百花征く剣 ~ 殺して奪うか、“えっち”して複製するか ~

凪山キコ

文字の大きさ
114 / 182
第三章 エヴァルシア開発編

106 王都の店舗と他に類を見ないもの

しおりを挟む
 ダンジョンをクリアし、冒険者ギルドへ報告をしに行った。そのとき、俺の隣にいた三姉妹の次女のナディアが、代表するようにして口を開いた。

「アレス君、私たち、爵位を授かろうと思うわ」

「え? 三人は、すでに男爵家なんじゃないのか?」

「ああ、それは親の話よ。私たちは子供ってだけで、正確には男爵でもなんでもないの」

 貴族の子供が独自に叙爵されることは、珍しいことではないらしい。この三姉妹は家との縁を切りたがっているため、その選択肢を選んだのだろう。
 三人はAランクの金のカードを受け取ったあと、騎士爵叙爵の手続きのため、ギルド長のガルドとともに王城へ向かった。

 ◇

 まだ昼過ぎだったので、俺はエヴァルシア商会の王都店舗を見に行くことにした。

「へぇ……もうオープンできそうなくらい、準備が進んでるな」

 王都の店舗は強化ガラス張りで、中の様子が外からもよく見える。すでに開店できそうなほど整っていることが一目でわかった。
 統一された制服を着た少女たちが、商会長オルヴェナの指示を受け、テキパキと動いている。俺はそのまま店舗の中へ入った。

「オルヴェナ、様子を見に来たよ。もう準備は終わってるように見えるね」

「あら、アレスさん。ちょうどよかったですわ。ご相談したいことがありましたの」

 ……この言い方は、相談という名のお願い、いや、断れない依頼だな。

「店舗の中を、もう少し飾りたいのです。しかも、売上アップにつながるように。それと、お店の看板もまだでして……何か、他にないようなものがないでしょうか? それから、外から見えるガラスですが、少し暗くできません? 午前中は太陽がまぶしいのです」

 なるほど。
 ガラスは薄く青色をつければいいだろう。そう考えて、薄青色の強化ガラスを作ったところ、俺に〈ガラス加工[1]〉のスキルが生えた。
 さらに、先日久しぶりに、過去の転生者が日本語で書き残した技術書――〈タクオの書〉と〈トミサクの書〉を読み返したところ、紫外線カット用コーティング剤の作り方が載っていた。それを強化ガラスに塗布しておく。

「ガラスは、こんな感じでどうだ?」

「はい! ばっちりです!」

 次は、店舗内の装飾か。
 改めて店内を見渡すと、今ある商品はドルガンさんのところの武具と、ターリアたちが作った服の二つのコーナーだけだ。

「最初は武具と服が中心か。でも武具って、知識がないと客に勧めにくいんじゃないか?」

「その点は問題ありません。現在、『ブラスアーム鍛冶工房』に、うちのフィーネを派遣して勉強させております。〈観察眼〉を使えば、その方に最適な武具がわかるそうですよ」

 なるほど、ちゃんと考えている。
 服のほうも、しばらくの間は服飾職人の母娘、エリシアとリリーナが手伝ってくれるらしいし、こちらも〈観察眼〉で十分対応できるそうだ。

「装飾については、思いついたものがあるから屋敷に戻って作ってみる。試作品ができたら見せるよ。それと――俺からもオルヴェナに頼みがあるんだ」

 屋敷に、子供たちが勉強するための教室を作ること、机や椅子、黒板など、必要な備品を買い揃えてほしいことを伝えた。

「あ、それと、弦楽三重奏で使う楽器も買っておいてくれないか」

「楽器ですか? お任せください。今日中に揃えておきます」

 俺は店舗の皆に「頑張ってね」と声をかけ、屋敷へ戻った。

 ◇

 屋敷に戻ると、すぐにリンファへ〈念話〉を送った。

『リンファ、明るいうちから悪いんだが、早急にレベルを上げたいスキルがある。手伝ってもらえないか』

『はい、問題ありません。すぐにアレス様のお部屋へ向かいます』

 リンファは、これまで担当していた奴隷メイドたちへの教育を一通り終えたところだったらしく、今は監視程度で時間に余裕があるそうだ。助かる。
 一時間ほどで〈ガラス加工〉をレベル8まで上げたが、リンファが「もう少しだけ」と言うので、さらに一時間付き合った。

