ナンパなんてしてないでクエスト行ってこい!

直哉 酒虎

文字の大きさ
34 / 60
ランク別武闘大会・開幕

〜緊急クエスト・負傷者を救出せよ!〜

しおりを挟む
 ~緊急クエスト・負傷者を救出せよ!~
 
 現在、パイナポは涙目でぐったりと倒れている。
 
「だっ、だから! 加減してって言ったじゃないですか!」
 
「でっ! ですが僕も一泡吹かせようと必死だったので!」
 
 などと喧嘩し始めるとーてむすっぽーんさんとどるべるうぉんさん。
 
「とっ、とりあえず治癒はかけたからしばらく安静だし! 骨折れてなくて本当によかったし!」
 
 パイナポの脛にどるべるうぉんさんの裏拳が炸裂した直後、青ざめた顔のぺんぺんさんと夢時雨さんは足を車輪んのように動かしながら回復士を探しにいった。
 
 たまたま協会の入り口には、クエストから帰ってきていたぺろぺろめろんさんのパーティーが、クエスト達成報告をしようと私のことを探していたらしい。
 
 その三人を見つけた二人が、半ば誘拐してくるような形でべりっちょべりーさんを担いで戻ってきた。
 
 後ろからは鬼のような形相で、罵詈雑言を浴びせながら追ってくるぺろぺろめろんさんとすいかくろみどさんがいてちょっとひやっとした。
 
「なるほど~、それなら急に拐って言ったりしないでちゃんと理由話してくれても良くな~い?」
 
「本当にすまん、俺もキャステリーゼちゃんも、ついでに時雨もかなり焦っていたのだ、その……ものすごくエグい音だったからな」
 
 当時のことを思い出し、眉をしかめながら脛をさするぺんぺんさん。
 
「にしても、うちらに内緒で何おもしろそ~なことしてんだし~、混ぜてよ~」
 
 すいかくろみどさんは、とーてむすっぽーんさんとどるべるうぉんさんに詰め寄っていく。
 
「すいかくろみどさんが訓練に付き合ってくれるんですか! ぜひお願いします!」
 
 嬉しそうに目を輝かせるとーてむすっぽーんさん。
 
 その日から私の担当冒険者たちは、朝イチでクエストを持っていき昼過ぎに帰ってきては終業時間まで訓練場にこもるようになった。
 
 私もみんながこもっていると聞いた日、一日の仕事を終えて訓練場を覗いてみると……
 
「あれ? なんで増えてるの?」
 
「とってぃ! お前筋力上がったな! けど振り下ろすだけじゃなくてもっと攻撃にバリエーションを増やせ!」
 
「はい! 師匠! もう一本お願いします!」
 
 全身がっちりと鎧をつけたパイナポと、楽しそうに訓練するとーてむすっぽーんさんや
 
「オラァ! さっさと立てクソ雑魚! この程度で寝てたら大会じゃあ通用しねぇぞぉ!」
 
「すみません夢時雨さん! もう一度! お願いします!」
 
 戦闘中のため、人格が豹変した夢時雨さんのスパルタトレーニングに、泣き言一つ言わずに応えているどるべるうぉんさん。
 
 後方には、そんな四人に器用にアドバイスをしているぺんぺんさんがいた。
 
「すいかくろみどさん、やはりかなりお強い……三発も食らってしまいました、私は今一度自分を見直す必要がありそうです」
 
「はぁ? ぬらりん、それもしかして嫌味? 三発しか当てらんなかったし、少しかすっただけっしょー?  ちょ、もっかいやらせてくんない?」
 
 などと言いながらありえないスピードの攻防を繰り広げる二人を、呆れながら見ているぴりからさん。
 
「おやおや~? セリナさんも見にきてくれたの~? うちらで練習してたらいっぱい人集まっちゃたんだ~。 もううちらみんな仲良しすぎっしょ~!」
 
 ぺろぺろめろんさんは暇そうにしながら双子さんたちと話していたが、私の姿を見て嬉しそうに駆け寄ってくる。
 
 心なしか、双子の兄、閻魔鴉えんまからすさんの顔が赤かったのは気のせいだろうか?
 
「ぺろぺろめろんさんは休憩中ですか?」
 
「いや、なんかね~。 ぬらりんと練習してたら急にくろみっちが『うちにもやらせて!』とか言ってきて。 譲ってあげたんだけどそれっきり、ずっと変わってくんないの~」
 
 などと頬を膨らませながら二人の攻防を観ている。
 
「セリナさん、三日後は一回戦が始まるが、偵察に行くでやんすか?」
 
「ひゃあぁ! 痴漢ですか!」
 
 急に、音もなく背後に現れるのは小人族の鬼羅姫螺星きらきらぼしさん。
 
 暗殺者の彼は常に気配を消しているため、声をかけられてついつい驚き悲鳴を上げてしまう。
 
 無論、体には一切触れられていないけど、反射的に痴漢と叫んでしまった。
 
 これは冤罪というやつだ、ごめんなさい。
 
 鬼羅姫螺星さんは首をちょこんと傾げながら、その可愛らしい幼子のような顔を向けてきている。
 
「ち、痴漢とはなんでやんすか? まぁそれはいいでやんす。 試合を見に行くなら、俺も同行した方が相手の情報も詳しくわかるはずでやんす。 よければ同行してもいいでやんすか?」
 
