百花征く剣 ~ 殺して奪うか、“えっち”して複製するか ~

凪山キコ

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第三章 エヴァルシア開発編

137 書体と教育

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 その後、俺は王都にある商会の店へと足を運んだ。

「あら、アレスさんが店に来るなんて、めずらしいですね」

 商会長のオルヴェナはそう言って、俺を店内へ招き入れてくれた。店内で流れている映像は、以前と変わらぬ内容のままのようだ。

「オルヴェナ。以前、エルフの従業員で〈作画(書体)〉のスキルを持っている女性がいただろ? その人に、文字のデザインを頼みたいんだ」

「構いませんけれど、何に使うのですか?」

「俺以外の人でも編集できるように、動画編集機を魔道具として作ろうと思っている。デザインしてもらった文字は、テロップに使いたいんだ」

「なるほど! それでしたら、ぜひ作らせましょう! すぐに呼んできますね!」

 オルヴェナはそう言うと、さっそく担当のエルフを呼んできてくれた。そこで俺は、セリフ体(日本語フォントでいう明朝体)と、サンセリフ体(日本語フォントでいうゴシック体)がどのようなものかを説明し、それぞれ作ってもらうことにした。

 この世界で使われている文字は、アルファベットに近い体系だ。数字や記号を含めても、五十種類ほど作れば足りるのはありがたい。もし日本語のように、ひらがな、カタカナ、漢字を併用する世界だったら、そもそもフォントを作ろうなどとは思わなかっただろう。

 フォントデザインの依頼を終えた俺は、エヴァルシアにある自分の部屋に引きこもり、まずは動画編集機の設計に取りかかった。機械部分はどうしてもドルガンとルビナに任せることになる。実際に作るのは、動画編集アプリのようなものだが、パソコンの存在しない世界だ。そのため、専用のボタンやスライダーを備えた機械の上で、専用アプリを動かすイメージになる。

「ボタン周りの設計自体は大したことないけど……魔法陣のほうが相当複雑になりそうだな……」

 機械部分の設計は夕食前までに終わったため、ルビナには先にその依頼を出しておいた。しかし、魔法陣の構築には、どう見積もっても数日はかかりそうだ。

 ◇

 夕食後、リディアは三人の女性を俺の部屋へ連れてきた。
 ダークブラウンの髪を肩口まで伸ばし、鋭い目つきをしたロゼリア。
 赤茶色の髪をポニーテールにして背中へ流しているマルティナ。
 そして、銀髪のショートカットで寡黙な雰囲気をまとったブリジット。

 一見したところ、“治療”が必要そうには見えないが……ロゼリアが口を開く。

「団長。団長が言うから来ましたけど……正直、アレスがアタシたちを“治療”どころか、満足すらさせられないと思いますよ?」
「私も、まったく同意見です」
「あたしもそう思う」

 三人そろって、辛辣な評価だ。
 まあ、無理もない。ロゼリア、マルティナ、ブリジットは三十一歳で、俺は十七歳だ。こんな小僧に何ができる、という感想になるのも当然だろう。するとロゼリアが、ふと思い出したように言った。

