魔法使いアデル

八條ろく

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魔法使いアデル 中

魔女の家

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 森の中に一箇所だけ開けた場所を見つけ、アーノルドはそこへと降り立つ。

 おそらく、あの巨大なカラスもここに降り立ち、どこかへ行ったに違いないと、アデルは考えた。

「ありがとう、ここでしばらく待っていてくれ」

 イヴを抱っこしてアーノルドから下ろすと、アデルはさっと上着の内ポケットから杖を取り出し、辺りを警戒する。

 今、アデル達がいる所は拓けているので明るいが、そこから先は薄暗く、不気味な雰囲気を醸し出している。

 じめっとした湿気を含んだ風が、二人の頬を撫で、髪を揺らす。

「私もついて行ってもいい?」

 言葉を話さない鷲と一緒に居ようかと考えたイヴだが、居なくなった子供達への心配が恐怖心を上回り、アデルにそう訪ねた。

「子供達は、見知った私の言うをきっと聞いてくれるわ」

「だろうね。今はどこにいても危ないかもしれないから、離れないでね」

 アデルの言葉にイヴは頷くと、杖を持っていない空いてる方の手を差し出されたのでその手を掴み、薄暗い森を睨みつける。

 二人は森の中へと足を踏み入れ、手がかりを探しながら進む。

 注意深く辺りを見ていると、薄暗さに目が慣れたのか、どんな草木があるのかが解った。

 この森には毒草が生えており、木に実っている果実は見たことのない物ばかりだった。試しに、一つ手にとって割ってみると、甘ったるい香りが鼻の奥に絡まる。

「これが何か知っているかい?」

「いいえ、知らないわ。でも美味しそうね」

甘い香りに手を伸ばすが、アデルが果実を遠ざけたのでイヴの手は虚しく宙を掠める。

「これは多分、魔法で作られた果実だ。まわりの毒草も魔道書で見たものばかり……もしかしたら、犯人はあのカラスでは無いのかもしれない」

「どういう事?」

 イヴにはアデルが何を考えているのか全く分からなかった。魔法の事についてはさっぱり分からないし、この美味しそうな果実を食べてはいけない、というのも分からなかった。

「魔法使いはね、動物を使役して手足のように使う事が出来るんだ。僕の場合はアーノルドがそうなんだけど、もしかしたらあのカラスも他の魔法使いの使い魔で、黒幕がその魔法使いなんじゃないかと思ってるわけさ」

「なるほどね。でも、子供達をさらってどうするつもりなのかしら……」

 アデルの考えは分かったが、その黒幕だと仮定される魔法使いの目的が分からなかった。子供なんて力も知識もないから役には立たないんじゃないか? と、イヴは考えた。もし、他に使い道があるとしたら、体が小さいという事を利用して、盗みをさせるくらいしか思いつかなかった。

「もしかしたら悪魔と契約をするつもりなのかも……」

「悪魔!?」

 突然出てきた馴染みのある単語に、イヴは思わず大きな声で反応した。魔法を信じる彼女だが、悪魔や天使を信じていなかったので、つい大きな声が出てしまったのだ。

「そう、悪魔は無垢な魂が大好きだからね」

 アデルの言葉に、イヴはさっと血の気が引くのを感じ、身震いをして自分の肩を抱く。

「これは、さっきのカラスの羽根だな……」

 怯えるイヴを余所に、アデルは足元に落ちていた黒い羽根を拾い上げ、ふっと息を吹きかける。

 すると、羽は小鳥へと変身し、森の奥へと羽ばたいていく。

「あの羽が案内してくれる。行こうイヴ」

「えっ? あ、うん!」

 自分の見ていない所で進展があり、イヴは一瞬呆けてしまったが、直ぐに気を取り直し、アデルの手をしっかり握って先へと進んだ。

 だいぶ奥へとやって来ると、小鳥は羽の姿へと戻ってしまった。どうやら案内を終えたらしい。が、そこには何も無く、大木が1本生えているだけだった。

「何も無いじゃない」

 心底がっかりしたと言うふうに、イヴは口を尖らせて文句を垂れる。

「イヴ、上を見てごらん」

 アデルに言われて、イヴは大木の上を見上げた。

 大木の上には木造の家が建っており、風に吹かれて軋むような音を立てている。いまにも落ちてしまいそうな、見る者を不安にさせるその奇妙さに、イヴは不気味な何かを感じ取っていた。

「あそこに子供達がいるの?」

「あぁ、きっとね」

 2人は大木のまわりをぐるりと歩いて見てみるが、入口のようなものは無かった。

 あのツリーハウスにはどうやって行けばいいのか、アデルは悩んだ。魔法で空を飛ぶ事も考えたが、試したことがないので、成功するのかも分からないし、何より相手に気付かれるという心配がある。

「アデル、大木から垂れているツルで何とか登れないかしら?」

「ツルか……うん、何とか登れるかもしれない」

 何か閃いたという風に、アデルは一つ頷いて懐から杖を取り出し、ひょいっと軽く上に振るう。すると、蛇のようにツルが蠢き、するすると伸び降りてくる。

 アデルはイヴを抱きかかえて、降りてきたツルに掴まった。

「イヴ、しっかり掴まってて」

 アデルに言われたとおり、イヴはしっかり細身の体に抱き着く。ふわりと足元が浮き、伸びたツルはするすると縮んでアデル達を上へと運んでいく。

「すごい……アデルって何でも出来るのね!」

「このくらいまだまだ序の口さ」

 もっと凄いことが出来ると、アデルは得意げな笑みを口元に浮かべた。


 あっという間にツリーハウスまで登ってくると、アデルはあのツルが正規の登り口なのだと知った。理由は、狙ったように玄関前まで運んでくれたからだ。

「……」

 上手く魔術師の住み家まで来れた事に、アデルは不審に思い、もしかしたらこれは相手の罠じゃないかと深読みする。もし罠だとしたらどう回避するべきか、頭の中でぐるりと考えを巡らす。

