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第4章 魔王城の決戦編
第59話 7人の戦い
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第59話 7人の戦い
ライムとミカンが空間転移した先は、玉座の間。狒々の頭の羅将の肩の上だった。
2人はとっさに、その肩を蹴って、さらに上空に飛び上がった。
突然出現した2人に、羅将たちはあっけにとられ、それを見上げた。
「ミカン!」
「お姉さま!」
2人の声が揃った。
「東方魔術、階梯不明! 無間煉獄火炎(ムゲンレンゴクカエン)!」
2人の振り下ろした杖の先、からではなく、羅将たちの足元から、火柱が上がった。
「くっ」
ライムとミカンは、その熱風に飛ばされて、後ろの壁に叩きつけられた。
羅将たちは灼熱の炎に包まれていた。炎は赤黒く、地獄の底から噴き出てくるかのようだった。その炎の中に、東方世界のヴォン字が無数に渦巻いている。
獅子の羅将も、山羊の羅将も、狒々の羅将も、両手に持っていた武器を投げ捨てて、もだえ苦しんでいた。
これを提案したミカンには勝算があった。羅将たちは超絶魔法耐性を持っていることは明白だ。しかし、死霊魔術によって蘇った彼らには、アンデット系特有の弱点耐性が発生しているはずだったのだ。
それが、火炎系魔法。元の魔法耐性自体がいかに高くとも、火炎系という弱点耐性をつけば、それなりのダメージを与えられるはずだった。
そして、ミカンとライムの2人が、東方出身の師から学んだ奥義のうち、最強の単体魔法が、火炎系の極致とも言える大魔法・無間煉獄火炎だったことも、天の配剤と言えた。
「これが効かなきゃ終わりよ!」
「死んでくださぁい!」
壁際で立ち上がった2人が祈りを込めて、杖を構え続ける。
グガアアアァ!
ギギギギギィ!
メエエエエェ!
羅将のうめき声が炎の中で、巻き上がるヴォン字に干渉し、おぞましい音色へと変化しながらほとばしっていた。
炎が収まってきた。
2人の顔から滝のように汗が流れ落ちている。魔力の消耗が激しいのだ。
「ミカン、いける?」
「ええ」
2人は多くを語らず、阿吽の呼吸で、次の魔法を準備した。
彼女たちの周囲に空気が流れ込み、気流となって渦巻いた。
「東方魔術、五百田(いおた)・風神袋(フウジンブクロ)!」
第9階梯の風魔法が、空間を斬り裂くような威力で、羅将たちを襲った。
まだ彼らの体には、赤黒い炎がまとわりつき、皮膚を、肉を、焦がしていた。その肩の上についている、細い腕の先のコブ、魔法の発動体に向かって、風の刃が吹きつけた。
「やった!」
2本ずつ、6本の腕が根元から千切れ落ちた。風魔法の威力が、羅将の残っていた防壁を上回ったのだ。羅将たちは再び、絶叫を上げる。
ライムは、ガクリと膝が落ちそうになるのをとっさにこらえた。
レンジの補助魔法で魔法源が増強されていたため、東方魔術の奥義を連発するという暴挙を敢行したが、さすがに反動があった。
きつい。意識が飛びそうになる。体中から、命のエネルギーが抜け出ていくような感覚があった。
「ファーガ!」
ミカンもまた、目の前が暗くなるほどの疲労に襲われていたが、力を振り絞り、床に落ちた羅将たちの腕を閃熱魔法で蒸発させた。
玉座の間に、ほかの23神将たちの姿は見えない。全員が下の階に下りていたようだ。しかし、魔法の発動体を破壊したことで、死霊魔術で蘇っていた彼らは下の階で元の死体に戻っているはずだった。
玉座の間の中央に発生していた火柱が、ついに消えた。風魔法も、魔法の発動体を切り落としたあと、いきがけの駄賃とばかりに羅将の体を舐めまわすように斬り裂いたのち、つむじ風となって消えていった。
後には、全身が火傷と切り傷でズタズタになった3羅将が残された。
羅将たちは、焼けただれながらも黒い煙を噴き出す口で、雄叫びをあげた。
「だめなの?」
ミカンが悲鳴をあげる。
ライムが己の震える膝を叩きながら、言った。
「もう少し。もう少しで、セトカたちが来てくれる!」
3羅将は、体を引きずるようにしながら、獅子のブレスであいた壁の穴に向かって進み始めた。
逃走する気だ!
