百花征く剣 ~ 殺して奪うか、“えっち”して複製するか ~

凪山キコ

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第三章 エヴァルシア開発編

105 赤き魔法と挑発の一太刀

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 今夜は〈緋桜ひざくら守人もりびと〉の三女、セリーナにスキルレベルアップと新規スキルを渡す予定だ。
 希望するスキルを聞くと、彼女は少し迷ったあとで「小さくなりたい」と言った。どうやら背の高さがコンプレックスらしい。
 ただ、冒険者として見れば、あの体格は恵まれている。セリーナの使う大剣グレートソードは、誰にでも扱える代物ではない。刃幅が広く、構え方次第ではそのまま盾としても使えるほどだ。そう考えると、冒険者としては今の体のほうが向いているとも言えるのだが――本人にとっては別の話なのだろう。

「ふーむ。小さくなる、か。今思いつく魔法は二つあるな。一つは体全体をそのまま小さくする魔法。もう一つは、自分より小柄な人物に変身する魔法だ。もっとも、変身のほうは完全に別人になってしまうが」

「一応、両方試してみてもいいですか? 別人になるのも、他で役立ちそうですし」

「そうか。じゃあ両方渡そう」

 別人になれるのはもちろん〈変身魔法〉だが、単純に体を小さくするほうは、実は〈性魔法〉に分類される。
 第五階梯性魔法〈拡大縮小サイジング〉。この世界では秘匿ひとくされている魔法だ。
 〈性魔法〉なので、本来は体の一部の大きさを変えるために使われる魔法だが、それを全身に適用するとなると、消費魔力はかなりのものになる。
 その点、〈変身魔法〉のほうが魔力消費は少ない。ただし、完全に別人になる、という制約がある。

「じゃ、アレス君……お願いします」

 そう言ったセリーナの顔は真っ赤だった。
 自分より背の高い女性と向き合うのは久しぶりだ。以前はリディアのほうが俺より高かったが、今ではすっかり追いついてしまった。今、《万紫千紅》の中で俺より背が高い女性は、セリーナだけだ。
 彼女は背が高く、大剣グレートソードを振り回す戦士だが、別に太っているわけでもない。体つきはきちんと女性らしい。
 俺は、こういう女性も十分に魅力的だと思うのだが――セリーナ自身はそう思えないのだろう。

「セリーナ、俺はその背の高さ、魅力的だと思っているぞ」

「アレス君……無理して言わなくていいよ」

「いや、本気だって。これからそれを証明する」

 そう言って、俺はいつもどおりセリーナの永久脱毛を済ませ、スキルレベルアップと新規スキルを渡した。


 翌朝。
 今朝も屋敷の外から声が聞こえてくる。朝から走る子供たちだろう。
 〈気配察知〉で人数を確認すると、誰一人脱落せず、全員が訓練を続けているようだった。
 レオンの話では、みるみる体力がつき、剣の腕が上達していくのを全員が実感しているらしく、むしろ楽しそうに訓練しているという。
 〈全スキル経験値アップS〉の効果だろう。確かに、成長を実感できるのは楽しいものだ。ほかの面でも、その調子で頑張ってほしい。

 隣では、セリーナがどこか遠慮がちな様子で眠っている。気にする必要なんてないのに。
 俺は、俺より大きなセリーナに思いきり抱きつき、そのまま二度寝した。
 セリーナの腕が、俺の背中を優しく抱きしめ返していた。



 今日から〈緋桜ひざくら守人もりびと〉と『王城の地下迷宮』の攻略だ。
 俺にとっても、このダンジョンに潜るのは久しぶりになる。
 彼女たちはすでにオークキングまで討伐しているため、開始は地下三十一階から。途中でセーフルームに一泊し、明日にかけて踏破する予定だ。

「さて、まずはナディア。魔法を試そう」

 “赤い魔法”を撃ちたい、というナディアの希望を叶えるため、まずは〈光魔法〉の波長を変化させ、“赤”の性質を持たせてみる。
 波長の説明は少々厄介なので、事前に紙にまとめておいたものを見せた。三姉妹は元々地頭がいいので、ナディアはすぐに理解し、

