18 / 49
第二章
第十八話 ぎしぎし
しおりを挟む
家を出たイツキたち二人は、敷地内に止まっている自動車に目もくれず道を歩き進める。この辺りは鉄道路線が通り、幹線道路があるといえども人通りは少ない。少し遠くを見渡せば小高い山林が見えてくる。
「そういえば何か食べたいものはあります? 肉? 魚?」
自分が料理を作るのだと張り切っているヘムカは、イツキの方を見て食べたいものを聞く。イツキは少し思い悩んだ後、苦笑しながら答える。
「肉がいいかな。魚はちょっとね……。特に青魚は」
ヘムカが目覚めて鯖を食べていたときも、イツキが食べていたのは肉だ。考えるまでもなく、単にイツキは魚が嫌いなのだろうと確信する。
「そういえば、車は使わないんですか?」
ヘムカが外出するとき車の真横を通ったのだが、イツキには使う気配がなかった。そのことをヘムカは疑問に思ったのだ。
「うん、ペーパーでね。極力避けたいんだよ。後、もっと砕けた口調でいいよ」
「わかったよ……」
ヘムカはイツキの言う通りにすることにし、納得しながら駅までの道のりを歩く。
家の周辺はかろうじて民家が多いが、少し歩くと周囲は開けた土地になり見渡す限りの田畑でになる。そんな中、田畑の中で異様な存在感を示している簡素な小屋が目に入った。
「……あれ何?」
「駅だよ」
白く舗装されたプレハブ小屋。簡素な駅名看板がかけられただけである。
ヘムカが呆然としていると、イツキはこの駅にどんどん近づいていく。ヘムカも急いでイツキに追いつき駅へと到着した。
「電車乗るの?」
ヘムカにとって、電車とは人で密集しているというイメージだった。密集していれば誰かしら自分の耳や首枷に気づいてしまうのではないかと危惧する。
「気動車だけど乗るよ。嫌だった? ほとんど人いないし、車掌と顔合わすだけで済むから楽かなと」
「そうなの? ならいいや」
ヘムカが駅の戸を開けると、案の定誰もいない。壁に張られているポスターなども、年代を感じさせるものだった。
羽黒鉄道と書かれた時刻表を見てみると、一時間に一本程度で二時間に一本という時間帯すらある。ヘムカはさすがに前世の時刻表までは覚えていないが、さすがにここまで間隔が長くはなかったはず。
けれども、列車に乗るということに懐かしさを感じた。
「列車来たよ」
ヘムカが駅構内を隈なく眺めていると、すでに駅のプラットフォームにいるイツキから声がかかる。微かながら列車の音しており、徐々に音が増していく。やがて、人を急かすような接近メロディが流れる。
ヘムカもプラットフォームへと移動すると、やってきたのは一両編成の列車だ。しかし、止まってもドアが開かない。
イツキの方を見ると、止まった車両の後方ドアの目の前に立つなり車両についているボタンを押す。すると気の抜けるようなメロディとともに後方ドアが開きイツキが乗り込んでいく。ヘムカも乗り込み、乗車券を取ると列車は出発した。
車内を見渡すと、乗っているのはヘムカたち二人の他数名。クロスシートといえど、その大部分は空いていた。
ヘムカは、窓側にイツキが座っている後方ドアから一番近いクロスシートの通路側へと座った。窓の方を見てみると、左右どちらにも盛土と草が見え何も見えない。それらの区間を抜けると、逆に鉄道レールが敷いてあるところが盛土になり左右どちらの光景も見え始めた。西には田畑とたまに聳える鉄塔。東側には住宅や商店がまばらに。けれども、再び田畑へと戻る。
「今更だけどさ、ここってどこなの?」
一応ニュースを見ていたとはいえ、流し見であり碌に聞いてやいないのだ。
「ここは安積県羽黒市。人口10万人程度の都市で、県西部の中心地だよ」
「ふーん」
気になったから聞いたものの、聞いたところで特に何か思うわけでもなくヘムカは興味なさげな顔で受け流す。
それよりも車窓から見える景色に何か面白いものがないか見るのに夢中だった。前世を経験しているといえども、元いた世界では見られないようなものが沢山あり逆カルチャーショックを体験しているのだ。普通の人には見慣れたビニールハウスのようなものでも、ヘムカにとっては興味深く思えてしまう。
殺風景な駅をいくつも経過したところで、イツキがヘムカの肩を軽く揺すった。
「そろそろつくよ」
前方を見ると、そこには今までの平坦な駅が何だったのかと思わせるほどに複雑な駅が路線を跨いでいた。プラットフォームには、人が二桁以上いる。
