百花征く剣 ~ 殺して奪うか、“えっち”して複製するか ~

凪山キコ

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第一章 アストラニア王国編

025 迷宮の薔薇と地下三十階(1)

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「リディア。アレスはね、こういうのが好きなのよ」

 朝、俺が朝食を作っている間、イレーヌは得意げな顔でリディアに夜の講釈を垂れていた。いや、それ釈迦に説法だから。
 いや「ガチオタに推しトークでマウント」の図に近いかもしれない。にわかのイレーヌが、リディアをガチオタと知らずにマウントを取ろうとしている。
 本物のガチオタは、にわかを否定したりしない。にわかが知らないうちに沼へと引き込み、普通のオタクへ、そしてやがてガチオタへといざなっていくものだ。知らんけど。
 少なくともリディアは初めて聞くような顔で相槌を打っている。やるな、リディア。


 さて、昨晩はスキルレベル上げ以外に、もう一つのことに挑戦していた。「外から見える魔力を抑える」ことだ。
 先日のゾンビのように、大量の魔物が相手になる場合、自分は大丈夫でも周りを巻き込んでしまう。それを防ぐために、魔力を体内で循環させたり瞑想したりして弄っていたら、思いのほかあっさり成功してしまった。もっと早くやればよかった……。
 ともあれ、これでやっとリディアにタンクを任せられる。

 ◇

 予定外に“アリス”と奴隷の二人が先にBランクになってしまったので、俺もそろそろ昇格したい。地下三十階のボスを倒せば昇格できることは知っているが、他にも手段がないのか探すために、今日は朝から冒険者ギルドに来ていた。
 受付のサフィラさんにも相談したが、他に手段が全くないわけではないが、やはり地下三十階をクリアしたほうがいいという結論になった。

「では、地下三十階をクリアしてきますね」

 そう口にした途端、ギルド内がざわつく。なんだ?
 そこへ真っ直ぐ駆けてきた斧娘――ジーナさんだ。久しぶり。

「アレス! お願いがある! うちの〈迷宮の薔薇〉と共同でボス討伐してくれないか!」

 息も整えず一気にまくし立てられて少し引いたが、

「はい。いいですよ」

 と特に問題もないので二つ返事しておいた。
 するとサフィラさんに「本気ですか!?」と驚かれ、さらにギルド内がざわつく。

「あの……うちらも後からお願いってできる?」

 今度は女性だけのパーティが声をかけてきた。初対面だ。

「後日でよければ……仲間と相談して、タイミングが合いそうならご一緒しますよ」

 そう答えると、またしてもギルド中がざわついた。俺、何か変な事言ったかな?

 その後、サフィラさんから地下三十階のボス戦前の特別ルールを聞く。
 どうやら地下三十階のボスは特別扱いらしく、ボス部屋の前の安全地帯に冒険者ギルドの職員とその護衛の冒険者がいるそうだ。ボス部屋に入る前にその職員に参加するメンバーを伝える必要があり、通信の魔道具でその職員から参加者の情報が冒険者ギルドに届く仕組みになっている。この職員は、王都にある四ギルドから一日交代で派遣される。ギルド職員も大変だね。

 そして俺たちのボス討伐は明日になった。ジーナさんたち〈迷宮の薔薇〉の準備が必要なためだ。

「じゃあ今日も休みか。イレーヌ、リディア、どうする?」

「アタシとリディアは〈迷宮の薔薇〉とちょっとお話があるから、夕方まで別行動でもいいかしら?」

「いや構わないけど……じゃ、夕方までに家に帰るってことで」

 急にひとりになってしまった。何しよう。

 元々今日潜る想定もしていたから、ダンジョンアタックの準備は済んでいる。街をぶらつきながら、何かしようと思っていたことはなかったっけ? と記憶を辿る。
 そういえば、『エルセリオン王国』の魔法研究所が作っているという、独自魔法の巻物スクロールを見てみたいと思ってたな、魔法ギルドってどこだっけ? と考えながら歩いていると、俺に近づいて来る“気配”を察知した。ああ、そういやここ“あの店”の前だった。
 その『ローレリン魔道具店』の扉が開いたかと思うと、店主のエルフ、フィリシアさんに拉致されるように店の中に引きずり込まれた。

「また来てねって言ったよね! なんで全然来ないのよ! ずっと待ってたんだからね!」

 フィリシアさんは頬を膨らませて怒っていた。

「すみません。冒険者の仕事で他の街に行ったりしていたもので」

「そう。なら許す!」

 早っ! 怒ってから許すまでの切り替えが早すぎる。
 フィリシアさんは、そそくさと店の扉から外に出たと思ったら、すぐに戻ってきて、扉の鍵を閉めた。え?

