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魔法使いアデル 中
カラスの雑貨屋
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町に下りたアデルとイヴは、まずどこから見て回ろうかと話し合った。
イヴはパン屋でお昼ご飯を買いたいと言い、アデルは雑貨屋を見てみたいと言った。
二人が行きたい場所は真反対にあり、あっち行ったり、こっち行ったりするのは少し面倒そうだ。
そこでアデルは、時計回りに進もうと提案した。
イヴの行きたいパン屋を最後に回る事にし、その後はイヴの秘密の場所に向かう。
というスケジュールを立てて二人は歩き出す。
町は活気に溢れており、立ち話をしている主婦や、店で買い物をする人などと様々だ。
しかし、一見すると賑やかな風景だが、どこかアデルは物足りなさを感じていた。
その物足りなさの正体を探るように、アデルは周囲をぐるりと見回す。
視界に入るのは、買い物をする女性。
立ち話をする女性と男性は恐らく夫婦だろう。
本を読む老人。
カフェで食事をしている女性たち。
︎︎ ——大人が多いな……
「あら、イヴちゃんおはよう。そちらのお兄さんは?」
立ち話をしていた主婦がイヴに気が付き、声をかける。
「アデルよ。私のいとこなの」
「今朝来たばかりで、彼女に町を案内してもらっているんです」
イヴの紹介に続いて、アデルは柔和な笑みを浮かべて主婦に軽く頭を下げる。
「へぇ、そうなの。狭い町だけど、楽しんでね」
「はい」
「イヴちゃんも、お兄さんから離れちゃだめよ?」
そう言うと、主婦は優しくイヴの頭を撫でた。
人口の少ないこの小さな町でも迷子の心配をする人はいるのだと、アデルは少し不思議に思った。
「うん! さ、行きましょう!」
頭を撫でられたイヴは上機嫌になり、アデルの腕をぐいぐいと引っ張って歩き出す。
「ちょっと、イヴ、歩きにくいよ」
ちょうど歩いている道が坂道だったもので、アデルは前かがみになりながら歩く形になってしまい、周りからは、微笑ましいというような笑いを向けられ、少し恥ずかしくなり、苦笑いを浮かべた。
平らな道になり、アデルはやっと前かがみの体勢から戻ることが出来た。
この街には店が立ち並んでおり、先程よりも人が多く、イヴに連れられつつ、手をしっかり繋いで歩く。
まず最初にイヴに案内されたのは、仕立て屋だった。
店内には数人の客がおり、店の奥にあるカウンターでは、眼鏡をかけた老店主が本を読んでいる。
「この町唯一の仕立て屋さんよ。私のこの服もあの人に作ってもらったの」
ひらりと一回転して服を見せつけるイヴに、アデルは
「よっぽど腕が良い職人さんなんだね」
と返し、ドアを押して店内へと入る。
カランカランと小気味の良いベルの音が響き渡り、店の中にいた客と、店主の視線が一斉に二人へと向けられた。
「おや、お嬢さん。今日はお母様とご一緒じゃないのかい?」
じろりと怪しむような視線がアデルに向けられる。
それもそうだ。
アデルは今日来たばかりの新顔なうえ、この町に住んでいる訳でもない余所者なのだから。
「お父さんとお母さんは暫くお出かけなの。その代わりにアデルがロンドンから来てくれたのよ」
イヴがそう老店主に説明すると、老店主は本を置いてカウンターから抜け出し、アデルをじろじろと訝しげな眼差しで見た。
いや、睨みつけた。
と言った方が正しい。
「初めましてご主人。僕はイヴの従兄のアデルです、よろしく」
老店主の威圧に少したじろぎながらも、アデルは挨拶をしてぐるりと店内を見渡した。
「あんちゃん、その服はロンドンで仕立てた服かね?」
くいっと眼鏡を上げて、老店主はじっとアデルの着ている上着を見た。
「え、えぇ。ですが、仕立ててもらってはいませんが、ロンドンで売ってる服ですよ」
