百花征く剣 ~ 殺して奪うか、“えっち”して複製するか ~

凪山キコ

文字の大きさ
64 / 182
第二章 リーファリアへの道編

059 竜のねぐらと幻想の蝶

しおりを挟む
 エルセリオン地下迷宮――別名《竜のねぐら》。

 そのダンジョンは、王都の南西部に位置していた。
 入口は石造りの建物の中にあり、地下鉄の入口のような階段と、その隣に設置されたワープポータルがある。
 以前、アストラニア王国グラナフェルムで潜った『石喰いの巣』によく似ていた。

 ここは地下二十階までは罠がなく、それ以降は罠が出る代わりに宝箱が現れるらしい。こんな浅い階層から罠があるのは珍しい。さっそく、潜ってみることにした。


 ――地下一階。

 壁も床も天井もすべて石造りで、床と天井が淡く光っているため、迷路の突き当たりまで見通せる。
 見た目はアストラニア王国の王城地下迷宮とまったく同じで、出現する魔物もスライム。
 採取エリアではエルン草が採れるのも同じだった。
 そして、リポップ待ちの冒険者たちで埋め尽くされているのも――やはり同じだ。

 このリポップ待ちの場所は代々受け継がれる“持ち場”のようなもので、勝手に入ると力ずくで追い出されるらしい。そうした文化まで、アストラニア王国の迷宮とそっくりだった。

 俺とエリュシアは、探索よりも踏破が目的だ。余計な寄り道はせず、どんどん進む。


 ――地下六階。

 通路の先に一匹の魔物が現れた。
 灰色の毛並み、犬のような顔をした――コボルトだ。

 背丈は子どもほどで、やや猫背。
 だが、その瞳は驚くほど澄んでおり、洞窟の光を反射してきらりと輝いた。
 耳をぴくりと動かして周囲を探り、鼻先をひくつかせて匂いを嗅ぐ。どうやら俺たちに気づいたらしい。

 小さく吠える声には怯えが混じっていたが、それでも逃げずに踏みとどまる。

 強さはゴブリンと同程度。俺たちにとっては敵ではない。
 ドロップ品は〈コボルトの牙〉で、矢じりなどに使える素材らしい。
 特有スキルはなく、食べても意味がないと伝えると、エリュシアは少し残念そうにしていた。

 この階層から、学生を引率した冒険者の姿が目立つようになった。
 学校の実習だろうか。他では見ない光景だ。

 地下七階では短剣を持つコボルトファイター、八階では各種第一階梯魔法を撃ってくるコボルトソーサラーが登場。
 そして九階には〈呪魔法〉というデバフ特化魔法を操るコボルトシャーマンがいた。
 この世界では“呪い”は呪術ではなく、れっきとした魔法扱いらしい。もちろん、俺も習得しておく。今晩、エリュシアに頼んでスキルレベルを上げさせてもらおう。

 十階のボスは鎧を着たコボルトナイト。
 強敵というほどでもなく、あっさり撃破して先へ進む。


 ――地下十一階。

 通路の奥から、かすかな擦れる音が聞こえた。
 それはやがて、節と節が擦れ合うようなざらざらとした音に変わる。

 闇の中から現れたのは――巨大なムカデだった。
 黒く光る体は艶やかで、うねるように動く。
 無数の脚が地面をかくたび、規則正しい音が洞窟に反響した。

 ここから先は虫エリア。出てきたのは体長五メートルの大ムカデ。

「まだ地下十一階なのに、こんなデカいのが出てくるのか」

 頭部には長い触角と鋭い大顎。噛みつかれると弱い毒を受けるらしい。
 Dランク冒険者には手強い相手だが、Sランク上位相当のスキルを持つ俺たちには雑魚も同然。

 瞬殺して素材を亜空間に収納。得られたスキルは〈毒(牙)[2]〉と〈壁面歩行〉。
 〈壁面歩行〉はすでにあるし、〈毒(牙)〉は使わないかな。

 地下十二階ではジャイアントスパイダーが登場。昨日、森で狩った個体よりかなり小さく、体長一・五メートルほど。
 スキルも〈魔糸操術[2]〉と〈壁面歩行〉のみ。
 ここはDランク帯のエリアなので、弱体化していて当然だろう。これもあっさり撃破。

 地下十三階ではジャイアントビートルが追加。
 体長一・五メートルほどの巨大カブトムシのような魔物で、角を構えて突進してくる。
 しかし飛ぶ個体はおらず、持っていたスキルも〈突進(角)[2]〉と〈壁面歩行〉のみ。

 地下十四階では新たに現れたのが――二メートルを超える蟷螂カマキリ、マンティスウォリアー。
 鋭い鎌の前脚を持ち、かなり好戦的。〈鎌鼬かまいたち〉という風刃攻撃も使ってくる。
 この街のDランク冒険者は本当に苦労していそうだ。

