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第二章 リーファリアへの道編
081 その上のレベルと掻き消える巨影
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「アレス、ちょっとこれ見てよ!」
珍しく怒りをあらわにしたヒカルが、一通の封書を俺に突き出してきた。
すでに封が切られている封蝋のついた封筒は、それだけで高価なものだとわかる代物だ。中の手紙を読ませてもらう。
「ふーん。この国、やっぱ頭おかしいだろ」
急激に強くなったヒカルの噂を、王城側がかぎつけたらしい。内容をまとめれば――「勇者として再び迎え入れてやるから、一週間後に王城へ来い」ということだ。
「どうするんだ、ヒカル」
「行くわけないでしょ」
当然だ。ヒカルがこの国から受けた仕打ちは、あまりにも酷い。
「でね、アレス。相談があるんだけど……私たち、この国を出ようと思うの」
ヒカルを含め、〈黎花の翼〉の四人は国を出るつもりでいるようだ。
「なるほどな。それなら、アストラニア王国の王都アルトヴィアに向かうといい。《万紫千紅》の屋敷もあるし、そこのダンジョンを踏破すれば新しいスキルも手に入る」
俺とエリュシアは四日後にリーファリア王国へ旅立つ。同じタイミングで〈黎花の翼〉はアストラニア王国に向かうことになった。
◇
その後三日間、昼間は取り壊し予定の建物の回収を行い、夜は四人を一人ずつ相手し、希望するスキルを一つだけレベル9に上げていった。
リンファは〈身体強化〉、ミリアは〈剣術〉を希望したので、それぞれレベル9に。
「え? 〈技巧(性)〉?」
ヒカルが選んだのは、まさかのそれだった。確かにもう十分強く、魔法も第九階梯など使う機会はまずないのでレベル9にする必要がない。戦闘以外のスキルを選ぶのはわかるが……よりによってそれか。
「だめ?」
上目遣いで言われ、断れるはずもない。
「……わかった。渡す」
こうしてヒカルは誰よりもテクニシャンになった。ただ、知識量ではリディアが圧勝しているので、総合的には互角かもしれない。
そして、エルマは――
「〈料理〉? もうトータルでレベル10だぞ?」
「うーん、なんとなく“その上”がある気がするんだよね」
エルマの〈料理〉はレベル8だが、〈秘伝調理〉の効果で+2されており、〈鑑定〉では『〈料理[10]〉』と表示される。
「ああ、確かにさらに〈鑑定〉すると『〈料理[8+2]〉』って出るな。……上げられるのかもしれない」
試しに〈料理〉をレベル9にしてみると――
「〈料理[11]〉……まさか本当に“その上”があるとは」
レベル10がMAXだと思っていたが、エルマの持つ〈秘伝調理〉のような他のスキルのレベルを上げるスキルさえ手に入れば、トータルで10以上も可能らしい。
もっともその種のスキルは、今のところダンジョンクリア報酬でしか入手できないので、完全に運任せだ。
――そして四日後。
〈黎花の翼〉の馬車は、俺が魔改造しておいた。一見ただの箱馬車だが、〈空間拡縮〉で内部を拡張してあり、中は20LDK+風呂トイレ付きという贅沢仕様。荷物もすべて積み込まれ、屋敷の中は空だ。
屋敷の地下室には転移魔法陣を設置し、屋敷全体には他人が入れないよう魔法陣も付与しておいた。
「この銀の指輪を着けていれば屋敷に入れる。それぞれ専用だから他の人の指輪では入れないからね」
グラナフェルムでエリュシアに渡したものと同じ指輪を、四人に渡す。
するとエリュシアが一歩前に出てきた。
「あ、あのさ、渡すタイミングがわかんなくて今になっちゃったけど……これ、グラナフェルムのお土産」