「あ、リンファ。まだ時間があるなら、俺の開発を手伝ってくれないか?」

「ええ、構いません」

 俺は考えていた魔道具をその場で作成し、空き部屋へリンファを連れて行って作業を続けた。

 魔道具が完成する頃、外出していたメンバーが次々と屋敷に戻ってくる。すると商会長のオルヴェナが、

「アレスさん! 試作品、できました? できました?」

 と、かなりの勢いで迫ってきた。

「ああ。夕食後に、みんなに見せるから。それまで待って」

 なだめるようにそう言う。……この人、圧が強い。

***

 食後、さっそくお披露目会だ。

「まずは、これ」

 俺が出したのは、エヴァルシア商会の名前を、元の世界で言うアルファベット表記――“Evalcia”の形にしたネオンサインだった。大きいものと小さいものを一つずつ作ってある。
 一文字ごとに赤、青、緑、ピンク、黄色、白とカラフルにしてあるが、これは「これだけ色を出せる」というアピール用だ。実際に使う色は、店舗側に決めてもらう。

「大きいほうは装飾を加えれば看板になる。小さいほうは店内の飾りに使えるはずだ」

 すると、オルヴェナが質問してきた。

「これは、触っても大丈夫なのですか? それと、魔力源はどこに……?」

「触れないように、周囲に透明な壁を張ってある。魔力源は、メディアとターリアから吸収して、俺の亜空間に保管してある魔力だ。数百年はもつから、気にしなくていい」

 説明を聞いた商人たちは、さっそくネオンサインを手に取り、文字や形の相談を始めた。

「あ、ちょっと待って。もう一つある。たぶん、こっちのほうがすごい」

 そう言って俺は、横百六十センチ、縦九十センチほどの、黒い金属板のようなものを見せた。

「これは……何ですか?」

 オルヴェナが、困惑した表情で尋ねる。

「まあ、見てて。起動するぞ」

 すると、黒い板の中央に『リンファ流短剣術 一の型』という文字が浮かび上がり、やがて消える。
 次の瞬間、暗い背景の中、照明に照らされたリンファの姿が映し出された。

「え……肖像画? いえ、こんな精細なもの、見たことが……リンファさんが、板の中に?」

 画面の中のリンファは目を閉じたまま映っていたが、やがて目を開き、鋭くショートソードを振り抜く。リンファ流の型の動きが、そのまま再現されていく。

「え!? 動くの!? なにこれ!? すごい発明じゃないですか!」

 俺が作ったのは、動画再生機だ。
 これに合わせて、撮影カメラや動画保存バッチ処理、動画保存魔法陣も一通り開発している。
 動画再生機の画面になる一枚板の部分は俺の〈合成(空間)〉スキルで金属でも作れるのだが、撮影カメラのような複雑な形状は難しく、今回はレンズなどの部分以外は木製だ。全部金属にしたら重くなりすぎるので、強化プラスチックのような素材が手に入るまでは、木製で妥協するしかない。

 この試作機の開発中に、〈撮影[1]〉と〈編集[1]〉のスキルも手に入った。この世界で、このスキルを持っているのは、たぶん俺だけだろう。

 しばらくすると、動画再生機から音声が流れた。

『リンファ、ありがとな』
『いえ、これくらい、なんでもありません』

「え!? 音まで出るんですか!?」

 本当は最初から剣を振る音も入っていたが、皆の驚きの声にかき消されていただけだ。

「こ、これ……どうなってるんですか!? ほかのものも映せるんですか!?」

 相変わらず、オルヴェナの圧がすごい。

「撮影して録画すれば、いくらでも再生できる。動画は、このカードに保存する」

 俺は、元の世界でいうクレジットカード大のカードを取り出した。表面には『試験動画1』と〈彫金細工〉で刻まれている。

「一枚につき一動画だ。この再生機には、十枚まで挿せる。十枚入れれば、十本分が順番に再生されて、最後までいくとまた最初に戻る。店内でもいいし、外から見える場所に置いても効果はあるはずだ」

 説明はしたものの、商人たちはすでに、この動画再生機で何を流すか真剣に話し合い始めていた。なぜかルビナまで加わり、自分が広報したい商品の話をしながら、映像内容を相談している。

 すると、オルヴェナが急に振り向いた。

「アレスさん! これ、ダンジョンで魔物を倒す場面も撮れますよね!?」

「ああ、撮れるけど……撮影しながらダンジョンを進むなら、撮影者が相当強くないと無理だぞ」

 撮影する余裕があるほどの実力がなければ、ダンジョンでは危険すぎる。

「あ、オルヴェナ。頼んでいた楽器は買えたか?」

「はい。教室用の机などと一緒に、共有空間へ入れてあります」

 それだけ答えると、オルヴェナは再び話し合いに戻っていった。
 皆が興奮気味に盛り上がっているのを見て、俺は小さく息をつく。

 ――やはり、動画のインパクトは、この世界では絶大だったようだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。 ​「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」 ​「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」 ​「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」

処理中です...