11 / 92
第1章:不意打ちのメロディー(10)
しおりを挟む
※ ※ ※
そうしてまた三十分ほどが経った。
「はあ、疲れた!」
曲が終わったらしい遥奏が、伸びをしながら気の抜けた声で言う。
僕は、右手に見えるススキのデッサンを描いているところだった。
「休憩!」
そう言って、遥奏が僕の隣に座ってきた。
スカートの裾がかすかに僕の外腿に触れ、ドキリとする。
思春期の異性同士がこんなに近くで座っているのはよろしくないだろう。距離を取るべきか。
でも、近寄ってきたのは向こうだし、遠ざかるのも失礼かな……。
「絵、できた?」
「う、うん」
逡巡して身動きが取れずにいる僕の心境はいざ知らず、遥奏がスケッチブックを覗いてきた。
制服越しに肩が触れ合って、心臓が感電した。
「素敵!」
遥奏が元気な声を出しながら、また両手をグーにして拍手した。この二日間でわかったこととして、遥奏はテンションが高くなると両手をグーにすることが多い。
泣いたり笑ったり、感情の忙しい人だなと思った。
「秀翔ってさ、家で何してるの?」
家で何をしているか、という質問は案外困るものだ。
楽器とか、ヨガとか、筋トレとか、そういう立派な趣味でもあれば、それを答えればいい。
でも、これといって人に言えるほどの趣味がない場合、
「まあ、適当にスマホ見たりとか」
こんな感じで、中身のない答えを返すことになる。
「ふーん、そっか。家でも絵を描いてたりするの?」
「いや、それはあんまりないかな。よっぽど暇なときくらい」
ほんとうは、休日はだいたい好きな漫画やアニメの真似をして絵を描いて過ごしている。
けど、別に人に見せられるほどのものは描けていないので、はぐらかすことにした。
「そうなんだー」
遥奏は、左手の人差し指を下唇にあてて上を向くと、数秒後に、また僕の顔を見てこう言った。
「じゃあさ、秀翔にリクエスト!」
「リクエスト?」
遥奏の話は、いつも僕の想像の外を行く。
「そうだなー、何描いてもらおうかなー」
僕が会話の流れについてきていないことは無視で、再び指を唇に当てて何かを考えている様子の遥奏。
「……よし、決めた! 宝物!」
「ん?」
「秀翔の宝物を描いてみせて!」
「そんなの……」
「私ね、秀翔が大切にしてるものってなんなんだろうって、気になる!」
ないよ、と続けようとした僕の言葉は、遥奏の勢いに押しつぶされた。
「じゃ、そろそろ私帰るね! 宝物の絵、楽しみにしてる!」
遥奏の中では、僕がリクエストを受けたことになっているらしい。
何も言わない(言えない)僕に、大きく手を振る遥奏。
黒いリュックを背負って歩道のほうに歩いていき、やがて見えなくなった。
そうしてまた三十分ほどが経った。
「はあ、疲れた!」
曲が終わったらしい遥奏が、伸びをしながら気の抜けた声で言う。
僕は、右手に見えるススキのデッサンを描いているところだった。
「休憩!」
そう言って、遥奏が僕の隣に座ってきた。
スカートの裾がかすかに僕の外腿に触れ、ドキリとする。
思春期の異性同士がこんなに近くで座っているのはよろしくないだろう。距離を取るべきか。
でも、近寄ってきたのは向こうだし、遠ざかるのも失礼かな……。
「絵、できた?」
「う、うん」
逡巡して身動きが取れずにいる僕の心境はいざ知らず、遥奏がスケッチブックを覗いてきた。
制服越しに肩が触れ合って、心臓が感電した。
「素敵!」
遥奏が元気な声を出しながら、また両手をグーにして拍手した。この二日間でわかったこととして、遥奏はテンションが高くなると両手をグーにすることが多い。
泣いたり笑ったり、感情の忙しい人だなと思った。
「秀翔ってさ、家で何してるの?」
家で何をしているか、という質問は案外困るものだ。
楽器とか、ヨガとか、筋トレとか、そういう立派な趣味でもあれば、それを答えればいい。
でも、これといって人に言えるほどの趣味がない場合、
「まあ、適当にスマホ見たりとか」
こんな感じで、中身のない答えを返すことになる。
「ふーん、そっか。家でも絵を描いてたりするの?」
「いや、それはあんまりないかな。よっぽど暇なときくらい」
ほんとうは、休日はだいたい好きな漫画やアニメの真似をして絵を描いて過ごしている。
けど、別に人に見せられるほどのものは描けていないので、はぐらかすことにした。
「そうなんだー」
遥奏は、左手の人差し指を下唇にあてて上を向くと、数秒後に、また僕の顔を見てこう言った。
「じゃあさ、秀翔にリクエスト!」
「リクエスト?」
遥奏の話は、いつも僕の想像の外を行く。
「そうだなー、何描いてもらおうかなー」
僕が会話の流れについてきていないことは無視で、再び指を唇に当てて何かを考えている様子の遥奏。
「……よし、決めた! 宝物!」
「ん?」
「秀翔の宝物を描いてみせて!」
「そんなの……」
「私ね、秀翔が大切にしてるものってなんなんだろうって、気になる!」
ないよ、と続けようとした僕の言葉は、遥奏の勢いに押しつぶされた。
「じゃ、そろそろ私帰るね! 宝物の絵、楽しみにしてる!」
遥奏の中では、僕がリクエストを受けたことになっているらしい。
何も言わない(言えない)僕に、大きく手を振る遥奏。
黒いリュックを背負って歩道のほうに歩いていき、やがて見えなくなった。
10
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる