永劫の誇り – 鹿之助、燃ゆる戦国の灯』

honyarara

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第十五章 残響の礎

残響の礎

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赤根ヶ原の戦は終わった。しかしその余韻は、静かに、確かに、西国の空気を変えていた。戦の勝敗ではなく、そこに「何が示されたのか」が、村人、僧侶、浪人、そして在野の知識人たちの心に深い印を刻んだ。

戦場は多くを語らず、義軍は峠へと撤退した。その動きに毛利方は追撃を選ばなかった。児玉元良は戦後、輝元にこう書き送った。「彼らの振る舞いに、無益なる血を重ねてはならぬ。あれは乱ではなく、一つの問いにございます。」

鹿之介は、負傷兵の手当と各村の安否確認を第一に命じた。敗北ではなく「耐え、示したこと」が勝る戦として。戦に出た農兵の母が言った。「うちの子が戦場で見たのは、槍の先ではなく、人の覚悟じゃったそうな。」

その後、因幡の若き豪族・菅野藤左衛門が、密かに鹿之介と接触する。「かつて尼子に従いし家の名は、貴殿の旗にて再び意味を持つ。我が家、そなたの義に参ず」と。これは初めて“旧敵”が義軍に同盟を申し出た瞬間だった。

また、出雲の寺院では、戦後に兵士たちが詩を奉納した。「義とは名を問わず、声を持たぬ者の光なり」と記されたその一首は、近隣の村々で子供たちに歌として広がったという。

毛利家中でも揺らぎは続いていた。輝元は宍道湖畔の居城で、父・元就の書を再び広げていた。その一節――「武威の世において、道を問う声を蔑ろにすれば、やがてその剣は己を裂く」――を見つめる眼差しは、かつての強者ではなく、治む者としての覚悟を帯び始めていた。
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