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魔法使いアデル 上
魔法使いの従兄
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ここは、イギリスの東南部にある小さな港町〈ライ〉。
この田舎町は歩きで町を一周する事が出来るほど小さく、石造りの家が立ち並ぶ、かわいらしい町だ。
そんな小さな田舎町に大きな家が一軒、見晴らしの良い坂の上にあった。
その家は町を見下ろすように建っており、まるで
『この町の長が住んでいる家』
とでもいう風ないで立ちだった。
実はこの家の家主はこの町の町長ではなく、首都ロンドンから引っ越してきたただの金持ちで、三人家族と家政婦が一人住み込みで働いているだけだった。
そんな家族が住んでいる家に、一人の男がやって来て、玄関のドアノッカーを鳴らす。
その男はスーツの上着を腕にかけており、体格は普通より細身で少し頼りなさげな印象を相手に与えるような男だった。
ガチャリとドアが開き、ぎょろりと見開いた目と目が合ってしまい、アデルは身を強ばらせる。
どこか薄気味の悪い女が出迎える。
彼女は住み込みで働いている家政婦だ。
「こんにちは。ここの主人に呼ばれて来たアデルです、よろしく」
男——アデルは、柔和な笑みを浮かべて彼女に握手を求めた。
しかし、彼女は差し出された手に目もくれずに、横に半歩避けて
「旦那様をお呼びしますので、中で待っていてください」
と淡々と、握手の代わりにそう答える。
家政婦の言葉に従い、アデルは玄関をくぐりって中へと入る。
すると、彼の後ろでドアが大きな音を立てて勢い良く閉まった。
家政婦が乱暴に閉めたのだ。
「旦那様! アデル様がお見えになられました!」
家政婦はロビー奥の階段を上がりながら、強い声色で、上の階にいるこの家の主人にアデルが来訪した事を告げる。
なんてガサツな家政婦なんだ。
と、アデルは心の中で思った。
第一印象はもちろん最悪である。
少しして、綺麗に整えられている口髭を生やした男が、奥の階段から悠々と登場した。
彼こそが、アデルを呼んだこの家の主人。
ヘンリー・ロングフェロー
アデルの伯父だ。
「やぁ、アデル君。見ぬ間に大きくなったね」
威厳に満ちた外見とは裏腹に、気さくに話しかけ、挨拶のハグを交わす。
「伯父さんこそ、前よりも渋くなりましたね」
アデルの言葉に伯父は
『そうだろう?』
と言う風に片眉を上げた。
「立ち話になってしまって悪いが」
「まぁ、アデル! 大きくなったわねぇ」
「伯母さん!」
伯父の言葉を遮って言葉を発したのは、伯父の妻。
ハリエル・ロングフェロー。
アデルの伯母である。
「あなた何歳になったの?」
「先週、二十歳になりました」
「まぁ、二十歳!! 立派な大人ね!」
「ハリエル、時間が無いんだ」
久し振りに会った甥っ子に、立ち話を続けようとする妻に、夫が止めに入る。
「立ち話になってしまって申し訳ないが、君に送った手紙でも書いた通り、五日間娘のイヴの世話をお願いしたい」
「えぇ、任せてください」
「杖を使うときは、家政婦に気を付けなさい」
「分かりました」
伯父はアデルの肩を軽く叩き、伯母と共に玄関のドアをくぐり、ちょうど来た馬車に乗って、出かけてしまった。
アデルはその馬車を見送り、家の中へと戻って行った。
「お嬢様、朝ですよ」
未だ夢の中へ入り込んでいる小さな少女に、家政婦はダミ声でぶっきらぼうに呼びかけ、その小さな体を乱暴に揺する。
こうでもしないと、この少女は目を覚まさいのだ。
「あと五分だけ……」
嫌々と布団をさらに頭の上まで被る少女。
彼女はこの家の一人娘。
イヴ・ロングフェローである。
「お父様とお母様はもう立たれましたよ。起きてくださいっ!」
嫌がるイヴから掛け布団をひっぺ剥がすと、家政婦は彼女を抱き上げて、無理やり床の上に立たせる。
こうされたら否応でも目が覚めてしまうものだ。
