ナンパなんてしてないでクエスト行ってこい!

直哉 酒虎

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星ランククエスト発令!

〜鋼ランククエスト・蜥蜴兵蹂躙戦Ⅱ〜

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 ☆
 作戦会議では紆余曲折あったが、今回の作戦はこうだ。
 
 まず、蜥蜴兵の注意を引く。
 
「蜥蜴兵諸君! 我が名は香芳美若! いざ、尋常に勝負!」
 
 蜥蜴兵九十体の正面から、声高々に香芳美若さんが宣戦布告をしているので注意はバッチリ引いている。
 
 そして、蜥蜴兵を目標地点まで誘導。
 
「リックさん、ベイルさん。 香芳美若さんを眠らせて下さい」
 
 パーティーメンバーであるリックさんがゆっくりと近づき、なんの遠慮もなく香芳美若さんの後ろ首に手刀を放つ。
 
 ころんと気絶した彼をベイルさんが担いで、みんなで目標地点まで走って撤退。
 
 ベイルさんの強みは持久力と素早さだ。
 
 いつも囮か傷ついた仲間を担いで逃げているイメージがある。
 
 それはさておき、逃走経路には落とし穴もワイヤートラップも仕掛けていないため、蜥蜴兵は全員普通に追ってきている。
 
 そして次の作戦でほぼ終幕。
 
 私はベイルさんたちと共に走りながら、高台の上で待つ韻星巫流さんと鬼羅姫螺星さんに発煙筒で合図を送る。
 
 すると、地響きが足の裏から伝わってくる、もちろんこれはたまたま地震が起きた訳ではない。
 
 走りながら後ろをちらりと振り返ると、私たちを追ってきている蜥蜴兵の頭上から巨大な大岩が降り注いでいる。
 
 その名も、落石作戦。
 
 密集陣形を組む蜥蜴兵に接近戦を持ち込むのは、討伐するのに少々時間がかかる。
 
 後衛から狙撃も盾で防がれるし、罠も警戒されるのだ。
 
 ならば防げない火力で捻り潰すのみ。
 
 落石を仕掛けてくるなど誰が考えるだろうか、人工的なトラップに気づきやすい彼らは自然の力で作ったトラップには気づかないのも当然だ。
 
「さ、さすがオーバーキルのセリナさん。 容赦ないですね……」
 
「ベイルさん、今何か言いましたか?」
 
 ベイルさんは私の質問を受け、青ざめながらあたふたしだした。
 
「何も言ってません!」
 
「口じゃなくて足動かしましょうね~、じゃないとうっかり落石に巻き込まれるかもしれませんからね!」
 
 私は笑顔で優しく注意してあげたのだが、ベイルさんは「ひいっ!」と何かに怯えながら加速した。
 
 香芳美若さん担いでるのに、あんなに飛ばして大丈夫だろうか?
 
 さて、作戦通り落石は見事に直撃した。
 
 ちなみに落石係の二人は鬼羅姫螺星さんの気流操作で姿を見えづらくして移動、韻星巫流さんの魔法で大岩を作成。
 
 彼は五種類全属性魔法の簡単な攻撃ができる。
 
 地属性魔法でそこらじゅうの土や石を集めて、大きな岩を大量に作っておいてもらったのだ。
 
 二~三個大きいのがあればいいと言ったのだが、あの感じだと二十個くらい落ちてきた気がする。
 
 そして仕上げ、落石が直撃した蜥蜴兵の部隊は隊列もクソもない。
 
 甚大な被害を受けた蜥蜴兵たちは大混乱している。
 
 岩の下敷きになった仲間を救おうとする者、逃げ出す者、仲間を集めようと必死に鳴く者などなど。
 
 こうして孤立した蜥蜴兵たちを全員がかりで確実に狩り尽くす。
 
 作戦は見事すぎるほど鮮やかで、蜥蜴兵蹂躙戦は呆気なく終わったのだった。
 
「くっはっはっはっはっ! 見事な手前、見事な手際、見事な作戦である! さすがセリナさん。 この私、不可能を可能に変える男である韻星……」
 
「ああ、お見事でしたよ韻星巫流さん! それにしてもあんなにたくさん岩を作れるとは思いませんでした。 ニ~三個あれば十分だったのですが、その十倍近く作るなんてさすがです!」
 