 得たスキルは〈二刀流〉と〈鎌鼬かまいたち〉。〈二刀流〉はすでに持っているし、〈風魔法〉の劣化版のような〈鎌鼬かまいたち〉も使うことはなさそうだ。

 出てくる魔物がどれも巨大で迫力があるが、危険度は高くない。
 そのまま問題なく地下二十階のボス部屋へ到達した。


 ――地下二十階、ボス部屋。

 そこにいたのは、大ムカデ四匹、ジャイアントスパイダー四匹、ジャイアントビートル四匹、マンティスウォリアー四匹――
 そして奥の薄闇に、ふわりと漂う影。

 それは、ジャイアントバタフライだった。

 羽を広げれば三メートル。淡い光を受け、虹色にきらめく。
 ダンジョンの光を映し込み、まるで小さなオーロラが舞うようだった。
 細くしなやかな体は空気に溶けるように浮かび、触角が静かに揺れて魔力の流れを探る。
 羽ばたきはほとんど音もなく、舞い上がる鱗粉が淡く輝く。
 その粉はわずかに甘い香りを帯び、魔法のように幻想的だった。

 暗がりにただ静かに存在し、光のように美しく輝く――それが、このダンジョンのボスだった。

「ほんと、この街のDランク冒険者は大変そうだな」

 取り巻きも一体一体が大きく、圧迫感がある。
 ジャイアントバタフライ自体は攻撃手段が少ないが、舞い上がる鱗粉には〈魅了〉効果があり、囲まれた状態で浴びると危険だ。

 だが、俺は〈全状態異常無効〉を持ち、エリュシアの称号《拳王》も状態異常を八割無効化する。
 まともに食らう前に倒せばいいだけの話だ。

 取り巻きを一掃し、ボスのジャイアントバタフライはエリュシアがグリフォンの爪で両断。
 得たスキルは〈飛翔(虫羽)[3]〉と〈魅了の鱗粉(虫羽)[3]〉だった。


 ボス戦を終えると、ちょうど昼頃。
 次のセーフルームで昼食を取ることにした。

「アレス、全部食うぞ」

 エリュシアが宣言する。虫エリアで倒した魔物を、全種類食べるつもりらしい。
 ジャイアントスパイダーは昨日食べたから、それ以外の魔物だな。

 可食部ってやっぱり足だろうか。それぞれの魔物の足を切り取って〈鑑定〉すると『食用可』と出る。

 足を小さく切り分け、網で焼く。香ばしい匂いが漂うが、ジャイアントスパイダーほどではない。
 味見をしてみたが、食べられなくはない――だが、うまくもない。非常食レベルだ。

 エリュシアに一つずつ食べさせ、変化を確認する。


 ◆大ムカデ――頭に黒く細い角のようなものが生えた。

「エリュシア、それ角じゃないの?」

「うーん、動かせるし……牙、みたい」

 確かに、大ムカデの頭部には毒牙があった。どうやらそれが再現されたらしい。

「それ、使うことあるか?」

「今の戦闘スタイルだと微妙だけど……一応スキルは欲しい」

 ということで、保留していた牙のスキルもすべて、今晩渡すことにした。


 ◆ジャイアントビートル――全身が黒い甲殻の鎧に覆われ、兜には立派な角が生えた。

 触ってみると、硬質な感触。

「悪くないけど、ルビナ鋼には劣るな」

「でもこの角、攻撃できるみたい!」

 角の硬さは鎧以上。攻撃はジャイアントビートルから手に入れたスキル〈突進(角)〉だろう。
 これも欲しいらしいので、後で渡す。


 ◆マンティスウォリアー――両腕が刃に変化。

「エリュシア、それは使わないだろ? グリフォンの爪のほうが強いし」

「だね。これは封印~」


 ◆ジャイアントバタフライ――背中に大きな蝶の羽が生えた。

 見た目は美しいが、飛翔能力は低そうだ。

「この羽、どうする?」

「あの鱗粉、使ってみたい!」

 なるほど。〈魅了の鱗粉(虫羽)〉か。
 戦闘中は使わせなかったから、どんな効果か気になるところだ。
 そうなると〈飛翔(虫羽)〉も一緒に渡しておくべきだな。


 今晩、エリュシアに渡すスキルはかなり多い。
 どれも初期スキルレベルが低く、レベル8まで上げるには時間がかかる。
 全部仕上げるには数日は必要になりそうだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

辺境の落ちこぼれと呼ばれた少年、実は王も龍も跪く最強でした

たまごころ
ファンタジー
村で「落ちこぼれ」と呼ばれた少年アレン。魔法も剣も使えず、追放される運命だった。 だが彼の力は、世界の理そのものに干渉する“神級スキル”だった。 自覚のないまま危機を救い、美女を助け、敵を粉砕し、気づけば各国の王も、竜すらも彼に頭を下げる。 勘違いと優しさと恐るべき力が織りなす、最強無自覚ハーレムファンタジー、ここに開幕!

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

処理中です...