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第十章 黎明の咆哮
黎明の咆哮
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時は天正四年、春の陽が山の霧を押しのけるように差し始めた朝――義軍はついに、刀を抜いた。
鹿之介の軍勢は、伯耆・出雲国境の関所「鍵之峠」へ向けて進軍を開始した。ここはかつて尼子領の要所であり、毛利による編成後も幹線の咽喉をなす地であった。地勢の利を知り尽くした鹿之介は、この要衝奪取こそが再興の象徴であり、実戦を通して“義軍”の名を西国全体に刻み込む好機と考えていた。
兵はおよそ五百に達し、数では毛利方の在番兵に及ばぬものの、その士気は天を衝くようであった。軍旗には「義」の一文字。太鼓は鳴らされず、兵たちは皆、無言で峠を見上げていた。
「この戦は、名声のためにあらず。これは、語られぬ者たちの声を、歴史に刻む一撃である。」
鹿之介の檄に、兵たちは力強く頷き、各々の鎧の紐を締め直した。
攻撃は陽の高くなった頃合いに始まった。義軍は三方向より奇襲を仕掛け、狭隘な斜面を上下に駆ける。鹿之介は真っ先に突出し、敵陣中央を一太刀で切り開くと、周囲に「退くな、進め――これは願いの一太刀なり!」と響き渡る声で叫んだ。その姿は、まさに武士の化身であった。
戦いは半刻に及び、ついに関所は義軍の手に落ちた。敵兵は捕虜とされ、民への被害は一切出なかった。「これは征伐ではない、再建の礎なり」と、義軍は残された兵に水と糧を与え、峠を封鎖。戦ではあれど、そこには「奪う」ではなく「戻す」意志が宿っていた。
戦後、各地の里に伝令が走る。「尼子義軍、鍵之峠を奪取。民への害なし。誓いは破られず。」
この報せは、戦果以上の衝撃をもって人々に伝わった。名を失ったはずの旗が、正義と秩序を保ちながら掲げられたこと――それは、民にとって希望そのものだった。
一方、毛利方ではついに武断派が動き出し、伯耆方面軍への増援が決定される。輝元の表情に影が差す。「義の名が人を導くならば、それは我らが筆で誅すべき“乱”とは異なる」と、彼は深い沈黙の中にあった。
しかし、歴史はすでに動いていた。義軍の咆哮はただの反乱ではなく、抑え込まれた魂の叫びであり、忘れられた者たちの名を再び天に掲げる雄叫びであった。西国の空に、義の狼煙が本当の「夜明け」となって燃え上がったのである。
鹿之介の軍勢は、伯耆・出雲国境の関所「鍵之峠」へ向けて進軍を開始した。ここはかつて尼子領の要所であり、毛利による編成後も幹線の咽喉をなす地であった。地勢の利を知り尽くした鹿之介は、この要衝奪取こそが再興の象徴であり、実戦を通して“義軍”の名を西国全体に刻み込む好機と考えていた。
兵はおよそ五百に達し、数では毛利方の在番兵に及ばぬものの、その士気は天を衝くようであった。軍旗には「義」の一文字。太鼓は鳴らされず、兵たちは皆、無言で峠を見上げていた。
「この戦は、名声のためにあらず。これは、語られぬ者たちの声を、歴史に刻む一撃である。」
鹿之介の檄に、兵たちは力強く頷き、各々の鎧の紐を締め直した。
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戦いは半刻に及び、ついに関所は義軍の手に落ちた。敵兵は捕虜とされ、民への被害は一切出なかった。「これは征伐ではない、再建の礎なり」と、義軍は残された兵に水と糧を与え、峠を封鎖。戦ではあれど、そこには「奪う」ではなく「戻す」意志が宿っていた。
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この報せは、戦果以上の衝撃をもって人々に伝わった。名を失ったはずの旗が、正義と秩序を保ちながら掲げられたこと――それは、民にとって希望そのものだった。
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しかし、歴史はすでに動いていた。義軍の咆哮はただの反乱ではなく、抑え込まれた魂の叫びであり、忘れられた者たちの名を再び天に掲げる雄叫びであった。西国の空に、義の狼煙が本当の「夜明け」となって燃え上がったのである。
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