なんと、エリュシアは〈黎花の翼〉の四人にお土産を買っていた。そういえば、俺が地下室を作っているときに一人で出かけていたな。そのときに買ったのだろう。真っ赤な顔で無造作に袋ごとヒカルに渡したエリュシアは、すぐに俺の後ろに隠れた。
袋の中にはネックレスが四つ。それぞれダイヤモンド、ルビー、サファイア、エメラルドの宝石がついていた。
「ありがとう! エリュシア!」
俺の後ろに隠れていたエリュシアにヒカルが抱きつくと、リンファ、エルマ、ミリアもお礼を言いにやって来た。
「て、てきとーに選んだやつだから、気に入らないかもしんないけど……」
エリュシアの顔は相変わらず真っ赤で、百年以上も森でひとりきりだった影響からか、他者とのコミュニケーションに戸惑いを見せるところがあると俺は感じていた。自分でもどうにかしようとしているのだろうと考えると、そうした不器用さがひどくかわいい、と俺は思う。
それぞれがネックレスを選んで落ち着いたころ、
「今度はいつ会える?」
ヒカルが見上げてくる。
「リーファリア王国の王都セレニアまでは今日中に飛んでいける。帰りには追いつくさ。三、四日後には会えると思う」
「……うん。待ってるね」
ヒカルは俺にキスし、ぎゅっと抱きついた。
続けてリンファ、エルマ、ミリアともキスとハグを交わし、俺たちは屋敷の前で別れ、それぞれ旅立った。
◇
「じゃ、エリュシア頼むよ」
「ああ、任せとけ」
王都西門から外へ出て人目を避け、透明化して飛び立つ。――が、すぐにエリュシアが何かを見つけた。
「アレス、あれ何だ?」
高速飛行の最中、エリュシアが指差す先に巨大な影があった。
「エリュシア、あそこに向かってくれ」
「りょーかい」
近づくと、高さ四メートルほどの城壁に囲まれた町。そして、そのすぐ外側に――壁の倍以上の巨体を持つ単眼の怪物、サイクロプスが立っていた。
「バカな! ここは王都からさほど離れていないはずだぞ!」
灰色の肌は岩壁のように荒れ、盛り上がった筋繊維が縦横に走っている。こんな魔物がなぜこんな場所に?
「〈空間転移〉!」
サイクロプスの後頭部へ転移し、首へ向けロングソードを横薙ぎに――
「……え?」
刃が届く直前、サイクロプスの姿は掻き消えた。
「サイクロプスが〈空間転移〉……?」
周囲を探るが、すでに気配はない。
「どういうことだ……?」
代わりに、城壁の陰に小さな気配がひっそりと隠れているのを察知した。
「アレス、何があったんだ?」
降りてきたエリュシアと合流し、
「わからん。だがサイクロプスはいなくなった。それと……あの陰に誰かいる」
二人で近づくと、五、六歳ほどの少女が震えて隠れていた。
「無事か? どうしてこんなところに?」
「お、おそとに出ようとしたら、でっかいまものに会っちゃって……こ、こわかった……」
少女の名はターリア。木の実を集めるため、ときどきこっそり外に出ていたらしい。
ターリア ヒューマン 六歳
孤児
所持スキル:
生活魔法[3]
「ターリア、とりあえず町に戻ろう。俺たちも一緒に行く」
「ありがとう、おにいさん」
ターリアは町にある孤児院の子らしい。「このあとぜったいおこられる!」と泣きそうに言うので、孤児院まで同行することになった。まあ、俺たちが同行したところで、怒られるのは変わらないと思うが。
町の中は先ほどのサイクロプスのせいで閑散としていた。
慌てて反対側の門から非難した人たちもいるようだが、多くは建物内に隠れているらしい。
外にいるのは武器を持った町の衛兵たちだけで、サイクロプスが突然消えたため、警戒を解いていいのか判断がつかない様子だった。
人の少なくなった町の中を進んで辿り着いた孤児院は、町の教会の敷地内にあった。
「ターリア! どこに行ってたの!」
年配の女性僧侶が飛び出し、厳しい顔で怒鳴る。
「また外に行ったんじゃないでしょうね!」
「ごめんなさい、せんせい! もうしないから!」
