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第三章 エヴァルシア開発編
107 音楽と撮影
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商人四人とルビナは興奮気味に話し合いを始めており、どうやらもう俺の声は耳に入っていないようだった。
なのでそちらはひとまず放置し、俺は共有空間から楽器を取り出すと、アリエル、ナディア、セリーナの三人に声をかけた。
「これで何か弾けそうか? 〈演奏(弦)〉のスキルレベルは上げてあるから、なんとかなるとは思うんだが」
「かなり久しぶりに弾きますからね。初心者向けの曲でよければ、ですが」
アリエル、ナディア、セリーナはそれぞれ、元の世界でいうヴァイオリン、ヴィオラ、チェロに相当する楽器を手に取り、三重奏を奏で始めた。
途端に、室内が静まり返る。
「なんて落ち着く音色……」
「心が洗われるって、こういうことなのね……」
部屋にいる全員が感動に浸る中、やがて三人の演奏が終わった。
「ああ、それともう一つ伝えたかったんだ。こういった音楽を、店内で常に流したいと思っているんだ。曲はこれからアリエルに作ってもらう予定だから、実現は少し先になるけどな。一応、頭に入れておいてくれ」
そこまで言うと、商会長のオルヴェナは完全に大興奮状態になり、
「アレスさん! 最高です! 大好きです!」
そう叫ぶと、勢いよく俺に抱きつき、頬にキスの雨を降らせ始めた。
「ちょ、ちょっと落ち着け、オルヴェナ。周りが見てるぞ」
「あ……申し訳ありません。興奮のあまり、つい……」
オルヴェナが落ち着いたところで、俺は場を締める。
「じゃあ、今日のお披露目はここまでだ。このあと話し合うのは構わないが、明日もあるんだから、あまり遅くならないようにしろよ」
そう言って部屋を出ようとしたが、振り返ると商人四人とルビナはすでにソファを占拠し、続きを始めていた。
どうやら、興奮はまだ冷めそうにない。
◇
昨晩まで〈緋桜の守人〉の三人を相手にしていたが、今晩からは三日間、引き続き彼女たちを相手にすることになっている。理由は以下の通りだ。
① ダンジョン踏破で得たスキルのうち、〈指導眼〉と〈統率〉は、三人とも持っていたほうが子供たちを教育する際に効率が良いこと。
② ダンジョン踏破で得たスキルのうち、〈魔法陣解析〉は、俺自身も欲しいこと。
③ 〈統率〉、〈魔法陣解析〉、〈撮影〉、〈編集〉が、それぞれレベル1のため、スキルレベルを上げたいこと。
④ ナディアの称号《魔導学士》の特性――『自身が習得している魔法を他者に習得させることができる』――を最大限活かすため、ナディアにはすべての魔術系スキルを持たせておきたいこと。
⑤ セリーナの称号《総武指南》の特性――『自身が習得している武術を他者に習得させることができる』――を活かすため、セリーナにもすべての武術系スキルを持たせておきたいこと。
一つのスキルをレベル8まで上げるのに、だいたい一時間ほどかかる。
それでも三人は問題ないと言ったので、三日間まとめて相手をすることになった。
◇
――三日後。
二日目には教室の準備も整ったが、午後からはナディアが魔法を、セリーナが武術を教えることになったため、新たに魔法練習場と、各武術用の木製武器を用意した。
これまで子供たちには、レオンが朝から晩まで〈剣術〉を教えていたが、今日からは午前は教室で勉強、午後は武術か魔法を学ぶというスケジュールに変更となった。
レオンには、毎朝のランニングのみを担当してもらうことになっている。
なお、今年で十三歳以上になる子供たちは入学試験を受けられないが、知識として学んでほしいため、勉強への参加は強制だ。
〈緋桜の守人〉の三姉妹は、もともとAランクに到達し、実家の貴族から独立することを目標にしていた。
それを達成した今、無理に冒険者を続ける必要はないようで、このまま教育者や作曲家、演奏家として生きていくのも悪くない、と話していた。