「――独自魔法――第一階梯光魔法〈紅光矢レッドライトアロー〉!」

 から、

「――独自魔法――第八階梯光魔法〈陽光爆発・紅サンライトバースト・クリムゾン〉!」

 まで、第一階梯から第八階梯まで、すべての階梯で“赤”の独自魔法を作り上げてしまった。

「ナディア、もう一つ“赤い魔法”がある。これも試してみないか」

 俺は、もう一枚用意していた紙を見せる。

「なるほど、〈複合魔法〉ね」

 先日の夜、すでにナディアには〈複合魔法〉を渡している。これでなければ成立しない“赤い魔法”があったのだ。

「ただ、もしかしたらこの魔法は、当たると魔物を燃やしてしまう。もし燃え始めたら、燃え尽きる前に亜空間へ収納したほうがいい」

「わかったわ。やってみる」

 そこへ現れたミノタウロスに向けて、ナディアが魔法を放つ。

「――複合魔法――第五階梯土・火魔法〈溶岩弾マグマショット〉!」

 凄まじい速度で放たれたマグマの弾は、ミノタウロスの体に大穴を穿ち、そのまま飛び続けてダンジョンの壁をわずかに溶かして止まった。

「……すごい威力だな。これ、武具ごと貫通しそうだ」

 試しにミスリルのロングソードを壁に立て、それに向けて撃ってもらうと、当たった部分だけがきれいに消失していた。

「これは……このダンジョンの魔物には、さすがに過剰だな」

 俺はロングソードを亜空間に収め、〈修復(空間)〉で元に戻した。
 ナディアの魔法は、これで問題ないだろう。
 その後も順調に攻略を進め、この日は地下四十六階のセーフルームで野営することになった。

***

 エルマの作り置きの食事を終えたあと、俺は三人に向き合った。

「明日、ダンジョンを踏破したあとの話なんだが……明後日から、午前中に子供たちへ勉強を教えてほしい。大丈夫か?」

 すると、長女のアリエルが即座に答える。

「ええ、問題ないわ。筆記用具や黒板は準備してもらえる?」

「ああ、必要なものは全部用意する。それと――」

 少し言いよどんだが、俺は続けた。

「三人に、追加でスキルを渡したいんだ。〈教育〉ってスキルで、これがあればさらに効率が上がると――」

「ええ! ぜひ、今すぐ!」

 俺が話し終える前に、アリエルは服を脱ぎ始め、すぐにナディアとセリーナもそれに続いた。

「え? いや、ここテントの外だぞ? しかも三人同時なのか?」

 有無を言わせぬ勢いで三人が迫ってきたため、せめてマットだけは床に敷いた。
 そうして三人にスキルを渡した――のだが、彼女たちは止まらず、結局朝まで相手をする羽目になった。

***

 朝、目を覚ますと、左に三女セリーナ、右に長女アリエルが裸のまま抱きついている。
 それだけならまだしも、次女ナディアは俺の両足の上に跨るような形で、下半身付近にしがみついていた。なぜそこに。
 三人にがっちり捕まって身動きが取れない俺は、彼女たちが起きるまで二度寝するしかなかった。

 朝食を終えた俺たちは、二時間も経たないうちに地下五十階のボス部屋へ辿り着いた。
 これまで俺たちがやってきたグリフォン討伐の流れを一通り説明し、今回は三人だけで挑んでもらうことにする。
 取り巻きの魔物は、アリエルのクロスボウとナディアの魔法で瞬く間に一掃され、最後に残ったグリフォンへ――

「〈挑発〉」

 セリーナが〈挑発〉で、標的を自分に固定した。
 凄まじい速度で突っ込んでくるグリフォン。
 セリーナは大剣グレートソードを盾のように構えていたが、衝突の直前、刃先を真正面に向ける。
 勢いを殺しきれなかったグリフォンは、そのまま大剣グレートソードに突っ込み、体を真っ二つにされた。

「〈挑発〉って、そんな使い方もできるのか……」

 俺は素直に感心した。


【貰った称号・スキル】

 アリエル
  称号:《教導者》 授業や指導を行う際、生徒の理解力を飛躍的に高める。また、近くにいる仲間が得られるスキル経験値を五割増加させる。
  スキル:〈指導眼〉 生徒の理解状況を正確に把握し、つまずきの原因まで見抜くことができる。

 ナディア
  称号:《魔導学士》 魔法発動時の消費魔力が半減する。また、他者に魔法を教える際、その理解力を飛躍的に引き上げ、自身が習得している魔法を他者に習得させることができる。
  スキル:〈魔法陣解析[1]〉 目視した魔法陣を瞬時に解析し、魔法の効果・条件・弱点を把握できる。

 セリーナ
  称号:《総武指南》 自身が習得している武術を他者に習得させることができる。対象の体格・筋力・適性を一瞬で見抜き、最適な武技や訓練法を提示できる。また、近くにいる仲間の体力を常時回復する。
  スキル:〈統率[1]〉 部下・仲間の①能力、命令の伝達速度・理解力を向上させる。②士気を維持・上昇させ、精神系デバフへの耐性を付与する。③経験値獲得量とスキル習得効率を向上させる。


 昨晩の「子供たちへの教育」の話が、称号やスキルに如実に反映されている。
 俺は、少しだけ申し訳ない気持ちになった。
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