百花征く剣 ~ 殺して奪うか、“えっち”して複製するか ~

凪山キコ

文字の大きさ
163 / 182
第四章 モノ・インフィニティ編

154 消えた魔物と託された手紙

しおりを挟む
 夕方まで上空から調査した結果、階段のある入口を中心に配置が見えてきた。太陽と思われる天体が昇る方向を東とした場合、北にはゴブリン、北東にオーク、東には何もおらず、南東にミノタウロス、南にアンデッド、南西にオーガ、西に狼、そして北西に悪魔の集落が存在していた。
 魔物の種類によって集落の様子は大きく異なる。狼のエリアは土に穴を掘った程度の簡素なものだったが、ゾンビや悪魔の集落には石造りの、いかにも頑丈そうな建物があった。
 さらに、ゴブリンエリアと東の空白地帯を除き、それぞれのエリアの奥からは一つずつ大きな魔力を感じ取れた。東には反応がなく、なぜかゴブリンエリアだけは二つの反応があった。
 違和感を覚え、フレデリカの言葉を思い返していると、俺は一つの種族だけ見ていないことに気づいた。

 コボルトだ。

 フレデリカはこう言っていた。「これまでに倒されたのは、コボルトの王だけだ」と。
 もしこの迷宮特有の仕様で、王を倒すことで、その種族の魔物が出現しなくなるのだとしたら――。
 だが、それではオーブを集められなくなる……あ! もしかして!

 あの魔力反応は、オーブなのではないか。

 この仮説が正しければ、コボルトの王から奪われたオーブを所持している者たちが、ゴブリンエリアにいることになる。そして、その者たちは次にゴブリンキングを狙っている可能性が高い。

(そうなると、コボルトのオーブを持っているのはSランク冒険者パーティということになるな。何も考えずに近づいていたら、殺されていたかもしれない……このダンジョンは、冒険者同士を戦わせるつもりなのか)

 あくまで仮説に過ぎないが、ゴブリンエリアの大きな魔力に近づくときは、細心の注意を払う必要がありそうだ。


 さて、救助した三人の女性の治療だが、手順はフレデリカたちのときと同じだ。
 一人ずつ〈部分収納パーシャルストレージ〉で手足を拘束し、顔の周囲を〈空間規制スペースレギュレイション〉で囲って視界を遮る。そのうえで〈覚醒アウェイク〉を使用して目を覚まさせ、〈獅子王の心ライオンハート〉を渡し、俺のスキルの一つをレベル9まで引き上げていった。

(お? 〈隷属魔法〉を持っている!)

 三人のうち一人が〈隷属魔法〉を所持していたため、ありがたく複製させてもらった。
 今回の治療によって、〈剣術〉、〈体術〉、〈盾術〉がすべてレベル9に到達し、元のスキルレベルと並んだことで封印も解除された。
 三人分の治療を終えても時間に余裕があったため、今日撮影した映像を編集し、完成した動画を複数の動画保存カードに保存した。そのうち一枚を、レオンに貸しているマジックバッグの亜空間へ入れておく。
 中には、以前俺が書いた手紙が、まだそのまま残っていた。――やはり、気づいていないらしい。

 ◇

 翌朝。
 フレデリカたちのときと同様に、ベッドのそばには白いガウンとスリッパ、そしてメッセージを書いた板を用意しておいた。俺はメスのゴブリンの姿になり、リビングで待機する。
 起きてきた三人は、やはり俺の姿を見て驚いていたが、下着、服、靴も大人しく選び、着替えてくれた。
 朝食はエルマの手によるものだったため、今回も大好評だ。そのおかげで警戒心も、かなり和らいだように見える。

 食後、今回も筆談でいくつか質問を投げかけた。
 代表して答えてくれたのは、この女性たちのパーティでサブリーダーを務めているというリリスだった。

 彼女は、雪のようにきめ細かな白い肌を持ち、赤茶色の長い髪を静かに流していた。その所作の一つひとつからは落ち着きが感じられ、ダークブラウンの瞳は常に冷静で、感情よりも理を優先しているようだった。整った顔立ちは紛れもなく美人だが、そこにあるのは軽薄さではなく、知性の陰影だ。言葉を交わす前から、思慮深く状況を見極める人物であることが伝わってきた。

 リリスの話によると、彼女たちは元々、男性三人を含めた六人パーティだったという。だがオークに襲われた際に散り散りになり、男性三人の行方は分からないそうだ。オークに捕らえられてから、すでに半年が経過しているらしい。