俺とエリュシアは完全に置き去りで説教が始まる。もう帰っていいだろうか。
「じゃ、俺たちはこれで」
終わる気配がないのでそのまま去ろうとすると、
「ああ! お待ちください! ターリアを助けてくださって、本当にありがとうございます!」
「いえ、俺たちは何もしていません。連れてきただけですので、お気になさらず。それでは」
それだけ言い、軽く会釈をして立ち去った。
孤児院を立ち去る頃には町も落ち着きを取り戻していた。
町の人の話では、サイクロプスは突然現れたらしい。あれほどの巨体なら遠目でもわかるはずだが、その気配もなく、気づいたら外壁のそばにいたという。
町の人に話を聞いた俺たちは、そのまま町の外に出た。このままこの町にいても何もできないからだ。
するとエリュシアがおそるおそる俺に聞いてきた。
「なあアレス。アタシの気のせいじゃなければ……あのターリアって子、一瞬だけすさまじい魔力を持っていた気がするんだけど」
やはりエリュシアも気づいていたか。サイクロプスが消えた瞬間ターリアが現れ、その瞬間の魔力は俺以上だった。
「だろうな。おそらく――あの子は魔女だ。《驚きの魔女》だろう」
ここは王都から馬車で二時間ほどの牧場の町『フォルデン』。
王都で起きた“裸の王女”や“大きな目玉の魔物”の件も、全部ターリアの仕業だろう。
ここから王都までなら〈身体強化〉がレベル8あれば、走って一時間ほどだ。
〈鑑定〉では〈生活魔法[3]〉しか持っていないと表示されたが、おそらく〈ステータス情報改竄〉でステータスを書き換えているだろう。
そして魔女ならば“魔女化の症状を抑える皮膚”、いわゆるミイラのような見た目のはずだ。今のターリアの姿はありえない――“変身できるスキル”を持っているのではないかと推測している。
「アレス、どうしてそのまま帰したんだ?」
「今のところ、誰も被害を受けていない。ただ驚かせただけだ。……捕まえる必要があるのか、俺には判断できない」
人を驚かせているだけの魔女を拘束すべきかどうか――大迷惑ではあるが、喫緊の課題というわけでもない。
ひとまずターリアには干渉せず、本来の目的であるリーファリア王国へ向かうことを優先した。
ただし念のため、《万紫千紅》へ〈念話〉で魔女の存在を伝えておいた。
珍しく怒りをあらわにしたヒカルが、一通の封書を俺に突き出してきた。
すでに封が切られている封蝋のついた封筒は、それだけで高価なものだとわかる代物だ。中の手紙を読ませてもらう。
「ふーん。この国、やっぱ頭おかしいだろ」
急激に強くなったヒカルの噂を、王城側がかぎつけたらしい。内容をまとめれば――「勇者として再び迎え入れてやるから、一週間後に王城へ来い」ということだ。
「どうするんだ、ヒカル」
「行くわけないでしょ」
当然だ。ヒカルがこの国から受けた仕打ちは、あまりにも酷い。
「でね、アレス。相談があるんだけど……私たち、この国を出ようと思うの」
ヒカルを含め、〈黎花の翼〉の四人は国を出るつもりでいるようだ。
「なるほどな。それなら、アストラニア王国の王都アルトヴィアに向かうといい。《万紫千紅》の屋敷もあるし、そこのダンジョンを踏破すれば新しいスキルも手に入る」
俺とエリュシアは四日後にリーファリア王国へ旅立つ。同じタイミングで〈黎花の翼〉はアストラニア王国に向かうことになった。
◇
その後三日間、昼間は取り壊し予定の建物の回収を行い、夜は四人を一人ずつ相手し、希望するスキルを一つだけレベル9に上げていった。
リンファは〈身体強化〉、ミリアは〈剣術〉を希望したので、それぞれレベル9に。
「え? 〈技巧(性)〉?」
ヒカルが選んだのは、まさかのそれだった。確かにもう十分強く、魔法も第九階梯など使う機会はまずないのでレベル9にする必要がない。戦闘以外のスキルを選ぶのはわかるが……よりによってそれか。
