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第六.五章 高校最後の夏休み
第六話 海、その後
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──真夏の海の下でなんやかんやと騒ぐこと、数時間。
あっという間に日が暮れて、海は夜の色に染まる。
夕食の時間も近くなり、ボクらは入場券を持ってホテルのバイキング会場へと向かった。
和洋中様々な種類のおかずが豊富に並び、とても豪華だ。
「美味しそ~!! ハンバーグと、サラダと、杏仁豆腐と、それからそれから~」
「窓雪ちゃん、マジでその量食べるの?」
「そだよ?」
「へ~、そうなんだ。いっぱい食べる女の子って魅力的だよね、食べてる時の顔とかすごく幸せそうでさ」
「も~、千万君ってば! 褒めても何も出ないよ~」
照れくさそうに笑いつつ、満更でもなさそう……に見える窓雪さん。影人さんにそっくりのイケメンに褒められるのは、やはり気分が良いものなのだろうか。
とりあえず、見てる感じだとなんとなく雰囲気は良さそうだ。
窓雪さんは元々優しい子だし、あったことを長く引きずることもない。千万さんも千万さんで、何の関係もない窓雪さんには普通に仲良く接するだけなのだろう。
影人さんとは上手くいかずとも、他の人となら仲良くできるのかもしれない……と思いつつ、影人さんの方を振り向くと。
「なんなのアイツ!! ケイちゃんに色目でも使ってるつもり!?」
「知らないよ……っていうかやめ、痛ッ」
……怒りをぶつけるかのように影人さんを思い切り揺さぶる黒葛原さんがいた……。
◇ ◇ ◇
(……疲れたなあ)
夕食を終え、今夜の宿泊部屋に戻った。長距離の移動が祟ったのか、少し体が怠い。
加えてバイキングでお腹いっぱい食べたせいか、若干眠気がやってきた。
今ベッドに潜り込めば、恐らく秒で眠れることだろう。
同室の影人さんも同じ状態だからか、ベッドの上で寝転んだまま胸を上下させて眠っているようだ。
(影人さんも疲れたんだろうな)
寝転ぶ影人さんの横に腰掛け、そっと髪を撫でる。髪の毛の一つ一つが絹のように柔らかく滑らかであり、指の間をスルリと流れていく感覚は何とも心地よい。
ただでさえ綺麗な顔つきをしているというのに、こうやって眠る姿を見るとまるで彫刻像かなにかを見ているかのような気分になる。
普段、一人……もしくは僕と二人で静かに過ごしてることが多い彼だから、大人数での旅行は彼にとっても神経を使うところも多分あったのだろう。
時刻は18時。いつもなら「寝るには早い」と怒っていたけれど、今はそんな気分になれなかった。
影人さんの寝息が部屋に響き始め、穏やかな気持ちになった頃。コンコン、と扉をノックする音が聞こえる。
一体誰が? という気持ちで首を傾げつつも立ち上がり、「はーい」と答えて扉へ向かう。
「俺だよ、蛍君。千万 光」
その声を聞き、扉を開ける。そこには、ボクを出迎えるかのように小さく手を振って笑みを浮かべる千万さんがいた。
「影人は?」
「影人さんですか? 今はちょっとお休み中ですよ、疲れたんでしょうね」
「そっか。まあ、影人って俺と違ってインドアっぽいもんね」
千万さんにも想像が容易かったのか、はは……と苦笑する。
誰から見ても、彼がアウトドア系の遊びをするイメージはないだろう。ただでさえ無口で普段はボク以外の誰ともつるまないのだ。
影人さんのことを前からよく調べていたであろう千万さんなら、余計に想像出来るのかもしれない。
「ねぇ、蛍君。ちょっと付き合ってほしいところがあるんだけど……一緒に来てくれる?」
「え? ……どこですか?」
「八桜神神社ってところ。この町の有名な観光スポットなんだって。俺、神社とかそういうとこ好きだからちょっと気になってさ」
有名な観光スポット、神社……旅行前に聞いた三栗谷先生の言葉を思い出す。
『この近辺には有名な神社もある故……』
……八桜神神社が、その有名なスポットだと言うのだろうか。
「なるほど。そこにボクがアナタと一緒に……と?」
「うん。本当は影人と二人で行きたかったんだけど、疲れて休んでるんじゃ仕方ないかな……数少ない血縁者だし、この機会に色々話したかったんだけどねえ」
少し切なそうに眉を下げながら、目を伏せる千万さん。そんなふうに言われると、行かないなんて言いにくいじゃないか。
影人さんが起きればもちろん二人で行かせたのだが、今の彼はとても深い眠りに就いている。当分起きてくれそうにはないだろう。
「……でも、ボクでいいんですか?」
「うん。影人の一番の理解者たる蛍君なら、俺の気持ちも分かってくれると思うし。……良ければ、聞いてもらいたいかな」
にこり、と笑みを浮かべる。
千万さんが影人さんにやったことは許されないことではある……けれど、この様子だと彼に対して色々思うことがあるのだろう。
お互い、父親のせいで苦労をさせられた者同士。きっと、影人さんとその気持ちを分かち合おうなんて気もあったのかもしれない。
……ボクは当事者じゃないから、同じ気持ちになることは出来ない。
けれど、影人さんを傍で見てきたのはボクだ。話を聞いて、少しばかり共感することは出来るかもしれない。
「話を聞くことくらいしか出来ませんけど……それでもよろしければ」
「もちろん。
……寧ろ、君が一緒なら俺としてはすごく嬉しいかな」
