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第九章 悪意
一節 お国柄
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アナスタシウス公国からゼレンツカヤ王国へと移動し、サルミン侯爵領最大の町にて、宿を取った。傭兵組合を訪れるには時間が遅かった為である。
サルミン侯爵は王家の血筋を引く家であり、王国の東側、公国との国境線を接し守りについている。その為、兵士が多く、あまり傭兵が必要とされていない。ただ、時期によっては領主からの依頼が舞い込む為、その時期に旅団が多く訪れると言う特徴がある。
それは旅団にとって通過点であるとも言えるので、旅団向けの借家はあまりない。その代わり、普段ならば宿は割と安めの価格設定がされている。
今は、食糧難から完全に出しいているわけではないので、宿代は未だ割高の価格になっている。
その為、雑魚寝式の広めの部屋を一部屋取らざるを得ず、宿の食事も利用できない有様である。
とは言っても、双子は外食をあまり喜ばないので、食事はどうでもよい。
着替えと湯浴みの際に、ルシフェルが部屋の外に追い出されると言う一幕はあったが、一声かけられて出ていったと言うだけだ。
久しぶりに一緒に寝るので、双子のテンションが下がらない。迷惑になるので暴れるような事や叫ぶような事はさせないが、双子が寝付けるまで延々と本を読み聞かせたりお話したりして、そうして寝てくれた時には深夜も二時過ぎだった。
翌日
双子のおかげで遅い起床となってしまったが、雪の降る中、傭兵組合へとやってきた。
雪を見たことは合っても積もったところを見たことがないので、組合についてからは、双子とリール、ラジエラは外で遊んでいる。
ニクスは絶賛低活動モードで、リールの背中でその毛並みに埋もれてしまっている。
それで、イネスとルシフェルが窓口へと向かい最近の動向を聞いている時だった。
「旅団『大空への翼』で間違いないのですよね」
「ええ、そうですよ」
「でしたら少しお待ちいただけませんか?支部長がお話をしたいと言っておりましたので」
「分かりました」
受付嬢が奥へと消えていった。
獣魔の類は兵士たちが処理する為、雑用のような依頼がほとんどを占めていると言う。たまに食糧確保の狩りへの同行依頼が来るものの、数は少ないそうだ。
掲示板を見ても、彼女の話が嘘でないことを証明しているだけだ。長く滞在するつもりはないので、今日にでも発つかと話をしていると、初老を迎えたであろうかと言う女性が現れた。
支部長である。
彼女に従って応接間へと通され、革張りのソファーに座り要件を聞く。
「領主が私たちに会いたいと」
「そうさね。あたしたちも手は尽くしたんだがね」
話を聞く限り、聖国での行動が一部漏れており、神殿が周知した内容も相まって正体を見破られてしまっているようである。
「どうするかい?と言っても、権力を使って無理やり話を通されたんだ。間違いなく強硬姿勢を取ってくるよ」
そんなことをしてくると言うのなら、強硬姿勢をこちらも見せるだけの話だ。今後の活動を考えるのならば、採りたくない選択肢ではあるが。
「あたしとしては穏便に済ませてほしい。国としても何とか前に進もうとしているんだ。そこに水を差すよう真似はしてほしくない」
「そうだとしても旅団として会うことは拒否します。私とイネスだけであれば会います」
「分かった。そう伝えることにするよ。旅団用の借家を一つ押さえてある。領主と会うまでなら無料でいい、遊ばせておくよりは幾分ましだ。日時については、領主から使いが行くはずだから、扱いには注意するんだね。あと、あんたらに依頼を紹介すると、個人や旅団じゃない奴らにしわ寄せが行くからね。受けられる依頼はないと思っておくれ」
借家についてはそうしてくれると言うのなら甘えるだけである。旅団はその性質上このような肩身の狭い思いをするのが当たり前である。よそ者は所詮よそ者に過ぎないということである。
応接間を出てから、受付嬢と借家の話をして鍵をもらう。外にいる双子たちと合流すると借家へと向かった。
借家に着いたら全員で掃除である。維持もままならず、埃っぽいのはある意味で仕方がない。
風魔法で換気を済ませると、双子をお風呂に入れる。掃除の途中で埃をもろ被りして髪を白くしてしまった早めのお風呂である。
