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2章 夕陽に満たされて
7話 午前〇時の灰かぶり 3
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自慢できるようなモノであれば、わたしじゃなくてもいい。いわば、アクセサリー。そういう扱いには慣れている。むしろ、そういう扱いでいい。愛なんて儚いものの方がよっぽど信じられない。
化粧室に立ち、スマホを見れば、いつもどおりのメッセージが並ぶ。男たちから送られてくるメッセージはいつだって同じ。仕事のメールのように事務的に定型文を返すわたしは、どこかずっと空っぽのまま。空っぽだとわかっているから、それを埋めるように意味のない出会いばかりを繰り返して、男たちの賞賛の言葉で隙間を埋める。
それでも小心者のわたしは一夜限りの関係なんてものは結べなくて、新しい一人の男に決める勇気もなくて、結局全ての男をかわして、この男の元に戻ってきてしまう。両手にいくつもの紙袋を抱えるわたしを見て、余裕のある微笑みを浮かべるこの男。
「卓也……」
相変わらず、人に害を与えることなんてなさそうな顔。善良、その言葉がぴったりだ。整えられた髪にオーダーメイドのイタリア生地スーツは、相手に隙を感じさせない。
「綾乃、今日の弁護士はどうだった?」
「……どうして弁護士だってわかるのよ」
「綾乃のことならわかるよ」
おもむろにわたしの腕を掴んで力任せに引き寄せるから、わたしの体は勢いのままに卓也の胸にぶつかった。
「弁護士と会ってうんちく聞かされて、疲れましたって顔してる」
「どんな顔よ」
「どうせ勉強だけをしてきたお坊ちゃんだろ。綾乃のこと何も知らないんだな」
——あなたはわたしのことがわかるの?
なんでもわかっていると言いたげな顔を見つめても、欲しい言葉は返ってこない。
どうして、そんな顔ができるのよ。結婚を前提にお付き合いをしてほしいって言う人だっている。いますぐに結婚してほしいって言う人だっているのよ。わたしを欲しいって言ってくれる人がたくさんいるの。
それなのに、目の前の男は少しも気にしてくれない。綾乃もイイ女になってきたねなんて、気持ちなんてひとかけらもないくせに、わたしに口付けて抱き締める。口の中にタバコの苦みが広がって、体がその香りに包まれる。
わたしを捨てたくせに。わたしを傷つけたくせに。
この男に抱かれる度、深く暗い海の底に沈む。緑なのか青なのかもわからないほどに濁って、太陽の光なんて届かないそこには、なにも存在しない。熱を帯びた体が、胸の冷たさを際立たせて、頭の中だけがより静かになっていく。より深く、それこそ体内にまで侵入しているのに、触れあう距離に人間がいるのに、少しも温かくない。
高級ホテルの高層階は、静まり返ってなんの音も聞こえない。どうしようもない虚無感だけがそこに存在している。あの時と同じように、真っ黒な天井を見つめながら。この男ともう一度一緒に過ごすことができたなら、そう毎日のように願っていたはずなのに。
化粧室に立ち、スマホを見れば、いつもどおりのメッセージが並ぶ。男たちから送られてくるメッセージはいつだって同じ。仕事のメールのように事務的に定型文を返すわたしは、どこかずっと空っぽのまま。空っぽだとわかっているから、それを埋めるように意味のない出会いばかりを繰り返して、男たちの賞賛の言葉で隙間を埋める。
それでも小心者のわたしは一夜限りの関係なんてものは結べなくて、新しい一人の男に決める勇気もなくて、結局全ての男をかわして、この男の元に戻ってきてしまう。両手にいくつもの紙袋を抱えるわたしを見て、余裕のある微笑みを浮かべるこの男。
「卓也……」
相変わらず、人に害を与えることなんてなさそうな顔。善良、その言葉がぴったりだ。整えられた髪にオーダーメイドのイタリア生地スーツは、相手に隙を感じさせない。
「綾乃、今日の弁護士はどうだった?」
「……どうして弁護士だってわかるのよ」
「綾乃のことならわかるよ」
おもむろにわたしの腕を掴んで力任せに引き寄せるから、わたしの体は勢いのままに卓也の胸にぶつかった。
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「どんな顔よ」
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——あなたはわたしのことがわかるの?
なんでもわかっていると言いたげな顔を見つめても、欲しい言葉は返ってこない。
どうして、そんな顔ができるのよ。結婚を前提にお付き合いをしてほしいって言う人だっている。いますぐに結婚してほしいって言う人だっているのよ。わたしを欲しいって言ってくれる人がたくさんいるの。
それなのに、目の前の男は少しも気にしてくれない。綾乃もイイ女になってきたねなんて、気持ちなんてひとかけらもないくせに、わたしに口付けて抱き締める。口の中にタバコの苦みが広がって、体がその香りに包まれる。
わたしを捨てたくせに。わたしを傷つけたくせに。
この男に抱かれる度、深く暗い海の底に沈む。緑なのか青なのかもわからないほどに濁って、太陽の光なんて届かないそこには、なにも存在しない。熱を帯びた体が、胸の冷たさを際立たせて、頭の中だけがより静かになっていく。より深く、それこそ体内にまで侵入しているのに、触れあう距離に人間がいるのに、少しも温かくない。
高級ホテルの高層階は、静まり返ってなんの音も聞こえない。どうしようもない虚無感だけがそこに存在している。あの時と同じように、真っ黒な天井を見つめながら。この男ともう一度一緒に過ごすことができたなら、そう毎日のように願っていたはずなのに。
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