異世界で小学生やってる魔女

ちょもら

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第三章 続 魔女と天使の腎臓

どうせ死ぬなら皆んな一緒に

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「一時間十五分!」

 遥か真下に佇む美ら海水族館を見ながら、私は歓喜の叫びをあげた。

「片道3000キロを75分って、ほぼマッハ2じゃん! 音速の二倍だよ! 二倍!」

 沖縄の上空を、ザンドと踊るように縦横無尽に飛び回る。東京から北海道間の距離は片道1000キロ。合流の契約を結ぶ前の私は、瞬間移動の魔法を数百回以上唱える事で、その1000キロの道のりを一時間ちょっとで到達して見せた。

 それだけでも一般的な旅客機を上回る速度で移動出来たと言うのに、それが今は何だ。北海道から沖縄までの3000キロを75分で走破? これを喜ばずして何を喜べと言う。

 確かに合流の契約を結んだ事で、私は多くの魔法を失う事になっただろう。しかし支払った代償に見合うだけの力は確実に手にしたのだと、それだけは胸を張って言い切れるのだ。胸の鼓動が鳴り止まない。

「凄いよザンド! 今の私って、多分この地球上で一番強い! こんな事ってあっていいの⁉︎ ポンコツに生まれて、ポンコツのまま死ぬはずだった私がこんな……、こんな……!」

【あー、はいはいわかったわかった。嬉しいのはわかったけど落ち着きなって。調子に乗んないの! この力の代償で、イヴっちはロボットを作る魔法しか使えなくなってんだからね? その事を忘れないように】

 ザンドは興奮する子供をあやすように呟くものの。

「無理! 調子に乗っちゃうよこんなの!」

 私はそんなザンドを抱きしめながら、次の目的地目掛けて再び沖縄の夜空を加速した。目的地である無人島の場所は、ヘルメットの内側に張り巡らされたモニター上に表示されている。目的地は南西およそ三十六キロ地点に存在する無人島。しかし音速の倍の速さで移動出来る今の私には、三十六キロの移動なんて一分もかからない。

 まるで滝が横向きに流れるように景色が流れて行く。気づくと目当ての無人島は私の目前にまで迫っていて、私は自らの加速を制御出来ないまま、砂浜に飛び込むように着地してしまった。なるほど。確かに私の身体能力は、体に纏わりつくパワードスーツのおかげで超人化しているものの、それはあくまで運動神経の向上に過ぎないわけか。感覚神経は元の私と変わらないから、流星のような加速に、常人並みの私の動体視力はついて来れないらしい。……でも。

「ぷはーぁっ!」

 私は笑顔を浮かべながら砂の中から這い出た。動体視力が追い付けないから何だ。それは言い換えれば、私は目にも止まらない速さで動ける事を証明しているも同然である。だったらそれは悲しい事なんかじゃなく、喜ばしい事であるはずだ。

【満足そうじゃん?】

「そりゃあもうね……、大っ満足っ!」

 私は更なる満面な笑みを浮かべながら、夜空目掛けて両手をあげた。これが上級魔女の見る世界。自分を神様だと信じきった者だけが辿り着ける、限りなく万能に近い境地。しかし。

「とは言ってもまだまだ上級魔女になりたてほやほやだからね。今の内に色々試してみないと。今の私に何が出来て、何が出来ないのか」

 この境地に辿り着いてもなお、私はまだまだ真の万能にはなり得ない。十信零疑に到達出来なかったのだから、この力にだってやはり限界はあるのだ。その限界を見極める為に、私はわざわざ人っ気のないこんな無人島まで来たのだから。

「よーい……、スタート!」

 私はまず、自分の運動能力の限界を知る為に、出力マックスで加速しながら340メートル先の地点まで移動した。

「0.6秒か……」

 モニターに表示されたタイムを見てみると、予想通りの結果が表示されている。やはりこればかりはどうする事も出来ないらしい。

【何か気に食わなかった?】

「気に食わないって言うか、しょうがないって感じかな。音速って環境によって変化するんだけど、まぁ大体平均は秒速340メートルなんだよね。だったらマッハ2で動ける私は、0.5秒で340メートルを移動出来るはずなの」

