永劫の誇り – 鹿之助、燃ゆる戦国の灯』

honyarara

文字の大きさ
31 / 42
第九章 集いし命脈

第九章 集いし命脈

しおりを挟む
春が深まり、山々の雪解け水が川を潤す頃、山中鹿之介のもとへ、さらに多くの命脈が集い始めた。かつて散り散りになった尼子家の遺臣、道を失った浪士、民草の中に眠っていた覚悟の種火――それらすべてが“義”という一文字の旗の下に芽吹き始めていた。

出雲からは、若き武士・堀尾吉晴が密かに合流を果たし、「主に報いる日を、この手で迎えたい」と誓った。伯耆からは農兵あがりの兄弟が、伯父の陣羽織を纏い、旧家臣の末裔であることを証す。中には名も持たぬ者もいたが、「義がある限り、誰でもこの軍の一人だ」と鹿之介は彼らを分け隔てず迎え入れた。

兵はまだ三百に満たなかったが、戦列の整備は着実に進められた。かつての兵法書を元に陣形と連携を鍛え、無駄を排した戦術が山間の鍛錬場で磨かれていく。兵装も乏しかったが、農具を加工した槍、竹を研いだ矢が整えられ、何よりその手に宿る覚悟が、武器を真の刃に変えていた。

鹿之介は、人の心を最も大切にした。「我らの敵は、毛利にあらず。忘れられた志の空白こそ、打ち破るべきものだ」と諭し、各地で祈願の書を集めさせた。それは、再興の証として、村々の井戸や社に掲げられ、「義」の印とともに、次第に信仰に近い存在となっていった。

その動きに応じて、小さな奇跡のような出会いもあった。かつて尼子に敵したはずのある地侍が、「もはや恨みはない。むしろ、誇りなき今の世にあって、その旗は真っ直ぐすぎるほどだ」と語り、義軍に加わる決意を見せたのである。鹿之介は深く頷き、かつて敵であった者の手を固く握った。

一方、毛利家中では、この“連環の広がり”に焦燥の色も見え始める。蜂起そのものよりも、民の心がゆっくりと動いていること――それが最も恐るべきこととして認識されていた。

鹿之介は、拠点の裏山に設えた小さな祠に詣で、かつての主君・尼子義久の名を静かに唱えた。
「殿よ、我らはただ誇りを失いたくないのです。もう一度だけ、この志にお力をお貸しください。」

山の霧が晴れ、陽が差す。その光の中、集いし命脈たちは、ついに一つの軍へと姿を変えていく。―その槍が振るわれるとき、戦国の静寂は再び破られる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

『豊臣徳川両家政務会議録
〜高度な政治的判断でだいたい丸く収まるパラレル戦国〜』

cozy0802
歴史・時代
豊臣と徳川が“なぜか共存している”少し不思議な戦国時代。 そこでは定期的に、「天下のことをだいたい決める会」という政務会議が開かれている。 議長は淀殿。補佐は徳川秀忠殿。参考意見は豊臣秀次様。 そして私は――記録係、小早川秀秋。 議題はいつも重大。 しかし結論はだいたい、 「高度な政治的判断により現状維持」。 関ヶ原の到着時期の差異も、言いにくい史実も、 すべて会議の議事録として“やさしく処理”されていく。 これは、歴史が動きそうで動かない、 両家政務会議の記録コメディである。 だが―― この均衡がいつまで続くのかは、誰も知らない。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

処理中です...