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第3章 セイモーと偽善者狩り

第21話 マインドコントロール

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「やったんですね」

 ヤグルが肩を抑えながらローズの方へと歩いてきた。
 ローズは「えぇ」と首を縦に振ると、ただただ死体を眺めていた。



「ヤグル兄! 僕がやったんだよ! すごいでしょ~」

「あぁ。良くやった」

 喜ぶマギクに、ヤグルは頭を撫でてやった。マギクはニコニコ笑顔だ。
 喜びを抑えきれず、そこらへんを走り回るマギク。そんな中、ヤグルとローズは銃弾について話していた。

「確かに貫通してますね」

「でも何で? 普通鉄板と鎧の二重装備なんて貫通しないわよ」

「それだけ特殊な武器なんでしょうね。あの二丁拳銃」

 ヤグルも少しは気付いていたようだが、シダが奪取してきた2つの武器。それは古代に造られた幻の武器だった。大昔に造られたにもかかわらず、性能は今の武器に劣るどころか、その数十年は先を行くと言われている。
 この二丁拳銃は、どうやら貫通力を重視した武器のようだ。



 ドサっ……

 何かが落ちるような音がした。
 慌てて音のする方を見るヤグルとローズ。そこには銃声を聞き、気になって見にきた通りすがりのおばさんがいた。


「わっはっは!……正義の味方【カラコンエ】参上!   我らはカラコンエ、カラコンエなり~!!」

 マギクがピクリットの死体の前に立ち、おばさんに向かってそう叫ぶと、おばさんは慌ててその場を飛び出し、領主館の方へと向かった。


「ヤバイわ。通報される。逃げましょ!」

 ローズ達も慌ててその場を離れ始める。





 数分後、おばさんの通報で現場にシダとクリスが駆けつけたが、そこにはもちろんローズ達はおらず、ピクリットの死体だけがそこにあった。


(良くやった。3人とも。……でも、やっぱりフレン爺のこと忘れてるな)

 シダはローズ達が逃げたであろう方向を見ながら、ため息をついた。





 ーー翌日

 あの後、すぐにフレン爺の元へと行き、もうすぐ解決することを告げていたシダとクリスは、朝から領主館で、ピクリットについて調べていた。


「これで全部だな」

 クリスが最後の資料を棚の引き出しから取り出した。


「どうやら悪事を働いていたのはあの政策だけだったらしい。他の政策はどれもいいものだったのに……」

「勿体無いな」


 半日かけて調べたところ、ピクリットの行なっていた政策はどれも良いものばかりで、今回の件さえ無ければ素晴らしい領主だったと言えた。
 全ての資料を確認し終えたクリスの言葉に、シダは残念そうに答えた。


「さて、フレン爺を助けに行こうぜ!」

「ああ。そうだな」

 シダは資料を棚に戻すと、クリスに笑顔で声をかけた。
 クリスは頷くと、牢獄へと急いだ。




「俺は本当に殺したんだ。だから報いを受けなければならないんだ……」

 シダとクリスは、フレン爺に加え、リストに載っていた冤罪をかけられた者達を解放しようとしていた。しかし、すでに記憶は改竄された後で、言うことを聞いてくれず、「ピクリット様ピクリット様」とおろおろするばかりだった。
 幸いフレン爺にはまだ薬は投与されておらず、最大の目的は果たすことはできそうだった。


「クリス様、シダ様。これは一体何の騒ぎですか?」

 町の住民達が、騒ぎに気づき集まって来た。
 クリスは全てを町の住民達に話した。



 しかし、誰1人信じはしなかった。

「そんなわけない! あのピクリット様がそんなこと……ありえない!!」

「そうよ。だいたい罪人達も罪を認めているじゃない!」

 これがクリスの説明に対する答えだ。誰もフレン爺が冤罪だと認めない。他にもピクリットの出世を阻止しに来ただの、わけのわからないことまで言っている者もいた。
 クリスは必死に薬の話や資料を見せ、説得しようとした。

