永劫の誇り – 鹿之助、燃ゆる戦国の灯』

honyarara

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第十七章 矛盾の檻

矛盾の檻

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「声なき者の国」は広がりを見せていた。出雲・伯耆・因幡の農村では、義軍の名のもとに民が議を立て、小さな自治の灯火をともしていた。だがその光の広がりとともに、鹿之介の胸には一つの重たい影が芽生えていた。

理想を掲げた旗はやがて、力としても扱われるようになる。義軍を名乗りながらも、私欲による略奪に走る者や、民草から崇拝を集めるあまり「絶対の主」として振る舞い始める地方指導者も現れ始めた。「我らこそ義軍なり」と名乗る者が増える一方で、その“義”の形は、鹿之介が掲げたものと少しずつ違い始めていた。

鹿之介はひとり峠の見張り台に立ち、目を閉じる。
「義が剣となるとき、それを振るう手は正しくあらねばならぬ。されど、声なき者の代弁者であるはずの我らが、いつしか“声を持つ者”となり過ぎてはいないか…」

その頃、出雲から鹿之介に一通の訴状が届く。義軍の一部が村の田を徴収しすぎ、飢えが始まっているというものだった。鹿之介はすぐさま兵を派遣し、収穫の見直しと税の減免を命じたが、彼の中には確かな迷いが宿り始めていた。

毛利家ではこの動きを好機と見た老臣たちが進言を始めた。「今こそ揺らぎの義軍に打ち込むべき時。理想が風化する前に、その火を鎮めるのです」
しかし輝元は首を振った。「火を鎮める水は、ただの雨では足りぬ。それが涙にあらねば、命のある火は消せぬ」

義軍内部でも、信念を貫くべきか、現実に合わせるべきか――その葛藤が広がっていた。かつて士農の垣根を越えて結ばれた団結が、役割の違いによって亀裂を見せるようになっていた。誓いを掲げる者たちの間に、「義とは何か」が再び問われはじめる。

鹿之介は再び軍旗の前に立ち、兵に語った。
「義軍とは“声を持たぬ者”の代わりに剣を掲げるもの。我ら自身がその声を握り締めすぎれば、旗は義ではなく覇となる。――今、再び問い直そう。我らは何者か。なぜ立ったのか。何を守るために剣を振るうのか」

その言葉に、兵たちは火を囲んだまま、それぞれの手に持つ剣を見つめた。答えはまだ出ていない。だが、この夜に灯された焔は、再び義の“芯”を探す火となる予兆だった。
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