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第一章
第八話 闇でできた光
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夜が明けた。
ヘムカを含む奴隷たちは、兵士の先導により草原を歩かされた。数時間にも及ぶ行軍。普段から歩き慣れている兵士はささやかながら靴を履いているが、基本的に裸足で生活する亜人の足は限界だった。足の裏の皮は剥がれ、時折道なき道に転がっている鋭利な石を踏みつけては足に傷ができる。誰か一人でも転べば手枷の影響で皆が転び傷を負う。そうしている間にも、奴隷同士での不信感は高まっていき兵士の思うつぼであった。
「休憩にするか」
先頭を行く兵士がそんなことを他の兵士に告げた。これで自分も休めるのだと、ヘムも安心しきり安堵のため息をついた。
けれども、この休憩は奴隷のためではない。あくまでも、兵士のための休憩であった。
奴隷たちはその場に待機。一方で、兵士たちは気が合う者同士で集い合うと食べ物や飲み物が支給される。それらを、奴隷たちの前で美味しそうに食べるなり談笑し始めた。
奴隷たちは座ることが許されただけでも温情だろう。単純に、休憩時間くらいは奴隷たちの面倒を見たくないので放置しだけかもしれないが。
「うぅ……。あ、あのー」
休憩中の兵士たちに声を上げたのは、奴隷たちの一人。ヘムカと対して年が違わない少年だった。彼は、体をくねらせながら休憩中の兵士に向かって言う。
彼から一番近い位置におり、談笑している兵士たちのグループはその声に気がつくと互いに目配せをする。そして、一番立場の悪いであろう兵士が渋面を作りながら彼の元へとやってきた。
「何だ?」
いいように自分が使われていることに内心苛ついているのか、睨みを利かせながら少年に問う。
「ずっと我慢してたんですけど、……その、漏れそうなんです……」
少年は、兵士に恐縮しながらも多くの奴隷が同じように考えていたことを代表するかのように質問した。
しかし、兵士の反応は芳しくない。わざとともとれる大きなため息をついた後、渋々答えた。
「はぁ? そんなんそこですりゃいいでしょ」
吐き捨てるように言い終わるなり、すぐに兵士は談笑しているグループの中へと戻っていった。
一方の少年は固まっていた。彼は、奴隷というものをよく理解していなかったのだろう。けれども、そうしている間にも尿意は限界に近くなる。
「もう……無理……」
少年は粗相をした。
兵士の中には、少年を談笑のネタにする者も少なくなく最大限の屈辱を味わう。けれども、他の奴隷たちは少年を慮り何ら反応を示さない。彼らもまた、尿意が限界であり自分も同じようなことになるかもしれないと思うと、決して笑えやしないのだ。
奴隷たちの中にはすっかり泣きじゃくったりする者も少なくなく、近くの奴隷たちが慰めあっていた。
そんな中で、平然と垂れ流す者もいる。なぜなら、彼は生きていれども心は死んだようなものだからだ。ヘムカもまた、その一人だ。
大人になったのに、誰一人守れなかったトラウマが心を蝕んだのだ。
「休憩終わりだ! にしても、くっせぇな」
兵士たちは冷笑しながら奴隷たちを街に運ぶべく持ち場に着く。奴隷たちも立とうとするが、中にはショックのあまり立てない者もおり苛立った兵士が該当する奴隷の前に立つと脛や腹部に蹴りを入れ無理やり立たせる。
「さっさと立て! 殺したっていいんだぞ?」
兢兢とする奴隷は、体を震わせながらにしてようやく立った。
「こらこら、そんな物言いはいけませんよ」
先頭兵士の近くにいたライベは、優しく咎める。
「こ、これは失礼いたしました。指揮官。つい調子に乗ってしまって」
先程までの傲慢な態度が打って変わり、必死に指揮官に阿るただの部下。見ていた奴隷たちは、少なからず気が楽になった。
「では、これより向かう。ついてこい」
先頭兵士の呼びかけに、奴隷たちは渋々従い歩き始める。
ちょうど地平線から朝日が登り始めていた頃に歩き始め、その朝日がすっかり高い位置に移動してしまった頃ヘムカは見慣れぬものを見た。