「で、私たちに頼みたいことって何?」

 俺は、彼女たちにもエヴァルシアへ俺の所在を伝えてもらおうと考えていた。ただし今回は、手紙という形にする。昨晩作成した動画保存カードも同封してある。

「なるほど。エヴァルシアの領主に手紙を届けるクエストってわけね。でも……たとえ手紙を渡すだけでも、国境を越えてアストラニア王国に入るのは、かなり厳しいかもしれないわ」

 俺は急いで黒板に文字を書いた。

『もし国境を越えられなければ、この手紙をエヴァルシアのセレナに届けるよう、国境警備隊の人に渡してください』

「わかったわ。できるだけやってみる。……それと、私も一つ聞きたいんだけど。昨晩、私の部屋にいた男性は、どこに?」

 その反応はフレデリカたちと同じだった。この依頼を完遂すれば会える、と伝えると――。

「「「絶対に届けてみせる!」」」

 三人そろって、鼻息荒く宣言してくれた。
 やはり、この“治療”には、対象を俺に依存させてしまう副作用があるらしい……。


 集落の倉庫にあった装備を新品同様に修理して見せると、三人分の装備も揃っていたため、それぞれのギルドカードとともに返却した。依頼料の前払いとして金貨二百枚を渡し、ダンジョンの入口まで送り届ける。

「絶対、この手紙を届けるから!」

 大きな声で俺にそう言ったリリスたちは、勢いよく階段を駆け上がっていった。


 さて、まだ昼前だ。どこかのエリアを攻略するとしよう。
 ゴブリンエリアの左隣、北西に位置する悪魔エリアにはサキュバスがいる。あの魔物を使えば、スキルをレベル10まで引き上げられるが、魔法系はすでに火、水、風、土、闇、聖、空間がレベル9、回復、生活、性はレベル10に達している。
 〈隷属魔法〉だけがレベル3なので、これを優先的に上げたいところだが……。
 一方、物理系は〈短剣術〉と〈身体強化〉がレベル10のため、“レッドキャップ”として戦う分には問題ない。アレスに戻ったときのことを考え、生産系スキルも含めて多くをレベル10にしたい気持ちはあるが、今はそれよりも解放したい封印があった。

 〈呪魔法〉だ。

 〈呪魔法〉を使えるようになっただけでは、俺自身の封印が解けるわけではない。しかし第五階梯呪魔法〈禁能呪カースバンスキル〉を使えば、敵のスキルを封印できる。
 強敵を想定した場合、相手のスキルを一つでも封じられるのは大きい。ミノルが使っていた独自魔法を併用すれば、時間はかかるものの、すべてのスキルを封印することも可能だ。この魔法は、ぜひとも入手しておきたい。

(となると……最初に狙うのはアンデッドだな)

 『エヴァルシア迷宮』が『アンデッド迷宮』だったとき、そこに出現したネクロマンサーとリッチは〈呪魔法〉を所持していた。少なくとも、どちらかは存在しているはずだ。

(〈聖魔法〉もあるし……いや、〈光魔法〉がない)

 〈聖魔法〉ではアンデッドを消滅させてしまい、スキルを取得できない。

(くそっ。先に〈光魔法〉を入手する必要があるのか。これから救助する冒険者が持っている可能性もあるが、それに期待するのは現実的じゃない……ハイプリーストがいる魔物は――オークか)

 アストラニア王国の『王城の地下迷宮』にいたオークハイプリーストは〈光魔法〉を持っていなかった。しかし、ここのオークは、『王城の地下迷宮』にいたオークが持っていなかった〈槌術〉を所持しているなど、別個体である可能性が高い。オークハイプリーストが〈光魔法〉を持っている可能性に賭けるしかない。

 俺は北東――オークエリアへと向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

辺境の落ちこぼれと呼ばれた少年、実は王も龍も跪く最強でした

たまごころ
ファンタジー
村で「落ちこぼれ」と呼ばれた少年アレン。魔法も剣も使えず、追放される運命だった。 だが彼の力は、世界の理そのものに干渉する“神級スキル”だった。 自覚のないまま危機を救い、美女を助け、敵を粉砕し、気づけば各国の王も、竜すらも彼に頭を下げる。 勘違いと優しさと恐るべき力が織りなす、最強無自覚ハーレムファンタジー、ここに開幕!

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

処理中です...