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第3章 セイモーと偽善者狩り

第12話 宴のあとの嵐

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「さーて、続きを始めたいと思う」

 シダが司会み進めるパーティのそこは、『カランコエ』というシダの作った対オリバム軍の秘密基地。今は新しい仲間『ローズ』の歓迎会? 的なのをやっているところだ。

 秘密基地にあるのは、部屋の中心に丸い机と、その周りに椅子が割りの樽が6つ。地下なので窓はないが、食料と金はシダとクリスの役職が高い分たんまりとある。

「会った時にもうすでに名乗ったが、俺はシダ! この組織のリーダーだ! まだ4人しかいない小さな組織だが、いずれ世界を救う世界最強の組織だ!」

 シダが鼻を大きくして自信満々に言うと、ローズはクスッと笑うと、一歩前に出て自己紹介を始めた。


「私の名前はローズ・イバラ。ローズって呼んでいいわ。歳は17。まだ戦いの経験はないわ。でも、世界を変えたいって言う熱意ならあるわ!……よろしく」

 自分の名前と歳を言い、熱意を伝えるところまでは普通だったのだが……よろしくと言うときだけ妙に恥ずかしそうにプイッと横を向いて言った。


「改めてよろしくな! ローズ!」

 シダが満面の笑みでそう言うと、右手をローズの前に差し出した。
 ローズは握手を求めているのだと気付いてはいるのだが、やはり恥ずかしいのかなんなのかよくわからないが、素直に握手はしてくれなかった。

「べ、別に、あんたがどーしても私に仲間になって欲しいって言うから仕方なく仲間になってあげたんだからね。感謝しなさい」

 そう言いながら、握手はするのだった。


「さーて! 新しい仲間を祝してー・・・乾杯!!!」

「「「「かんぱーい!!」」」」



 その日、カランコエメンバーはハメを外しまくって大騒ぎをした。この日は珍しくクリスも大騒ぎをしていた。



「おっと。そうだそうだ。ヤグル! マギク!」

 大騒ぎを始めてから1時間。シダは何かを思い出したように樽に座っていた状態から立ち上がると、持ってきた風呂敷からガサガサと何かを取り出した。


「お前達の新しい武器だ。大事にしろよ!」

 そう言うと、ヤグルには自分の身長ほどある巨大な青に輝くアックスを、マギクには黒ベースのボディーに白と赤のラインが施された2丁拳銃を渡した。

 そう。これは残党狩りの時に奪取したあれだ。シダはリヴェリーを攻め落とす際にこれを見つけていた。しかしあの時は持って帰る余裕がなかったため、隠しておいたのだ。

「「リーダーありがとう!」」

 2人は嬉しそうに新しい武器を振り回した。

「うぶっ、あぶねぇよ! 落ち着け」

 危うく首チョンパになるところだったクリス。この組織はボケが3人もいるのにツッコミ役が1人しかいないので、クリスさんは大変そうである。

 その後も楽しいパーティは続きいたが、深夜1時ごろにはみんな疲れ切って、そこらへんで寝ていた。




 カランコエの基地がある場所は、周りの国へと移動する時に使う道の、ちょうど分岐点の近くにある。
 翌朝、シダが朝の散歩をしていると、ちょうどそこを通りかかった他国の偵察員が竜馬に乗り、猛スピードでこちらの方へ走って来ていた。


 ザァァァ……


「シダ参謀長。大変です。隣の島国、セイモーの軍が……」

 偵察員はシダを見つけると、竜馬に急ブレーキをさせ、焦った顔で早口に報告した。

「なに!? ハダクトへと進軍を開始しただと!?」

 先日奪ったばかりで、体制が整っていないハダクトに今仕掛けられれば、あっという間に国を奪われてしまう。
 少し焦り気味のシダは、早口で

「敵の到着まであとどれくらいある?」

 と質問をした。
 偵察員は、自分がセイモーを出発してから3日が経っていたので、すでにハダクトへの攻撃は始まっている可能性が高いこと、ハダクトの都市を攻略するまでにあと3~4日しかない事を告げると、シダから伝言をもらい、オリバムの元へと急いでその場を出発をした。



「まずいことになった。急いでクリスに報告しなきゃ。休養なんてしてる場合じゃねぇぞ……」

 独り言を言いながら、シダは急いでカランコエの基地へと戻った。




 何も知らないメンバー達は、まだ床やら階段やらでぐったりと寝ていた。

 ピシ! パシ! ピシ! ピシ!