さて、これまで子供たちが使う部屋は、屋敷の空間を拡張することで対応してきたが、現在の内訳は以下の通りだ。
① 子供たちの男子部屋
② 子供たちの女子部屋
③ 子供たちの食堂
④ 男子トイレ・女子トイレ(一部屋を壁で仕切り)
⑤ 教室
⑥ 魔法修練場
⑦ 撮影スタジオ
⑧ レオンと妻の部屋
⑨ レオンの娘・レイラの部屋
⑩ 転移魔法陣を備えた俺の部屋(主寝室)
⑪ 応接室
もともと十一部屋だったこの屋敷は、すでに限界まで使い切っている。
これ以上部屋を増やすとなると、〈空間拡縮〉で、どこかをさらに拡張しなければ厳しいだろう。
早いうちに拠点をエヴァルシアへ移したいところだ。
◇
一方、セレナたちは現在、旅の途中で合流したノワゼリア侯爵の一団とともに、領都ヴァルグラントへ向かっているという。
エヴァルシアへの到着は、おそらく一週間後になる見込みだ。
ただ、ノワゼリア侯爵の騎士団と模擬試合を行った際、ヒカルの〈剣術〉をいたく気に入った侯爵から、「ぜひ当家の剣術指南を。あわせて騎士団の指導もお願いしたい」と強く懇願されたらしい。
ヒカルはセレナの顔を立てる形で、一年限定という条件付きで了承したとのことだ。その際、ミリアが騎士団の指導を行うことを条件にしたという。
結果として、二人は一年間、冒険者活動ができなくなった。
まあ、仕方ないだろう。
一方、店舗で流す映像を検討していた商人たちとルビナによると、現在の武具の売れ筋は、“ヒカルモデル”と呼ばれる、ヒカルが装備している武具を模した魔物素材ベースの防具セットか、“ミリアモデル”と呼ばれる、ミリアの装備をルビナ鋼で再現した部分鎧セットなのだという。
商会長オルヴェナ曰く、どうしても二人がそれを着用している映像が欲しいらしい。
動きはリンファと同様、一つの型を演じてもらえれば十分だとのことだが――
「で、ですね。こんな感じの映像にしたいんです!」
そう言って差し出されたのは、絵コンテだった。
マジか。こないだ初めて動画を見たばかりのはずなのに、理解が早すぎるだろ。
「そうは言っても、二人は今エヴァルシアに向かっている途中――」
「アレスさんなら、旅の途中のヒカルさんとミリアさんのところへ行って、屋敷に連れ帰って撮影してから、また元の場所まで送り届けられますよね?」
……マジか。
かなり面倒な依頼だが、目力と圧がすごい。
「わ、わかった。一応、ヒカルとミリアの都合を聞いてから調整してみるよ」
「ありがとうございます!」
結局、なんとかするしかない。
その日の午前中のうちに〈念話〉で確認すると、「今すぐでも問題ない。むしろ、領都ヴァルグラントに着くまでの間でないと厳しいかも」と返事が来た。
現在はノワゼリア侯爵の一団と合流しており、警護の人数に余裕があるらしい。うちも見栄え目的で人数を増やして同行しているだけなので、その点は問題ない。
昼食を済ませると、俺はすぐに王都の外でドラゴンの姿になり、ヒカルとミリアを迎えに向かった。
屋敷へ戻ると、商人四人はすでに待ち構えており、
「じゃあ、さっそく撮影しましょう!」
そう言って、二人を着替えさせ、撮影スタジオへ連れて行った。
「ヒカルさん! もっと決意のこもった表情で! もう一度!」
「ミリアさん! さっきの型、このポーズのとき、強敵を前にした感じ出せません? そう、その表情で、もう一回お願いします!」
俺は絵コンテ通りになるようカメラを回していたが、オルヴェナから細かい演技指導が入り、なかなか撮影が終わらない。
途中で夕食を挟み、すべて終わった頃には、すでに夜になっていた。
俺とヒカル、ミリアは体力的には問題なかったが、精神的にはすっかり疲れ切っていた。
「あの商会長さん、なかなかこだわりのある人なのね……」
「こんなに表情を指定されたの、初めてです……」
演者だった二人も、相当疲れたことだろう。
「でも、楽しかったわ」
「私も楽しかったです!」
……そうなのか?
俺だったら、完全にストレスだと思うんだが。
まあ、この後の編集で、さらに細かい注文が来る予感しかしないが……。
「そういえば、二人に渡しておきたいスキルがあるんだ。〈統率〉と〈教育〉と〈指導眼〉なんだが、ノワゼリア侯爵のところで指導するんだろ?」
そう言うと、二人は一気に元気になった。
「ええ、もらうわ!」
「私もいただきます!」
そうして俺の部屋へ行くと、襲いかからんばかりの勢いで二人が迫ってきた。
……結構、元気残ってるな。
結局、そのまま朝まで付き合わされることになった。
なのでそちらはひとまず放置し、俺は共有空間から楽器を取り出すと、アリエル、ナディア、セリーナの三人に声をかけた。
「これで何か弾けそうか? 〈演奏(弦)〉のスキルレベルは上げてあるから、なんとかなるとは思うんだが」
「かなり久しぶりに弾きますからね。初心者向けの曲でよければ、ですが」
アリエル、ナディア、セリーナはそれぞれ、元の世界でいうヴァイオリン、ヴィオラ、チェロに相当する楽器を手に取り、三重奏を奏で始めた。
途端に、室内が静まり返る。
「なんて落ち着く音色……」
「心が洗われるって、こういうことなのね……」
部屋にいる全員が感動に浸る中、やがて三人の演奏が終わった。
「ああ、それともう一つ伝えたかったんだ。こういった音楽を、店内で常に流したいと思っているんだ。曲はこれからアリエルに作ってもらう予定だから、実現は少し先になるけどな。一応、頭に入れておいてくれ」
そこまで言うと、商会長のオルヴェナは完全に大興奮状態になり、
「アレスさん! 最高です! 大好きです!」
そう叫ぶと、勢いよく俺に抱きつき、頬にキスの雨を降らせ始めた。
「ちょ、ちょっと落ち着け、オルヴェナ。周りが見てるぞ」
「あ……申し訳ありません。興奮のあまり、つい……」
オルヴェナが落ち着いたところで、俺は場を締める。
「じゃあ、今日のお披露目はここまでだ。このあと話し合うのは構わないが、明日もあるんだから、あまり遅くならないようにしろよ」
そう言って部屋を出ようとしたが、振り返ると商人四人とルビナはすでにソファを占拠し、続きを始めていた。
どうやら、興奮はまだ冷めそうにない。
◇
昨晩まで〈緋桜の守人〉の三人を相手にしていたが、今晩からは三日間、引き続き彼女たちを相手にすることになっている。理由は以下の通りだ。
① ダンジョン踏破で得たスキルのうち、〈指導眼〉と〈統率〉は、三人とも持っていたほうが子供たちを教育する際に効率が良いこと。
② ダンジョン踏破で得たスキルのうち、〈魔法陣解析〉は、俺自身も欲しいこと。
③ 〈統率〉、〈魔法陣解析〉、〈撮影〉、〈編集〉が、それぞれレベル1のため、スキルレベルを上げたいこと。
④ ナディアの称号《魔導学士》の特性――『自身が習得している魔法を他者に習得させることができる』――を最大限活かすため、ナディアにはすべての魔術系スキルを持たせておきたいこと。
⑤ セリーナの称号《総武指南》の特性――『自身が習得している武術を他者に習得させることができる』――を活かすため、セリーナにもすべての武術系スキルを持たせておきたいこと。
一つのスキルをレベル8まで上げるのに、だいたい一時間ほどかかる。
それでも三人は問題ないと言ったので、三日間まとめて相手をすることになった。
◇
――三日後。
二日目には教室の準備も整ったが、午後からはナディアが魔法を、セリーナが武術を教えることになったため、新たに魔法練習場と、各武術用の木製武器を用意した。
これまで子供たちには、レオンが朝から晩まで〈剣術〉を教えていたが、今日からは午前は教室で勉強、午後は武術か魔法を学ぶというスケジュールに変更となった。
レオンには、毎朝のランニングのみを担当してもらうことになっている。
なお、今年で十三歳以上になる子供たちは入学試験を受けられないが、知識として学んでほしいため、勉強への参加は強制だ。
〈緋桜の守人〉の三姉妹は、もともとAランクに到達し、実家の貴族から独立することを目標にしていた。
それを達成した今、無理に冒険者を続ける必要はないようで、このまま教育者や作曲家、演奏家として生きていくのも悪くない、と話していた。
さて、これまで子供たちが使う部屋は、屋敷の空間を拡張することで対応してきたが、現在の内訳は以下の通りだ。
① 子供たちの男子部屋
② 子供たちの女子部屋
③ 子供たちの食堂