【なるほど。神経の伝播速度だね】

「そういうこと」

 本来なら0.5秒で340メートルを移動出来るはずの私だが、実際に出てきたタイムは0.6秒だった。そしてこの0.1秒の差は、私が動物である以上決して覆る事はないのだ。脳から発せられた指令が、神経を伝って筋肉やパワードスーツに届くまでの時間として、どうしても0.1秒のタイムラグが発生してしまう。

 そしてそれは、運動神経に限らず、視覚や聴覚のような感覚神経に対しても同じ事が言える。脳の指令が筋肉に届くまでの時間が0.1秒と言うのなら、やはり目で見た光景が脳に伝わるまでにかかる時間も、同じく0.1秒のタイムラグが発生するはずである。つまり。

「という事は、銃弾を目で見て躱したりするのは無理だね。銃弾を認識した時には私の体に届いちゃってるもん。もしも銃を向けられたら、装甲を分厚くするなりして対策しないと」

【わーお。銃を向けられるような事をするつもりなんだ?】

「ま、いずれはね?」

 私はザンドに微笑み返し、次のテストへと乗り移った。私は自分が纏う装甲に対し、武器を生み出すように念じてみる。すると私の右腕の義装からは銃が、私の左腕の義装からは刃がニョキニョキと生えて来た。銃口を空に向けながら発射を念じると、発砲音を轟かせながら、目に見えない力の塊のような物が勢いよく飛び出して行ったのがわかる。

「いいねー。やっぱロボットと言ったら武器は鉄板だし」

 超人的な運動性能、私の体調を維持する為の医療設備、そしていざという時の為の武装機能。そのどれもが申し分ないこの姿に、もはや不満など存在しない。なので今度は、私が作れるロボットの限界を知る為のテストへと切り替えた。

「ザンド」

 最初に作ったのは、何の変哲もないただのロボットだった。全長一メートル程の、四角い体を持った典型的なロボット。ウィーンガシャンと、ロボットらしい機械音を鳴らしながらロボットダンスを披露している。

「ザンド」

 次に作ったのは戦闘ロボットだ。全身の至る所に武器を仕込んだ、殺傷能力に特化した殺戮兵器。とりあえず近くにいる適当な生命を殺して来るように命じると、そいつは私目掛けて銃口を向けて来たものだから、私は渾身の力でそいつを叩き潰し、処分した。

「ザンド」

 三度目に作ったロボットはお手伝いロボットだ。私はそいつに何か料理を作るように命じてみる。するとそいつは砂浜にいたカニを捕まえた後、火を吹きながらカニを丸焼きにしてみせた。しかしそいつは味付けとして、海水から抽出した塩を塗して私に差し出して来る。腎臓を患うご主人様に塩分を摂らせるとは何事だ。当然そいつも廃棄処分とさせてもらった。

「なーるほどねー。なんか分かって来たかも」

 そしてこれらのテストを重ねる内に、私はロボットを作る魔法の扱い方について次第に理解していく。確かに私は合流の契約を結んだ事で、多くの魔法が使えなくなってしまった。でも、使えなくなった魔法でも、少々遠回しなやり方ならば全く出来ないというわけでもないらしい。三度目に作ったお手伝いロボットがまさにそうだ。

 合流の契約を結ぶ前の私なら、魔法でご飯を直接生み出す事が出来た。今の私にはそう言った魔法は使えないものの、しかし材料さえ用意出来れば、お料理ロボットを作る事で遠回しにご飯を作る事が可能である。……ならば。