「だめ?」
上目遣いで言われ、断れるはずもない。
「……わかった。渡す」
こうしてヒカルは誰よりもテクニシャンになった。ただ、知識量ではリディアが圧勝しているので、総合的には互角かもしれない。
そして、エルマは――
「〈料理〉? もうトータルでレベル10だぞ?」
「うーん、なんとなく“その上”がある気がするんだよね」
エルマの〈料理〉はレベル8だが、〈秘伝調理〉の効果で+2されており、〈鑑定〉では『〈料理[10]〉』と表示される。
「ああ、確かにさらに〈鑑定〉すると『〈料理[8+2]〉』って出るな。……上げられるのかもしれない」
試しに〈料理〉をレベル9にしてみると――
「〈料理[11]〉……まさか本当に“その上”があるとは」
レベル10がMAXだと思っていたが、エルマの持つ〈秘伝調理〉のような他のスキルのレベルを上げるスキルさえ手に入れば、トータルで10以上も可能らしい。
もっともその種のスキルは、今のところダンジョンクリア報酬でしか入手できないので、完全に運任せだ。
――そして四日後。
〈黎花の翼〉の馬車は、俺が魔改造しておいた。一見ただの箱馬車だが、〈空間拡縮〉で内部を拡張してあり、中は20LDK+風呂トイレ付きという贅沢仕様。荷物もすべて積み込まれ、屋敷の中は空だ。
屋敷の地下室には転移魔法陣を設置し、屋敷全体には他人が入れないよう魔法陣も付与しておいた。
「この銀の指輪を着けていれば屋敷に入れる。それぞれ専用だから他の人の指輪では入れないからね」
グラナフェルムでエリュシアに渡したものと同じ指輪を、四人に渡す。
するとエリュシアが一歩前に出てきた。
「あ、あのさ、渡すタイミングがわかんなくて今になっちゃったけど……これ、グラナフェルムのお土産」
なんと、エリュシアは〈黎花の翼〉の四人にお土産を買っていた。そういえば、俺が地下室を作っているときに一人で出かけていたな。そのときに買ったのだろう。真っ赤な顔で無造作に袋ごとヒカルに渡したエリュシアは、すぐに俺の後ろに隠れた。
袋の中にはネックレスが四つ。それぞれダイヤモンド、ルビー、サファイア、エメラルドの宝石がついていた。
「ありがとう! エリュシア!」
俺の後ろに隠れていたエリュシアにヒカルが抱きつくと、リンファ、エルマ、ミリアもお礼を言いにやって来た。
「て、てきとーに選んだやつだから、気に入らないかもしんないけど……」
エリュシアの顔は相変わらず真っ赤で、百年以上も森でひとりきりだった影響からか、他者とのコミュニケーションに戸惑いを見せるところがあると俺は感じていた。自分でもどうにかしようとしているのだろうと考えると、そうした不器用さがひどくかわいい、と俺は思う。
それぞれがネックレスを選んで落ち着いたころ、
「今度はいつ会える?」
ヒカルが見上げてくる。
「リーファリア王国の王都セレニアまでは今日中に飛んでいける。帰りには追いつくさ。三、四日後には会えると思う」
「……うん。待ってるね」
ヒカルは俺にキスし、ぎゅっと抱きついた。
続けてリンファ、エルマ、ミリアともキスとハグを交わし、俺たちは屋敷の前で別れ、それぞれ旅立った。
◇
「じゃ、エリュシア頼むよ」
「ああ、任せとけ」
王都西門から外へ出て人目を避け、透明化して飛び立つ。――が、すぐにエリュシアが何かを見つけた。
「アレス、あれ何だ?」
高速飛行の最中、エリュシアが指差す先に巨大な影があった。
「エリュシア、あそこに向かってくれ」
「りょーかい」
近づくと、高さ四メートルほどの城壁に囲まれた町。そして、そのすぐ外側に――壁の倍以上の巨体を持つ単眼の怪物、サイクロプスが立っていた。
「バカな! ここは王都からさほど離れていないはずだぞ!」
灰色の肌は岩壁のように荒れ、盛り上がった筋繊維が縦横に走っている。こんな魔物がなぜこんな場所に?