そのため、急にヘムカは自分のことが心配になった。今までにヘムカの格好を見たのはイツキだけ。列車の運転手も見はしたが、停車する際に軽く見ただけでそれほど詳しくは見ていないはず。そして、列車の乗客に至っては皆こちらを見ようとはしていない。耳障りな接近メロディが無駄にヘムカの心を焦燥させる。
「大丈夫だから。堂々としてれば何も言われないって」
少しだけ、ヘムカの心が楽になる。
イツキはヘムカに小銭を渡し、ヘムカはその小銭をきつく握りしめた。
有人駅なので足早に列車を降りたヘムカたちは、改札口へと向かう。密集しているわけでもなく、人はまばらだったが緊張しておりヘムカが握っている乗車券は手汗ですっかり湿っていた。
イツキは先に改札口へと向かうと、改札口に置かれている箱に乗車券と小銭を入れる。精査することは行わないようで、駅員も散々言っているのか「ありがとうございやしたー」と言いやすい形に本人も知らぬ内に変化していた。
ヘムカも恐る恐る改札口へと向かい、静かに箱に乗車券と小銭を入れる。
「ありがとうございやしたー」
無事に気の抜けた駅員の声を聞くことができ、ヘムカは胸を撫で下ろした。
「大丈夫だった?」
手で仰いでいるヘムカを見て、イツキは声をかける。ただでさえパーカーを着ているのに、ずっと緊張していたのだからかなり暑く薄っすらと顔に汗が滲んでいた。
「うん、大丈夫」
ただ列車に乗り降りしただけなのに冒険に行ってきたかのようだった。けれども、まだ買い物は始まったばかりである。
「じゃ、行こうか」
「うん」
ヘムカは威勢のいい返事をして駅を出た。
「そういえば何か食べたいものはあります? 肉? 魚?」
自分が料理を作るのだと張り切っているヘムカは、イツキの方を見て食べたいものを聞く。イツキは少し思い悩んだ後、苦笑しながら答える。
「肉がいいかな。魚はちょっとね……。特に青魚は」
ヘムカが目覚めて鯖を食べていたときも、イツキが食べていたのは肉だ。考えるまでもなく、単にイツキは魚が嫌いなのだろうと確信する。
「そういえば、車は使わないんですか?」
ヘムカが外出するとき車の真横を通ったのだが、イツキには使う気配がなかった。そのことをヘムカは疑問に思ったのだ。
「うん、ペーパーでね。極力避けたいんだよ。後、もっと砕けた口調でいいよ」
「わかったよ……」
ヘムカはイツキの言う通りにすることにし、納得しながら駅までの道のりを歩く。
家の周辺はかろうじて民家が多いが、少し歩くと周囲は開けた土地になり見渡す限りの田畑でになる。そんな中、田畑の中で異様な存在感を示している簡素な小屋が目に入った。
「……あれ何?」
「駅だよ」
白く舗装されたプレハブ小屋。簡素な駅名看板がかけられただけである。
ヘムカが呆然としていると、イツキはこの駅にどんどん近づいていく。ヘムカも急いでイツキに追いつき駅へと到着した。
「電車乗るの?」
ヘムカにとって、電車とは人で密集しているというイメージだった。密集していれば誰かしら自分の耳や首枷に気づいてしまうのではないかと危惧する。
「気動車だけど乗るよ。嫌だった? ほとんど人いないし、車掌と顔合わすだけで済むから楽かなと」
「そうなの? ならいいや」
ヘムカが駅の戸を開けると、案の定誰もいない。壁に張られているポスターなども、年代を感じさせるものだった。
羽黒鉄道と書かれた時刻表を見てみると、一時間に一本程度で二時間に一本という時間帯すらある。ヘムカはさすがに前世の時刻表までは覚えていないが、さすがにここまで間隔が長くはなかったはず。
けれども、列車に乗るということに懐かしさを感じた。
「列車来たよ」
ヘムカが駅構内を隈なく眺めていると、すでに駅のプラットフォームにいるイツキから声がかかる。微かながら列車の音しており、徐々に音が増していく。やがて、人を急かすような接近メロディが流れる。
ヘムカもプラットフォームへと移動すると、やってきたのは一両編成の列車だ。しかし、止まってもドアが開かない。
イツキの方を見ると、止まった車両の後方ドアの目の前に立つなり車両についているボタンを押す。すると気の抜けるようなメロディとともに後方ドアが開きイツキが乗り込んでいく。ヘムカも乗り込み、乗車券を取ると列車は出発した。
車内を見渡すと、乗っているのはヘムカたち二人の他数名。クロスシートといえど、その大部分は空いていた。