暖炉に火を入れると同時に魔法で部屋を暖めると、ようやくニクスの復活である。
本来、活火山の火口付近に住まう彼らにとって、常冬になっている王国は地獄なのだ。気候変動が収まれば、最も四季がはっきりした国として有名なので、ニクスも幾分ましに過ごせるはずなのだが。
『兄貴、寒すぎだぜ』
「だから『Heat Field』の魔法を覚えろと言ったんだ」
強力な獣魔であることは間違いないのだが、所詮、鳥は鳥なのだ。言語習得もだいぶ時間がかかったと言うので仕方なくはある。
『Heat Field』は任意の範囲を温める魔法で、任意の温度に設定できる。任意の範囲を冷やす『Cold Field』と言うのもある。
『空間魔法で作った空間には入れないのか?』
「気がふれて死ぬぞ?」
空間魔法によって作ったスペースは亜空間である。時間が止まっていない三次元空間であることに間違いはないのだが、重力場、磁力場等が滅茶苦茶で平衡感覚が狂う為、生物はもれなく異常をきたすことになる。
『聞かなかったことにしてくれ』
それが賢明である。
ニクスはリールの指導の下、魔法を覚えることにしたのだった。リールである理由は、アイスボルフが普段は永久凍土のある地域で過ごしており、対象の魔法が当たり前に使えるからである。
逆に、ニクスは『Cold Field』を当たり前のように使いこなせる。二匹とも耐性は持っているが羽や毛が凍らない訳でも燃えない訳でもないからである。
これはつまり、完全耐性を得ることが、フェンリル、フェニックスと言った頂点捕食者への進化の条件でもあるということだ。無論、条件はそれだけではないが。
ニクスよりも先に双子が魔法を覚えてしまうと言う珍事が起こったが、領主に会う日までには何とか覚えられたのだった。
領主邸、即ち侯爵邸を訪れたルシフェルとイネスはそれなりの正装をしていた。
正装はラジエラがデザインし作ったものだ。布と糸の、材料の値段で済むのは本当にありがたい。特に正装は値が張るので、銀級ですら持っているのは半分に満たない。
そんなものだからか、出迎えた執事は一瞬驚いた表情をした。
応接間に通されると、王国の軍服を着た男がいた。
「私はルドルフ・サルミン、ゼレンツカヤ王国の侯爵、辺境伯と呼ばれている。今日は、よびたてしまってすまない。さ、そこにかけてくれ」
ルシフェル達が座るを確認すると、その対面に彼も座った。
「先王が大変申し訳ないことをした」
「何のことでしょうか?」
ルドルフが話そうとすることぶった切るように、語気を強めて言い放った。
「私たちの活動に支障をきたそうと言うのなら、帰らせていただくだけですが」
「分かった」
ここで彼の謝罪を受け取れば、天使から許されたと取られかねない。謝罪でいいのであれば初めから罰を下すようなことはしないのである。罰を下して執行された時点で終わりである。これ以上は単なる政治利用だ。
どこぞの元大統領ほど馬鹿ではないのは、呼びつけた上で、敬語を使っていないことからもわかる。
「今日ここに呼んだのは、君たちが国境を越えてきたからだ。対価は出す、公国の様子を教えてくれないだろうか?」
「旅団が来るといつも同じことをしているのですか?」
「当然だ。国と国である以上、どんな友好国であろうと、国境線を接する以上は仮想敵国としても扱う。私の仕事は国境警備なんだ」
至極当然であろう。
敵の武装状況や兵力状況をつかめなくては何の為の国境警備だとなってしまう。また、ここは前線の基地となるのだ。詳しくない方がおかしい。
「君たちは銀級だったな、ならば、獣魔討伐一回分と、それで取れるであろう肉の価格分は出す。この時期は依頼も少なかろう」
情報の対価としては妥当、時間の対価としては破格と言えるだろう。
形式としては彼が出す質問に答えていき、そこに所感も交えてよいとのこと。彼はどうやら所感の方が気になっているようだ。
ある意味では大した情報を渡していないし、ある意味では大した情報を渡した。
とは言え、普段を知らないので、その情報が有効かどうかと問われると、怪しいと答えざるを得ない。
そういう意味では、情報の対価としては高くついただろう。
こちらの懐事情が悪いわけではない。イネスが聖国からもらったお金は全部残っている上に、服がいい値段で売れるので、依頼と合わせて困ってはいない。
しかし、くれると言うのならもらうだけの話である。資金は潤沢にあって損はない
彼らの資金は持ち運ぶには難がある額になっている。そこは組合が金融業もやっているので困っていない。
各国に支部を置く傭兵組合は、各国の市場を知っており、預けたお金は組合の本部が置かれているモンテス帝国の通貨へと一度変換される。その上で、市場に合わせたレートでもって引き出す国の通貨で引き出すことができる。
また、モンテス帝国に有事があった際は、預けた国とその時の額の八割が保障される。通帳が発行され保証額は明記されているので、確認はいつでも可能だ。
認識票がそのまま印鑑にもなるので、本人確認は認識票で行われる。
「ふむ、こんなところか。金は明日、君の口座に振り込まれるから、心配なら確認してくれ」
組合の金融業は各国の貴族がその便利さから口座を持っている。なので、この世界にも口座や振り込みと言う概念は存在しているわけだ。
「今日は呼び立ててすまなかった。つかぬことを聞くのだが、これから先の予定は?」
「残念ですが、明日にでもこの街を発とうかと思っております」
「そうか、では、ここから北にあるペシュコヴァ伯爵領を目指すと良い。あそこなら仕事には困らないはずだ。港が融けたから、海と陸、両面での依頼が多くあるはずだ」
「これはまたとない情報です。ありがとうございます」
領主邸を出て道すがら、ルシフェルは考え事をしていた。
ルドルフは親切心で行先を提案したわけではない。慣れた様子で提案したのは、旅団がスパイであるの可能性を考慮して行動を縛る為にいつも言っているのだ。
行動を縛ると言う目的は一致しているが、今回はスパイ以上に面倒な存在が潜り込んでいるから言ったのかもしれない。
しかし、自分たちが蒔いた種であることも理解しているはずだ。だからこそ、頭を下げようとしたのだろう。
行動を縛りたい、監視したいのなら割のいい直接依頼を出してしまえばいい。それをしなかったということは、搦め手を用意されている可能性がある。
「ペシュコヴァ伯爵領、でしたね。向かうのですか?」
「決めかねてる」
イネスも同じように考えているようである。
「あえて乗ってみてもいいかもしれません。私たちに関しては、教会、神殿が黙っていられないはずですから」
そう言われた瞬間、ルシフェルの左の口角が上がった。
「それだ、それを利用しよう。あえて神殿から教会経由で通達を出してもらおう」
サルミン侯爵は王家の血筋を引く家であり、王国の東側、公国との国境線を接し守りについている。その為、兵士が多く、あまり傭兵が必要とされていない。ただ、時期によっては領主からの依頼が舞い込む為、その時期に旅団が多く訪れると言う特徴がある。
それは旅団にとって通過点であるとも言えるので、旅団向けの借家はあまりない。その代わり、普段ならば宿は割と安めの価格設定がされている。
今は、食糧難から完全に出しいているわけではないので、宿代は未だ割高の価格になっている。
その為、雑魚寝式の広めの部屋を一部屋取らざるを得ず、宿の食事も利用できない有様である。
とは言っても、双子は外食をあまり喜ばないので、食事はどうでもよい。
着替えと湯浴みの際に、ルシフェルが部屋の外に追い出されると言う一幕はあったが、一声かけられて出ていったと言うだけだ。
久しぶりに一緒に寝るので、双子のテンションが下がらない。迷惑になるので暴れるような事や叫ぶような事はさせないが、双子が寝付けるまで延々と本を読み聞かせたりお話したりして、そうして寝てくれた時には深夜も二時過ぎだった。
翌日
双子のおかげで遅い起床となってしまったが、雪の降る中、傭兵組合へとやってきた。
雪を見たことは合っても積もったところを見たことがないので、組合についてからは、双子とリール、ラジエラは外で遊んでいる。
ニクスは絶賛低活動モードで、リールの背中でその毛並みに埋もれてしまっている。
それで、イネスとルシフェルが窓口へと向かい最近の動向を聞いている時だった。
「旅団『大空への翼』で間違いないのですよね」
「ええ、そうですよ」
「でしたら少しお待ちいただけませんか?支部長がお話をしたいと言っておりましたので」
「分かりました」
受付嬢が奥へと消えていった。
獣魔の類は兵士たちが処理する為、雑用のような依頼がほとんどを占めていると言う。たまに食糧確保の狩りへの同行依頼が来るものの、数は少ないそうだ。
掲示板を見ても、彼女の話が嘘でないことを証明しているだけだ。長く滞在するつもりはないので、今日にでも発つかと話をしていると、初老を迎えたであろうかと言う女性が現れた。
支部長である。
彼女に従って応接間へと通され、革張りのソファーに座り要件を聞く。
「領主が私たちに会いたいと」
「そうさね。あたしたちも手は尽くしたんだがね」
話を聞く限り、聖国での行動が一部漏れており、神殿が周知した内容も相まって正体を見破られてしまっているようである。
「どうするかい?と言っても、権力を使って無理やり話を通されたんだ。間違いなく強硬姿勢を取ってくるよ」
そんなことをしてくると言うのなら、強硬姿勢をこちらも見せるだけの話だ。今後の活動を考えるのならば、採りたくない選択肢ではあるが。
「あたしとしては穏便に済ませてほしい。国としても何とか前に進もうとしているんだ。そこに水を差すよう真似はしてほしくない」
「そうだとしても旅団として会うことは拒否します。私とイネスだけであれば会います」
「分かった。そう伝えることにするよ。旅団用の借家を一つ押さえてある。領主と会うまでなら無料でいい、遊ばせておくよりは幾分ましだ。日時については、領主から使いが行くはずだから、扱いには注意するんだね。あと、あんたらに依頼を紹介すると、個人や旅団じゃない奴らにしわ寄せが行くからね。受けられる依頼はないと思っておくれ」
借家についてはそうしてくれると言うのなら甘えるだけである。旅団はその性質上このような肩身の狭い思いをするのが当たり前である。よそ者は所詮よそ者に過ぎないということである。
応接間を出てから、受付嬢と借家の話をして鍵をもらう。外にいる双子たちと合流すると借家へと向かった。
借家に着いたら全員で掃除である。維持もままならず、埃っぽいのはある意味で仕方がない。
風魔法で換気を済ませると、双子をお風呂に入れる。掃除の途中で埃をもろ被りして髪を白くしてしまった早めのお風呂である。
暖炉に火を入れると同時に魔法で部屋を暖めると、ようやくニクスの復活である。
本来、活火山の火口付近に住まう彼らにとって、常冬になっている王国は地獄なのだ。気候変動が収まれば、最も四季がはっきりした国として有名なので、ニクスも幾分ましに過ごせるはずなのだが。
『兄貴、寒すぎだぜ』
「だから『Heat Field』の魔法を覚えろと言ったんだ」
強力な獣魔であることは間違いないのだが、所詮、鳥は鳥なのだ。言語習得もだいぶ時間がかかったと言うので仕方なくはある。
『Heat Field』は任意の範囲を温める魔法で、任意の温度に設定できる。任意の範囲を冷やす『Cold Field』と言うのもある。
『空間魔法で作った空間には入れないのか?』
「気がふれて死ぬぞ?」
空間魔法によって作ったスペースは亜空間である。時間が止まっていない三次元空間であることに間違いはないのだが、重力場、磁力場等が滅茶苦茶で平衡感覚が狂う為、生物はもれなく異常をきたすことになる。
『聞かなかったことにしてくれ』
それが賢明である。
ニクスはリールの指導の下、魔法を覚えることにしたのだった。リールである理由は、アイスボルフが普段は永久凍土のある地域で過ごしており、対象の魔法が当たり前に使えるからである。
逆に、ニクスは『Cold Field』を当たり前のように使いこなせる。二匹とも耐性は持っているが羽や毛が凍らない訳でも燃えない訳でもないからである。
これはつまり、完全耐性を得ることが、フェンリル、フェニックスと言った頂点捕食者への進化の条件でもあるということだ。無論、条件はそれだけではないが。
ニクスよりも先に双子が魔法を覚えてしまうと言う珍事が起こったが、領主に会う日までには何とか覚えられたのだった。
領主邸、即ち侯爵邸を訪れたルシフェルとイネスはそれなりの正装をしていた。
正装はラジエラがデザインし作ったものだ。布と糸の、材料の値段で済むのは本当にありがたい。特に正装は値が張るので、銀級ですら持っているのは半分に満たない。
そんなものだからか、出迎えた執事は一瞬驚いた表情をした。
応接間に通されると、王国の軍服を着た男がいた。
「私はルドルフ・サルミン、ゼレンツカヤ王国の侯爵、辺境伯と呼ばれている。今日は、よびたてしまってすまない。さ、そこにかけてくれ」
ルシフェル達が座るを確認すると、その対面に彼も座った。