「ここから先は何があるか分からないから、イヴはこの羽を肌身離さず持っていて」

 そう言ってアデルはイヴに、茶色い羽根を一枚渡した。

「分かったわ」

 イヴはその羽根を受け取り、ぎゅっと握りしめる。

「それはアーノルドの羽根でね、鷲はカラスの天敵なんだ。だからイヴの事を守ってくれるよ」

「心強いお守りね!」

 満面の笑みを浮かべるイヴにつられ、アデルも笑う。

「さて、中に入って子供たちを救い出そう」

 アデルは、ツリーハウスの木製のドアを押し開け、中へと足を踏み入れる。

 ツリーハウスの中はそれほど広くなく、両サイドに部屋がひとつづつあり、正面奥には上へとあがる階段があるだけで、とくに怪しい所はなかった。

 右側の部屋に入ってみると、大きな窓から日差しが入り、森の雰囲気とは違う暖かな空間がそこにあった。赤色の絨毯の上に揺り椅子が静かに佇んでおり、傍にあるテーブルの上にはしおりが挟まれた本が一冊置かれていた。

 アデルとイヴは部屋に入り、怪しい所がないか探す。が、これといった物は見つからなかった。

「アデル!」

 揺り椅子の傍にある、テーブルの上に置いてあった本を何となく開いたイヴは、 アデルの名前を呼んだ。

「何か見つかったかい?」

 アデルは慌ててイヴの傍に行く、するとイヴは手にした小さく折り畳まれた紙をアデルに渡した。

 その紙を開いてみると、癖のある字で

『残る子供は一人。近くにいる男はなにか怪しいので注意せよ』

と書かれていた。その文面をイヴに見せると、イヴの顔からさっと血の気が失せた。

「これ、うちの家政婦の字よ……?」

 信じられない気持ちと、裏切られたという気持ちが彼女の表情に表れ、救いを求めるような眼差しをアデルへと向けた。

「なるほど……でも、彼女が魔術師の仲間だと決まったわけじゃない。もしかしたら、何か弱みを握られているのかも」

 たしかに彼女は薄気味悪いが、魔法を信じていないという伯父の言葉でなにか理由があってこのメモを魔術師に渡したんだと、アデルは考えた。

「そ、そうね……たしかに彼女はがさつだけれど、悪い人じゃないわ!」

 イヴの顔に血の色が戻り、その瞳は力強く真っ直ぐにアデルの瞳を見つめる。
「よし、じゃあ他の部屋を探してみようか」

 イヴの頭を優しく撫で、再び手を繋いで部屋を出た。

 左の部屋はキッチンダイニングとなっており、薬草や毒草、食材で溢れかえっていた。

 キッチン周りもダイニングテーブルのほんの僅かなスペースしか空いてない。アデルは何かを隠すためにこんなに物を置いているのではないかと、魔法で隠し部屋などが無いか確認するが、特には見つからなかった。

 キッチンダイニングを後にした二人は、階段を登る。階段は少し登ると外付けとなり、大木の幹に沿って造られていた。

 二階も一階と同じ間取りとなっており、右は寝室、左は浴室となっていた。先ず二人は寝室へと入る。

 寝室も散らかっており、洋服がそこらかしこに落ちていた。

「どれもこれも女性物の服ね……住んでいるのは魔女?」

「そうだね。魔女がこの家の主みたいだ」

 散らかっている洋服はドレスばかりで、部屋の中には他にもドレッサーなども置かれていた。ドレッサーの引き出しを開けてみると、中には宝石を散りばめたアクセサリーが沢山入っており、アデルは巨大なカラスがいた雑貨屋を思い出した。

「この魔女はカラスみたいに光り物が好きみたいだね」

 部屋の中を見回すと、金や銀を使った物が多くく飾られており、窓から差し込む陽の光を反射して輝いている。

「そうみたいね。でもこの部屋にはその事以外何も分からないわね……」

 なかなか子供達が見つからず、イヴは落胆する。

「そうでも無いみたいだよ」

 アデルはベッドの脇に置いてあった本を手に取ってページを捲りながら、イヴの言葉を否定する。

「その本は何?」

「黒魔術の書だね。悪魔との契約方法が載っているページにメモ書きがされてるよ。僕が言ったように子供を生贄に悪魔と契約をするみたいだ……」

 アデルは本を閉じ、元の場所に戻す。

「五人の子供を生贄として捧げることで、悪魔と契約が出来るらしい。子供達は何人いなくなったんたい?」

 アデルの質問に、イヴは少し考える。

「んと……四人……かしら?」

「という事は、イヴが捕まるまでは子供達は安全って事だね」

「ほんと!?」

 アデルの一言にイヴは安心すると同時に希望を感じた。もしそうだとしたなら、早く子供達の所へ行って家に返すことが出来るからだ。

「となると、儀式が出来そうなのは、廊下の奥の階段を上がった所だろうね」

「なら、早く行きましょう!」

 言うが早いか、イヴはアデルの腕を引っ張っぱり、廊下の奥にある階段を駆け上がった。

——つづく
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