「〈空間転移〉!」
サイクロプスの後頭部へ転移し、首へ向けロングソードを横薙ぎに――
「……え?」
刃が届く直前、サイクロプスの姿は掻き消えた。
「サイクロプスが〈空間転移〉……?」
周囲を探るが、すでに気配はない。
「どういうことだ……?」
代わりに、城壁の陰に小さな気配がひっそりと隠れているのを察知した。
「アレス、何があったんだ?」
降りてきたエリュシアと合流し、
「わからん。だがサイクロプスはいなくなった。それと……あの陰に誰かいる」
二人で近づくと、五、六歳ほどの少女が震えて隠れていた。
「無事か? どうしてこんなところに?」
「お、おそとに出ようとしたら、でっかいまものに会っちゃって……こ、こわかった……」
少女の名はターリア。木の実を集めるため、ときどきこっそり外に出ていたらしい。
ターリア ヒューマン 六歳
孤児
所持スキル:
生活魔法[3]
「ターリア、とりあえず町に戻ろう。俺たちも一緒に行く」
「ありがとう、おにいさん」
ターリアは町にある孤児院の子らしい。「このあとぜったいおこられる!」と泣きそうに言うので、孤児院まで同行することになった。まあ、俺たちが同行したところで、怒られるのは変わらないと思うが。
町の中は先ほどのサイクロプスのせいで閑散としていた。
慌てて反対側の門から非難した人たちもいるようだが、多くは建物内に隠れているらしい。
外にいるのは武器を持った町の衛兵たちだけで、サイクロプスが突然消えたため、警戒を解いていいのか判断がつかない様子だった。
人の少なくなった町の中を進んで辿り着いた孤児院は、町の教会の敷地内にあった。
「ターリア! どこに行ってたの!」
年配の女性僧侶が飛び出し、厳しい顔で怒鳴る。
「また外に行ったんじゃないでしょうね!」
「ごめんなさい、せんせい! もうしないから!」
俺とエリュシアは完全に置き去りで説教が始まる。もう帰っていいだろうか。
「じゃ、俺たちはこれで」
終わる気配がないのでそのまま去ろうとすると、
「ああ! お待ちください! ターリアを助けてくださって、本当にありがとうございます!」
「いえ、俺たちは何もしていません。連れてきただけですので、お気になさらず。それでは」
それだけ言い、軽く会釈をして立ち去った。
孤児院を立ち去る頃には町も落ち着きを取り戻していた。
町の人の話では、サイクロプスは突然現れたらしい。あれほどの巨体なら遠目でもわかるはずだが、その気配もなく、気づいたら外壁のそばにいたという。
町の人に話を聞いた俺たちは、そのまま町の外に出た。このままこの町にいても何もできないからだ。
するとエリュシアがおそるおそる俺に聞いてきた。
「なあアレス。アタシの気のせいじゃなければ……あのターリアって子、一瞬だけすさまじい魔力を持っていた気がするんだけど」
やはりエリュシアも気づいていたか。サイクロプスが消えた瞬間ターリアが現れ、その瞬間の魔力は俺以上だった。
「だろうな。おそらく――あの子は魔女だ。《驚きの魔女》だろう」
ここは王都から馬車で二時間ほどの牧場の町『フォルデン』。
王都で起きた“裸の王女”や“大きな目玉の魔物”の件も、全部ターリアの仕業だろう。
ここから王都までなら〈身体強化〉がレベル8あれば、走って一時間ほどだ。
〈鑑定〉では〈生活魔法[3]〉しか持っていないと表示されたが、おそらく〈ステータス情報改竄〉でステータスを書き換えているだろう。
そして魔女ならば“魔女化の症状を抑える皮膚”、いわゆるミイラのような見た目のはずだ。今のターリアの姿はありえない――“変身できるスキル”を持っているのではないかと推測している。
「アレス、どうしてそのまま帰したんだ?」
「今のところ、誰も被害を受けていない。ただ驚かせただけだ。……捕まえる必要があるのか、俺には判断できない」
人を驚かせているだけの魔女を拘束すべきかどうか――大迷惑ではあるが、喫緊の課題というわけでもない。
ひとまずターリアには干渉せず、本来の目的であるリーファリア王国へ向かうことを優先した。
ただし念のため、《万紫千紅》へ〈念話〉で魔女の存在を伝えておいた。
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