「本日は閉店しました。はい、アレス君、こっちこっち」

「ええ!? 真昼間ですよ!?」

 フィリシアさんは俺の手首を掴むと二度と離さないと言わんばかりの力で、店の裏にある建物の二階にある自分の部屋へ引っ張っていった。店を閉めてまで……なかなか強引だ。

「あのう、こんなこと聞いていいのかわからないんですけど……エルフって性欲が強かったりします?」

「そんなことないよ。むしろ人族の中で一番性欲がない種族よ」

 見ているとそうは思えないけど。
 フィリシアさんによると、エルフは寿命が千年と長い分、性欲も少ない種族と言われている。普段は一切ないと言ってもいいらしい。
 ただ、人族の中で、獣人とエルフにだけは“発情期”があるそうだ。獣人なら年に一回か二回、エルフは十年から二十年に一回。

「エルフは子供作るの大変そうですね……」

「そうなの。発情期自体も長くて三日くらいしかないから、夫婦でもタイミングは合わないし。だからその時は〈性魔法〉使うの」

 ああ、〈排卵調整バースコントロール〉で生理を止めるのではなく、逆に排卵させるのか。あれ? そうなると――

「フィリシアさん、今、発情期……じゃないですよね? あれから三日以上経ってるし」

「うん! 発情期は二年前だったから、しばらくないよ! でも、アレス君といると、こうなっちゃうの……」

 そう言って一瞬で服を脱ぐフィリシアさん。俺は夕方まで付き合う羽目になった。

 ◇

 翌日。ダンジョン前で〈迷宮の薔薇〉と合流する。三人とも珍しく緊張していた。地下三十階のボス戦だからか。

「あ、アレス、き、今日はよろしく!」
「お、お願いするわね」
「あ、アレス君!お、お久しぶりです……」

 三人ともガチガチだ。大丈夫か?

「もうイレーヌとリディアのことは知っていると思うから、特に紹介する必要もないよね。じゃ、早速行こうか」

 俺たちは地下二十階へのワープポータルを使い、地下二十一階から地下三十階のボスを目指した。


 ――地下二十一階

 イレーヌとリディアが〈迷宮の薔薇〉の戦い方を見たことがないので、最初の数匹だけ〈迷宮の薔薇〉だけで倒してもらうことにした。
 ちょうど三匹のオークが近くにいるようだ。

「十時方向、角を左に曲がった先に三匹いるよ!」

「全員戦闘配置」

『了解、配置につきます』

 〈念話〉の説明をしていなかったけど、イレーヌもリディアも特に驚かない。昨日のうちに聞いていたのかな。

 先頭のオークはジーナさんが斧で一閃、首を落とす。
 次のオークはティアさんが、両手で持ったバトルメイスで頭を粉砕。
 最後のオークはセレナさんが〈氷魔法〉で頭を貫き瞬殺、あっという間に全滅させた。やはりこのパーティ、強い。
 オークの死体は以前も見せていたので、ドロップに変わる前に俺が収納する。

「だいたいわかったかな? じゃ今日の配置だけど」

 前衛:リディアがタンク。俺とジーナさんが物理攻撃。
 中衛:イレーヌがクロスボウで攻撃。
 後衛:セレナさんが魔法攻撃。ティアさんはセレナさんの護衛兼回復役。

「あら? 今日はアレスに魔物が集中していないようだけど?」

 セレナさんがすぐに気づいた。

「実は外から見える魔力を抑えられるようになったんです」

「そんなことできるのね……さすがだわ」
「すごいです、アレス君……!」

 どうやら〈迷宮の薔薇〉の三人も緊張が解けてきたようだ。なら、ガンガン進んでしまおう。

 最初は軽く〈迷宮の薔薇〉と俺たちの連携練習をしていたが、慣れてくるとやはりというか、俺とイレーヌとリディアはSランク上位相当のスキルレベルなので、オーク相手だと楽勝だ。リディアが堅実にタンクを務めてくれるおかげで、敵の数が増えても、遠隔攻撃が飛んできても崩れない。〈迷宮の薔薇〉も安心して戦えていた。

「タンクがいると、こんなにも楽なのね……」

 セレナさんもタンクの重要性に気づいたようだった。

 そして開始から五時間後、俺たちは地下三十階のボス部屋の前に到達した。
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