アデルの返答に、老店主は片眉を上げた。
「ロンドンの仕立て屋はなってねぇな。いや、腕は確かだが、買う奴の事を気にしちゃいねぇ」
老店主の言葉に、アデルは首を傾げた。どういう事なのか分からないからだ。
「いや、そもそもあんちゃん、服には無頓着だろ。そのスーツ身体に合ってないし、色も似合ってないぞ」
確かに、アデルの今着ているスーツは少し布が余っている感じがした。
それも、アデルが普通よりも細身なせいで、本来ならオーダーメイドしてもらうべきなのだが、生憎ファッションには無頓着な為、着れれば良いという考えでさっと選んでしまっている。
アデルの悪い癖だ。
「よぅし、ちょいとワシがお前さんに合う服を仕立ててやる。上着を脱ぎな」
老店主が言うと、イヴがぐいっとアデルの上着を引っ張る。
逃げられそうにない状況に渋々上着をイヴに預けた。
老店主は素早くアデルのサイズをメジャーで測っていく。
その間イヴは少し暇になり、何となくアデルの上着を着てみたりしていた。
その時、内側のポケットに重たい物が入ってることに気付き、さっと手を差し入れて、中のものを少しだけ取り出してみると、イヴは目を丸くさせた。
内ポケットに入っていたは、ずっしりと重たい銀色の短い杖だったのだ。
老店主の採寸が終わり、アデルは明日また来いと言われて半分追い出されるように、店を後にした。
「はい」
イヴはアデルに上着を返し、再び手を繋いで町を案内する。
ふと、アデルは空き家がある事に気付き、イヴに尋ねた。
「この町にはどんなお店があるんだい?」
「さっきの仕立て屋さんと、パン屋さん、雑貨屋さん、八百屋さん、お肉屋さんかしら?」
「本屋とかは無いんだね」
「本はたまに行商人の人が持ってきてくれるわ」
イヴの返答に、アデルは次の商売を決めた。
彼はロンドンで父親の鳥類の研究を手伝いながら、古本屋を経営していた。
もちろん、あまり人気が無いので、こうしてクローズにしっぱなしでも問題がないくらいだが。
アデルはそこそこ楽しくやっている。
「本屋が出来たらこの町の人達は喜ぶかな?」
「そうね、この町の人達は本が好きだもの」
イヴも嬉しそうに笑って答えた。
ので、アデルはこの町に拠点を移すことを決めた。
安易な考えではあるが、本に溢れているロンドンで営むよりは、本の入手が困難な町で営んだ方が良いと思ったからだ。
「ここが雑貨屋さんよ」
アデルが行きたいと言った雑貨屋に到着すると、イヴは先頭を切って店へと入る。
店内はガラス製品や陶器製の小物や、古い金貨、よく分からない置物などが陳列されていた。
客人はアデル達のみだ。
「たまに掘り出し物があるのよ。ここの女店主は珍しい物に目がないんですって」
「これらは何処で手に入れたんだろうね」
陳列されている商品をよく見ると、宝石があしらわれた品などもあった。
「さぁ?港の人からじゃないかしら?一見ガラクタに見えるからきっとタダで貰ってるのよ」
と、イヴは憶測で話す。
「あら、イヴちゃんじゃない」
女性にしては低く野太い声に、アデルは驚いた。
イヴは女店主と言うが、店の奥から出てきたのは長身の男だったのだ。
魔術師のようなローブを着ており、金銀のアクセサリーを首という首に着けていた。
「こんにちはサラ。今日はお客さんを連れてきたのよ」
「あら、この可愛らしい坊やがそう?」
「えぇ、アデルっていうの」
「よろしく」
アデルは目を細め、口角を上げて笑うフリをした。
目の前の怪しい魔術師のような人物を警戒しているのだ。
「それで、アデル君は何を探しているのかしら?」
「サソリを模した物ってありますか?」
「残念だけど無いわね」
「そうですか……」
アデルの求める物はこの店には無いと分かると、どうしたものかと思案する。
サソリは魔除の効果があり、万が一に備えて持っておきたかったのだ。
