上 下
22 / 33

十八話 呪われし呪文

しおりを挟む
テボウは、ススリ達の様子を、伺い知る事の出来る、山林より、千里眼の力で、彼等の言葉を紐解き、心を解読し、ニヤケ顔をもらす。

「41回目」、、、「42回」「ススリが、間も無く、石になる」

 「石碑の周りに、転がるしかばねと同様に、惨めに転がり落ちろ」



 桃花は、テボウの言葉を頑なに信じ、ススリを見守り、乾は僅かな希望が有る事を祈り、桃花と、ススリの背中を見つめていた。
 文字の持つ力に、洗脳されたススリには、彼等が祈る様に、見つめている事すら、解る事など無く、何かに取り憑かれたかの様に、頭を上に向け、四十三回目の呪文を読み上げ始める。

 その時、彼等がやっとこの地に、足を運び入れる。
 そう、シゲ達は、クワの匠なる攻撃を、何とか交わし、そして戦いを制し、クワにより受けた傷を、治療する時間すら惜しみ、必死になって、狩人の郷に入り、裏山の中腹部にたどり着き、シゲは、乾達の様子を視界に捕らえ、出来る限りの大声を出す。

 「乾ススリを、その石碑から引き離せーーー」

 乾に声掛けた、この時、ススリは四十四回目の呪文を読み終え様としていた。
 
 「ユリカ目を覚ませーーー」
 洗脳されたススリ脳に、僅かな隙間を掻い潜り、シゲの割れんばかりの、この声が、イヤと言う名の見えぬ矢が、心の芯に辿り着き、突き刺さり、ジワジワと温かいぬくもりを生み、その温もりが、ススリの感情を突き動かす。
そして、瞳を潤し、その瞳より、一粒の涙が溢れ落ちる、、、

 「ほう~、シゲの言葉が、心に届くのか」「確か、ススリは幼き頃より、シゲと共に過ごしたと、聞いた事が有るが、これ程迄とはな」
 「しかし、残念だったなシゲよ、遅すぎた」「ウハハハ、、、」
 

 テボウのこの言葉通り、無情にも、この石碑の文字の力は、衰える事無く、溢れ落ちる涙すら、 石に変え そしてススリを確実に、石の姿へと変貌させる。

 それは乾が、石碑よりススリを、引き離そうと腕を掴んだ、その時の事で、 何の音も無く、静かに一瞬にて、ススリの全身から、温もりを奪いさり、灰色に染めていたので有る。
 そしてこの一瞬出来事に、乾は驚き、一時的に言葉を失う、 ふと我に帰り責任感の強い乾は、うつむき、声を震わせながら「俺には助ける事が、出来た」そう言い、腰が砕けたかの様に、地面に膝を着き、手で顔を覆う、その横で桃花は、大粒の涙を流し続け、唯 立ち尽くしていた。

 そこにシゲ達が、到着するのだが、飛猿と鳥居は、ススリの変わり果てた姿を、目の当たりにし、愕然とし、心を締め付けられ、シクシクと涙する。

 しかしこの状況に於いても、シゲは涙する事無く、やや怒り口調で、皆んなに声をかける、「おいおい、いつまで泣いている」「泣いている暇など、無い」「ススリを、まだ完全に失った訳じゃ無いだろ」シゲは、そう言った物の、ススリを元に戻すすべなど知らない、 しかし今は、無理矢理にでも、皆んなの士気を上げる必死が有った。

 何故ならば、この石碑の有る裏山の尾根は、周囲の山々に囲まれているのたが、その中の何処かで、必ずテボウが、千里眼の力を利用し、こっちを見ていると、シゲは確信していた。

 そしてテボウ達が今動き出し、襲って来れば、全滅はまぬがれ無い、それだけは、絶対に避けなければ、なら無い、シゲは更に皆んなの士気を上げる。
 「いいか良く聴け」「ここはテボウに見張られている」「奴らに襲われ、バラバラにされる、その前に、今よりススリを安全な所迄運ぶ」「俺はススリが石へと姿を変えるその直前に、涙する顔を見た」「ススリは生きている」
この言葉を聞き、彼等は又士気を取り戻す。

 
 テボウは、山林からシゲ達の様子を澄まし見る。
 「シゲの野郎、下らぬ事を長々と」
「奴らが、ススリを何処に運ぶらしい」
「予定には無かったが、これは勝機なる時だ」
「攻撃の人手が減る、その時を狙い打つ」
この時この場所に、待機する鳥鬼は、テボウを含め四羽、いずれも戦いに手慣れた男達で、彼等の眼孔が鋭く研ぎ澄ませる。


 シゲは士気を取り戻す、仲間の顔を見て、彼等に命令を下す。

 「乾と飛猿はススリを抱え、俺に付いて来い」「一旦狩人の郷の広場を目指す」「解っていると思うが、絶対に落とすな」「鳥居は後方護衛を頼む」「桃花は最後尾より、我らの行く手を阻む者を撃ち落とせ」

「以上だ行くぞ」

 乾と飛猿がススリを、ゆっくりと抱きかかえたその時、注意を払い、辺りの山々を眺めていた、桃花は不自然に揺れる、一本の木を見つける。

 先程まで、泣いていた桃花は、瞳に僅かに残る涙を、右手の甲で拭き取り、大きく深呼吸を三度程行い、左手に持つ弓を構え、背中背負うえびらより、一本の矢を手にし、その矢じりに魔力を吹込み、不自然に揺れる一本の木の遥か上空に狙いを定め、渾身の力を込め最良の一と張りを放つ

「驚いた、アイツなんて観察力だ、が しかしその軌道では、この俺様には届く事は、無い」「幾ら爆なる魔力の破壊力が、強くともな」

 桃花は、その矢が届かぬ事など、最初はなから解っていた。
全ては、計算されし一と張り、その矢が落下し始めたその時、桃花は集中し、次の一と張りを放つ、この矢は唸りを一投目の矢じりを目掛けて突き進み、「イケェーー」そして確実にそれを捕らえる。

 すると、一投目の矢じりより爆なる魔力と共に、激しく閃光が、飛び散り、一瞬遅れてボォンと、爆音が響き渡り、その無数の魔力が、金色の閃光に包まれながら、山に突き刺さる。

 「な、何だと」
 この一つ一つの魔力には、さほどの威力は、無い物の、無数に飛び交う、全ての魔力を交わす事など、皆無に等しい、鳥鬼達の、ありとあらゆる筋肉をえぐり取る。

 そして、裏切りし者テボウは、二本の刀を必死に振り回し、致命傷を避け、命を守り、逃げる様に、この地を去る。

 彼等は、この戦いを制する。

この事により、ススリは無事に桃花の家に、保護される事となる。

桃花むすめよ、おそらく石碑に吸い込まれたのは、魂だ」
「一日に一つその魂が、削られる」

「つまりは、後二十二日それまでに、呪われし呪文を解か無ければ、この娘さんは二度と戻って来ない」
「じゃがの桃花、心して聴け」



「解除の呪文を知る者は、もうこの世には、居ない」

「二十二日迄に全ての、悪しき魔力を封印する事が、出来れば、一筋の光が見えるやもしれぬ」


「私、鬼退治に行って来ます。忍びの者と共に」
しおりを挟む

処理中です...