④ 男子トイレ・女子トイレ(一部屋を壁で仕切り)
⑤ 教室
⑥ 魔法修練場
⑦ 撮影スタジオ
⑧ レオンと妻の部屋
⑨ レオンの娘・レイラの部屋
⑩ 転移魔法陣を備えた俺の部屋(主寝室)
⑪ 応接室
もともと十一部屋だったこの屋敷は、すでに限界まで使い切っている。
これ以上部屋を増やすとなると、〈空間拡縮〉で、どこかをさらに拡張しなければ厳しいだろう。
早いうちに拠点をエヴァルシアへ移したいところだ。
◇
一方、セレナたちは現在、旅の途中で合流したノワゼリア侯爵の一団とともに、領都ヴァルグラントへ向かっているという。
エヴァルシアへの到着は、おそらく一週間後になる見込みだ。
ただ、ノワゼリア侯爵の騎士団と模擬試合を行った際、ヒカルの〈剣術〉をいたく気に入った侯爵から、「ぜひ当家の剣術指南を。あわせて騎士団の指導もお願いしたい」と強く懇願されたらしい。
ヒカルはセレナの顔を立てる形で、一年限定という条件付きで了承したとのことだ。その際、ミリアが騎士団の指導を行うことを条件にしたという。
結果として、二人は一年間、冒険者活動ができなくなった。
まあ、仕方ないだろう。
一方、店舗で流す映像を検討していた商人たちとルビナによると、現在の武具の売れ筋は、“ヒカルモデル”と呼ばれる、ヒカルが装備している武具を模した魔物素材ベースの防具セットか、“ミリアモデル”と呼ばれる、ミリアの装備をルビナ鋼で再現した部分鎧セットなのだという。
商会長オルヴェナ曰く、どうしても二人がそれを着用している映像が欲しいらしい。
動きはリンファと同様、一つの型を演じてもらえれば十分だとのことだが――
「で、ですね。こんな感じの映像にしたいんです!」
そう言って差し出されたのは、絵コンテだった。
マジか。こないだ初めて動画を見たばかりのはずなのに、理解が早すぎるだろ。
「そうは言っても、二人は今エヴァルシアに向かっている途中――」
「アレスさんなら、旅の途中のヒカルさんとミリアさんのところへ行って、屋敷に連れ帰って撮影してから、また元の場所まで送り届けられますよね?」
……マジか。
かなり面倒な依頼だが、目力と圧がすごい。
「わ、わかった。一応、ヒカルとミリアの都合を聞いてから調整してみるよ」
「ありがとうございます!」
結局、なんとかするしかない。
その日の午前中のうちに〈念話〉で確認すると、「今すぐでも問題ない。むしろ、領都ヴァルグラントに着くまでの間でないと厳しいかも」と返事が来た。
現在はノワゼリア侯爵の一団と合流しており、警護の人数に余裕があるらしい。うちも見栄え目的で人数を増やして同行しているだけなので、その点は問題ない。
昼食を済ませると、俺はすぐに王都の外でドラゴンの姿になり、ヒカルとミリアを迎えに向かった。
屋敷へ戻ると、商人四人はすでに待ち構えており、
「じゃあ、さっそく撮影しましょう!」
そう言って、二人を着替えさせ、撮影スタジオへ連れて行った。
「ヒカルさん! もっと決意のこもった表情で! もう一度!」
「ミリアさん! さっきの型、このポーズのとき、強敵を前にした感じ出せません? そう、その表情で、もう一回お願いします!」
俺は絵コンテ通りになるようカメラを回していたが、オルヴェナから細かい演技指導が入り、なかなか撮影が終わらない。
途中で夕食を挟み、すべて終わった頃には、すでに夜になっていた。
俺とヒカル、ミリアは体力的には問題なかったが、精神的にはすっかり疲れ切っていた。
「あの商会長さん、なかなかこだわりのある人なのね……」
「こんなに表情を指定されたの、初めてです……」
演者だった二人も、相当疲れたことだろう。
「でも、楽しかったわ」
「私も楽しかったです!」
……そうなのか?
俺だったら、完全にストレスだと思うんだが。
まあ、この後の編集で、さらに細かい注文が来る予感しかしないが……。
「そういえば、二人に渡しておきたいスキルがあるんだ。〈統率〉と〈教育〉と〈指導眼〉なんだが、ノワゼリア侯爵のところで指導するんだろ?」
そう言うと、二人は一気に元気になった。
「ええ、もらうわ!」
「私もいただきます!」
そうして俺の部屋へ行くと、襲いかからんばかりの勢いで二人が迫ってきた。
……結構、元気残ってるな。
結局、そのまま朝まで付き合わされることになった。
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