「…………え?」
小さく呟かれた声に、疑問の声を上げる。
けれど答えられることはなく──ボクの手を引く千万さんの力が全てをかき消していった。
あっという間に日が暮れて、海は夜の色に染まる。
夕食の時間も近くなり、ボクらは入場券を持ってホテルのバイキング会場へと向かった。
和洋中様々な種類のおかずが豊富に並び、とても豪華だ。
「美味しそ~!! ハンバーグと、サラダと、杏仁豆腐と、それからそれから~」
「窓雪ちゃん、マジでその量食べるの?」
「そだよ?」
「へ~、そうなんだ。いっぱい食べる女の子って魅力的だよね、食べてる時の顔とかすごく幸せそうでさ」
「も~、千万君ってば! 褒めても何も出ないよ~」
照れくさそうに笑いつつ、満更でもなさそう……に見える窓雪さん。影人さんにそっくりのイケメンに褒められるのは、やはり気分が良いものなのだろうか。
とりあえず、見てる感じだとなんとなく雰囲気は良さそうだ。
窓雪さんは元々優しい子だし、あったことを長く引きずることもない。千万さんも千万さんで、何の関係もない窓雪さんには普通に仲良く接するだけなのだろう。
影人さんとは上手くいかずとも、他の人となら仲良くできるのかもしれない……と思いつつ、影人さんの方を振り向くと。
「なんなのアイツ!! ケイちゃんに色目でも使ってるつもり!?」
「知らないよ……っていうかやめ、痛ッ」
……怒りをぶつけるかのように影人さんを思い切り揺さぶる黒葛原さんがいた……。
◇ ◇ ◇
(……疲れたなあ)
夕食を終え、今夜の宿泊部屋に戻った。長距離の移動が祟ったのか、少し体が怠い。
加えてバイキングでお腹いっぱい食べたせいか、若干眠気がやってきた。
今ベッドに潜り込めば、恐らく秒で眠れることだろう。
同室の影人さんも同じ状態だからか、ベッドの上で寝転んだまま胸を上下させて眠っているようだ。
(影人さんも疲れたんだろうな)
寝転ぶ影人さんの横に腰掛け、そっと髪を撫でる。髪の毛の一つ一つが絹のように柔らかく滑らかであり、指の間をスルリと流れていく感覚は何とも心地よい。
ただでさえ綺麗な顔つきをしているというのに、こうやって眠る姿を見るとまるで彫刻像かなにかを見ているかのような気分になる。
普段、一人……もしくは僕と二人で静かに過ごしてることが多い彼だから、大人数での旅行は彼にとっても神経を使うところも多分あったのだろう。
時刻は18時。いつもなら「寝るには早い」と怒っていたけれど、今はそんな気分になれなかった。
影人さんの寝息が部屋に響き始め、穏やかな気持ちになった頃。コンコン、と扉をノックする音が聞こえる。
一体誰が? という気持ちで首を傾げつつも立ち上がり、「はーい」と答えて扉へ向かう。
「俺だよ、蛍君。千万 光」
その声を聞き、扉を開ける。そこには、ボクを出迎えるかのように小さく手を振って笑みを浮かべる千万さんがいた。
「影人は?」
「影人さんですか? 今はちょっとお休み中ですよ、疲れたんでしょうね」
「そっか。まあ、影人って俺と違ってインドアっぽいもんね」
千万さんにも想像が容易かったのか、はは……と苦笑する。
誰から見ても、彼がアウトドア系の遊びをするイメージはないだろう。ただでさえ無口で普段はボク以外の誰ともつるまないのだ。
影人さんのことを前からよく調べていたであろう千万さんなら、余計に想像出来るのかもしれない。
「ねぇ、蛍君。ちょっと付き合ってほしいところがあるんだけど……一緒に来てくれる?」
「え? ……どこですか?」
「八桜神神社ってところ。この町の有名な観光スポットなんだって。俺、神社とかそういうとこ好きだからちょっと気になってさ」
有名な観光スポット、神社……旅行前に聞いた三栗谷先生の言葉を思い出す。
『この近辺には有名な神社もある故……』
……八桜神神社が、その有名なスポットだと言うのだろうか。
「なるほど。そこにボクがアナタと一緒に……と?」
「うん。本当は影人と二人で行きたかったんだけど、疲れて休んでるんじゃ仕方ないかな……数少ない血縁者だし、この機会に色々話したかったんだけどねえ」
少し切なそうに眉を下げながら、目を伏せる千万さん。そんなふうに言われると、行かないなんて言いにくいじゃないか。
影人さんが起きればもちろん二人で行かせたのだが、今の彼はとても深い眠りに就いている。当分起きてくれそうにはないだろう。
「……でも、ボクでいいんですか?」
「うん。影人の一番の理解者たる蛍君なら、俺の気持ちも分かってくれると思うし。……良ければ、聞いてもらいたいかな」
にこり、と笑みを浮かべる。
千万さんが影人さんにやったことは許されないことではある……けれど、この様子だと彼に対して色々思うことがあるのだろう。
お互い、父親のせいで苦労をさせられた者同士。きっと、影人さんとその気持ちを分かち合おうなんて気もあったのかもしれない。
……ボクは当事者じゃないから、同じ気持ちになることは出来ない。
けれど、影人さんを傍で見てきたのはボクだ。話を聞いて、少しばかり共感することは出来るかもしれない。
「話を聞くことくらいしか出来ませんけど……それでもよろしければ」
「もちろん。
……寧ろ、君が一緒なら俺としてはすごく嬉しいかな」
「…………え?」
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