「そういえば、今日は子供たちがいないのね」
商品棚にある美しい梟の置物を眺めながら、イヴは女店主に言った。
「そうなのよ……みんなどうしちゃったのかしらね?」
女店主は頬に手を当てて首を傾げた。
その時、アデルは女店主の手の皮膚がおかしい事に気が付いた。
人間の柔らかい皮膚ではなく、爬虫類や鳥類の脚の様な、硬そうな皮膚だったのだ。
そこから更に女店主を観察してみる。
爪は異様に長く鋭く黒い色をしている事や、身にまとっている黒いローブは窓からの光を浴びると緑色に光り、素材も鳥の羽で出来ているようだ。
——まるで鴉だ……
女店主の正体に気付いたアデルは咄嗟にイヴを自分の背に庇い、懐から杖を取り出して女店主へと向けた。
「まぁ、綺麗ねそれ」
銀色の杖を見てうっとりとする女店主。
「何が物足りないのかやっと分かったよ。今、この町には子供がイヴしかいないんだ」
この店に来るまで、アデルは子供の笑い声を聞いていないのだ。
そしてなにより、最初に出会った主婦が、イヴにアデルから離れてはいけないと言っていた事に、アデルはずっと違和感を感じていた。
イヴはこの町に住んで長いので迷子になるわけが無く、考えられるのは、人攫いに会う可能性があるという事だけだ。
あの言葉はイヴではなく、アデルに向けられた言葉で、忠告だったのだ。
「この町の大人は、子供が突然居なくなった事を知っている。小さな町ではそういった話は直ぐに皆に周知されるものだ。でもあなたは知らない風を装った、まるで白を切るように」
アデルの纏う空気がガラリと変わった事を肌に感じて、イヴは口を挟まないでいた。
ピリピリした空気が店の中を支配する。
「子供達はどこだ」
低い声で尋ねると、女店主は喉の奥でくつくつと笑い、羽根で出来たローブのフードを被るとその姿をあっという間に変えた。
漆黒の羽毛に覆われた顔には、羽とおなじ漆黒の大きなクチバシが生え、ギャアギャアと不気味な声で鳴いた。
女店主の正体はトラ程の大きさのある巨大なカラスだったのだ。
アデルはイヴを抱っこし、杖を振るって店に飾ってある物を巨大なカラスへと投げつけながら店から脱出する。
巨大なカラスは窓を突き破り、大きな翼を広げ、つむじ風を起こしながら空に舞い上がり、アデル達を一瞥すると、再び不気味な鳴き声を上げて森の方へと飛び去って行った。
「アデルどうしよう、子供達が心配だわ!」
恐ろしいカラスを見たイヴは、血相を変えてアデルにそう言う。
「きっと魔女の森に行ったんだわ!」
「魔女の森?」
「この町から少し離れた所に魔女が住むって言われてる森があるの。子供は近づいてはいけないって言われてるから行ったことはないけれど……」
「なるほど、ちょうどカラスが飛んで行った方角かな?」
「そうよ」
アデルはイヴを抱っこしたまま、町の出入口へと向かった。
町の出入口には、先程のカラスよりもひと回り程大きな鷲が1羽おり、町から出てきた二人をじっと見つめていた。
「アデル! また大きな鳥だわ!」
「大丈夫。紹介するよ、彼はアーノルド。僕の友達さ」
大きな鷲をイヴに紹介すると、アデルはその巨体にイヴを乗せ、彼女の前に座る。
「あなた鷲を飼っているの?」
「飼ってるとはまた違うけれど……まぁ、そんな所かな。アーノルド、さっきの大きなカラスを見たろ? それを追ってくれ」
掴まってて。
と、イヴに言い、イヴはアデルの上着にしがみついた。
アーノルドが大きな翼を羽ばたかせ、上昇するとふわりとした浮遊感に、イヴはアデルの体にしがみついて小さく悲鳴を上げた。
「ほら、見てご覧。ライの町があんなに小さくなっているよ」
アデルに促されて、イヴは恐る恐る下を見る。
「……ほんとだ! 家なんて豆みたいね!」
