百花征く剣 ~ 殺して奪うか、“えっち”して複製するか ~

凪山キコ

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第四章 モノ・インフィニティ編

150 回復魔法と二つの姿

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 他の建物も見て回ったが、特に目ぼしいものは見当たらなかった。
 ただ一つ気づいた点がある。食事をした形跡が残っていたのは、女性たちが捕まっていた建物だけだった。
 ゴブリンたちは、捕らえた女性を生かしたまま維持するため、意図的に食事を与えていたのだろう。

(できるだけ多くのゴブリンを産ませるため、か)

 集落を囲っていた木の板を除き、すべてを亜空間へと格納する。
 続けて、外に出していた客車を〈空架障壁スペースシールド〉で覆い、そのまま透明化した。
 安全を確保したうえで、俺は客車の中に入る。

(さて、女性たちの治療をしよう)

 まずは新人冒険者の女の子三人だ。
 見たところ三人の怪我は、手首と足首の腱、それから全身にできた擦り傷だが、独自魔法・第八階梯回復魔法〈完治2エクストラヒール・セカンド〉を使い、悪いところはまとめて一気に治しておく。
 やはり、この魔法は便利だ。

 下着にも一部損傷が見られたため、一度亜空間に収納し、新品に作り替えてから、眠ったままの彼女たちに着せた。

(この子たちが元々着ていた装備がわからないな。倉庫にあった装備は一応、新品同様に修理しておいたが……)

 装備の素材は、このあと俺が使う予定なので、そちらはもらうことにする。
 代わりに、エヴァルシアの『ターリア服飾工房』で作られている既製服の中から、サイズが合いそうなものを選び、それぞれに着せておいた。

(こういう共有空間にはアクセスできるんだよな……取り出せるだけでもありがたい)

 ちなみに、エルマが作り置きしている料理が保管されている共有空間も、取り出すこと自体は可能だった。
 食事に困らないというのは、正直かなり助かる。

 続いて、すでに被害に遭っていた女性五人だが……。
 〈完治2エクストラヒール・セカンド〉によって、痩せ細っていた身体は健康的な状態まで回復した。
 だが、精神的な傷までは治療できていない。

(問題はここからだな。俺は今、ゴブリンだ)

 どうしたものかと考えた末、ひとまずこの五人は眠らせたままにしておき、新人冒険者の三人だけでもダンジョンから脱出させることにした。
 俺は客車の外へ出ると、透明化したままの客車を〈念動サイコキネシス〉で浮かせ、階段のある場所まで移動した。


 階段エリアに到着すると、新人冒険者の女の子三人と、毛布に包まれた少年二人の遺体を外へ運び出し、大きな板の上に乗せた。
 そのまま板ごと〈念動サイコキネシス〉で浮かせる。

(――独自魔法――第一階梯回復魔法〈覚醒アウェイク〉)

 三人の女の子が目を覚ますのと同時に、板を階段エリアへと移動させ、静かに着陸させた。
 俺はこのエリアに入れないからだ。
 なお、階段エリアも採取エリアと同様、物を置いていてもダンジョンに取り込まれない特殊な場所である。

「んっ……え? 何でここにいるの?」

 目を覚ました女の子たちは混乱していたが、少なくとも階段の場所にいることは理解したようだった。

「え? 何これ?」

 俺は彼女たちの近くに、あらかじめ用意しておいたメッセージを書いた板を置いておいた。

『この階段を登れば地上で合っていますか? もし武器が必要なら、この場で「武器をくれ」と叫んでください。近くの毛布に包まれているのは、あなたたちの仲間だと思われる少年です。すでに亡くなっていたため、ここまで運びました。できれば地上に戻って応援を呼び、この遺体を運んでもらってください』

 それを読んだ三人は、きょろきょろと周囲を確認したが、俺も客車も透明化したままなので、こちらに気づくことはなかった。
 毛布の中身を確認したあと、何やら短く相談し合い、三人は何も言わずに階段を登っていった。

(やはり、この先は地上か)

 あとは応援を呼んで、遺体の回収もしてくれるだろう。
 そう判断し、俺は再び、先ほど集落があった採取エリアへと客車とともに戻った。

 採取エリアに戻った俺は、客車を着陸させる。

(このエリアなら、客車を出したままでもダンジョンに取り込まれない。今後は採取エリアを基点に活動することになりそうだ)

 客車に入り、リビングで紅茶を淹れて、少し休憩する。

(そういえば、俺、今どんな姿なんだ?)