無理やり夢の中から起こされたイヴは、眠気まなこで大きなあくびを一つする。
そんな彼女を余所に、家政婦は彼女の衣装箪笥から、ピンク色のワンピースを出し、慣れた手つきでイヴをあっという間に着替えさせた。
「さ、ドレッサーの前にお座り下さい」
言われるがままに、ドレッサーの前に座る。
すると、家政婦が乱暴に髪を梳くので、イヴはすっかり目が覚めてしまった。
「ちょっと! 痛いわよ!」
すかさず文句を言うと
「それは、すみません」
と淡白な謝罪の言葉が帰ってきて、少し優しくなるだけで、痛いのは変わりがなかった。
ドレッサーの鏡に映るイヴの姿は、みるみる髪がセットアップされていき、編み込んだ前髪がとても可愛く、直ぐに上機嫌になった。
「本当にあなたって器用ね! 素敵だわ! ありがとう!」
イヴはそう言うと、軽い足取りで部屋を出て、空腹を満たす為にキッチンへと向かう。
「何かしら? とてもいい匂い」
キッチンの扉の隙間から香る香ばしい匂いに
「今日の朝ごはんは何かしら?」
と胸を弾ませ、ドアノブに手をかけてドアを開ける。
その時、彼女の目には信じられない光景が飛び込んできた。
まず、目に入ったのは、中を浮かび移動する食器。
その次に、勝手に鍋をかき回すおたま、最後に茶色混じりの金髪。
あまりにも突然な光景に、開いた口が塞がらず、金髪の持ち主であるアデルにその間抜け面を見られてしまった。
「やぁ、イヴ。会うのは……八年ぶりかな?」
イヴに気が付いたアデルは、柔和な笑みを浮かべて声をかけた。
「あなたは誰? 魔法使い?」
「いいや、キミの年の離れた従兄だよ」
「いとこ?」
よく分からないという風に、イヴは首をかしげて眉根を寄せる。
「まぁ、年の離れたお兄さんと思ってくれていいよ。今日からキミのお父さんが帰ってくるまでの間、キミの面倒を見ることになってるんだ。よろしくね」
アデルはイヴの側まで行き、しゃがんで握手を求める。
突然の展開に困惑しながらも、イヴは自分よりも大きなその手を握った。
「さ、もうすぐ朝ご飯だからダイニングに行ってて」
イヴは状況をあまり把握出来ていないが、とりあえず
『もうすぐ朝ご飯が食べれる』
と言う事は理解出来たので、アデルの言葉に頷き、半分逃げるようにダイニングへと走り去っていく。
そのちいさな背中を見送り、丁寧にドアを閉めて仕上げにとりかかる。
食卓のいつも座っている定位置に着くと、すぃーっとティーポットとティーカップが中に浮き、彼女の目の前に着地する。
驚いて凝視していると、ティーポットがティーカップに紅茶を注ぎ始め、ダージリンの良い香りが辺りに漂う。
「これも魔法なの……?」
イヴはそう呟くと、紅茶が注がれたティーカップを手に取り、まだ湯気が出ているうちに飲む。
「熱っ! 夢じゃない!!」
火傷をしてヒリヒリとする舌。
熱くなる頬。
彼女は丸い目をさらに丸くし、これが現実だと理解した。
そして、理解すると同時に、やはりあの男が魔法使いなんだと、胸が弾んだ。
「何だか、嬉しそうですね。お嬢様」
「ねぇ、キッチンにいる人は私の"いとこ"だと言ったのだけれど、それは本当の事?」
配膳台に、先程アデルが作っていた朝食を乗せてやってきた家政婦に、イヴはそんな疑問を口にする。
彼が自分の従兄なら、自分も魔法を使えてもおかしくないからだ。
しかし、イヴは魔法やそういった類いの物は使えない。
「えぇ、アデル様はお嬢様の従兄です。旦那様のお姉様のご子息でございます」
「ふーん」
家政婦の返答に、イヴは未だ納得出来ず、素っ気ない返事を返してしまった。
「そんなのおかしいわ……もしそうなら、どうしていままで会った事がないのかしら?」
「それは、僕の両親がとても忙しかったからさ」
口を尖らせて疑問を口にするイヴ。
その疑問に答えたのは、今や彼女を悩ます存在になっているアデルだった。
彼はいつの間にかダイニングに来ていて、柔和な笑みを浮かべている。
「さ、朝ご飯を食べよう。今朝何も食べていないから腹ぺこだよ」