見たことも無い空からの景色にすっかり気を取られ、恐怖心が薄れたイヴを見てアデルはホッと胸を撫で下ろし、眼前に広がる森を見つめた。
まるでその森に住む何かを見据えるように。深い青色の瞳を細めて。
——つづく
イヴはパン屋でお昼ご飯を買いたいと言い、アデルは雑貨屋を見てみたいと言った。
二人が行きたい場所は真反対にあり、あっち行ったり、こっち行ったりするのは少し面倒そうだ。
そこでアデルは、時計回りに進もうと提案した。
イヴの行きたいパン屋を最後に回る事にし、その後はイヴの秘密の場所に向かう。
というスケジュールを立てて二人は歩き出す。
町は活気に溢れており、立ち話をしている主婦や、店で買い物をする人などと様々だ。
しかし、一見すると賑やかな風景だが、どこかアデルは物足りなさを感じていた。
その物足りなさの正体を探るように、アデルは周囲をぐるりと見回す。
視界に入るのは、買い物をする女性。
立ち話をする女性と男性は恐らく夫婦だろう。
本を読む老人。
カフェで食事をしている女性たち。
︎︎ ——大人が多いな……
「あら、イヴちゃんおはよう。そちらのお兄さんは?」
立ち話をしていた主婦がイヴに気が付き、声をかける。
「アデルよ。私のいとこなの」
「今朝来たばかりで、彼女に町を案内してもらっているんです」
イヴの紹介に続いて、アデルは柔和な笑みを浮かべて主婦に軽く頭を下げる。
「へぇ、そうなの。狭い町だけど、楽しんでね」
「はい」
「イヴちゃんも、お兄さんから離れちゃだめよ?」
そう言うと、主婦は優しくイヴの頭を撫でた。
人口の少ないこの小さな町でも迷子の心配をする人はいるのだと、アデルは少し不思議に思った。
「うん! さ、行きましょう!」
頭を撫でられたイヴは上機嫌になり、アデルの腕をぐいぐいと引っ張って歩き出す。
「ちょっと、イヴ、歩きにくいよ」
ちょうど歩いている道が坂道だったもので、アデルは前かがみになりながら歩く形になってしまい、周りからは、微笑ましいというような笑いを向けられ、少し恥ずかしくなり、苦笑いを浮かべた。
平らな道になり、アデルはやっと前かがみの体勢から戻ることが出来た。
この街には店が立ち並んでおり、先程よりも人が多く、イヴに連れられつつ、手をしっかり繋いで歩く。
まず最初にイヴに案内されたのは、仕立て屋だった。
店内には数人の客がおり、店の奥にあるカウンターでは、眼鏡をかけた老店主が本を読んでいる。
「この町唯一の仕立て屋さんよ。私のこの服もあの人に作ってもらったの」
ひらりと一回転して服を見せつけるイヴに、アデルは
「よっぽど腕が良い職人さんなんだね」
と返し、ドアを押して店内へと入る。
カランカランと小気味の良いベルの音が響き渡り、店の中にいた客と、店主の視線が一斉に二人へと向けられた。
「おや、お嬢さん。今日はお母様とご一緒じゃないのかい?」
じろりと怪しむような視線がアデルに向けられる。
それもそうだ。
アデルは今日来たばかりの新顔なうえ、この町に住んでいる訳でもない余所者なのだから。
「お父さんとお母さんは暫くお出かけなの。その代わりにアデルがロンドンから来てくれたのよ」
イヴがそう老店主に説明すると、老店主は本を置いてカウンターから抜け出し、アデルをじろじろと訝しげな眼差しで見た。
いや、睨みつけた。
と言った方が正しい。
「初めましてご主人。僕はイヴの従兄のアデルです、よろしく」
老店主の威圧に少したじろぎながらも、アデルは挨拶をしてぐるりと店内を見渡した。
「あんちゃん、その服はロンドンで仕立てた服かね?」
くいっと眼鏡を上げて、老店主はじっとアデルの着ている上着を見た。
「え、えぇ。ですが、仕立ててもらってはいませんが、ロンドンで売ってる服ですよ」
アデルの返答に、老店主は片眉を上げた。
「ロンドンの仕立て屋はなってねぇな。いや、腕は確かだが、買う奴の事を気にしちゃいねぇ」
