・・そっか」
安心はしたが、根本の不安が解決したわけではない。
それが分かっている真純は、次々と昔の一義を暴露し、同室の秘書課も加わって、役員秘書室は盛り上がったのだった。
仕事が終わって叶音を迎えに行くと、当然のように叶音はギャン泣き、雄太も泣きだしそうになるが、先生に嬉しくて泣いていると言われて、安心した笑顔を見せた。
意外なことに、雄太が傍にいるとあまり泣かなかったそう。また、先生たちは、叶音が泣いている理由がわかる雄太に驚いたらしい。
母親心としては寂しさ半分うれしさ半分だ。家に居る時の雄太は、叶音の首が座った頃から叶音から離れない。おむつ替えもできるし、ミルクを与える事もでき、離乳食を食べさせることもできる。
絵本を読み聞かせることもでき、夜だと先に自分が寝てしまう事もあるようだが。
家に帰り着くと、すっかり叶音は安心し、雄太に遊んでもらい、すっかり上機嫌になった。
「大変だった?」
「おかげでパパの話を聞けた」
「・・・真純さんか」
「うん」
キッチンで夕食を準備している啓も、真純が一義の元上司であることは知っている。美優希の一言で、真純による一義の暴露大会になったことを察したのだ。
「安心したのはさ、今じゃ想像できないくらいに、仕事が遅かったんだって」
「そりゃそうなんだろうけど、わかるなー。ほんと出来る人だからな」
「そうなんだよね。物心ついたころからパパは社長って呼ばれてたからさ、ある意味新鮮だったよー」
その夜、始めて保育所に預けたと言う事もあり、配信はせず相手をしてあげる。
電車のおもちゃで遊ぶ雄太、走る電車を追いかける叶音、そう早くもないが、叶音は追いつけず半泣きになった。そんな叶音に、雄太は走らせてない電車を持って行ってあげると、叶音は笑顔になる。
「にーに」
といって。
雄太はきょとんとしてしまい、美優希を見た。
「叶音がお兄ちゃんって、呼んだんだよ。良かったね」
「うん!」
たたたたっと走って美優希に抱き着いた雄太は、満面の笑みを浮かべており、啓にも撫でてもらう。
そんな様子が羨ましいのか、一生懸命ハイハイしてきた叶音がへそを曲げている。
「まーま、ぱーぱ」
「はいはい」
美優希は雄太を抱っこしたまま、器用に叶音を抱っこし、ご機嫌取りをする。
頬擦りされて笑顔満開の三人に、啓は溜息を付いた。去年の夏、幸せ過ぎて怖いと言った美優希の気持ちがよくわかる。
母親だけでは満足できないのか、雄太が啓に抱き着いて抱っこしてもらいに来て、しっかりと抱きしめてあげる。
「雄太、いつもありがとな」
「ううん、大丈夫、叶音と遊ぶの楽しいよ」
「お前はほんといい子だなー」
その後、上機嫌ではしゃぎにはしゃぎ、早くに眠ることになった。
二週間ほどで朝は泣かなくなったが、お迎えで泣かなくなったのは、五月も末の頃である。
開幕リーグは順調で、美春は当然のように全勝を重ねており、それを追うように、勝ち数を重ねていく他の選手たち、開幕リーグは出場タイトルすべてで優勝を勝ち取った。
R5S:CRの五人が変わったのは世界大会以降、一月から三月までの、語学留学を兼ねた海外遠征で、世界で通用する実力を身に付けた実感を得ていた。その実感は自信となって、ジャストライフゲーミングは強いチームを、不動のものとしてくれた。
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