彼はそう言うと、客人が座る席に座り、それと同時に彼が作った朝食が配膳される。
ベーコンエッグに焼いたマフィン、ハッシュドポテトにトマトのスープ。
それに、デザートのフルーツ、がイヴとアデルの前に置かれていく。
「とってもいい匂いだわ!」
目の前に置かれた料理の匂いに、イヴは生唾を飲み込む。
「それにしても、彼女が作る物と変わらないのに、匂いが段違いに違うのは何故かしら?」
「味付けが塩胡椒だけじゃないからだよ」
「じゃあ、他に何を使ってるの?」
「愛情」
「嘘ね」
「まぁ、半分くらいは入ってるさ」
2人はそんな他愛もない会話をしながら、食事をした。
イヴは外見によらず、冗談を言う人だと、少し驚いた。
何故なら、アデルはパッと見ではひとの良さそうな顔をしているのだ。
冗談を言ったり、人を騙したりしなさそうな、正直者の印象をイヴに与えていた。
「お名前……アデルって言ったかしら? アデルって女の子の名前よね?」
メインの食事を平らげて、イヴはデザートのグレープフルーツを齧りながらアデルに言う。
するとアデルは、一旦紅茶の入ったカップをソーサーに置き、イヴの目をじっと見つめた。
「まぁね。でも呼びやすくて覚えやすい名前だろ?」
「そうね、名前の意味もあなたの家柄にピッタリだしね」
そう言ってイヴはグレープフルーツの皮を皿の上に置き、果汁の着いた指を舐める。
アデルの家はロンドンにあり、王妃と親しい家柄なのだ。
その理由は、彼の両親が生まれるずっと前に遡るのだが、どうやら母方の血筋が関係しているという事しか、アデルにも、彼の両親にも分からなかった。
王妃も、その理由を公言したりしていない。
「さて、朝食の後は何をするのかな?」
「そうね、いつもなら町に行ってお散歩をするわ」
「それは良いね、ぜひ町を案内して欲しいな」
「いいわよ、私の秘密の場所にだって連れて行ってあげるわ!」
そう言うとイヴは、さっと、椅子から降りて出かける準備をしに自分の部屋へと戻って行った。
「後片付けお願い」
アデルは家政婦にそう言うと、ダイニングを出てロビーへと向かった。
——つづく
この田舎町は歩きで町を一周する事が出来るほど小さく、石造りの家が立ち並ぶ、かわいらしい町だ。
そんな小さな田舎町に大きな家が一軒、見晴らしの良い坂の上にあった。
その家は町を見下ろすように建っており、まるで
『この町の長が住んでいる家』
とでもいう風ないで立ちだった。
実はこの家の家主はこの町の町長ではなく、首都ロンドンから引っ越してきたただの金持ちで、三人家族と家政婦が一人住み込みで働いているだけだった。
そんな家族が住んでいる家に、一人の男がやって来て、玄関のドアノッカーを鳴らす。
その男はスーツの上着を腕にかけており、体格は普通より細身で少し頼りなさげな印象を相手に与えるような男だった。
ガチャリとドアが開き、ぎょろりと見開いた目と目が合ってしまい、アデルは身を強ばらせる。
どこか薄気味の悪い女が出迎える。
彼女は住み込みで働いている家政婦だ。
「こんにちは。ここの主人に呼ばれて来たアデルです、よろしく」
男——アデルは、柔和な笑みを浮かべて彼女に握手を求めた。
しかし、彼女は差し出された手に目もくれずに、横に半歩避けて
「旦那様をお呼びしますので、中で待っていてください」
と淡々と、握手の代わりにそう答える。
家政婦の言葉に従い、アデルは玄関をくぐりって中へと入る。
すると、彼の後ろでドアが大きな音を立てて勢い良く閉まった。
家政婦が乱暴に閉めたのだ。
「旦那様! アデル様がお見えになられました!」
家政婦はロビー奥の階段を上がりながら、強い声色で、上の階にいるこの家の主人にアデルが来訪した事を告げる。
なんてガサツな家政婦なんだ。
と、アデルは心の中で思った。
第一印象はもちろん最悪である。
少しして、綺麗に整えられている口髭を生やした男が、奥の階段から悠々と登場した。
彼こそが、アデルを呼んだこの家の主人。
ヘンリー・ロングフェロー
