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第027話 世界の言葉

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 蛍火のように小さな光がふよふよと舞う中。

 宴は最高潮を迎える。

 暮れなずむ黄昏。

 光と闇の狭間の時。

 村を飾り付けていたオブジェクト達が集められ、厳かに火がかけられる。

 徐々に大きくなる炎、徐々に陰りゆく太陽。

 最後の残照が地の果てに沈み消えゆく時、焚火は大きく盛りを迎えた。

 世界の音が消え、ただセディスさんの言葉が朗々と響く。

 古い、古い、神代と呼ばれる頃の奉納の言葉。

 昨年の実りに感謝を、来年の豊作を嘆願する。

 謡うように節と抑揚をつけた祈りは、心を打ち、どこか陶酔を感じさせる。

 ふわふわと夢現ゆめうつつの境が曖昧になった頃、そうっと両手を伸ばしたセディスさんが最後の言葉を発する。

「神に感謝を」

 静かに、厳かに、力強く。

 心の中にすぅっと入り込むような心持ち。

 その刹那、精霊さん達が炎に集まり、天高く上がっていく。

 細かった光の柱は徐々に太さを増していく。

 すわ焚火のサイズを超えると思った瞬間、ぱぁっと花火のように弾け、すぅっと消えていった。

 その瞬間、世界がぶるりと身震いをし、言葉を刻む。

『-詩篇発動ショギョウムジョウ- そも全ては移ろいゆくもの。揺籃の眠り経て、再びの実りを』

 世界が軋むように言祝ぎの声をあげた。

 ざわざわと騒ぎ出す、村人達。

 状況が分からない私は、リサさんに問うてみる。

「あれは、女神様の声と言われているの」

 どうもあの声は、超自然現象として語り継がれている類いのもののようで。

 聞くべき人にしか聞こえないらしい。

 一定の正しい行いをすると、聞こえるそうで、一種の祝福、奇跡として扱われるそうだ。

 個人的には、駄女神の声じゃねぇな、とか。

 ゲームのシステムメッセージみたいだなとか不謹慎な事を考えていた訳だが。

 村人にとっては、神の祝福、奇跡の一端だ。

 しかも、内容は来年の実りを約束するもの。

 考えるまでもなく、場は再度盛り上がる。

 本当だったら、暗くなってきたから宴会はお開き。

 明日からまた頑張りましょう。

 では、解散となる予定だったのだが……。

『あげていくの』

『よー、わっつぁっぷ』

『のーみゅーじっく、のーらいふ!!』

 バイブスが上がった精霊さん達は、ハウスの照明よろしく瞬き、夜の闇を駆逐している。

 焚火の周囲では、再び杯が乾され、歌声が響き始める。

 あぁ、これ、夜通しのパターンですね?

 並んで座るリサさんの微笑みを眺めながら、長い夜の始まりに苦笑を浮かべてしまった。
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