百花征く剣 ~ 殺して奪うか、“えっち”して複製するか ~

凪山キコ

文字の大きさ
142 / 182
第三章 エヴァルシア開発編

134 職人たちと再生の始まり

しおりを挟む
 ようやくルビナが、重い口を開いた。

「あたしがドルガンさんの弟子になって、しばらくしてからね……王都のドワーフの鍛冶師たちに嫌がらせを受けるようになったの。最初は無視されるとか、その程度だったんだけど……だんだんエスカレートしていって……最近は、毎日工房に石を投げ込まれていて、あたしも何度か襲われたりもしたわ。返り討ちにしたけど」

 そんなことが起きていたなんて、ここのところずっと工房に顔を出していなかった俺は、まったく気づいていなかった……。

 俺は黙ったまま、工房の中へと足を踏み入れた。
 最近はここで武具の販売をしていなかったとはいえ、店のカウンターは無残に破壊されている。さらに奥の工房部分も、完全に壊されていた。
 もはや、鍛冶ができる状態ではない。

「ドルガンさん……なぜだ。なぜ俺に言わなかった。これ、全部……俺がルビナを弟子にしてくれって頼んだからだろ?」

 しばしの沈黙のあと、ドルガンが口を開いた。

「アレス、勘違いすんじゃねぇ。ワシがルビナを弟子と認めたんだ。ワシが決めたことだ、お前には関係ない。それによ……ルビナは、ワシがこれまで見てきた中で最高の鍛冶師になった。ワシの見立てすら超えたんだぞ? こんな嬉しいことがあるか」

 ドルガンは満面の笑みでそう言った。
 それでも、きっかけが俺であることは間違いない。
 そして――もう、ここで鍛冶を続けることはできないだろう。

「ドルガンさん……エヴァルシアに引っ越さないか?」

「はあ!? アレス、まさか同情してるんじゃねぇだろうな!? ワシはこの程度、なんともないわい!」

「違う。そうじゃない。エヴァルシアには、腕のいい鍛冶師が必要なんだ。ドルガンさん……どうか、俺たちを助けてくれ」

 俺は、深く頭を下げた。

「ふむ……仕方ないのう。そこまで言うなら、しばらくエヴァルシアで工房を構えてやってもいいぞ。どうせ販売は、エヴァルシア商会に丸投げしとるしな。鍛冶ができるなら、場所などどこでも構わん」

 俺はドルガンと、固く握手を交わした。
 これで、エヴァルシアの鍛冶は安泰だろう。

 工房内のものはすべて持っていくというので、壊されていた鍛冶道具や高温溶融炉を亜空間へ収納し、俺のスキルで新品同様に修理した。

「工房の建物自体は、どうします?」

「ああ、壊されたまま、ここに残しとけ。ワシらが夜逃げしたと思えば、奴らも少しは溜飲が下がるだろうよ」

 正直、納得はいかなかったが、ドルガンがそう言う以上、俺はそれ以上何も言わなかった。

「しかし……ワシの酒を奪われたのが、一番悔しいのう……まだ半分は残っておったのに……」

「ドルガンさん。実はな、あの酒はまだ試作品なんだ。本格的に売る予定の酒は、あれよりも、もっと美味い」

「……うそだろ、アレス。あれより美味い酒があるのか!?」

「もう、できているんじゃないかな」

「試飲は!? 試飲はできるのか!?」

「どうかなぁ」

「アレス……年寄りをいじめるもんじゃないぞ」

 あんな出来事があったというのに、いつの間にか俺たちは笑っていた。
 そして三人並んで、エヴァルシアへの転移魔法陣がある王都の《万紫千紅》の屋敷へ向かって歩いていった。

 ◇

 ドルガン、ルビナと共にエヴァルシアへ到着した頃には、すでに昼を過ぎていた。
 屋敷で昼食を取っていると、メディアが戻ってきた。午前中だけで、冒険者ギルドの建物は完成したらしい。

 ちょうどよかったので、午後から新しい《ブラスアーム鍛冶工房》を、南東の生産区に建ててもらうことにした。

「ああ、そういやドルガンさん。言い忘れていたんだけど、ヒューマンの鍛冶師が六人いるんだ。弟子にできないか?」

「アレス。ワシは、ルビナ以外を弟子にする気はないぞ。それにヒューマンじゃろ? お断りじゃ……ああ、そうじゃな。ルビナ、お前が教えろ」

「ええ!? あたしがですか!?」

「人に教えるのも、勉強になる。やってみろ」

「……わ、わかりました」

 どうやら、ルビナが教えることになったようだ。
 俺はルビナに声をかけた。

「そういうことなら、ルビナに渡したいスキルがある。今晩、俺の部屋に来てくれ」

「……わかった」

 ルビナは、少しだけ頬を赤らめた。

 明日からヒューマンの鍛冶師はルビナに任せるとして、今日は工房がまだ無いため、ドルガンもルビナもやることがない。
 メディアに工房の希望を一通り伝えると、二人は同じ生産区にある酒蔵へ試飲しに行った。