「逃がさない!」
ライムとミカンは、攻撃魔法を放った。残りの魔力では、もう大魔法は撃てない。第5階梯の火炎魔法だった。
振り向いた山羊の羅将の口から、コウモリの群れが飛び出してきた。獅子の羅将の口からは、ネズミの群れが。
限界を超えてなお立っている魔法使い2人に、その群れが襲い掛かった。
セトカたちが、長い大階段をのぼって、再び玉座の間に走り出た。
「ライム!」
「ミカン殿!」
小さな魔法使い2人が、羅将を挟んで、立ったまま気絶していた。ローブが、切り刻まれてズタボロになっている。それぞれの足元には、血だまりができていた。
2人の周りには、コウモリとネズミの死骸が山をなしている。
生きてる!
セトカは2人を見て、飛びついて抱きしめたい思いに駆られた。しかし、それを思いとどまる。
全員が同じ気持ちだった。
3羅将が、部屋の真ん中に立っていた。武器は持っていない。全身が小刻みに震えている。ダメージの回復をはかろうとしているのかのように、目を閉じたままだった。
「あとは任せろ!」
バレンシアがそう叫んで、羅将に斬りかかった。
騎士たちが全員、雄叫びを挙げた。
バレンシアが斬った。イヨが斬った。ビアソンが斬った。マーコットが斬った。
目覚めた羅将たちは、武器を拾い上げて必死に抵抗をした。セトカが、その目を狙って、幾本も矢を放った。
斬った。斬った。斬った。
斬りまくった。
騎士たちは、剣で斬られても、棍棒で殴られても、一歩も引かなかった。全身が赤いもので濡れていた。自分の血なのか、返り血なのかもわからなかった。
怒りに満ちた目の獅子と、山羊と、狒々の口がふいに開いた。
ブレスが来る!
わかっていても逃げられない。
だが、次の瞬間、突如発生した竜巻が、3羅将の口のなかに飛び込んでいった。
ブロロロロロロアアアアアア!
口腔内と体内の空気を攪拌しながら、竜巻が3羅将の体の奥深くへめり込んでいった。もうブレスは撃てない。
東方魔術、五百田(いおた)・風神袋の遅効性効果が発動したのだった。
騎士たちは再び剣を振り上げて、3羅将へ殺到する。
永遠にも思える時間が過ぎ、やがて、その時がやってきた。
バレンシアの剣が、獅子の羅将の眉間に突き刺さり、ズブズブと深く沈み込んでいった。
そして、その口から「くはあ」という、空気が漏れるような音がしたかと思うと、獅子の目から急速に光が失われていった。
「かっ…………た」
イヨが嘆息した。
すべての羅将が、動きを止めていた。その目に、蘇ったかりそめの命の禍々しい光は、すでになかった。
そしてその巨体が、どうっ、と倒れ伏した。ピクリとも動かない。3羅将は、死んだのだった。
「ライム!」
バレンシアが、立ったまま気を失っているライムに駆け寄って抱きしめた。
「しっかりしろ」
ライムがうっすらと目を開ける。
「いたい……わね。ゴリラ女」
「魔法使いが無茶しやがって。アタシたちよりも、傷だらけじゃねえか」
「……勝ったのね」
「ああ!」
ミカンには、マーコットが抱きついた。
「ミカン殿! やりましたよ」
「ふえ? ここどこですか?」
ミカンは意識がまだはっきりしていないようだった。
「勝ったのですぞ!」
その傍らでは、イヨとビアソンが抱き合って喜んでいる。
そんな歓喜の輪の後ろで、ふいに黒い瘴気が湧き上がった。
床に倒れて絶命している3羅将の体に瘴気が吸い込まれていく。
仰向けの獅子の目が、ぱちりと開いた。そして、その口が開いた。舌の先に、いつの間に咥えていたのか、千切れ落ちたはずのあの魔法の発動体のコブが乗っていた。
喜び合っているバレンシアたちは、だれもそれに気づいていない。
獅子の目が細くなった。
次の瞬間、その獅子の目がいきなり斬り裂かれた。
間髪を入れず舌が切り取られ、その喉に剣が突き立てられて、体の奥深くに刺し込まれた。
ハッとして、全員が振り向いた。
「セトカ!」
バレンシアが慌てて剣を構えて、叫んだ。
セトカが、よみがえりかけた羅将に、とどめの一撃を加えたのだった。
「なんで、気づいたんだ?」
セトカは剣を引き抜き、バレンシアの問いかけに答えた。
「私は、こんなレベルの相手と戦える体じゃなかった。あなたたちが戦っているそばで、指揮をとることしかできなかった。……昔、魔王軍の強敵と戦った時、死後に1度だけ発動する、復活魔法をかけていたやつがいた。最低値の体力でよみがえる魔法だ。私ができるのは、万が一それが発動した時、即座にとどめをさすことだけだった」
「おまえ、わかってたのか……こいつが復活することを」
「いや。ただ、心の準備をしていただけだ。できることは、それだけだったから……」
バレンシアが、セトカに近づいて、その体を抱きしめた。
「おまえ、やっぱり最高だぜ」
「いた。ちょっと、バレンシア。私、レベル下がってるから」
ライムがビアソンに抱き起されながら、その様子を見て、ぼそりと言った。
「嫉妬しちゃうわね」
「え? ライムさんって、まさか」
「は? 違う違う」
「どっち? どっちへの嫉妬なんですの?」
そんなやりとりを尻目に、マーコットに支えられたミカンが、杖を振って、羅将の体を燃やした。
魔法耐性の消えたその体は、またたく間に燃え上がり、炭と化していった。
「はあー。私、3羅将と戦ってみたい、なんて言ってたんですけど。余計なこと言うもんじゃないですねぇ。これだけのサポートもらって、この体たらくですから。修行が足りませんでしたぁ」
そのミカンのぼやきに、マーコットが言った。
「ミカン殿はとっても凄かったですぞ。同い年なのに、尊敬するであります!」
「マーコットちゃん……。友だちになってくれます?」
「もちろんであります!」
ビアソンの執拗な追及をかわしていたライムが、ふいにハッとして、目を見開いて言った。
「レンジは?」
全員がその言葉に我に返った。
「レンジ……」
セトカが、レンジと魔王の消えた、空の玉座の上空を見上げた。
「私と約束しただろ、レンジ!」
その言葉は、主の消えた玉座の間に、むなしく響いた。
ライムとミカンが空間転移した先は、玉座の間。狒々の頭の羅将の肩の上だった。
2人はとっさに、その肩を蹴って、さらに上空に飛び上がった。
突然出現した2人に、羅将たちはあっけにとられ、それを見上げた。
「ミカン!」
「お姉さま!」
2人の声が揃った。
「東方魔術、階梯不明! 無間煉獄火炎(ムゲンレンゴクカエン)!」
2人の振り下ろした杖の先、からではなく、羅将たちの足元から、火柱が上がった。
「くっ」
ライムとミカンは、その熱風に飛ばされて、後ろの壁に叩きつけられた。
羅将たちは灼熱の炎に包まれていた。炎は赤黒く、地獄の底から噴き出てくるかのようだった。その炎の中に、東方世界のヴォン字が無数に渦巻いている。
獅子の羅将も、山羊の羅将も、狒々の羅将も、両手に持っていた武器を投げ捨てて、もだえ苦しんでいた。
これを提案したミカンには勝算があった。羅将たちは超絶魔法耐性を持っていることは明白だ。しかし、死霊魔術によって蘇った彼らには、アンデット系特有の弱点耐性が発生しているはずだったのだ。
それが、火炎系魔法。元の魔法耐性自体がいかに高くとも、火炎系という弱点耐性をつけば、それなりのダメージを与えられるはずだった。
そして、ミカンとライムの2人が、東方出身の師から学んだ奥義のうち、最強の単体魔法が、火炎系の極致とも言える大魔法・無間煉獄火炎だったことも、天の配剤と言えた。
「これが効かなきゃ終わりよ!」
「死んでくださぁい!」
壁際で立ち上がった2人が祈りを込めて、杖を構え続ける。
グガアアアァ!
ギギギギギィ!
メエエエエェ!