 階段で寝ていたクリスに、シダの往復ビンタが炸裂!!クリスは4ダメージとともに目を覚ました!


「いってぇな。人が気持ちよく寝てる時に……」

 寝起きのクリスは不機嫌そうな顔でシダを睨みながらそう言って、もう一度寝ようとした。

「ハダクトがセイモーに攻められている。急いで出発するぞ!」

 その言葉を聞きクリスと+1名は飛び起きた。

「なんだと?!」

「なんですって?!」

 相変わらず、ヤグルとマギクは爆睡中だが、自分の国が攻められていると聞いて、椅子に座り、机に手と頭をつけて寝ていたローズが若干寝ぼけながら反応した。
 シダは少しびっくりしたが、話を続ける。

「3日前に出航しているから日数的にすでにハダクトに上陸している可能性が高い」

 シダは階段の手すりに手をかけ、片足に重心をかけながら先ほど聞いた情報を静かに伝えた。

「ハダクトの大きな州は東側(モノボルゥー王国側)にあるよな……ってことは」

 クリスは、シダの少し下で座りながら、考える時のポーズで今の現状把握をしようとした。

「進軍は速いでしょうね……5日はかからないと思うわ」

「あぁ。さすが自分の国についてはよく分かってるな」

「当然よ!」

「偵察員も、猶予は3~4日しかないと言っていた」

 流石は国を守るためにたった1人行動する女だ。自分の国ほどなら、熟練の偵察員が出した日数の推測を、寝ぼけていながらもあっさりと出してみせた。
 シダは階段を降りて部屋の角においてある武器を取ると、クリスにグローブを投げた。

「時間がない。すぐに出発するぞ」

「わかった」

 シダの指示にクリスは了解して、食料などの移動の準備を始めた。
 しかし、自分の国がまた攻められているのにじっとしていられないローズ。



「まって、私もついて行く」


「……自分の国が心配なのは分かるが、ローズは戦えないんだろ?危険だ」

 少し震えながらも、ローズは立ち上がった。しかしクリスは戦えないローズが来ることに反対した。シダは……


「覚悟はあるのか?」

「ある!」


「……分かった。ついてこい。ただし、ローズは安全な場所で国民の避難誘導をするだけだ。いいな?」

 ローズはシダの問いに即答した。少し考えたが、シダはローズの覚悟を汲み取る方を選んだようだ。
 しかし、クリスは心配そうな顔でシダを見ていた。

「クリス。仲間を失うのが怖いのは分かる。だがコイツが俺たちの仲間になった一番の理由は、自分の国を守るためだ。そしてその国が今危険な目にあってる。じっとしてられるわけないだろ」

「だが……」


「それにハダクトのことを一番理解してるのはローズだ。それはさっきの一言でわかったろ?俺はいざという時コイツがいることで何か変わるんじゃないかって思うんだ。だから頼む!」

「ッッあーもー分かったよ。その代わり、危険な時はお前が守ってやれよ」

 守りたいもののためにじっとしていられない気持ちは、クリスにも理解できた。それに、シダがここまで言うってことは本当にあるかもしれない。そー思ったクリスは、シダの頼みに押し切られ、頭をかきながらシダの頼みを受け入れた。

「お前がやばそうな時も助けてやるさ!」

 シダは冗談交じりにそう言うと、3人は出発の準備を始め、10分後……



「それじゃあ出発するぞ! 急ぎだからな。なるべく休憩なしで行く。だが辛くなったら教えてくれ。無理をするのだけは避けたい」

「「了解」」

 シダが2人に確認を取り、竜馬にまたがると、出発の合図を出した。

「そんじゃ、ハダクトの都市ヴァヴへ、出発!!」
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