「ザンド」

 次に私は、瞬間移動をするロボットを作ってみた。……が。

「あれ?」

 ロボットが生まれて来ない。

「ザンド! ザンド! ザンド!」

 それから続けて二度三度同じ魔法を使ってみるも、やはり瞬間移動をするロボットが生み出される事は出来なかった。

「んー……」

 私は少し考えて、別のロボットをいくつか作ってみる事にした。

「ザンド」

 ビームサーベルを出すロボット。成功。

「ザンド」

 空を飛ぶロボット。成功。

「ザンド」

 心を持ったロボット。失敗。

「ザンド」

 私そっくりのアンドロイド。成功。

「ザンド」

 医療ロボット(内科)。成功。

「ザンド」

 医療ロボット(外科)。失敗。

「ザンド」

 ラジコンロボット。成功。

「ザンド」

 人を洗脳するロボット。成功。

「ザンド」

 改造人間を作るロボット。成功。

「ザンド」

 食べられるロボット。失敗。

「ザンド」

 ナノマシン。成功。

「ザンド」

 エスパーロボット。失敗。

「ザンド」

 眠るロボット。失敗。

「ザンド」

 子孫を残すロボット。失敗。

「ザンド」

 生きたロボット。失敗。

 失敗、失敗、失敗。

「固定概念だ」

 そんな度重なる結果の果てに、私はようやくこの魔法のカラクリについて理解する。

「私の中に存在するイメージの範疇でしかロボットを作れないんだ。戦うロボットはイメージしやすい。アニメや映画でよく出てくるもん。医療ロボットも、内科的な治療にはよく使われるけど、外科的な手術は人間の仕事だ。手術用のロボットもあるにはあるけど、あれって正確には遠隔操作で人間が操ってるだけだし」

 なるほど。道理で瞬間移動をするロボットが作れないわけだ。だって私の持つイメージに、魔法を使うロボットや超能力を使うロボットなんて物はないもん。生きたロボットや心を持つロボットだってそう。私はドラえもんとか好きだけど、心の奥底ではどんなにAIが発達した所で、完全な心を持ったロボットなんて絶対に作れやしないと思っているのだから。

「そっかそっか。そう考えると確かに色々と制約は増えてるんだね」

【ガッカリした?】

「別に? だってほら」

 私は右腕に大砲を生やし、背後に聳え立つ巨大な岩山目掛けて砲撃を放つ。

「これだけの暴力との引き換えだもん。安いもんでしょ?」

 目の前に広がる変わり果てた地形。少しやり過ぎたかな。誰かがこの島を見つけたら大騒ぎになりそうだ。ていうか寧ろなって欲しい。力と言うのは持つだけではただの力にしかなり得ない。弱者に見せつける事で、初めてただの力は強大な力へと変貌するのだから。

「ごめんね、ザンド」

【何が?】

「約束の事。ほら、出会ったばかりの頃からよく言ってたじゃん。魔法を使うのは自由だけど、騒ぎになるような大事は出来るだけ控えるようにって。……でも、無理だよ。こんなに強くなっちゃってさ、じっとなんてしていられると思う?」

 私は星空目掛けて手を伸ばした。覚醒剤の影響下にいた時も、同じようにキラキラした光を掴もうと手を伸ばしていたっけ。でも、今の私は薬の幻想に惑わされていただけの私とは違う。その気になれば、宇宙空間にだって飛び出して、あれらの星を掴みに行ける力が今の私にはあるんだ。

「今日からは目立つやり方でムカつく奴らを退治してやるんだ。皆んなが平和に暮らすこの世界に、私っていう化け物が潜んでいる事を教えてあげるの。途中で辞めちゃった巨大ロボ作りも、今日から再開だ。どうせ私は今年死んでもおかしくはない身でしょ? だったら皆んな纏めて、ド派手に死んじゃおうよ」

 私は東京目指して飛び立った。帰り道までの道のりで、私に目をつけられる可哀想な悪魔を探しながら。
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