ここら一帯は草原と森しかない。見るのは植物と土くらいなものだが、見えてきたのは明らかに自然のものではない石の人工壁。その付近には全身の金属の装備を固めた兵士がいた。
その兵士に蔑まれながら横を通る。そして、城壁の中へと入った。
ヘムカが元いた世界には及ばないものの、中世程度には技術が発達しており大通り沿いには数階建ての建築物がある。大通りの中には、多数のバザールとそれらを利用する大勢の住人でごった返していた。
とはいえ、蔑まれることには変わりない。もし兵士の先導がなかったら嫌がらせもあり得るのだろう。
「人間様の素晴らしい街の様子をたんと目に焼き付けるがいいさ。そんくらいは奴隷でも許してやるよ」
奴隷たちを先導する兵士たちが奴隷たちに声がけする。実際、多くの奴隷たちは見たこともない街の様子を感慨深く眺めていた。しかしヘムカは、あまり前世で見慣れておりそんな気すら起きない。街の人からどんな心無い言葉を投げかけられても何ら気にしていない。
そして大通りを歩いて少し。街の中でも一際大きな建物へと到着した。すると、先頭にいた兵士が振り返る。
「ここは偉大なる領主様が考案され、それに感化された同志たちが精力的に建築に携わり完成した奴隷管理施設である。今日からお前らはここで奴隷としての才を伸ばすことになる。喜べ、お前たちは何もしないのに食事が出る。なんて、羨ましいのだろうか。その上、領主様に尽くせるのだからな。感謝しろ」
何やら精力的に兵士は語るが、そんなもの奴隷たちの耳には微塵も届いていなかった。そうこうしている間に、奴隷たちは収容されるべく移動となった。中は比較的明るいものの、とにかく汚い。そんな思いを奴隷たちは持っていた。
床に付着しているのは、体液だった。血はもちろんとして、他の体液も混ざりあっている。
「ここがお前たちの部屋だ」
兵士たちに案内された部屋という名の監獄へとヘムカたちはおとなしく足を踏み入れた。廊下と同じように体液が散乱。様々な小虫が這い蹲っている。
ここでどんな目に合わされるのか、ヘムカ以外の奴隷たちは考えていた。けれども、ヘムカに至ってはもうどうにでもなれと、ただ諦めの心しか持ち合わせていなかった。
ヘムカを含む奴隷たちは、兵士の先導により草原を歩かされた。数時間にも及ぶ行軍。普段から歩き慣れている兵士はささやかながら靴を履いているが、基本的に裸足で生活する亜人の足は限界だった。足の裏の皮は剥がれ、時折道なき道に転がっている鋭利な石を踏みつけては足に傷ができる。誰か一人でも転べば手枷の影響で皆が転び傷を負う。そうしている間にも、奴隷同士での不信感は高まっていき兵士の思うつぼであった。
「休憩にするか」
先頭を行く兵士がそんなことを他の兵士に告げた。これで自分も休めるのだと、ヘムも安心しきり安堵のため息をついた。
けれども、この休憩は奴隷のためではない。あくまでも、兵士のための休憩であった。
奴隷たちはその場に待機。一方で、兵士たちは気が合う者同士で集い合うと食べ物や飲み物が支給される。それらを、奴隷たちの前で美味しそうに食べるなり談笑し始めた。
奴隷たちは座ることが許されただけでも温情だろう。単純に、休憩時間くらいは奴隷たちの面倒を見たくないので放置しだけかもしれないが。
「うぅ……。あ、あのー」
休憩中の兵士たちに声を上げたのは、奴隷たちの一人。ヘムカと対して年が違わない少年だった。彼は、体をくねらせながら休憩中の兵士に向かって言う。
彼から一番近い位置におり、談笑している兵士たちのグループはその声に気がつくと互いに目配せをする。そして、一番立場の悪いであろう兵士が渋面を作りながら彼の元へとやってきた。
「何だ?」
いいように自分が使われていることに内心苛ついているのか、睨みを利かせながら少年に問う。
「ずっと我慢してたんですけど、……その、漏れそうなんです……」
少年は、兵士に恐縮しながらも多くの奴隷が同じように考えていたことを代表するかのように質問した。
しかし、兵士の反応は芳しくない。わざとともとれる大きなため息をついた後、渋々答えた。
「はぁ? そんなんそこですりゃいいでしょ」
吐き捨てるように言い終わるなり、すぐに兵士は談笑しているグループの中へと戻っていった。