老店主の言葉に、アデルは首を傾げた。どういう事なのか分からないからだ。
「いや、そもそもあんちゃん、服には無頓着だろ。そのスーツ身体に合ってないし、色も似合ってないぞ」
確かに、アデルの今着ているスーツは少し布が余っている感じがした。
それも、アデルが普通よりも細身なせいで、本来ならオーダーメイドしてもらうべきなのだが、生憎ファッションには無頓着な為、着れれば良いという考えでさっと選んでしまっている。
アデルの悪い癖だ。
「よぅし、ちょいとワシがお前さんに合う服を仕立ててやる。上着を脱ぎな」
老店主が言うと、イヴがぐいっとアデルの上着を引っ張る。
逃げられそうにない状況に渋々上着をイヴに預けた。
老店主は素早くアデルのサイズをメジャーで測っていく。
その間イヴは少し暇になり、何となくアデルの上着を着てみたりしていた。
その時、内側のポケットに重たい物が入ってることに気付き、さっと手を差し入れて、中のものを少しだけ取り出してみると、イヴは目を丸くさせた。
内ポケットに入っていたは、ずっしりと重たい銀色の短い杖だったのだ。
老店主の採寸が終わり、アデルは明日また来いと言われて半分追い出されるように、店を後にした。
「はい」
イヴはアデルに上着を返し、再び手を繋いで町を案内する。
ふと、アデルは空き家がある事に気付き、イヴに尋ねた。
「この町にはどんなお店があるんだい?」
「さっきの仕立て屋さんと、パン屋さん、雑貨屋さん、八百屋さん、お肉屋さんかしら?」
「本屋とかは無いんだね」
「本はたまに行商人の人が持ってきてくれるわ」
イヴの返答に、アデルは次の商売を決めた。
彼はロンドンで父親の鳥類の研究を手伝いながら、古本屋を経営していた。
もちろん、あまり人気が無いので、こうしてクローズにしっぱなしでも問題がないくらいだが。
アデルはそこそこ楽しくやっている。
「本屋が出来たらこの町の人達は喜ぶかな?」
「そうね、この町の人達は本が好きだもの」
イヴも嬉しそうに笑って答えた。
ので、アデルはこの町に拠点を移すことを決めた。
安易な考えではあるが、本に溢れているロンドンで営むよりは、本の入手が困難な町で営んだ方が良いと思ったからだ。
「ここが雑貨屋さんよ」
アデルが行きたいと言った雑貨屋に到着すると、イヴは先頭を切って店へと入る。
店内はガラス製品や陶器製の小物や、古い金貨、よく分からない置物などが陳列されていた。
客人はアデル達のみだ。
「たまに掘り出し物があるのよ。ここの女店主は珍しい物に目がないんですって」
「これらは何処で手に入れたんだろうね」
陳列されている商品をよく見ると、宝石があしらわれた品などもあった。
「さぁ?港の人からじゃないかしら?一見ガラクタに見えるからきっとタダで貰ってるのよ」
と、イヴは憶測で話す。
「あら、イヴちゃんじゃない」
女性にしては低く野太い声に、アデルは驚いた。
イヴは女店主と言うが、店の奥から出てきたのは長身の男だったのだ。
魔術師のようなローブを着ており、金銀のアクセサリーを首という首に着けていた。
「こんにちはサラ。今日はお客さんを連れてきたのよ」
「あら、この可愛らしい坊やがそう?」
「えぇ、アデルっていうの」
「よろしく」
アデルは目を細め、口角を上げて笑うフリをした。
目の前の怪しい魔術師のような人物を警戒しているのだ。
「それで、アデル君は何を探しているのかしら?」
「サソリを模した物ってありますか?」
「残念だけど無いわね」
「そうですか……」
アデルの求める物はこの店には無いと分かると、どうしたものかと思案する。
サソリは魔除の効果があり、万が一に備えて持っておきたかったのだ。
「そういえば、今日は子供たちがいないのね」
商品棚にある美しい梟の置物を眺めながら、イヴは女店主に言った。
「そうなのよ……みんなどうしちゃったのかしらね?」