アデルの伯父だ。
「やぁ、アデル君。見ぬ間に大きくなったね」
威厳に満ちた外見とは裏腹に、気さくに話しかけ、挨拶のハグを交わす。
「伯父さんこそ、前よりも渋くなりましたね」
アデルの言葉に伯父は
『そうだろう?』
と言う風に片眉を上げた。
「立ち話になってしまって悪いが」
「まぁ、アデル! 大きくなったわねぇ」
「伯母さん!」
伯父の言葉を遮って言葉を発したのは、伯父の妻。
ハリエル・ロングフェロー。
アデルの伯母である。
「あなた何歳になったの?」
「先週、二十歳になりました」
「まぁ、二十歳!! 立派な大人ね!」
「ハリエル、時間が無いんだ」
久し振りに会った甥っ子に、立ち話を続けようとする妻に、夫が止めに入る。
「立ち話になってしまって申し訳ないが、君に送った手紙でも書いた通り、五日間娘のイヴの世話をお願いしたい」
「えぇ、任せてください」
「杖を使うときは、家政婦に気を付けなさい」
「分かりました」
伯父はアデルの肩を軽く叩き、伯母と共に玄関のドアをくぐり、ちょうど来た馬車に乗って、出かけてしまった。
アデルはその馬車を見送り、家の中へと戻って行った。
「お嬢様、朝ですよ」
未だ夢の中へ入り込んでいる小さな少女に、家政婦はダミ声でぶっきらぼうに呼びかけ、その小さな体を乱暴に揺する。
こうでもしないと、この少女は目を覚まさいのだ。
「あと五分だけ……」
嫌々と布団をさらに頭の上まで被る少女。
彼女はこの家の一人娘。
イヴ・ロングフェローである。
「お父様とお母様はもう立たれましたよ。起きてくださいっ!」
嫌がるイヴから掛け布団をひっぺ剥がすと、家政婦は彼女を抱き上げて、無理やり床の上に立たせる。
こうされたら否応でも目が覚めてしまうものだ。
無理やり夢の中から起こされたイヴは、眠気まなこで大きなあくびを一つする。
そんな彼女を余所に、家政婦は彼女の衣装箪笥から、ピンク色のワンピースを出し、慣れた手つきでイヴをあっという間に着替えさせた。
「さ、ドレッサーの前にお座り下さい」
言われるがままに、ドレッサーの前に座る。
すると、家政婦が乱暴に髪を梳くので、イヴはすっかり目が覚めてしまった。
「ちょっと! 痛いわよ!」
すかさず文句を言うと
「それは、すみません」
と淡白な謝罪の言葉が帰ってきて、少し優しくなるだけで、痛いのは変わりがなかった。
ドレッサーの鏡に映るイヴの姿は、みるみる髪がセットアップされていき、編み込んだ前髪がとても可愛く、直ぐに上機嫌になった。
「本当にあなたって器用ね! 素敵だわ! ありがとう!」
イヴはそう言うと、軽い足取りで部屋を出て、空腹を満たす為にキッチンへと向かう。
「何かしら? とてもいい匂い」
キッチンの扉の隙間から香る香ばしい匂いに
「今日の朝ごはんは何かしら?」
と胸を弾ませ、ドアノブに手をかけてドアを開ける。
その時、彼女の目には信じられない光景が飛び込んできた。
まず、目に入ったのは、中を浮かび移動する食器。
その次に、勝手に鍋をかき回すおたま、最後に茶色混じりの金髪。
あまりにも突然な光景に、開いた口が塞がらず、金髪の持ち主であるアデルにその間抜け面を見られてしまった。
「やぁ、イヴ。会うのは……八年ぶりかな?」
イヴに気が付いたアデルは、柔和な笑みを浮かべて声をかけた。
「あなたは誰? 魔法使い?」
「いいや、キミの年の離れた従兄だよ」
「いとこ?」
よく分からないという風に、イヴは首をかしげて眉根を寄せる。
「まぁ、年の離れたお兄さんと思ってくれていいよ。今日からキミのお父さんが帰ってくるまでの間、キミの面倒を見ることになってるんだ。よろしくね」
アデルはイヴの側まで行き、しゃがんで握手を求める。
突然の展開に困惑しながらも、イヴは自分よりも大きなその手を握った。
「さ、もうすぐ朝ご飯だからダイニングに行ってて」
イヴは状況をあまり把握出来ていないが、とりあえず
『もうすぐ朝ご飯が食べれる』
と言う事は理解出来たので、アデルの言葉に頷き、半分逃げるようにダイニングへと走り去っていく。
