Repair ~TS転生して奴隷になったけど、日本に戻れました~

豊科奈義

文字の大きさ
6 / 49
第一章

第六話 全てを擲って

しおりを挟む
 ヘムカと別れた父親は、急いで燃える家屋を見つけた。中に入ってみると、その側では泥酔状態でない者が必死に救助しているのかと思っていたが予想以上に少ない。特に若者に至っては非常に少なく救助に躍起になっているのは中年以上ばかり。
 まだ未来のある若者は、村の外に避難させられたのだ。
 茅葺屋根は激しく燃えているものの、柱や梁といった基幹部分は火の粉を浴びとろ火程度で済んでいる。しかし、木材を簡単に組み合わせただけであり耐久性、耐火性ともに全く頼りがいがない。助けたらすぐにでも脱出しなければならない。

「おい、大丈夫か?」

 片っ端から叩き起こそうとするが、やはり起きない。
 ヘムカに言わせれば酸欠だと言うのだろうが、そこまで科学の発展していないこの村では、なぜか意識がないということになる。
 だが、そんなことどうでもいい。問題はいかに早く彼らを助けるかだった。
 彼らの肩を強く揺さぶったりして意識を確認するが、起きる気配はない。父親は彼らを上げるなり、すぐに家から脱出した。
 丁度全員を外に運んだ所で家屋が炎によって一気に崩れ落ちる。全壊はしていないが、入り口に炎上している梁が落ちてきており入るのは危険だった。間一髪、彼らを助けられたことに父親は安堵した。
 改めて次はどうしようかと辺りを見渡すが、違和感を覚えた。辺りに誰もいないのだ。一応、父親が助けた者たちは父親の足元に倒れているが、それを除けば辺りに人っ子一人いない全員逃げたのだろうと憶測し妙な胸騒ぎに警戒を緩めていると、助けた幹部の一人が動き始めた。

「……ん? あれ?」

 幹部の一人はゆっくりと瞼を上げ、辺りを見渡し事態の把握に努める。

「なんじゃこりゃ!?」

 気が動転し、思わず大声を出してしまう。

「し、静かに」

 目が覚めたら外に運ばれており、目の前で家が燃えている。驚くのも無理はなかった。父親はそんな彼の心情を読み解くと、ただ一言念押しする。

「人間に放火された。恐らく、皆は避難しているはずだ」

 状況を説明するなり、彼は動揺したのか急いで逃げてしまった。

「さて、こいつらも……ん?」

 未だに意識がない村人をどこかに隠そうとするも、誰かからの視線に気がついた。急いで近くの影に隠れながら、遠くの様子を見る。そこにいたのは、大勢の武装した人間の兵士だった。槍を構えている兵士が多いが、中には腰に短剣を構えた弓兵もいた。
 燃える建物の明かりで見えた彼らは、一箇所に固まり笑いながら何かをしているようだった。
 兵士が話していたのは、密閉魔法についてだ。空気の流動を抑える魔法だが、機動性はよくなく攻撃力そのものもないため使い勝手が悪い。けれども、屋内に使えば中を密閉でき不完全燃焼を起こせるすぐれものだった。

「ん? どこだここ」

 父親はその兵士の会話自体は聞けていないが、意識を失っていた村人たちが徐々に目覚め始め、無事に逃げられそうだということに心理的に楽になる。
 光源は村の中心部にあるため、村から離れれば離れるほどに見つかる可能性は低くなる。兵士たちがよそ見をしている間が絶好の機会だった。

「今だ」

 間隙を縫い、父親たちは村からだいぶ離れることに成功した。途中見つかるかもしれないという不安もあったが、幸いにも見つからなかったようだ。
 兵士が見えず、炬火が辛うじて目視できる場所まで来ると村人たちは現地解散だ。父親の次の目的はヘムカたちとの合流になる。出来れば今の内に見つけて家族揃って逃げたいものだ。けれども、この暗さでは合流のしようがない。諦めて今は逃げることに徹しようと考えていたときだった。
 亜人の少女の、甲高い叫び声が聞こえた。
 村から外れすっかり安心しきった父親は、すぐに面持ちを変化させた。

「今のってまさか……」

 父親が、震えながらに声を出した。
 しかし、間違いはなかった。叫び声の正体、それはヘムカの叫び声だった。
 そう思うと、勝手に体が動き始める。急いで娘たちを守らなければと。
 父親は兵士の視界に入ることなどまるで気にせずに、草原を駆け巡る。案の定兵士にも見つかってしまったが、そんなこと構っていられないのだ。
 そして父親は今まさにヘムカたちに襲いかかろうとする兵士たちを発見した。ヘムカの父親は、その兵士たちに迷わず突進を開始する。
 それに気づいた兵士はすぐに臨戦態勢を整え、ヘムカたちも目の前の敵を優先する。
 憤怒に身を任せているヘムカの父親といえども、狩りの経験のみで軍事経験はない。ヘムカの母親も同様だ。
 兵士に襲いかかっても大勢の兵士の前では分が悪かった。
 そして、そんな父親の行動を、眉を顰めて見る人間がいた。彼は武器を持たず、ただ目の前で繰り広げられる戦いを見ていた。

「……この娘の親ですかね」

「どうかしましたか? ライベ指揮官?」

「いや、何でもありません。できるだけ殺してはいけませんよ」

 そう言って彼──ライベは別の場所へと向かった。
 けれども、指揮官が一人別の場所に行った程度で何か状況が変わるわけではない。

「お前たち、逃げろ」

ヘムカたちは、父親のことが心配だった。けれども、気持ちは無碍にはできないとも思えた。そのため、自分たちのために体を張って守ってくれている父親から目配せを受け、心残りながらも父親の期待に沿うべく急いで駆け出していった。
 そうして、油断してしまったのだろう。父親ともに兵士に組み伏せられた。

「全く、手間かけやがって……」

 兵士の何気ない呟きが聞こえてきたが、それを言いたいのは本来ヘムカの父親側である。必死に抵抗しようにも、兵士の押さえつけがひどくびくともしない。

「逃げた二人も追わないとな」

 兵士は何気ない一言を呟いたのだが、それは組み伏せられていた父親にも聞こえていた。少しでも娘たちを守るため、父親はともに最後の力を振り絞り抵抗を解くと兵士目掛けて急襲する。
 そして、ヘムカの父親の体にはともに剣が突き刺さった。

「おっと危ない」

 父親はちょうど心臓に剣を受けており、そのまま草原の冷たい地面へと俯せで倒れる。

「……落ち着けか。一番取り乱してるのは、ヘムカじゃなくて俺だったか……」

 散々ヘムカに落ち着けと言っていたくせに、対する自分はいつも感情で動いていた。なんと、情けない親だ。せめて、一助になっていれば。
 ヘムカの父親は、ヘムカが逃げていった方向へと振り向くとそのまま息絶えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

処理中です...