「先王が大変申し訳ないことをした」
「何のことでしょうか?」
ルドルフが話そうとすることぶった切るように、語気を強めて言い放った。
「私たちの活動に支障をきたそうと言うのなら、帰らせていただくだけですが」
「分かった」
ここで彼の謝罪を受け取れば、天使から許されたと取られかねない。謝罪でいいのであれば初めから罰を下すようなことはしないのである。罰を下して執行された時点で終わりである。これ以上は単なる政治利用だ。
どこぞの元大統領ほど馬鹿ではないのは、呼びつけた上で、敬語を使っていないことからもわかる。
「今日ここに呼んだのは、君たちが国境を越えてきたからだ。対価は出す、公国の様子を教えてくれないだろうか?」
「旅団が来るといつも同じことをしているのですか?」
「当然だ。国と国である以上、どんな友好国であろうと、国境線を接する以上は仮想敵国としても扱う。私の仕事は国境警備なんだ」
至極当然であろう。
敵の武装状況や兵力状況をつかめなくては何の為の国境警備だとなってしまう。また、ここは前線の基地となるのだ。詳しくない方がおかしい。
「君たちは銀級だったな、ならば、獣魔討伐一回分と、それで取れるであろう肉の価格分は出す。この時期は依頼も少なかろう」
情報の対価としては妥当、時間の対価としては破格と言えるだろう。
形式としては彼が出す質問に答えていき、そこに所感も交えてよいとのこと。彼はどうやら所感の方が気になっているようだ。
ある意味では大した情報を渡していないし、ある意味では大した情報を渡した。
とは言え、普段を知らないので、その情報が有効かどうかと問われると、怪しいと答えざるを得ない。
そういう意味では、情報の対価としては高くついただろう。
こちらの懐事情が悪いわけではない。イネスが聖国からもらったお金は全部残っている上に、服がいい値段で売れるので、依頼と合わせて困ってはいない。
しかし、くれると言うのならもらうだけの話である。資金は潤沢にあって損はない
彼らの資金は持ち運ぶには難がある額になっている。そこは組合が金融業もやっているので困っていない。
各国に支部を置く傭兵組合は、各国の市場を知っており、預けたお金は組合の本部が置かれているモンテス帝国の通貨へと一度変換される。その上で、市場に合わせたレートでもって引き出す国の通貨で引き出すことができる。
また、モンテス帝国に有事があった際は、預けた国とその時の額の八割が保障される。通帳が発行され保証額は明記されているので、確認はいつでも可能だ。
認識票がそのまま印鑑にもなるので、本人確認は認識票で行われる。
「ふむ、こんなところか。金は明日、君の口座に振り込まれるから、心配なら確認してくれ」
組合の金融業は各国の貴族がその便利さから口座を持っている。なので、この世界にも口座や振り込みと言う概念は存在しているわけだ。
「今日は呼び立ててすまなかった。つかぬことを聞くのだが、これから先の予定は?」
「残念ですが、明日にでもこの街を発とうかと思っております」
「そうか、では、ここから北にあるペシュコヴァ伯爵領を目指すと良い。あそこなら仕事には困らないはずだ。港が融けたから、海と陸、両面での依頼が多くあるはずだ」
「これはまたとない情報です。ありがとうございます」
領主邸を出て道すがら、ルシフェルは考え事をしていた。
ルドルフは親切心で行先を提案したわけではない。慣れた様子で提案したのは、旅団がスパイであるの可能性を考慮して行動を縛る為にいつも言っているのだ。
行動を縛ると言う目的は一致しているが、今回はスパイ以上に面倒な存在が潜り込んでいるから言ったのかもしれない。
しかし、自分たちが蒔いた種であることも理解しているはずだ。だからこそ、頭を下げようとしたのだろう。
行動を縛りたい、監視したいのなら割のいい直接依頼を出してしまえばいい。それをしなかったということは、搦め手を用意されている可能性がある。
「ペシュコヴァ伯爵領、でしたね。向かうのですか?」
「決めかねてる」
イネスも同じように考えているようである。
「あえて乗ってみてもいいかもしれません。私たちに関しては、教会、神殿が黙っていられないはずですから」
そう言われた瞬間、ルシフェルの左の口角が上がった。
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