女店主は頬に手を当てて首を傾げた。
その時、アデルは女店主の手の皮膚がおかしい事に気が付いた。
人間の柔らかい皮膚ではなく、爬虫類や鳥類の脚の様な、硬そうな皮膚だったのだ。
そこから更に女店主を観察してみる。
爪は異様に長く鋭く黒い色をしている事や、身にまとっている黒いローブは窓からの光を浴びると緑色に光り、素材も鳥の羽で出来ているようだ。
——まるで鴉だ……
女店主の正体に気付いたアデルは咄嗟にイヴを自分の背に庇い、懐から杖を取り出して女店主へと向けた。
「まぁ、綺麗ねそれ」
銀色の杖を見てうっとりとする女店主。
「何が物足りないのかやっと分かったよ。今、この町には子供がイヴしかいないんだ」
この店に来るまで、アデルは子供の笑い声を聞いていないのだ。
そしてなにより、最初に出会った主婦が、イヴにアデルから離れてはいけないと言っていた事に、アデルはずっと違和感を感じていた。
イヴはこの町に住んで長いので迷子になるわけが無く、考えられるのは、人攫いに会う可能性があるという事だけだ。
あの言葉はイヴではなく、アデルに向けられた言葉で、忠告だったのだ。
「この町の大人は、子供が突然居なくなった事を知っている。小さな町ではそういった話は直ぐに皆に周知されるものだ。でもあなたは知らない風を装った、まるで白を切るように」
アデルの纏う空気がガラリと変わった事を肌に感じて、イヴは口を挟まないでいた。
ピリピリした空気が店の中を支配する。
「子供達はどこだ」
低い声で尋ねると、女店主は喉の奥でくつくつと笑い、羽根で出来たローブのフードを被るとその姿をあっという間に変えた。
漆黒の羽毛に覆われた顔には、羽とおなじ漆黒の大きなクチバシが生え、ギャアギャアと不気味な声で鳴いた。
女店主の正体はトラ程の大きさのある巨大なカラスだったのだ。
アデルはイヴを抱っこし、杖を振るって店に飾ってある物を巨大なカラスへと投げつけながら店から脱出する。
巨大なカラスは窓を突き破り、大きな翼を広げ、つむじ風を起こしながら空に舞い上がり、アデル達を一瞥すると、再び不気味な鳴き声を上げて森の方へと飛び去って行った。
「アデルどうしよう、子供達が心配だわ!」
恐ろしいカラスを見たイヴは、血相を変えてアデルにそう言う。
「きっと魔女の森に行ったんだわ!」
「魔女の森?」
「この町から少し離れた所に魔女が住むって言われてる森があるの。子供は近づいてはいけないって言われてるから行ったことはないけれど……」
「なるほど、ちょうどカラスが飛んで行った方角かな?」
「そうよ」
アデルはイヴを抱っこしたまま、町の出入口へと向かった。
町の出入口には、先程のカラスよりもひと回り程大きな鷲が1羽おり、町から出てきた二人をじっと見つめていた。
「アデル! また大きな鳥だわ!」
「大丈夫。紹介するよ、彼はアーノルド。僕の友達さ」
大きな鷲をイヴに紹介すると、アデルはその巨体にイヴを乗せ、彼女の前に座る。
「あなた鷲を飼っているの?」
「飼ってるとはまた違うけれど……まぁ、そんな所かな。アーノルド、さっきの大きなカラスを見たろ? それを追ってくれ」
掴まってて。
と、イヴに言い、イヴはアデルの上着にしがみついた。
アーノルドが大きな翼を羽ばたかせ、上昇するとふわりとした浮遊感に、イヴはアデルの体にしがみついて小さく悲鳴を上げた。
「ほら、見てご覧。ライの町があんなに小さくなっているよ」
アデルに促されて、イヴは恐る恐る下を見る。
「……ほんとだ! 家なんて豆みたいね!」
見たことも無い空からの景色にすっかり気を取られ、恐怖心が薄れたイヴを見てアデルはホッと胸を撫で下ろし、眼前に広がる森を見つめた。
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