「あ、ああ! もちろんいきますよ! 鬼羅姫螺星さんが同行してくれるのは心強いです! あなたの魔力眼は頼りになりますからぜひお願いします!」
 
「いいなぁ~、でも見てるだけなのは退屈だろうし、うちはいつも通りクエスト行って訓練場かな~。 っていうかきらりん暇ならうちの相手してよ!」
 
 ぺろぺろめろんさんに急に絡まれる鬼羅姫螺星さん。
 
「いいでやんすが、暗殺者の俺では正面からの戦いでぺろぺろめろんの嬢さんに勝てる気がしないでやんす。 そこで暇そうにしてる双子も混ぜていいでやんすか?」
 
 意外と乗り気な鬼羅姫螺星さんはさらっととんでもない提案を……
 
 しかし、待ってましたとばかりに勢いよく立ち上がる双子さん。
 
 特に閻魔鴉さんなんか、嬉しそうにニヤニヤしている。
 
「あ、いいよ別に~! おーい双子くーん! うちの相手してよ~! きらりんも一緒にやってくれるって~!」
 
「はぁ~?」「お前の攻撃!」「食らうと痛いから」「嫌に決まってるだろ~」
 
「んなこと言わないでよ~! 暇なんでしょ~? それとも何? ビビっちゃってる感じ?」
 
 表面上はめんどくさそうに駄々こねていた双子さんは、ぺろぺろめろんさんの挑発を聞き悪戯っ子のように満面の笑みを作った。
 
「上等だゴリラ女!」「早く来い鬼羅姫螺星!」「こいつに一泡」「吹かせてやろうぜ!」
 
「ちょっ! あんたら! ゴリラ女ってもしかしてうちの事? よーし全力で相手してあげっから覚悟しなさい!」
 
 ギャーギャーと喧嘩しながら戦う準備を始める三人に、ため息をつきながら近づいていく鬼羅姫螺星さん。
 
 彼の背中を見送りながら思う。
 
 前回の大会ではこんなふうにみんなで楽しく訓練したりとかしていなかった。
 
 いつの間にかみんな仲良くなっていて、こうしてお互いがお互いを尊敬し合っている。
 
 ……すごく楽しそうだ。
 
 青春しているみたいで羨ましく感じる。
 
 そんなことを思いながら苦笑いしていると、訓練中の冒険者たちが私の存在に気づいて声をかけてくる。
 
「セリナさん! いらっしゃったんですか! パイナポさんの攻撃誘導が、一人だと攻略できません! アドバイスをいただけないでしょうか!」
 
「こちらもお願いいたします! というか、どうかすいかくろみどさんを説得してはいただけませんか? もうすでに二時間もの間ぶっ通しで手合わせをしているので……」
 
「セリナさん! 今からこの生意気な双子をボッコボコにしちゃうから! そこでうちの勇姿を見ててよ!」
 
 などとみんなが口々に私を呼ぶ。
 
 私は少し困りながらもみんなの元に駆け寄っていった。
 
「私! 一人しかいないんでそんなにいっぺんに回れないですよ~!」
 
 困ったように返事をしながら、一人一人順番にアドバイスして回っていった。
 
 いつの間にか私も、みんなの輪に入れてもらっていたようだ。
 
 私たちは今大会シードになっている。
 
 三日後の初戦、勝ったチームが私たちの相手になる。
 
 そしてそれに勝てば、十中八九決勝に上がってくるのはキャリーム先輩のチーム。
 
 でも、相手がどんなに強くても、みんなと一緒なら
 
 ——————負ける気がしない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

追放令嬢と【神の農地】スキル持ちの俺、辺境の痩せ地を世界一の穀倉地帯に変えたら、いつの間にか建国してました。

黒崎隼人
ファンタジー
日本の農学研究者だった俺は、過労死の末、剣と魔法の異世界へ転生した。貧しい農家の三男アキトとして目覚めた俺には、前世の知識と、触れた土地を瞬時に世界一肥沃にするチートスキル【神の農地】が与えられていた! 「この力があれば、家族を、この村を救える!」 俺が奇跡の作物を育て始めた矢先、村に一人の少女がやってくる。彼女は王太子に婚約破棄され、「悪役令嬢」の汚名を着せられて追放された公爵令嬢セレスティーナ。全てを失い、絶望の淵に立つ彼女だったが、その瞳にはまだ気高い光が宿っていた。 「俺が、この土地を生まれ変わらせてみせます。あなたと共に」 孤独な元・悪役令嬢と、最強スキルを持つ転生農民。 二人の出会いが、辺境の痩せた土地を黄金の穀倉地帯へと変え、やがて一つの国を産み落とす奇跡の物語。 優しくて壮大な、逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

処理中です...