 すると、シダはクリスの肩をポンと叩くと、前へ出て語り出した。


「まず、ピクリット氏は昨晩何者かによって殺害された」

 その言葉に誰もがどよめいた。シダは構わず話を続けた。

「ピクリット氏は国のために尽くすとても素晴らしい人材だった。私も非常に残念だ」

 この言葉に、住人達はクリスの時とは180度違う反応をシダに見せた。住民達はシダの次の言葉に集中してくれている。

「これだけの人に慕われている彼の政策だ。私達では力不足かもしれないが……」


 少し溜め、周りを見渡すシダ。住人達は息を呑み、次の言葉に期待していた。

「彼の政策を引き継いで行こうと思う!」

 その言葉を聞いた瞬間、住人達は、わっ!と歓声をあげた。罪人達も安心した表情でそれを聞いていた。


「彼も人間、ミスの1つや2つは当たり前だ。このおじいさんの件については本当に冤罪のようだ。みんな。理解してほしい」

 先ほど聞く耳すら立ててくれなかったフレン爺の冤罪のことも、すんなりと理解してくれた。



 これもシダのマインドコントロールの1つだ。
 人は誰もが、自身の大切にしているものを否定された状態では反抗的になる。
 しかし、一度信頼を得てしまえば全てが変わってくる。シダはピクリットを肯定し、住人達の望みを叶えることでそれを実行したのだ。


 クリスはいつもの事ながら、シダの対応力に感動すら覚えていた。


 その後、負担がかからないように、しかし罪意識のある者達が自分を許せる程度の仮の罰を与えると、王城のある都市【ヘット】へと戻ろうとした。

 そこへ、昨晩のおばさんが駆け寄り、クリスの服を掴んだ。

「あの、あの犯罪者は……カラコンエはどうなったんですか?」

 !!?

 それは衝撃の言葉だった。カラコンエという名前が知られれている。知られてしまった。それも、犯罪者として。悪人として。

「それについては私達も引き続き調査をしている。警備も続けるから安心してください」

 クリスの対応はとても適切だった。だが、シダの目にはあまりにも冷静に見えた。



 2人で作った正義の組織が、悪の組織に成り下がったというのに……


「また来ます」

 そう最後に告げ、シダとクリスは町を後にした。





 ーー移動中

 ヘットへ戻る前に、一度カラコンエ基地へ戻ることにしたシダとクリス。
 竜馬に乗り、少し早いペースで基地へと歩いていた。

「クリス、フォローサンキューな」

 感謝の言葉をかけるシダだったが、その顔はすごく暗いものだった。

「悪役になっちまったな……」

 うつむきながら話すシダに優しく声をかけるクリス。
 住人に知られてしまった以上、ボスに報告しないわけにもいかない。2人の描いた理想とは別の結果を、自らボスへと伝えなければならない。
 シダは悔しさとともに、少しばかり怒りがこみ上げていた。



「このイライラ、一体どこにぶつけてやろうか……」

 ゆっくりと基地の階段を降りるシダ。あれから5時間。基地へとたどり着いた2人。
 ぶつくさ言いながら前を行くシダと、その後ろを歩くクリス。


 階段を降り、扉を開けるといつも通りマギクとローズが遊んでいる。ヤグルは隅で本を読んでいた。


「あ! リーダー! どう? このポーズ!!」

 マギクが2人に気づくと、カラコンエと名乗った時のポーズをとり、その時のセリフを大きな声で叫んだ。

「正義のヒーローカラコンエ参じょ」

 ゴツン!!

「ぉおまえが犯人カァァ!!」

「いでぇぇ……」

 強烈な拳骨がマギクに炸裂!! 効果は抜群だ!
 両手で頭を抑えながら転がるマギク。シダはさらにローズを指差した。

「そしてローズ! お前ピクリットを倒してそれで終わりじゃないだろ! フレン爺のことほったらかしにしやがって!!」

「そんなの悪役が消えれば万事解決じゃない!」

「そんな簡単じゃないだよ! しかもマギクのせいで俺たちは悪役扱いだよ!!」

「知らないわよそんなの! あんたがなんとかしなさいよ!」

「おま、完璧な作戦な作戦とか言ってただろーが!!」

 その後も2人は30分近く言い合いをしていた。






 同時刻

 ここは世界三大威力が1つ。変革国【フォーロップ】

 国王の住む王城は、広さ10ヘクタールの庭がある世界一豪華な王城だ。


「あの、お嬢さんどこからここへ来たのですか?」

 1人のメイドが、王城の庭を歩く少女を見つけ、声をかけていた。

「国王に合わせて」

 少女は小さな声でそう言ったが、メイドも通すわけにもいかず、門の前で抑えていた。

 すると、もう1人のメイドが駆けつけた。


「1人で何してるのよ。早く働きなさい!」

「いえ、ここに小さい女の子が……あれ?」

 少し目を離した隙に、少女は居なくなっていた。

「あなた、確か霊感持ちの……幽霊でも見てたんじゃないの?」

 駆けつけたメイドはそう笑いながら言った。
 そして庭の掃除に戻ろうとしたその時、少し離れた住宅街で爆発音が鳴った。

 燃え上がる街。それに気づいた1人の執事が剣を片手に現れた。
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