そのちいさな背中を見送り、丁寧にドアを閉めて仕上げにとりかかる。
食卓のいつも座っている定位置に着くと、すぃーっとティーポットとティーカップが中に浮き、彼女の目の前に着地する。
驚いて凝視していると、ティーポットがティーカップに紅茶を注ぎ始め、ダージリンの良い香りが辺りに漂う。
「これも魔法なの……?」
イヴはそう呟くと、紅茶が注がれたティーカップを手に取り、まだ湯気が出ているうちに飲む。
「熱っ! 夢じゃない!!」
火傷をしてヒリヒリとする舌。
熱くなる頬。
彼女は丸い目をさらに丸くし、これが現実だと理解した。
そして、理解すると同時に、やはりあの男が魔法使いなんだと、胸が弾んだ。
「何だか、嬉しそうですね。お嬢様」
「ねぇ、キッチンにいる人は私の"いとこ"だと言ったのだけれど、それは本当の事?」
配膳台に、先程アデルが作っていた朝食を乗せてやってきた家政婦に、イヴはそんな疑問を口にする。
彼が自分の従兄なら、自分も魔法を使えてもおかしくないからだ。
しかし、イヴは魔法やそういった類いの物は使えない。
「えぇ、アデル様はお嬢様の従兄です。旦那様のお姉様のご子息でございます」
「ふーん」
家政婦の返答に、イヴは未だ納得出来ず、素っ気ない返事を返してしまった。
「そんなのおかしいわ……もしそうなら、どうしていままで会った事がないのかしら?」
「それは、僕の両親がとても忙しかったからさ」
口を尖らせて疑問を口にするイヴ。
その疑問に答えたのは、今や彼女を悩ます存在になっているアデルだった。
彼はいつの間にかダイニングに来ていて、柔和な笑みを浮かべている。
「さ、朝ご飯を食べよう。今朝何も食べていないから腹ぺこだよ」
彼はそう言うと、客人が座る席に座り、それと同時に彼が作った朝食が配膳される。
ベーコンエッグに焼いたマフィン、ハッシュドポテトにトマトのスープ。
それに、デザートのフルーツ、がイヴとアデルの前に置かれていく。
「とってもいい匂いだわ!」
目の前に置かれた料理の匂いに、イヴは生唾を飲み込む。
「それにしても、彼女が作る物と変わらないのに、匂いが段違いに違うのは何故かしら?」
「味付けが塩胡椒だけじゃないからだよ」
「じゃあ、他に何を使ってるの?」
「愛情」
「嘘ね」
「まぁ、半分くらいは入ってるさ」
2人はそんな他愛もない会話をしながら、食事をした。
イヴは外見によらず、冗談を言う人だと、少し驚いた。
何故なら、アデルはパッと見ではひとの良さそうな顔をしているのだ。
冗談を言ったり、人を騙したりしなさそうな、正直者の印象をイヴに与えていた。
「お名前……アデルって言ったかしら? アデルって女の子の名前よね?」
メインの食事を平らげて、イヴはデザートのグレープフルーツを齧りながらアデルに言う。
するとアデルは、一旦紅茶の入ったカップをソーサーに置き、イヴの目をじっと見つめた。
「まぁね。でも呼びやすくて覚えやすい名前だろ?」
「そうね、名前の意味もあなたの家柄にピッタリだしね」
そう言ってイヴはグレープフルーツの皮を皿の上に置き、果汁の着いた指を舐める。
アデルの家はロンドンにあり、王妃と親しい家柄なのだ。
その理由は、彼の両親が生まれるずっと前に遡るのだが、どうやら母方の血筋が関係しているという事しか、アデルにも、彼の両親にも分からなかった。
王妃も、その理由を公言したりしていない。
「さて、朝食の後は何をするのかな?」
「そうね、いつもなら町に行ってお散歩をするわ」
「それは良いね、ぜひ町を案内して欲しいな」
「いいわよ、私の秘密の場所にだって連れて行ってあげるわ!」
そう言うとイヴは、さっと、椅子から降りて出かける準備をしに自分の部屋へと戻って行った。
「後片付けお願い」
アデルは家政婦にそう言うと、ダイニングを出てロビーへと向かった。
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