「あ、そうだ! アレス、若返らせられるんだよな!?」

「見た目だけだぞ。寿命が延びるわけじゃない」

「それでいい! アタシたちも若返らせてよ! 団長より一つ年下くらいがいい!」

 団長より一つ下……となると十六歳か。別に問題はないが、と思いながらリディアを見る。

「私がこの子たちより若い見た目なのが、やりづらいらしいです。若返らせてもらってもいいですか?」

 リディアがそう言うのなら仕方ないか。一応、ロゼリアたちには忠告しておく。

「しばらくは知り合いの女性に囲まれることになるぞ? 俺は、元避難民全員を若返らせるつもりはないからな?」

「そこはなんとかする! 団長より若くして!」

 俺は三人に〈年齢調整エイジシフト〉を施し、見た目を十六歳へと変えた。幼さと整った美しさが同居した、美少女が三人誕生してしまった。

「避難生活で厳しくなっていた目つきも、すっかり消えたな。三人とも、すごい美少女だ」

「はあ!? アレスみたいな小僧が、生意気言ってんじゃないわよ!」

 そう言い返したロゼリアだったが、顔は真っ赤だった。俺はリディアに視線を向ける。

「この三人を“治療”するとして、スキル構成はどうする?」

「三人とも剣を使いますので、〈剣術〉主体の前衛構成でお願いします。それと、今後部下を付ける可能性もありますので、〈統率〉や〈教育〉も付与してください」

「了解。じゃあ――って、もしかしてリディアも“治療”に参加するのか?」

「はい。夜の教育も兼ねて、“お手本”を見せるつもりです」

 ……本気か。リディアはこういうことに、まったく躊躇がない。恥ずかしいという感覚はないのだろうか。最初に“お手本”を見せられた三人は、顔を真っ赤にして言葉を失った。そのまま、いつもの全身脱毛からの“治療”、スキル複製へと進んだのだが――

「ま、待ってアレス! これ以上は――」

「ロゼリア、まだ全部のスキルを渡していないぞ? それに、俺じゃ満足できないんだろ?」

 三人とも似たようなことを口にしたが、俺は有無を言わさず、予定どおりスキルを付与した。これ以降、三人が俺に歯向かうことはなくなった。

 ◇

 翌朝。

「アレス、ありがとう……もしよかったら、またお願いしたい」

 顔を真っ赤にしながらそう言い残し、ロゼリアは逃げるように部屋を出ていった。マルティナも、

「わ、私も……またお願い」

 と、一見落ち着いた仕草で部屋を後にしたが、やはり顔は真っ赤だった。最後に残ったブリジットは、突然俺に抱きついてきて、

「アレス……次も、お願いね」

 そう囁き、キスをして去っていった。

「リディア、これで本当によかったのか? “治療”はできたみたいだけど、その代わりに、俺に依存する人間を増やしている気がする……今後も“治療”を続けるとして、全員を相手にし続けるのは無理だぞ?」

「その点はセレナも懸念しています。今のところは、ランク付けによって差別化する方針のようです」

「ランク付け?」

「はい。エヴァルシアへの貢献度によってランクが上がり、《万紫千紅》の上級メンバーになれれば、ローテーションに組み込まれるそうです。一般メンバーでも、たまにローテーションに入れるようにはするとのことですが……まずは一般メンバーになることを目標にしてもらう、と」

 どうやら俺は、いつの間にか目の前にぶら下げられる“ニンジン役”になっていたらしい。

 ◇

 昨日から学校の建設に取りかかっていたメディアだが、すでに校舎は完成しているという。屋敷のように複雑な設計にする必要がないため、学校程度の規模であれば、大きな建物でも一日かからないらしい。本日は〈緋桜ひざくら守人もりびと〉の三姉妹を含む教師陣と、孤児院の子供たちで、机や黒板など学校に必要な備品を設置していく予定だ。

 また、メディアは学校の隣に、武術練習場と魔術練習場を今日中に作るつもりらしく、担当教員であるナディア、セリーナと相談していた。セレナは昨夜、住民の代表者を集め、二日後からエヴァルシア小学校を開校すること、満六歳から満十二歳までを義務教育として通わせること、授業は午前中のみとすること、午後からは希望者に武術や魔術を教えることを伝えたという。なお、武術と魔術については、満十五歳までであれば誰でも参加可能だそうだ。

 農業区の人々は、子供も貴重な労働力として数えているため、当初は渋ったらしい。しかし、子供たちが読み書きや計算を身につけることで得られる具体的な利点をセレナが丁寧に説いた結果、最終的には全員が納得したとのことだった。

 つまり、明日からこの小学校には、エヴァルシアに暮らす子供たちが一斉に集まることになる。定期馬車の一部は、“通学馬車”として利用される予定だ。
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