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第一章 アストラニア王国編
034 石喰いの巣と赤髪の少女
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今日は朝から『石喰いの巣』、別名《鉱石のダンジョン》へ向かった。
昨日のうちに、この街の冒険者ギルドに異動届を出しておいた。依頼掲示板に並んでいたのは、ほぼすべてが鉱石関連の依頼。採掘でもドロップでも構わないから、とにかく鉱石を持ち帰ってほしいという内容ばかりだった。現在、落盤事故の影響で鉱山が閉鎖されているためだろう。
俺はギルドで地下四十階までのダンジョンマップを受け取っているので、今回も問題はない。ちなみに地下四十一階以降のマップが存在しないのは、誰も到達できていないからだ。もっとも、現状困っていないのなら、到達できなくても問題はないのかもしれない。
ダンジョンの入口は石造りの建物の内部にあった。地下鉄の入口のような階段と、その隣に設置されたワープポータル。構造は王都のダンジョンと同じだった。違いといえば、ここには男娼がいないくらいだ。
早速、ダンジョンに潜ることにする。
――地下一階。
「入った感じは王都のダンジョンと全く変わらないな」
『石喰いの巣』も王都のダンジョンと同じく全五十階層。全体が石造りの迷宮で、地下四十階までは罠が存在しないため、探索は比較的気楽だ。加えて、今は俺の魔力を抑え込めるので、魔物に集中攻撃される心配もない。
「お、さっそく来たか。〈挑発〉」
地下一階から五階にかけて出現するのはクレイゴーレム――いわゆる粘土製のゴーレムだ。粘土製ゆえ、ハンマー以外の武器でも倒すことはできる。ドロップアイテムは陶土で、陶器の材料に使われるため、これを専門に狩る冒険者もいるらしい。最近覚えた〈挑発〉スキルはすでにレベル9まで上がっているので、大抵の魔物は一発でこちらに引き寄せられる。
「よっと」
横殴りに高炭素鋼のバトルハンマーを叩きつけると、クレイゴーレムはあっけなく四散し、ドロップアイテムの陶土が残る。こいつは収納・分解する必要はないだろう。
少し進むと、大勢のドワーフたちが集まるエリアに辿り着いた。部屋自体には何もないように見えるが、ここが銅鉱石や鉄鉱石を採掘できる場所なのだろう。彼らは全員つるはしとマジックバッグを装備し、岩の塊がリポップすると同時に採掘を開始していた。王都のダンジョンと同じく、リポップ待ちの集まりというわけだ。クレイゴーレム程度なら鉱夫でも倒せるため、地下五階までは同じ光景が続くに違いない。
――地下六階。
ここからはウッドゴーレムが出現する。木製のゴーレムで、ドロップアイテムは楢の木材。鞘や木剣などの木工製品に多く使われ、この街でも需要が高いようだ。さすがにこれも高炭素鋼バトルハンマーがあれば難なく倒せる。木材は今後使う可能性があるので、収納・分解しておくことにした。
この階層の採掘エリアもまた、リポップ待ちのドワーフたちで埋め尽くされていた。ウッドゴーレムも鉱夫には十分倒せる相手らしい。だが、俺の目的はアイアンゴーレムなので、ここは通過する。
――地下十一階。
地下十階のボス部屋でウッドゴーレム五体とストーンゴーレムを難なく倒し、ここまで進んできた。以降はストーンゴーレムが出現する。石でできたゴーレムで、ドロップアイテムは岩の塊。鑑定したところ、それは「花崗岩」と呼ばれる建築素材や石像に利用されるものだった。家の修繕などに使えるだろうと判断し、収納・分解することにした。
ストーンゴーレムは鉱夫には厳しいだろうと思いながら採掘エリアを覗くと、意外にもドワーフが多数作業をしていた。ただしここでは冒険者を護衛として雇い、採掘を行っているようだ。コストのかかる方法なので、利用しているのは大手鍛冶屋関連の者たちだろう。空いている採掘エリアはひとつもなかった。
もっとも、俺の目指すアイアンゴーレムは地下二十一階に出現する。しかも二十一階以降は銅や鉄の採掘はできないので、人も減るはずだ。そう考え、先を急いでいると――
「ごめんなさーい! 逃げてー!」
赤みがかったオレンジ色の髪をした少女がこちらに走ってきた。後ろにはストーンゴーレムを五体も引き連れている。
魔物を引き連れて逃げる行為は、ネトゲではトレインと呼ばれ嫌われる行為であり、この現実のダンジョンでもマナー違反。さらに、それを他人に擦り付けるのは、いわゆるMPKと呼ばれる迷惑行為で、この世界では処罰対象となる。
まさにその“MPK”を意図せずとも引き起こそうとしている少女に呆れつつ、俺は擦り付けられた五体のストーンゴーレムをハンマーで粉砕し、全滅させた。
「お嬢さん、これはちょっといただけないな」
「本当にごめんなさい! なんでもするので許してください!」
「今のが処罰対象の違反行為だと知っててやったのか?」
「すみません。必死に逃げていたので、忘れていました……」
身の危険を感じていれば、違反行為の意識など吹き飛ぶだろう。しかも、まだ幼い少女に見える。仕方がないかもしれない。
「ひとりで来たのか?」
「はい……」
百四十五センチほどの小柄な少女が一人で? 試しに〈鑑定〉を行った。
ルビナ・ジャスパーブレスト ドワーフ 二十六歳
鍛冶師見習い
所持スキル:
生活魔法[4]
槌術[1]
鍛冶[1]
革加工[4]
木工[4]
料理[4]
「え!? 二十六歳!?」
思わず声に出してしまった。
「ああ、〈鑑定〉したのね。あたしはドワーフだから、ヒューマンから見れば若く見えるかも」
……マジか。よくて十四歳くらいだと思っていた。しかし〈槌術〉のレベルが低すぎる。この状態でストーンゴーレムに挑むのは無謀だ。
「ルビナ……さん。今のスキルレベルでこの階層は無謀なのでは?」
「わかっているわ。わかっているのよ……でも、鉄鉱石がないと〈鍛冶〉スキルのレベルが上げられないのよ」
「しかし、次にストーンゴーレムに遭遇したらどうするんです? また逃げて他人に擦り付けるつもりですか?」
「……」
無謀さは自覚しているのだろう。鉄鉱石は欲しい、でも迷惑はかけたくない。そんな葛藤をにじませて黙り込んだルビナさんが、意を決したように叫んだ。
「なんでもするので、鉄鉱石の入手を手伝ってほしい! 雇うお金はないけど……何でもするから!」
相手が年上とわかっていても、必死な少女に頼まれているようで断りにくい。切羽詰まっているのも見て取れるし、再びトレインされては周囲にも迷惑が及ぶ。
「わかりました。手伝います。ただ、ストーンゴーレムの採掘エリアは空きがないはずなので、地下十六階のカッパーゴーレムのエリアまで行きましょう」
「あ、ありがとう! あんた、名前は?」
「アレスです」
「アレス! 本当にありがとう!」
まだ何もしていないのに、過剰なほど感謝された。それだけ追い詰められていたのだろう。
俺はルビナさんを伴い、地下十六階を目指した。
――地下十六階。
予想通り、地下十五階までの採掘エリアは護衛を雇った鍛冶屋関連の集団で埋まっていた。だが十六階に着くと――
「おお! 誰もいないよ、アレス!」
ルビナさんは大喜びで採掘を始めた。まあ、本当は俺の〈バッチ処理〉で回収すれば一瞬で終わるんだけど、さすがにそこまではやらなくていいだろう。俺は護衛として、現れるカッパーゴーレムを倒して収納・分解する。銅は武器には向かないが、鍋ややかんなど調理器具の材料に使えるし、俺自身試してみたいこともあるので集めておく。
数体倒して問題がないと判断し、魔力を全開放してゴーレムを全力で引き寄せることにした。
「わわ! なんかゴーレム多くない!?」
「大丈夫です。ルビナさんは採掘に集中してください」
カッパーゴーレムはその大半が銅で構成されており、収納・分解すると一体につきインゴット八十個分にもなる。非常に効率がいい。ただ、正直そこまで銅は必要としていないのだが……暇つぶしにはちょうどいい。
その後、いくつかの採掘エリアを回り、予定量を十分確保できたというので、せっかくだから地下二十階のボスに挑むことにした。
「え!? 地下二十階のボスはアイアンゴーレムよ? あんた大丈夫なの?」
だいぶ俺に慣れたのか、ルビナさんは俺を「あんた」と呼ぶようになっていた。まあ、年下だし当然か。
「大丈夫ですよ。それに戻るより、ボス部屋のほうが近いですし」
俺たちは地下二十階を目指した。
――地下二十階、ボス部屋。
カッパーゴーレム五体とボスのアイアンゴーレム一体。俺が魔力を全開放すれば、ゴーレムはすべて俺に向かってくるので、ルビナさんは安全だ。
「これくらいの! でかい! だけの! やつなら! 楽勝! ですよ!」
そう言いながら、俺はカッパーゴーレム五体とアイアンゴーレム一体を次々に粉砕した。ゴーレムの強さは素材次第。高炭素鋼のバトルハンマーを持つ今の俺には、アイアンゴーレムなど敵ではない。
「す、すごいのね、あんた……」
ルビナさんは感嘆の声を漏らした。まあ、これくらいなら当然だ。
俺とルビナさんはワープポータルで地上へ帰還した。
昨日のうちに、この街の冒険者ギルドに異動届を出しておいた。依頼掲示板に並んでいたのは、ほぼすべてが鉱石関連の依頼。採掘でもドロップでも構わないから、とにかく鉱石を持ち帰ってほしいという内容ばかりだった。現在、落盤事故の影響で鉱山が閉鎖されているためだろう。
俺はギルドで地下四十階までのダンジョンマップを受け取っているので、今回も問題はない。ちなみに地下四十一階以降のマップが存在しないのは、誰も到達できていないからだ。もっとも、現状困っていないのなら、到達できなくても問題はないのかもしれない。
ダンジョンの入口は石造りの建物の内部にあった。地下鉄の入口のような階段と、その隣に設置されたワープポータル。構造は王都のダンジョンと同じだった。違いといえば、ここには男娼がいないくらいだ。
早速、ダンジョンに潜ることにする。
――地下一階。
「入った感じは王都のダンジョンと全く変わらないな」
『石喰いの巣』も王都のダンジョンと同じく全五十階層。全体が石造りの迷宮で、地下四十階までは罠が存在しないため、探索は比較的気楽だ。加えて、今は俺の魔力を抑え込めるので、魔物に集中攻撃される心配もない。
「お、さっそく来たか。〈挑発〉」
地下一階から五階にかけて出現するのはクレイゴーレム――いわゆる粘土製のゴーレムだ。粘土製ゆえ、ハンマー以外の武器でも倒すことはできる。ドロップアイテムは陶土で、陶器の材料に使われるため、これを専門に狩る冒険者もいるらしい。最近覚えた〈挑発〉スキルはすでにレベル9まで上がっているので、大抵の魔物は一発でこちらに引き寄せられる。
「よっと」
横殴りに高炭素鋼のバトルハンマーを叩きつけると、クレイゴーレムはあっけなく四散し、ドロップアイテムの陶土が残る。こいつは収納・分解する必要はないだろう。
少し進むと、大勢のドワーフたちが集まるエリアに辿り着いた。部屋自体には何もないように見えるが、ここが銅鉱石や鉄鉱石を採掘できる場所なのだろう。彼らは全員つるはしとマジックバッグを装備し、岩の塊がリポップすると同時に採掘を開始していた。王都のダンジョンと同じく、リポップ待ちの集まりというわけだ。クレイゴーレム程度なら鉱夫でも倒せるため、地下五階までは同じ光景が続くに違いない。
――地下六階。
ここからはウッドゴーレムが出現する。木製のゴーレムで、ドロップアイテムは楢の木材。鞘や木剣などの木工製品に多く使われ、この街でも需要が高いようだ。さすがにこれも高炭素鋼バトルハンマーがあれば難なく倒せる。木材は今後使う可能性があるので、収納・分解しておくことにした。
この階層の採掘エリアもまた、リポップ待ちのドワーフたちで埋め尽くされていた。ウッドゴーレムも鉱夫には十分倒せる相手らしい。だが、俺の目的はアイアンゴーレムなので、ここは通過する。
――地下十一階。
地下十階のボス部屋でウッドゴーレム五体とストーンゴーレムを難なく倒し、ここまで進んできた。以降はストーンゴーレムが出現する。石でできたゴーレムで、ドロップアイテムは岩の塊。鑑定したところ、それは「花崗岩」と呼ばれる建築素材や石像に利用されるものだった。家の修繕などに使えるだろうと判断し、収納・分解することにした。
ストーンゴーレムは鉱夫には厳しいだろうと思いながら採掘エリアを覗くと、意外にもドワーフが多数作業をしていた。ただしここでは冒険者を護衛として雇い、採掘を行っているようだ。コストのかかる方法なので、利用しているのは大手鍛冶屋関連の者たちだろう。空いている採掘エリアはひとつもなかった。
もっとも、俺の目指すアイアンゴーレムは地下二十一階に出現する。しかも二十一階以降は銅や鉄の採掘はできないので、人も減るはずだ。そう考え、先を急いでいると――
「ごめんなさーい! 逃げてー!」
赤みがかったオレンジ色の髪をした少女がこちらに走ってきた。後ろにはストーンゴーレムを五体も引き連れている。
魔物を引き連れて逃げる行為は、ネトゲではトレインと呼ばれ嫌われる行為であり、この現実のダンジョンでもマナー違反。さらに、それを他人に擦り付けるのは、いわゆるMPKと呼ばれる迷惑行為で、この世界では処罰対象となる。
まさにその“MPK”を意図せずとも引き起こそうとしている少女に呆れつつ、俺は擦り付けられた五体のストーンゴーレムをハンマーで粉砕し、全滅させた。
「お嬢さん、これはちょっといただけないな」
「本当にごめんなさい! なんでもするので許してください!」
「今のが処罰対象の違反行為だと知っててやったのか?」
「すみません。必死に逃げていたので、忘れていました……」
身の危険を感じていれば、違反行為の意識など吹き飛ぶだろう。しかも、まだ幼い少女に見える。仕方がないかもしれない。
「ひとりで来たのか?」
「はい……」
百四十五センチほどの小柄な少女が一人で? 試しに〈鑑定〉を行った。
ルビナ・ジャスパーブレスト ドワーフ 二十六歳
鍛冶師見習い
所持スキル:
生活魔法[4]
槌術[1]
鍛冶[1]
革加工[4]
木工[4]
料理[4]
「え!? 二十六歳!?」
思わず声に出してしまった。
「ああ、〈鑑定〉したのね。あたしはドワーフだから、ヒューマンから見れば若く見えるかも」
……マジか。よくて十四歳くらいだと思っていた。しかし〈槌術〉のレベルが低すぎる。この状態でストーンゴーレムに挑むのは無謀だ。
「ルビナ……さん。今のスキルレベルでこの階層は無謀なのでは?」
「わかっているわ。わかっているのよ……でも、鉄鉱石がないと〈鍛冶〉スキルのレベルが上げられないのよ」
「しかし、次にストーンゴーレムに遭遇したらどうするんです? また逃げて他人に擦り付けるつもりですか?」
「……」
無謀さは自覚しているのだろう。鉄鉱石は欲しい、でも迷惑はかけたくない。そんな葛藤をにじませて黙り込んだルビナさんが、意を決したように叫んだ。
「なんでもするので、鉄鉱石の入手を手伝ってほしい! 雇うお金はないけど……何でもするから!」
相手が年上とわかっていても、必死な少女に頼まれているようで断りにくい。切羽詰まっているのも見て取れるし、再びトレインされては周囲にも迷惑が及ぶ。
「わかりました。手伝います。ただ、ストーンゴーレムの採掘エリアは空きがないはずなので、地下十六階のカッパーゴーレムのエリアまで行きましょう」
「あ、ありがとう! あんた、名前は?」
「アレスです」
「アレス! 本当にありがとう!」
まだ何もしていないのに、過剰なほど感謝された。それだけ追い詰められていたのだろう。
俺はルビナさんを伴い、地下十六階を目指した。
――地下十六階。
予想通り、地下十五階までの採掘エリアは護衛を雇った鍛冶屋関連の集団で埋まっていた。だが十六階に着くと――
「おお! 誰もいないよ、アレス!」
ルビナさんは大喜びで採掘を始めた。まあ、本当は俺の〈バッチ処理〉で回収すれば一瞬で終わるんだけど、さすがにそこまではやらなくていいだろう。俺は護衛として、現れるカッパーゴーレムを倒して収納・分解する。銅は武器には向かないが、鍋ややかんなど調理器具の材料に使えるし、俺自身試してみたいこともあるので集めておく。
数体倒して問題がないと判断し、魔力を全開放してゴーレムを全力で引き寄せることにした。
「わわ! なんかゴーレム多くない!?」
「大丈夫です。ルビナさんは採掘に集中してください」
カッパーゴーレムはその大半が銅で構成されており、収納・分解すると一体につきインゴット八十個分にもなる。非常に効率がいい。ただ、正直そこまで銅は必要としていないのだが……暇つぶしにはちょうどいい。
その後、いくつかの採掘エリアを回り、予定量を十分確保できたというので、せっかくだから地下二十階のボスに挑むことにした。
「え!? 地下二十階のボスはアイアンゴーレムよ? あんた大丈夫なの?」
だいぶ俺に慣れたのか、ルビナさんは俺を「あんた」と呼ぶようになっていた。まあ、年下だし当然か。
「大丈夫ですよ。それに戻るより、ボス部屋のほうが近いですし」
俺たちは地下二十階を目指した。
――地下二十階、ボス部屋。
カッパーゴーレム五体とボスのアイアンゴーレム一体。俺が魔力を全開放すれば、ゴーレムはすべて俺に向かってくるので、ルビナさんは安全だ。
「これくらいの! でかい! だけの! やつなら! 楽勝! ですよ!」
そう言いながら、俺はカッパーゴーレム五体とアイアンゴーレム一体を次々に粉砕した。ゴーレムの強さは素材次第。高炭素鋼のバトルハンマーを持つ今の俺には、アイアンゴーレムなど敵ではない。
「す、すごいのね、あんた……」
ルビナさんは感嘆の声を漏らした。まあ、これくらいなら当然だ。
俺とルビナさんはワープポータルで地上へ帰還した。
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