羅将のうめき声が炎の中で、巻き上がるヴォン字に干渉し、おぞましい音色へと変化しながらほとばしっていた。
炎が収まってきた。
2人の顔から滝のように汗が流れ落ちている。魔力の消耗が激しいのだ。
「ミカン、いける?」
「ええ」
2人は多くを語らず、阿吽の呼吸で、次の魔法を準備した。
彼女たちの周囲に空気が流れ込み、気流となって渦巻いた。
「東方魔術、五百田(いおた)・風神袋(フウジンブクロ)!」
第9階梯の風魔法が、空間を斬り裂くような威力で、羅将たちを襲った。
まだ彼らの体には、赤黒い炎がまとわりつき、皮膚を、肉を、焦がしていた。その肩の上についている、細い腕の先のコブ、魔法の発動体に向かって、風の刃が吹きつけた。
「やった!」
2本ずつ、6本の腕が根元から千切れ落ちた。風魔法の威力が、羅将の残っていた防壁を上回ったのだ。羅将たちは再び、絶叫を上げる。
ライムは、ガクリと膝が落ちそうになるのをとっさにこらえた。
レンジの補助魔法で魔法源が増強されていたため、東方魔術の奥義を連発するという暴挙を敢行したが、さすがに反動があった。
きつい。意識が飛びそうになる。体中から、命のエネルギーが抜け出ていくような感覚があった。
「ファーガ!」
ミカンもまた、目の前が暗くなるほどの疲労に襲われていたが、力を振り絞り、床に落ちた羅将たちの腕を閃熱魔法で蒸発させた。
玉座の間に、ほかの23神将たちの姿は見えない。全員が下の階に下りていたようだ。しかし、魔法の発動体を破壊したことで、死霊魔術で蘇っていた彼らは下の階で元の死体に戻っているはずだった。
玉座の間の中央に発生していた火柱が、ついに消えた。風魔法も、魔法の発動体を切り落としたあと、いきがけの駄賃とばかりに羅将の体を舐めまわすように斬り裂いたのち、つむじ風となって消えていった。
後には、全身が火傷と切り傷でズタズタになった3羅将が残された。
羅将たちは、焼けただれながらも黒い煙を噴き出す口で、雄叫びをあげた。
「だめなの?」
ミカンが悲鳴をあげる。
ライムが己の震える膝を叩きながら、言った。
「もう少し。もう少しで、セトカたちが来てくれる!」
3羅将は、体を引きずるようにしながら、獅子のブレスであいた壁の穴に向かって進み始めた。
逃走する気だ!
「逃がさない!」
ライムとミカンは、攻撃魔法を放った。残りの魔力では、もう大魔法は撃てない。第5階梯の火炎魔法だった。
振り向いた山羊の羅将の口から、コウモリの群れが飛び出してきた。獅子の羅将の口からは、ネズミの群れが。
限界を超えてなお立っている魔法使い2人に、その群れが襲い掛かった。
セトカたちが、長い大階段をのぼって、再び玉座の間に走り出た。
「ライム!」
「ミカン殿!」
小さな魔法使い2人が、羅将を挟んで、立ったまま気絶していた。ローブが、切り刻まれてズタボロになっている。それぞれの足元には、血だまりができていた。
2人の周りには、コウモリとネズミの死骸が山をなしている。
生きてる!
セトカは2人を見て、飛びついて抱きしめたい思いに駆られた。しかし、それを思いとどまる。
全員が同じ気持ちだった。
3羅将が、部屋の真ん中に立っていた。武器は持っていない。全身が小刻みに震えている。ダメージの回復をはかろうとしているのかのように、目を閉じたままだった。
「あとは任せろ!」
バレンシアがそう叫んで、羅将に斬りかかった。
騎士たちが全員、雄叫びを挙げた。
バレンシアが斬った。イヨが斬った。ビアソンが斬った。マーコットが斬った。
目覚めた羅将たちは、武器を拾い上げて必死に抵抗をした。セトカが、その目を狙って、幾本も矢を放った。
斬った。斬った。斬った。
斬りまくった。
騎士たちは、剣で斬られても、棍棒で殴られても、一歩も引かなかった。全身が赤いもので濡れていた。自分の血なのか、返り血なのかもわからなかった。
怒りに満ちた目の獅子と、山羊と、狒々の口がふいに開いた。
ブレスが来る!
わかっていても逃げられない。
だが、次の瞬間、突如発生した竜巻が、3羅将の口のなかに飛び込んでいった。
ブロロロロロロアアアアアア!
口腔内と体内の空気を攪拌しながら、竜巻が3羅将の体の奥深くへめり込んでいった。もうブレスは撃てない。
東方魔術、五百田(いおた)・風神袋の遅効性効果が発動したのだった。
騎士たちは再び剣を振り上げて、3羅将へ殺到する。
永遠にも思える時間が過ぎ、やがて、その時がやってきた。
バレンシアの剣が、獅子の羅将の眉間に突き刺さり、ズブズブと深く沈み込んでいった。
そして、その口から「くはあ」という、空気が漏れるような音がしたかと思うと、獅子の目から急速に光が失われていった。
「かっ…………た」
イヨが嘆息した。
すべての羅将が、動きを止めていた。その目に、蘇ったかりそめの命の禍々しい光は、すでになかった。
そしてその巨体が、どうっ、と倒れ伏した。ピクリとも動かない。3羅将は、死んだのだった。
「ライム!」
バレンシアが、立ったまま気を失っているライムに駆け寄って抱きしめた。
「しっかりしろ」
ライムがうっすらと目を開ける。
「いたい……わね。ゴリラ女」
「魔法使いが無茶しやがって。アタシたちよりも、傷だらけじゃねえか」
「……勝ったのね」
「ああ!」
ミカンには、マーコットが抱きついた。
「ミカン殿! やりましたよ」
「ふえ? ここどこですか?」
ミカンは意識がまだはっきりしていないようだった。
「勝ったのですぞ!」
その傍らでは、イヨとビアソンが抱き合って喜んでいる。
そんな歓喜の輪の後ろで、ふいに黒い瘴気が湧き上がった。
床に倒れて絶命している3羅将の体に瘴気が吸い込まれていく。
仰向けの獅子の目が、ぱちりと開いた。そして、その口が開いた。舌の先に、いつの間に咥えていたのか、千切れ落ちたはずのあの魔法の発動体のコブが乗っていた。
喜び合っているバレンシアたちは、だれもそれに気づいていない。
獅子の目が細くなった。
次の瞬間、その獅子の目がいきなり斬り裂かれた。
間髪を入れず舌が切り取られ、その喉に剣が突き立てられて、体の奥深くに刺し込まれた。
ハッとして、全員が振り向いた。
「セトカ!」
バレンシアが慌てて剣を構えて、叫んだ。
セトカが、よみがえりかけた羅将に、とどめの一撃を加えたのだった。
「なんで、気づいたんだ?」
セトカは剣を引き抜き、バレンシアの問いかけに答えた。
「私は、こんなレベルの相手と戦える体じゃなかった。あなたたちが戦っているそばで、指揮をとることしかできなかった。……昔、魔王軍の強敵と戦った時、死後に1度だけ発動する、復活魔法をかけていたやつがいた。最低値の体力でよみがえる魔法だ。私ができるのは、万が一それが発動した時、即座にとどめをさすことだけだった」
「おまえ、わかってたのか……こいつが復活することを」
「いや。ただ、心の準備をしていただけだ。できることは、それだけだったから……」
バレンシアが、セトカに近づいて、その体を抱きしめた。
「おまえ、やっぱり最高だぜ」
「いた。ちょっと、バレンシア。私、レベル下がってるから」
ライムがビアソンに抱き起されながら、その様子を見て、ぼそりと言った。
「嫉妬しちゃうわね」
「え? ライムさんって、まさか」
「は? 違う違う」
「どっち? どっちへの嫉妬なんですの?」
そんなやりとりを尻目に、マーコットに支えられたミカンが、杖を振って、羅将の体を燃やした。
魔法耐性の消えたその体は、またたく間に燃え上がり、炭と化していった。
「はあー。私、3羅将と戦ってみたい、なんて言ってたんですけど。余計なこと言うもんじゃないですねぇ。これだけのサポートもらって、この体たらくですから。修行が足りませんでしたぁ」
そのミカンのぼやきに、マーコットが言った。
「ミカン殿はとっても凄かったですぞ。同い年なのに、尊敬するであります!」
「マーコットちゃん……。友だちになってくれます?」
「もちろんであります!」
ビアソンの執拗な追及をかわしていたライムが、ふいにハッとして、目を見開いて言った。
「レンジは?」
全員がその言葉に我に返った。
「レンジ……」
セトカが、レンジと魔王の消えた、空の玉座の上空を見上げた。
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その言葉は、主の消えた玉座の間に、むなしく響いた。
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