「酒蔵の仕事の邪魔になるようなら出禁にする」

 そう言ってあるので、大人しくしているだろう。


「……そういや、木工の工房も作る必要があるな」

 大工の件をセレナに任せたまま、飛び出してきたことを思い出し、俺は〈念話〉を送った。

『セレナ。大工たちの木工工房って、作ってもいいんだよな?』

『あ、アレス。ええ、生産区に作ってもらって大丈夫よ。ただね……あの人たち、ちょっと厄介なの』

『何かあったのか?』

 話を聞くと、避難計画の各回で、二人ずつ大工が選ばれていたという。
 第六次までで十二人。そのたびに、どこかの棟梁と弟子の二人が選ばれていたため、今ここには元棟梁が六人もいるらしい。

『みんな自分たちのやり方を主張して、まとまらないのよ。最悪、最初から六つの工房が別々に動くことになりそうだわ』

『今のエヴァルシアで、大工の仕事はほとんどないぞ。六つの工房に回せるほどの仕事が出るのは、かなり先だ』

『そうなのよ。とりあえず、十二人が一つの工房で働く前提で建てておいて。この話、もう少し相談したいことがあるから』

『わかった。工房だけ作っておく』

 と言っても、亜空間から建物を出すだけだが。
 木工工房に使えそうな建物を生産区に設置し、俺は屋敷へ戻った。


 ――セレナの執務室。

「ああ、アレス。さっき〈念話〉した大工の話なんだけど……その中に、女性二人組の大工がいるのよ。その二人の精神的ダメージが、かなり深刻みたい」

 てっきり全員男性だと思っていた。女性もいたのか。

「二人とも腕っぷしが強かった分、かなり貴族に抵抗したみたいでね。アレスが助けた時、手首から先と足首から先が欠損していた女性、いなかった?」

 ……いた。
 首輪に鎖をつけられ、ほとんど動けない状態にされていた女性が二人。
 被害者だと即座に判断し、〈完治2エクストラヒール・セカンド〉をかけたのを、はっきり覚えている。

「その二人を“治療”してもらうついでに、スキルレベルアップとスキル複製をお願いしたいの」

「ああ……なるほど。その二人を、残りの大工に負けない実力にして、仕切ってもらうわけか」

「その通りよ」

 しかし……七年にわたる凌辱に、身体の欠損。
 精神的なダメージは、かつてのリディアに近いものがあるかもしれない。

「……何度も言っているかもしれないが、俺の“治療”は、今のところ上手くいっているだけだ。保証はないぞ? 今回も――」

「それでも、何もしないよりはマシよ。治る可能性があるのなら、試すべきでしょ?」

 ……確かにな。
 やるしかない。

 ◇

 今夜はルビナとも約束していたため、夕食後すぐに部屋へ来てもらった。

「すまないな。治療対象の女性が、まだ何人も残っているみたいで……こんな形になってしまった」

「いいの。気にしないで。スキルを貰えたら、楽になるのはあたしなんだから」

「ありがとう、ルビナ」

 俺はルビナに、〈統率〉〈教育〉〈観察眼〉〈指導眼〉を複製した。

「ありがとう、アレス。……今度は、できれば朝まで一緒にいてね」

「ああ。次までに、被害者の治療は終わらせておくよ。……それと、よかったら俺にも鍛冶を教えてくれないか? 細かな部品を金属や魔物素材で作りたいときがあるんだ」

「ええ。アレスなら、いつでも教えてあげる。時間があったら来て」

 そう言って、ルビナは自分の部屋へ戻っていった。

 時計を見ると、まだ寝るには早い。
 俺はリビングで紅茶を飲むことにした。

 リビングに行くと、セレナがソファに座っていた。

「おう、セレナ。お疲れ。例の大工の二人は、これから呼びに行くのか?」

「ああ、もう来てるわよ。ただ、イレーヌが〈美療〉でリラックスさせるって言って、さっき自分の部屋に連れていったわ」

 ……あの、元の世界でいうエステのようなスキルか。
 肌や髪、体型まで整えるらしいが、体型ってどうやるんだ? もはや魔法に近いな。

 セレナによると、今夜の治療のために呼ばれた二人は、震えが止まらないほど怯えていたという。
 本来は気が強そうな女性らしいが、七年という年月は、それほど重い。

 男は怖いものだ――そう恐怖を植え付けられ、支配され続けられたら。
 どんなに強い心も、きっと折れてしまうのだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

辺境の落ちこぼれと呼ばれた少年、実は王も龍も跪く最強でした

たまごころ
ファンタジー
村で「落ちこぼれ」と呼ばれた少年アレン。魔法も剣も使えず、追放される運命だった。 だが彼の力は、世界の理そのものに干渉する“神級スキル”だった。 自覚のないまま危機を救い、美女を助け、敵を粉砕し、気づけば各国の王も、竜すらも彼に頭を下げる。 勘違いと優しさと恐るべき力が織りなす、最強無自覚ハーレムファンタジー、ここに開幕!

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

処理中です...