一方の少年は固まっていた。彼は、奴隷というものをよく理解していなかったのだろう。けれども、そうしている間にも尿意は限界に近くなる。
「もう……無理……」
少年は粗相をした。
兵士の中には、少年を談笑のネタにする者も少なくなく最大限の屈辱を味わう。けれども、他の奴隷たちは少年を慮り何ら反応を示さない。彼らもまた、尿意が限界であり自分も同じようなことになるかもしれないと思うと、決して笑えやしないのだ。
奴隷たちの中にはすっかり泣きじゃくったりする者も少なくなく、近くの奴隷たちが慰めあっていた。
そんな中で、平然と垂れ流す者もいる。なぜなら、彼は生きていれども心は死んだようなものだからだ。ヘムカもまた、その一人だ。
大人になったのに、誰一人守れなかったトラウマが心を蝕んだのだ。
「休憩終わりだ! にしても、くっせぇな」
兵士たちは冷笑しながら奴隷たちを街に運ぶべく持ち場に着く。奴隷たちも立とうとするが、中にはショックのあまり立てない者もおり苛立った兵士が該当する奴隷の前に立つと脛や腹部に蹴りを入れ無理やり立たせる。
「さっさと立て! 殺したっていいんだぞ?」
兢兢とする奴隷は、体を震わせながらにしてようやく立った。
「こらこら、そんな物言いはいけませんよ」
先頭兵士の近くにいたライベは、優しく咎める。
「こ、これは失礼いたしました。指揮官。つい調子に乗ってしまって」
先程までの傲慢な態度が打って変わり、必死に指揮官に阿るただの部下。見ていた奴隷たちは、少なからず気が楽になった。
「では、これより向かう。ついてこい」
先頭兵士の呼びかけに、奴隷たちは渋々従い歩き始める。
ちょうど地平線から朝日が登り始めていた頃に歩き始め、その朝日がすっかり高い位置に移動してしまった頃ヘムカは見慣れぬものを見た。
ここら一帯は草原と森しかない。見るのは植物と土くらいなものだが、見えてきたのは明らかに自然のものではない石の人工壁。その付近には全身の金属の装備を固めた兵士がいた。
その兵士に蔑まれながら横を通る。そして、城壁の中へと入った。
ヘムカが元いた世界には及ばないものの、中世程度には技術が発達しており大通り沿いには数階建ての建築物がある。大通りの中には、多数のバザールとそれらを利用する大勢の住人でごった返していた。
とはいえ、蔑まれることには変わりない。もし兵士の先導がなかったら嫌がらせもあり得るのだろう。
「人間様の素晴らしい街の様子をたんと目に焼き付けるがいいさ。そんくらいは奴隷でも許してやるよ」
奴隷たちを先導する兵士たちが奴隷たちに声がけする。実際、多くの奴隷たちは見たこともない街の様子を感慨深く眺めていた。しかしヘムカは、あまり前世で見慣れておりそんな気すら起きない。街の人からどんな心無い言葉を投げかけられても何ら気にしていない。
そして大通りを歩いて少し。街の中でも一際大きな建物へと到着した。すると、先頭にいた兵士が振り返る。
「ここは偉大なる領主様が考案され、それに感化された同志たちが精力的に建築に携わり完成した奴隷管理施設である。今日からお前らはここで奴隷としての才を伸ばすことになる。喜べ、お前たちは何もしないのに食事が出る。なんて、羨ましいのだろうか。その上、領主様に尽くせるのだからな。感謝しろ」
何やら精力的に兵士は語るが、そんなもの奴隷たちの耳には微塵も届いていなかった。そうこうしている間に、奴隷たちは収容されるべく移動となった。中は比較的明るいものの、とにかく汚い。そんな思いを奴隷たちは持っていた。
床に付着しているのは、体液だった。血はもちろんとして、他の体液も混ざりあっている。
「ここがお前たちの部屋だ」
兵士たちに案内された部屋という名の監獄へとヘムカたちはおとなしく足を踏み入れた。廊下と同じように体液が散乱。様々な小虫が這い蹲っている。
ここでどんな目に合わされるのか、ヘムカ以外の奴隷たちは考えていた。けれども、ヘムカに至ってはもうどうにでもなれと、ただ諦めの心しか持ち合わせていなかった。
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