 ミノルにゴブリンにされたことは知っていたが、具体的な姿はまだ確認していなかった。
 気になった俺は、亜空間の共有空間から姿見の鏡を取り出し、オスの“レッドキャップ”である自分の姿を映してみた。

 鏡に映ったそのゴブリンは、場違いなほど整った黒い髪を持っていた。
 本来なら、粗く短い体毛しか生えないはずの頭部に、人の子どもを思わせる黒髪が自然に伸びている。
 絡まりもなく、埃や泥に汚されてもいないその髪は、柔らかく光を吸い込むように揺れていた。
 緑色の肌も、不思議なほど清潔だ。傷や垢は見当たらず、均一な色合いを保っている。
 薄く開いた口元からは、白く尖った牙が覗いていた。
 笑っているわけでも、威嚇しているわけでもない。ただ無意識に露わになったその牙が、紛れもなくゴブリンであることを静かに主張している。
 オレンジ色の瞳には、獣じみた衝動ではなく、知性を思わせる冷ややかな光が宿っていた。

(髪の毛があるゴブリン、か……目立つな。早いうちに帽子を作って被ったほうがよさそうだ)

 続いて、メスの“ゴブリンセインテス”へと姿を変え、再び鏡を見る。

 淡い金髪が、柔らかな光を帯びて肩先まで流れていた。
 顔立ちはヒューマンとほとんど変わらず、整った輪郭に小さな鼻、やや大きめの瞳が愛らしい印象を与えている。
 無表情でもどこか幼さを残した可憐さがあり、初見ではゴブリンだと気づかない者もいるだろう。
 だが、唯一――耳だけが違っていた。
 頭の両脇から伸びるそれは、ゴブリン特有の大きさと形をしており、先端が鋭く尖っている。
 金髪の隙間から覗くその耳が、この少女が人ではないことをはっきりと示していた。
 華奢な体つきはヒューマンの少女そのものだが、静かに佇む姿には、どこか人外特有の気配が滲んでいる。
 ――可愛い。確かにそう感じてしまう。
 それでも、鏡に映るのは紛れもなくメスのゴブリンだった。

(こちらの姿のほうが、相手を警戒させずに済みそうだな。人前に出るときは、こちらにしよう)


 さて、残した五人の女性をどうするか。
 間違いなく精神的な治療が必要だが、今の俺の姿はゴブリンだ。このままでは、まったく意味がないだろう。

(拘束して目隠しをして行えば……意味はあるだろうか? 襲われているとしか思われない気もするが……)

 それでも、少なくとも〈獅子王の心ライオンハート〉は渡しておきたい。
 急激に強くするのは混乱を招きかねないため、俺のスキルをレベル9にする形で治療することにする。
 再びオスの“レッドキャップ”の姿へ戻った俺は、自分の股間にあるものへと視線を落とした。

(なぜゴブリンになって身体は小さくなったのに、ここだけ同じサイズなんだ……)

 明らかに不釣り合いなほど、立派なものがついていた。

 治療として効果がなかった場合、単に俺のスキルレベルが上がるだけになってしまう。
 だが、試してみるしかない。

 俺は一人ずつ、〈部分収納パーシャルストレージ〉で手足を拘束し、顔の周囲を〈空間規制スペースレギュレイション〉で囲って視界を遮る。
 そのうえで〈覚醒アウェイク〉で女性を起こし、〈獅子王の心ライオンハート〉を渡し、俺のスキルの一つをレベル9へと引き上げていった。

***

 かなり泣きわめかれることを覚悟していたが、結果はそれとは違った。
 いつもの治療と同じように、特に大きな混乱もなく終わったのは不思議だった。
 おそらく、状況を理解させる前に始めたのがよかったのだろう。

 俺の〈火魔法〉〈水魔法〉〈土魔法〉〈風魔法〉〈闇魔法〉は、すべてレベル9になった。
 さらに、〈剣術[4]〉〈槍術[4]〉〈体術[4]〉〈盾術[4]〉を、それぞれの女性が所持していたため、複製させてもらうことにした。
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