 韻星巫流さんは毎回、口を開くとかなり話が長いため早めに遮ってしまうのが仲良くするコツなのです。
 
 私の隣ではハイタッチに失敗して、クロスカウンターのような体制で互いの顔面を鷲掴みしている双子さん。 相変わらずハイタッチが決まらない。
 
 そしていまだにのびている香芳美若さん。 なぜだろう、こんなにもスムーズな討伐だったのに何とも言えない空気だ。
 
「セリナさん、このバカどもはとりあえず放っておいて砦に戻りやしょう」
 
「ええそうですね、今回のクエストは鬼羅姫螺星さんがいて本当によかったです」
 
 私の呟きに首を傾げる鬼羅姫螺星さん。
 
 残念な人が多い第二世代と言われているが、鬼羅姫螺星さんだけは口調以外まともなのだ。
 
 こうして私たちはスムーズに蜥蜴兵を蹂躙し、その日の内に王都の冒険者協会に戻る事になった。
 
 
 ☆
 冒険者協会は朝と夕方が忙しい。
 
 朝はクエストを受注に来る冒険者たちにクエストの斡旋。 夕方はクエストから帰った冒険者の達成報告の管理。
 
 そのため昼頃はほぼやる事がない
 
 あったとしても近隣の村や王城から使者が来て依頼を出されるくらいだ。
 
 他には遠征に行っていた冒険者がたまに昼ごろ帰ってくるが、遠征は高ランク冒険者などが受けるので数は少ない。
 
 私の担当の金ランク三人パーティーも、果ての荒野へ行ってから二ヶ月以上帰ってきていない。
 
 七日に一度、報告書がくるので生きてる事は確かだろう。
 
 私たちが蜥蜴兵蹂躙戦から戻ったのは忙しいはずの夕方だった。 日も落ち始め薄暗くなってくる時間。
 
 冒険者協会は十九時まで受付を行なっているため、間も無く受付終了する時間だろう。
 
 この時間帯だと受付は冒険者たちがごった返すはずだ、営業時間終了間際に駆け込んでくる冒険者も多い。
 
 その上受付が終了する二時間前からは、昼にカフェエリアだった場所は食堂に変わり、そこで冒険者たちがわいわいとはしゃいでいる。
 
 その騒ぎは協会の外にいても聞こえるほどなのだが……
 
「妙だ、この私は冒険者になってから役三年が経っているが、こんな静寂は感じたことがない。 あの冒険者協会を静かにする事など、不可能を可能にするこの私でもさすがに不可能な——」
 
「確かに時間ギリギリなのに」「駆け込み冒険者も見かけないな!」
 
 双子さんまで韻星巫流さんの長い台詞を遮るのが上手くなっているのは非常に気になるが、今はそれどころではない。
 
 私は眉根を寄せながら、恐る恐る協会の扉を開く。
 
「誰も……いない?」
 
 息を呑む。
 
 ありえない光景が広がっていた。
 
 私が受付嬢になってから今日まで、こんな事は一度もなかった。
 
 私は慌ててカウンターに駆け込む。
 
 クエスト受注リストと達成報告書を確認しに行けば誰が何時ごろ帰ってきたのかわかるはずだと思ったからだ。
 
 そして私はその刹那、とある事を思い出す。
 
 数日前、資料室でレイトに会った時に言われた言葉を……
 
 
 ☆
 彼女は昼食後に資料室にこもって何かを調べていた。
 
 たまたま私も資料を取りに行ったので軽く挨拶をして、そそくさと部屋を出ようとしたのだが。
 
「セリナ? 聞きたいことがあるんだ」
 
 珍しくオカリナを吹かずに話すレイト。
 
 普段眠るように閉じていた瞳も、今はくっきりと開いている。
 
 真面目な話や真剣になった時、彼女はその幻想的な空色の瞳を見せるのだ。 緊張した私は返事ができずに視線だけを向ける。
 
「ここ最近の蹂躙戦、妙だとは感じないか? それに先日の水神龍レアウディーユ出現騒ぎも含め、上級モンスターの出現率も妙だ」
 
 私はこの時レイトが言っている意味が分からなかった。
 
 なぜなら蹂躙戦の出現数も、上級モンスターの発見報告も、例年に比べると平均程度の頻度だったからだ。
 
 中には九尾狐ネフクルナルドという新種の発見もあったが、新種のモンスターなど毎年十体くらいは出るのだからこれも不思議ではない。
 
 だから私はこれと言って疑問は抱かなかった。
 
 しかしレイトはあんな変わった人だが、かなり頭の切れる受付嬢だ。 少しでもおかしな現象は見逃さない。
 
 彼女が担当するエリアは、いつもモンスターが大量発生する前に片付けてしまうほど注意力や判断力が鋭い。
 
 なので彼女のこの言葉は良くないことの前触れでもあるのだ。 私は息を呑んで、次の言葉を待った。
 
 あの時、レイトは言っていた。
 
桜花月おうかのつきの始まりから今日までの蹂躙クエストや上級モンスターの発見報告は、九割六部王都より北で起こっている。 まるでモンスターたちが何かを恐れ逃げてきているような気配を感じるんだ」
 
 私はカウンターでクエストの報告リストをあさりながらレイトの言葉を思い出し、全身に鳥肌が立つ。
 
 あの時レイトが言っていたのは……とてつもないモンスター発見の前触れで、今まさに私たち以外の冒険者たちはそのモンスターと戦闘をしているのではないか?
 
 そんな風に思った瞬間、協会内の静寂を切り裂くように、勢いよく入り口の扉が開かれた。
 
 そこに現れたのは全身大火傷をおい、半身がほぼ動いていない状態の冒険者。
 
 何度か一緒に仕事をしたことがある、メル先輩が担当する冒険者のガルシアさんだった。
 
 ガルシアさんはうつろな瞳を私に向ける。
 
「——助けて下さい、セリナさん。 恐らく、新種の滅界級モンスターです。 今メルさんとクルルさんの冒険者たちが時間を稼いでますが……長くは持ちません。 お願いします、助けて下さい」
 
 いつも強い口調のガルシアさんが、弱りながら必死に私に声をかけてくる。
 
 私は戸惑いながらもみんなと協力して、彼を医務室に運んだ。
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