ヘムカは、窓側にイツキが座っている後方ドアから一番近いクロスシートの通路側へと座った。窓の方を見てみると、左右どちらにも盛土と草が見え何も見えない。それらの区間を抜けると、逆に鉄道レールが敷いてあるところが盛土になり左右どちらの光景も見え始めた。西には田畑とたまに聳える鉄塔。東側には住宅や商店がまばらに。けれども、再び田畑へと戻る。
「今更だけどさ、ここってどこなの?」
一応ニュースを見ていたとはいえ、流し見であり碌に聞いてやいないのだ。
「ここは安積県羽黒市。人口10万人程度の都市で、県西部の中心地だよ」
「ふーん」
気になったから聞いたものの、聞いたところで特に何か思うわけでもなくヘムカは興味なさげな顔で受け流す。
それよりも車窓から見える景色に何か面白いものがないか見るのに夢中だった。前世を経験しているといえども、元いた世界では見られないようなものが沢山あり逆カルチャーショックを体験しているのだ。普通の人には見慣れたビニールハウスのようなものでも、ヘムカにとっては興味深く思えてしまう。
殺風景な駅をいくつも経過したところで、イツキがヘムカの肩を軽く揺すった。
「そろそろつくよ」
前方を見ると、そこには今までの平坦な駅が何だったのかと思わせるほどに複雑な駅が路線を跨いでいた。プラットフォームには、人が二桁以上いる。
そのため、急にヘムカは自分のことが心配になった。今までにヘムカの格好を見たのはイツキだけ。列車の運転手も見はしたが、停車する際に軽く見ただけでそれほど詳しくは見ていないはず。そして、列車の乗客に至っては皆こちらを見ようとはしていない。耳障りな接近メロディが無駄にヘムカの心を焦燥させる。
「大丈夫だから。堂々としてれば何も言われないって」
少しだけ、ヘムカの心が楽になる。
イツキはヘムカに小銭を渡し、ヘムカはその小銭をきつく握りしめた。
有人駅なので足早に列車を降りたヘムカたちは、改札口へと向かう。密集しているわけでもなく、人はまばらだったが緊張しておりヘムカが握っている乗車券は手汗ですっかり湿っていた。
イツキは先に改札口へと向かうと、改札口に置かれている箱に乗車券と小銭を入れる。精査することは行わないようで、駅員も散々言っているのか「ありがとうございやしたー」と言いやすい形に本人も知らぬ内に変化していた。
ヘムカも恐る恐る改札口へと向かい、静かに箱に乗車券と小銭を入れる。
「ありがとうございやしたー」
無事に気の抜けた駅員の声を聞くことができ、ヘムカは胸を撫で下ろした。
「大丈夫だった?」
手で仰いでいるヘムカを見て、イツキは声をかける。ただでさえパーカーを着ているのに、ずっと緊張していたのだからかなり暑く薄っすらと顔に汗が滲んでいた。
「うん、大丈夫」
ただ列車に乗り降りしただけなのに冒険に行ってきたかのようだった。けれども、まだ買い物は始まったばかりである。
「じゃ、行こうか」
「うん」
ヘムカは威勢のいい返事をして駅を出た。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
底辺動画主、配信を切り忘れてスライムを育成していたらバズった
椎名 富比路
ファンタジー
ダンジョンが世界じゅうに存在する世界。ダンジョン配信業が世間でさかんに行われている。
底辺冒険者であり配信者のツヨシは、あるとき弱っていたスライムを持ち帰る。
ワラビと名付けられたスライムは、元気に成長した。
だがツヨシは、うっかり配信を切り忘れて眠りについてしまう。
翌朝目覚めると、めっちゃバズっていた。
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない
みずがめ
恋愛
宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。
葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。
なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。
その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。
そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。
幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。
……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる